文中の将来に関する事項は、当事業年度末現在において判断したものであります。
当事業年度における我が国経済は、昨年度に引き続き新型コロナウイルス感染症の影響下において事業活動が制限される中、国民のワクチン接種や感染症対策の徹底により個人消費が急増し、全体を牽引しました。2022年に入っても景気は緩やかに持ち直しておりますが、オミクロン株の感染急拡大と多くの地域でのまん延防止等重点措置の適用によって個人消費が再び悪化するなど一部に弱さも見られます。それでもオミクロン株の重症化リスクが小さいことや2月上旬に感染がピークアウトしたことなどから今後は需要の盛り返しが期待されます。
しかしながら2月下旬以降のロシアのウクライナ侵攻による資源価格の高騰や円安により先行きの成長下振れ懸念が強まっており、3月の米国の利上げ決定も相まって今後の日本経済へ及ぼす影響も引き続き注視していく必要があると思われます。
当社が属するヘルスケア分野は、高齢化や健康・医療ニーズの多様化を背景に需要期待が高まっております。政府も成長戦略の一つと位置付けており、ヘルスケア産業の活性化は今後も引き続き見込まれております。
バイオ業界では、がんゲノム医療時代の幕開けと言える話題として、2019年6月に患者のがん細胞の遺伝子変異を調べて、最適な薬を選ぶ「がんゲノム医療」の遺伝子検査システムに公的医療保険が適用になりました。対象になるのは、原発不明がん、標準治療を終えたがんや希少がんの患者で、これまでは限られた医療機関において、自費で高額の費用をかけ、わずかな可能性にかけて検査を受け、使える薬を探っていたものが、公的医療保険を利用して全国の医療機関で広く検査を受けられるようになりました。
このような環境下において、当社は、経営方針を「開発力強化と事業化加速」と定め、既存の研究事業の成長と、新しい診断事業におけるEGFRリキッド及び肺がんコンパクトパネルのオンコロジー分野でのコンパニオン診断の事業化に取り組んでおります。現在、血液を用いて肺がんの遺伝子変異検査を行う、EGFRリキッドをコンパニオン診断として、2019年7月10日に厚生労働省へ承認申請を行い、2020年7月31日に高度管理医療機器製造販売承認(以降薬事承認といいます)を取得し、2021年5月21日に未固定組織を対象とした検査を、同年8月1日には血漿を対象とした検査の保険算定が開始となりました。薬事試験・申請・承認プロセスにおける経験・ノウハウを活かし、オンコロジーを中心とした診断分野での検査開発をさらに加速してまいります。また、次の主力検査として、複数の肺がんドライバー遺伝子変異を、高感度かつ一括で検査可能な肺がんコンパクトパネルを開発し、薬事試験を進めてきており、2021年10月28日に薬事申請を行いました。当社は、EGFRリキッドの市場への普及、及び肺がんコンパクトパネルの薬事承認・公的医療保険適用による早期事業化を最優先事項として取り組んでおります。
このような状況下において、当事業年度の経営成績は、研究事業、診断事業ともに前事業年度よりも売上高が増加し、売上高は427百万円(前年同期比131.9%)となりました。利益面では、営業損失166百万円(前年同期172百万円)、経常損失138百万円(前年同期174百万円)、当期純損失134百万円(前年同期172百万円)となりました。
財政状態におきましては、当事業年度末における総資産の残高は、前事業年度末に比べ130百万円減少し890百万円となりました。
また、キャッシュ・フローの状況におきましては、当事業年度末における現金及び現金同等物の期末残高は前事業年度末に比べ131百万円減少し489百万円となりました。
①経営成績の状況
当事業年度における経営成績の状況は以下のとおりであります。
(売上高)
当事業年度の売上高は、427百万円(前年同期比131.9%)となりました。セグメント別の状況は以下のとおりです。
ⅰ.研究事業
研究事業におきましては、主な事業として受託解析サービスを行っております。大学や公的研究機関、製薬会社等の企業を主要な顧客として、遺伝子関連解析の各種サービスを提供しております。主なサービスは、マイクロアレイ受託解析サービスと次世代シークエンス受託解析サービスがあります。両サービスのどちらも大学や公的研究機関、製薬会社等の企業に対し積極的な提案型営業を行い、きめ細やかなフォローを推進しております。また、各種受託解析の実績から顧客の目的に合わせた実験デザインの提案、データ解析及びサポートに力を入れるとともに、顧客ニーズに合わせた新規サービスメニューの拡充を図っております。
特に国の施策としても注目されている次世代シークエンスを活用した、「がんゲノム解析」や「網羅的な遺伝子解析」を行う受託サービスにも注力しております。また「デジタルPCR受託サービス」等、多様化する研究ニーズに合わせた遺伝子解析メニューを展開しております。
いずれのサービスにつきましても、他社との差別化を意識し、クオリティの高い内容をお客様に提供すべく取り組んでおります。
マイクロアレイ受託解析及び次世代シークエンス受託解析の両サービスは前事業年度から当事業年度にかけて受託件数が伸びました。とくに近年遺伝子解析の主流となりつつある次世代シークエンス受託解析サービスについては、前年度を上回る受託件数となり、この分野において当社が重要な位置づけとなり、お客様の研究に貢献いたしました。その結果、当事業年度の研究事業の売上高は376百万円(前年同期比118.7%)となりました。
診断事業におきましては、血液を用いて肺がんの遺伝子変異を検査する、EGFRリキッド及び肺がんの分子標的薬の適用となる遺伝子異常を一括検査可能な肺がんコンパクトパネルの市場への普及を当社の最優先事項として取り組んでおります。EGFRリキッドは、2020年7月31日に薬事承認を取得し、2021年5月21日に未固定組織を対象とした検査を、同年8月1日には血漿を対象とした検査の保険算定が開始となりました。この検査は、低侵襲的な血液遺伝子検査により、血中に微量に存在する血中腫瘍DNA上のEGFR変異を次世代シークエンス法により高感度に検出するリキッドバイオプシー検査です。肺がん組織の生検(気管支鏡検査、CTガイド下生検)は、侵襲性が高く患者さんへの負担も大きいことから、リキッドバイオプシー検査への期待が高まっています。また、EGFRリキッドに続いて、肺がん組織検査に特化した高感度な一括遺伝子検査パネル(肺がんコンパクトパネル)を開発し、2021年10月28日に薬事申請を行いました。肺がんコンパクトパネルは、EGFR・ALK・ROS1・BRAF・MET の薬剤適用の対象となっている遺伝子変異に加え、ごく最近に上市されたRET融合遺伝子やKRAS遺伝子、さらには近い将来分子標的治療薬の上市が見込まれているHER2などのターゲット遺伝子の変異を検出します。今回の申請ではまず、EGFR・ALK・ROS1・METの4つの遺伝子変異に対応する分子標的治療薬のコンパニオン診断システムとして薬事申請を行いました。今後さらにBRAF(V600E)、RET及びKRAS遺伝子(G12C)への適用を追加申請していく予定です。薬事承認・保険収載に向けて準備を進めております。本手法は、高感度であることから細胞診を対象とした解析も可能であり、聖マリアンナ医科大学との共同研究でその有用性を示してきました。単施設での結果をベースとして、多施設での評価を目的としたcPANEL多機関共同研究(聖マリアンナ医科大学及び神奈川県立がんセンターを主幹施設とした全国から7施設)を計画し2022年3月7日に倫理審査が承認されました。本研究により、細胞診コンパクトパネルの有用性評価を進めていきます。
診断事業の新規検査メニューとして、今年度より着床前胚染色体検査(PGT-A/PGT-SR)の準備を開始しております。「反復体外受精・胚移植(ART)不成功例、習慣流産例(反復流産を含む)、染色体構造異常例を対象とした着床前胚染色体異数性検査(PGT-A)の有用性に関する多施設共同研究」における研究分担施設(解析実施施設)として日本産科婦人科学会倫理委員会により承認されております。2022年4月より不妊治療の保険適用が始まり、PGT-Aは先進医療での試験を経て保険適用を目指すという方針が示されています。日本産科婦人科学会が主導する検査の枠組みに準拠した形で、検査サービスを提供していく予定としています。
また、希少変異検出の技術を発展させたNOIR-SS技術(分子バーコード技術を用いて高感度かつ正確な分子数測定が可能となる超低頻度変異DNAの検出技術)により、高感度に複数遺伝子を一括解析可能なリキッドバイオプシー検査サービスを研究用検査として提供しております。希少変異検出の独自特許技術及び薬事試験を通して培ったノウハウ、クリニカルシークエンスグレードでの精度管理・レポートシステムを活用し、リキッドバイオプシー分野での研究推進・医療現場での遺伝子解析の普及促進に貢献してまいります。また、大規模な解析結果から有益な情報を効率的に導き出すビッグデータ解析、AI技術開発も進めており、次世代型診断技術開発への応用やシーズ探索の効率化、検査系システムの頑健化・効率化に繋げていきます。
その他の検査メニューとして、遺伝子解析を用いた関節リウマチの薬剤効果予測検査、うつ病を含む精神疾患の診断技術の開発も積極的に進めております。また、乳癌手術後の再発リスクを測定し情報を提供するMammaPrint及び、長期的な予後や全身療法の感受性の情報を提供するBluePrintのサービスを病院・クリニック向けに展開しております。
当事業年度の診断事業はコンパクトパネル事業の薬事申請準備及びEGFRリキッドの事業化整備を進める一方で解析業務やMammaPrintの販売に係る売上が前事業年度より増加したことで売上高は51百万円(前年同期比701.4%)となりました。
(売上原価、販売費及び一般管理費)
売上原価は、前事業年度258百万円から80百万円増加し338百万円、販売費及び一般管理費は、前事業年度に比べ17百万円増加して255百万円となりました。
(営業損失)
前事業年度は営業損失172百万円であったのに対し、当事業年度は営業損失166百万円と営業損失額は5百万円減少いたしました。
(営業外収益)
営業外収益は前事業年度は0百万円でしたが、当事業年度は補助金収入が28百万円ありました。
(営業外費用)
前事業年度は増資に伴う株式交付費等が2百万円ありましたが、当事業年度は為替差損が1百万円ありました。
(経常損失)
前事業年度は経常損失174百万円であったのに対し、当事業年度の経常損失は138百万円となりました。
(特別利益)
前事業年度は助成金収入が2百万円、新株予約権戻入益が1百万円あったのに対し、当事業年度は新株予約権戻入益が16百万円ありました。
(特別損失)
前事業年度は固定資産除却損が0百万円ありましたが、当事業年度は固定資産の減損損失が10百万円ありました。
(当期純損失)
前事業年度は当期純損失172百万円であったのに対し、当事業年度は、当期純損失134百万円となりました。
なお、当事業年度の経営成績をふまえて、次事業年度におきましては以下の取組みを実施し、440百万円の売上確保を目指してまいります。
研究事業
・当社のノウハウを活用した提案型研究受託の営業強化
・検体の受領からデータ解析まで、顧客ニーズに応じた一気通貫の大型案件の受注確保
・試薬や受託等の外部企業との連携強化
・新サービスメニュー開発によるメニューの差別化
診断事業
・肺がんコンパクトパネルの薬事承認・公的医療保険適用による事業化
・EGFRリキッドの公的医療保険適用による事業化
・新規診断検査メニューの開発
取組みの詳細は、上記「第2 事業の状況 2 事業等のリスク(8) 提出企業が将来にわたって事業を継続するとの前提に重要な疑義を生じさせるような事象又は状況その他提出会社の経営に重要な影響を及ぼす事象を解消し、又は改善するための対応策」をご参照ください。
② 財政状態
当事業年度末における総資産の残高は、前事業年度末に比べ130百万円減少し890百万円となりました。その主な要因は次のとおりです。
(流動資産)
流動資産は、前事業年度末に比べて114百万円減少し、710百万円となりました。これは、現金及び預金が131百万円、前払費用12百万円が減少し、受取手形が13百万円、売掛金が9百万円、貯蔵品が5百万円増加したことなどによるものです。
(固定資産)
固定資産は、前事業年度末に比べて16百万円減少し、179百万円となりました。これは、有形固定資産が14百万円、投資その他の資産が39百万円それぞれ減少し、将来の事業化に資する無形固定資産であるソフトウェア制作による費用46百万円の増加及び無形固定資産に係る減価償却費8百万円の減少などによるものです。
(流動負債)
流動負債は、前事業年度末に比べて17百万円増加し、99百万円となりました。主な要因は未払金が6百万円、未払消費税が6百万円増加したことによるものです。
(固定負債)
固定負債は、前事業年度末に比べて微増し、10百万円となりました。
(純資産)
純資産は、前事業年度末に比べて150百万円減少し780百万円となりました。これは、当期純損失による利益剰余金134百万円の減少などによるものです。
当事業年度末における現金及び現金同等物の期末残高は前事業年度末に比べ131百万円減少し489百万円となりました。その主な要因は、税引前当期純損失による減少133百万円のほか、減価償却費の発生16百万円、減損損失の発生10百万円、売上債権の増加23百万円、前払費用の減少46百万円、仕入債務の増加4百万円、有形・無形固定資産の取得による支出58百万円などによるものです。当事業年度における各項目の状況とそれらの要因は次のとおりであります。
(営業活動によるキャッシュ・フロー)
営業活動によるキャッシュ・フローは、前事業年度では76百万円の支出となったのに対し、当事業年度は72百万円の支出となりました。主な要因は、収入では減価償却費16百万円及び減損損失10百万円、研究施設及び事務所の2020年1月から2022年12月までの賃借料(3年分)の前払いなどによる前払費用の減少46百万円、仕入債務の増加4百万円、支出では税引前当期純損失133百万円、売上債権の増加23百万円などによるものです。
(投資活動によるキャッシュ・フロー)
投資活動によるキャッシュ・フローでは、前事業年度51百万円の支出に対し、当事業年度は58百万円の支出となりました。主な要因は、有形固定資産の取得による支出7百万円、無形固定資産の取得による支出51百万円によるものです。
(財務活動によるキャッシュ・フロー)
財務活動によるキャッシュ・フローはありません。
④ 重要な会計上の見積り
当社の財務諸表は、わが国において一般に公正妥当と認められている会計基準に基づき作成されております。この財務諸表を作成するにあたって、資産、負債、収益及び費用の報告額に影響を及ぼす見積り及び仮定を用いておりますが、これらの見積り及び仮定に基づく数値は実際の結果と異なる可能性があります。
財務諸表の作成にあたって用いた会計上の見積り及び仮定のうち、重要なものは「第5 経理の状況 2 財務諸表等 (1)財務諸表 注記事項 (重要な会計上の見積り)」に記載しております。
(2)生産、受注及び販売の状況
当事業年度における生産実績を示すと、次のとおりであります。
(注) 1 金額は、販売価格によっております。
当事業年度における仕入実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。
(注) 1 金額は、仕入価格によっております。
③ 受注実績
当事業年度における受注実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。
(注) 1 セグメント間取引については、相殺消去しております。
2 当事業年度は研究事業でマイクロアレイ受託解析サービス及び次世代シークエンス受託解析サービスの受注が前年度を超える伸びとなり、診断事業ではMammaPrintサービスが前年の4倍の受注となりました。結果、受注高では研究事業が前年比111.4%、診断事業では前年比598.9%となりました。
当事業年度における販売実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。
(注) 1 セグメント間取引については、相殺消去しております。
2 主な相手先別の販売実績及び当該販売実績の総販売実績に対する割合は次のとおりです。
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