研究開発活動

5【研究開発活動】

 当社グループでは、環境問題やエネルギー問題など社会課題解決を通じた事業の持続的発展を目指し、エネルギー・情報通信、電子電装・コネクタ各分野を中心に新技術並びに新商品の開発を積極的に推進しています。当社グループの研究開発活動は、新事業創生・研究開発部門及び各事業部門内の開発部にて実施しています。

 

 [新事業創生・研究開発部門]

 「5G」(第5世代移動通信システム)時代に向けて、移動体通信基地局や、そのフロントホール・バックホール、固定通信網ラストマイルなどの次世代大容量高速無線通信に利用されるミリ波帯通信デバイスの開発を進めています。当社は、米国IBM社よりライセンスを受けた28GHz帯ミリ波高周波半導体(IC)技術と、当社強みであるアンテナ設計・基板製造技術を組み合わせて製品を実現します。28GHz帯5G向けアンテナ一体型高周波モジュールは、アンテナ、IC、フィルタを統合しており、2022年上期のサンプル出荷を予定しています。当社は、ミリ波無線技術を通じて5G時代に求められる高速・大容量無線通信網の構築に貢献します。

 当社で開発中の60GHz帯無線通信モジュールは、2 Gbps超の通信スピードや500 m超の長距離伝送など、世界トップクラスの性能を実現しており、2022年度中の製品化を目指しています。2021年度は、株式会社テラピクセル・テクノロジーズ、intPix SA. 社と共同で、超低遅延な4K動画の無線伝送に成功しました。また関西電力送配電株式会社ら11社と共同で実施したスマートポール(各種センサや表示・通信機能を備えた電柱)による安全運転支援実証実験では、複数のスマートポール間を接続する低遅延・低干渉な無線制御信号網を提供しました。今後、これらの技術の実用化を推進してまいります。

 ICや受動部品などをポリイミド多層配線板に埋め込んだ薄型部品内蔵基板「WABE Package®」(Wafer And Board level device Embedded Package)の開発、量産化を進めています。本製品は独自の一括積層法によりICチップを厚さ方向に重ねて埋め込む構造を特徴としており、2021年度は世界初の3個のICチップを埋め込んだ、3段Chip-stack WABE®についても量産を開始しました。当社は複数部品を内蔵した超高精細・高密度の部品内蔵基板により、製品の小型・軽量化に貢献していきます。

 医療機器用極小CMOSイメージセンサを用いた撮像モジュールの開発、量産化を進めています。極小サイズで安価なCMOS撮像素子モジュールは、電子内視鏡のディスポーザブル化を実現して感染防止に寄与するとともに、極細・可撓性の特徴を活かして可視アクセス領域を拡大し、病巣の検出能力を向上します。2021年度より、当社の光技術及び電子技術を活用した極細径撮像素子モジュールを量産化し、大手医療機器メーカーに納入を行っています。また、世界の医療機器開発の中心の一つである米国ミネアポリスに拠点を構えるグループ会社のFAI社 (Fujikura America, Inc.)では、治療法の確立していない疾患に対する医療ニーズ(アンメットニーズ)に応える活動を展開しています。

 レアアース系高温超電導線材は、液体ヘリウムを使用しない次世代の高温超電導機器を実現する製品として医療や分析、産業機器、エネルギー分野など更なる応用機器の展開が期待されています。当社は精力的にレアアース系高温超電導線材の開発及び量産技術開発を進め、世界トップレベルの性能を実現する技術力を確立して参りました。既に高分解能核磁気共鳴装置に適用されアルツハイマー病やがん研究などに用いられています。当社は、さらに量産製造技術開発を進めており、線材の更なる長尺化、低コスト化に向けた活動を行っています。今後もレアアース系高温超電導線材及び応用技術の提供により低炭素社会の実現に向けた研究開発、事業化を進めて参ります。

 エネルギー問題がますます重要性を増す中で、省エネルギーの推進、環境負荷の低減、資源の有効活用につながるケーブル・機器の開発を積極的に進めています。環境保護政策により普及が進む電気自動車の充電インフラとして、短時間での充電を可能とする急速充電器の設置が加速しています。電気自動車の台数増加やバッテリ容量の拡大に伴い、充電時間短縮や充電渋滞解消のため、従来の3~7倍の出力を持つ充電器が実用化されており、液冷ケーブル用コネクタの規格化が進んできました。当社では、国内初となる400 kWクラスの充電器に適用可能な高出力急速充電用のケーブル及びコネクタ接続端子冷却技術を開発しています。更に次世代の充電規格に対応するため、900 kWクラスに適用可能な冷却技術の研究開発を進め、冷却効率に優れ、操作性・取扱い性に優れる充電コネクタ・ケーブルの開発に注力します。

 

 セグメント別の研究開発活動及びその成果は次のとおりで、当連結会計年度の連結研究開発費は164億円であります。

 

 

[エネルギー・情報通信事業部門]

 5G(第5世代移動通信システム)やIoT(Internet of Things)など多様な情報通信サービスの普及にともない、光ファイバケーブルの需要が世界的に拡大しています。フジクラでは、既存設備を有効利用しながら経済的に光ファイバ網を構築する技術として、世界トップレベルの細径・高密度な光ファイバケーブル 「Spider Web Ribbon®/Wrapping Tube Cable®」(以降、SWR®&WTC®)技術を用いた様々な新製品を開発し、上市しています。2021年度は、2020年度にリリースした6912心光ケーブルに比べて10%強、細径・軽量化した世界最高水準の6912心光ケ―ブルを開発しました。また、空気圧送布設に適したAir Blown WTCの最大心数はこれまでの2倍の心数となる864心タイプを加えることで製品ラインアップの充実を図りました。今後もSWR®&WTC®の技術をもとに革新的な光ファイバケーブルを開発し、世界各国の通信ネットワークの発展に貢献していきます。

 これらの光ケーブルの接続点に使用される光コネクタの高性能化及び小型化開発を進めています。2021年度は、高速大容量通信に適した超低損失多心光コネクタを開発しました。既存製品のSWR®&WTC®の両端末に取り付けた牽引端付きMulti-Fiber Push On (MPO) 成端ケーブルやMPOコネクタ付きトランクケーブルの更なる低損失接続を実現する製品開発を加速していきます。また、今後、高密度・大容量伝送が進むにつれ、小型・高密度収容の光コネクタ開発を積極的に進めています。2021年度は、現存の主力多心コネクタであるMPOの1/3のフットプリントで実装可能な、ミニ多心コネクタ(MMC)を開発しました。さらに光コネクタ接続作業部において、安定した接続特性と作業効率化を実現できるMMC用クリーナーを開発しました。これらの成果は、2022年度に開催される国際学会で発表を予定しています。また、光ケーブルの接続点収容及び各種光コネクタを切替接続可能に収容した多心光接続収容箱を開発・製品化し、国内外のケーブルキャリアに採用されました。一方、伝送装置周辺や装置基盤で使用される光コネクタの小型化、高性能化及び高機能化開発にも注力しています。フロント、バックパネル光コネクタ、取り扱い性に優れた多心レンズ型光コネクタには、これまで磨いてきた高精度技術、レンズ技術を適用すべく開発を進めています。2021年度は、データセンタ、長距離通信市場で必要とされる大容量高速通信伝送装置に関して、LSI近傍で光ファイバを接続する方式である、Co-Packaged Optics用小型多心光コネクタを開発しました。

 通信用光ファイバは、高密度ケーブル向けに被覆の細径化が大きな流れになっており、通常のファイバよりも断面積を35%低減させた200 µm被覆径ファイバは、FutureGuide® LWP plus-200、 SR15E-200として好評をいただいております。当社ではケーブルのさらなる高密度化に向けて被覆径160 µmのファイバ及び本ファイバを用いた1,728心SWR®&WTC®を開発し、2021年6月に米国にて開催されたOFC2021※にて発表しました。本論文はTop Scored Papersの一つに選ばれ、高い評価を受けました。引き続き、商用化に向けた開発を進めて参ります。

※OFC : Optical Fiber Communication Conference。光通信に関する最大規模の主要国際学会の一つ。

 光ファイバ1本に複数のコアを持つマルチコアファイバ(Multi-Core Fiber;MCF)は、今後の高密度・大容量伝送用光ファイバ候補のひとつであり、当社では実用化に向けた開発を進めています。2021年度は、現在の汎用光ファイバと同じ外径を有し、コアが4個のMCFの製造技術開発・低コスト化に注力しました。国立研究開発法人 情報通信研究機構の委託を受け、NTT、KDDI総合研究所、他のファイバメーカと共に「マルチコアファイバの実用化加速に向けた研究開発」を進めております。一方、MCFの実用化のためにはコアがひとつの汎用光ファイバとの接続技術も重要であり、その入出力デバイス、接続技術など周辺技術の確立により実用化を加速させます。今後、マルチコアファイバの実用化をめざすとともに、将来の多大なデータ通信需要に対応可能な光伝送基盤の実現に貢献していきます。

 光ファイバケーブルの敷設施工等で使用される光ファイバ融着接続機を開発しています。コア調心融着接続機に搭載した自動放電制御機能をクラッド調心機にも搭載し、上市しました。この機能は、①融着接続前の切断端面状態に応じて最適な放電制御を行う、②放電時の光ファイバ熱発光強度を分析しリアルタイムで放電制御を行う、ことができます。従来から備えている無線通信による光ファイバカッタ切断刃の状態を管理する機能と一緒に使用することで、融着接続のやり直し作業の低減に貢献します。今後も引き続き、より低損失で安定した接続を可能とする製品を開発することを通じて光ファイバの敷設施工効率改善に貢献していきます。

 金属のマーキング、溶接、切断で使用されるレーザ加工機の市場では、ビーム品質が良く、かつ小型で電力変換効率が高い光源を利用したファイバレーザへの乗り換えが進んでいます。当社は、光通信用ファイバや光部品で培ったコア技術をベースにファイバレーザの研究開発に注力してきました。2021年度は、半導体を中心とした電子デバイス向けに、各用途に最適な特殊ファイバを用いたパルスファイバレーザの開発・製品化を進めており、巣ごもり需要を中心とした電子分野の旺盛な需要に応えていきます。

 なお、当セグメントに係る研究開発費は108億円であります。

 

[電子電装・コネクタ事業部門]

 (エレクトロニクス事業部門)

 民生及び産業用の電子機器に使われるフレキシブル・プリント配線板(FPC)、メンブレン※、コネクタ、電子ワイヤ、センサ、ハードディスク、サーマル製品の開発を行っています。スマートフォンに代表されるモバイル機器は、情報通信速度の高速化や高機能化が進み、周辺機器とのつながりやすさが強く要求されています。また、自動車の電動化、情報化、知能化が加速する中で、需要が増えている自動車用電子部品は、各種環境下での高い信頼性が要求されています。

※メンブレン:銀などの金属インクを、樹脂基板に印刷することにより形成した電子回路基板。

 FPCについては、スマートフォンを中心とした電子機器の高密度化や高速伝送に対応するため、高精細回路、電気特性を向上させた多層基板の開発を進めています。また、車載用途として、バッテリ監視用途などの車両の電動化及び先端運転支援システム(ADAS)に対応する製品群の技術開発を進めています。加えて、医療、ウェアラブル用途などの特殊構造の製品開発にも取り組んでおります。

 メンブレンについては、印刷回路の細線化や新規機能性ペーストの商品化を進め、従来のパソコン、車載市場に加え、医療、ヘルスケアといった新しい市場を開拓しています。さらにストレッチャブルメンブレンを応用した商品の開発を進め、新たな用途への展開を進めています。

 コネクタについては、「小型・低背」「堅牢」「防水」「高速伝送」「作業性」をキーワードに、高機能化(高操作性、高強度、大電流、複合化など)した製品開発を推進しています。モバイル機器用途では、Board to Boardコネクタの小型・堅牢化や、バッテリ用コネクタ等の製品バラエティ拡充を進めています。産業機器用途では、NC工作機やロボット、半導体製造装置に対応した小型・防水・多芯の製品ラインナップ拡充を進めています。また5G関連の通信用途向けコネクタの開発や、自動車用途における自動車の情報化・知能化に対応すべく、高速通信用コネクタの開発に注力しています。

 電子ワイヤについては、エレクトロニクス市場での更なる高速、高容量データ伝送の要求に応えるべく開発を進めています。モバイル機器やウェアラブル機器では、非常に限られたスペース内で高速な信号を伝送する用途や、高屈曲耐久を有した接続のニーズがあり、これらを実現する機器内配線用極細同軸ケーブルアセンブリの開発を進めています。

 センサについては、空圧機器市場や医療市場の要求に応え、また製品ラインナップを強化するため、高分解能デジタル出力圧力センサ、高精度差圧計測用センサ、小型圧力センサを開発しています。

 サーマル製品については、高性能化が進むスーパーコンピュータやハイエンドサーバ、市場の拡大するデータセンタ用サーバ向けに、CPUの発熱量や発熱密度の増加に対応するため水冷式クーリングユニット及び空冷式ヒートパイプモジュールの高性能化に向けた開発を進めています。また、IGBT等パワー半導体向けに、大容量に対応したベーパーチャンバやヒートパイプ製品の高性能化に向けた開発を進めています。

 なお、当セグメントに係る研究開発費は29億円であります。

 

 (自動車事業部門)

 CASE (Connected、Autonomous, Shared & Services、Electric) と呼ばれる自動車業界トレンドに対応すべく、Electric Distribution System (EDS)※ 関連の新商品・新技術開発を推進しています。

 ※EDS:自動車用ワイヤハーネス及び配電部品を使用した、電源・信号の分配・制御システム

 ConnectedとAutonomousの分野では、その進化を支えるために必須となる大容量高速通信が可能なハーネスや車載ネットワーク配線のシミュレーション技術などの開発を推進しています。

 Electricの分野では、軽量化による低燃費化、低消費電力化などのカーメーカーのニーズに対応すべく、高電圧ハーネスや軽量化ハーネスのほか、大電流電源分配BOX、急速充電コネクタに加えて、電源供給の最適化を目指した車両全体の電気回路シミュレーション技術の開発や、電源制御技術の開発を推進しています。

当社は、100年に1度とも言われる自動車の大変革の時代に向けて、EDSのみならず、CASEで広がりが期待される新しい領域の技術開発も推進しています。

 なお、当セグメントに係る研究開発費は13億円であります。

 

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