文中の将来に関する事項は、本有価証券報告書提出日現在において当社グループが判断したものであります。
(1)会社の経営の基本方針
当社グループは、2020年8月に、環境変化に伴いこれまでの当社単体の経営理念を再定義し、「労働格差をなくし、生き甲斐が持てる職場を創出することで、世界の人々の人生を豊かにする。」というグループで統一した「グループ経営理念」として掲げました。
世の中の急激なグローバル化に伴い、人材サービス企業の果たす社会的役割を再考し、当社グループの事業活動が広く社会に還元できる仕組みを追求してまいります。
また、当社グループは、成長の持続可能性を重視しております。SDGs経営に向けたサステナビリティ方針として、世界の様々な人々の「就業機会」と「教育機会」の創造を事業を通して実現し、社会課題の解決と事業の成長、ステークホルダーへの貢献に、持続的に取り組んでまいります。
これらの推進のため、当社グループは、経営基本方針として、従前より以下の3つを掲げております。
・経営環境の変化に素早く対応するため、常に創造と革新を行い当社の付加価値を高めてまいります。
・アウトソーシング事業における高付加価値ビジネスモデルを構築し推進いたします。
・キャッシュ・フローを重視した軽量経営を図ります。
(2)目標とする経営指標
人材ビジネスはその構造上、大幅な粗利率向上は見込めないものの、経営効率を高めつつ業績を伸長させることにより、相応の販管費率に抑えた結果として営業利益率を上げていけるものと考え、当社グループでは、経営効率を示す指標として営業利益率を重視しております。将来の企業価値向上に寄与する先行投資を捻出しながら営業利益率を向上させ、経営効率を高めてまいります。具体的には、中期的経営目標として、営業利益率8%を経営目標として掲げております。
また、当社グループでは、強靭な収益基盤を構築し、株主還元の充実などによる資本効率の向上や内部留保による財務レバレッジのバランスを考慮し、持続的な成長に向けた中期的な財務目標として、ROE25%以上、自己資本比率30%以上を掲げております。
なお、この経営指標は、コロナ禍以前にお示ししたものでありますが、継続して掲げております。前期(2020年12月期)下半期(7月~12月)にコロナ禍による低調から脱却し、当期(2021年12月期)も売上収益及び営業利益とも同期間の過去最高を更新していることから、当経営指標の実現性も持ち直したと現時点においても判断しております。
(3)中長期的な会社の経営戦略
当社グループの主たる事業である人材ビジネスは、大半がストックビジネスであり、働く人の数が業績に直結するため外勤社員数が重要な経営指標とされてきました。しかしながら、世界的な労働時間短縮へ向けた潮流や、ロボットやAIの導入などの技術進化がもたらす抜本的な変化が進むことにより、一人当たり労働時間は減少傾向にあり、かつ、雇用リスクは増加傾向にあることなどから、将来的には外勤社員数の拡大が必ずしも収益に直結しない時代が訪れると予想しております。少ない人数で生産性向上に寄与できることが重要な経営指標になるなど、急激に進む外部環境の変化は、従来型人材アウトソーシング事業モデルの根底を覆しかねないと考えております。
そこで当社グループは、従来型のストックビジネスから抜本的に脱却することが急務であるとの認識のもと、次のステップを見据え、現行トレンドに基づく成長戦略に加えて、全く新しい次元における人材ビジネスモデル創出の序章となる新中期経営計画「VISION 2024: Change the GAME」を2020年2月に策定いたしました。
中期的には、現行トレンドにおいては、国や地域、領域間の労働需給ギャップをとらえ、人材流動化ビジネスのグローバル展開を引き続き推進することに加えて、外国人労働者の活用領域の更なる拡大を図るとともに、業績の平準化に繋がる、景気の影響を受けにくく安定的な米軍施設向け事業や政府公共系ビジネスの拡充も推し進めてまいります。一方、新たなトレンドである人材ストックビジネスからの脱却においては、業務効率化や省人化ニーズ拡大をとらえ、エンジニアとテクノロジーを融合して供給するビジネスモデル「派遣2.0」の推進に加えて、人材流動化スキームで移動する労働者が安全・安心に日々の生活を過ごすためのWBB(“WORKING” Beyond Borders =“はたらく”に国境をなくす)プラットフォームの開発・提供に取り組み、雇用を伴わない新たな事業の柱の礎を築いてまいります。
中計初年度にあたる前期(2020年12月期)にコロナ禍に見舞われたものの、従前より当社グループは、業績平準化による成長基盤の強靭化を目的に事業及び地域ポートフォリオ分散を推進しており、その取組が奏功し、コロナ禍の影響を緩和しております。当期(2021年12月期)においては、コロナ禍の影響が残るものの中計を上回る増収(中計:売上収益4,970億円、実績:売上収益5,693億円)、営業利益はほぼ計画どおり(中計:営業利益250億円、実績:営業利益242億円)の結果となりました。引き続き、以下の戦略を通じて、中計実現性をなお一層磨き上げ、より力強く進化させてまいります。
国内においては、人と人との接触機会の削減やリモートワーク対応を支えるシステム化需要を踏まえ、製造系では派遣スタッフ管理システム「CSM(クラウド・スタッフィング・マネジメント)」プラットフォームの提供を本格的に拡大するほか、技術系ではDX需要に応じて、人とテクノロジーを融合して効率化・省力化を実現するビジネスモデル「派遣2.0」の対象領域を拡大してまいります。海外においても、デジタル政府機能への貢献や、ライフラインを支えるeコマースの流通系事業をはじめとするエッセンシャルワーカー関連事業の更なる発展など、国内外のwithコロナに対応することで中計の定量数値達成に照準を合わせてまいります。
SDGs経営を念頭においた中長期的なマテリアリティ(重要課題)及びKPIといたしまして、以下を掲げております。
1.「就業機会の提供」
・日本の労働力減少という社会問題の解決に資する在留外国人の就労サポート人数を、2024年までに30万人、2030年までに50万人に拡大する。
・教育とテクノロジーの力を駆使して、2030年までに3万人を労働集約セクターからスペシャリスト人材へのキャリアチェンジを実現する。
2.「質の高い教育の提供」
・キャリアアップに向けた質の高い教育機会の提供を目的とし、グローバルに展開する研修プログラムの延べ利用人数を2030年度までに30万人とし、生産的な雇用への結びつきや働きがいへ貢献する。
3.「多様性の尊重とダイバーシティ経営の実現」
・女性が活躍する社会の実現に向けてグループとしてその推進を行い、グループの取締役(マネジメント)総人数に占める女性の比率を2030年度までに30%にまで高める。
4.「脱炭素社会の実現に向けた取組強化」
・2025年度までに国内グループの営業車両の全てを次世代自動車(電気自動車・ハイブリッド車等)に、2030年までに海外を含むグループ全体の同比率を70%とする。
5.「産業全体の生産性の向上」
・グローバルかつ幅広い産業で蓄積した生産技術と先端的なデジタル技術を活用し、産業生産性を改善させるスペシャリスト人材を 2030年度までに10万人育成し、世界の生産性を向上させる。
当社グループは、リーマンショック以降、その時々の環境変化に合わせた的確なビジョン策定と具体的戦略により、事業ポートフォリオを変化させながら持続的な事業拡大を実現してまいりました。今回の新たなトレンドに対応して挑戦的な新領域のビジネスを切り拓くとともに、安定的な公共系をはじめとした従来のビジネスも伸長させることにより特色を持った一大グループを形成し、中長期的には、新たな時代のリーディングカンパニーを目指してまいります。
(4)優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題
今後の世界経済の見通しにつきましては、未曾有の先行き不透明感をもたらした新型コロナウイルス感染症に対して、ワクチン普及によりパンデミック収束への期待が高まっているものの、変異ウイルスによる感染拡大やウクライナ情勢など、国際情勢に重大な影響を及ぼす事象の発生が続いており、これらのリスク増大によって世界経済は、不透明感がなお色濃い状況であります。
当社グループでは、このように先行きが不透明な事業環境の中でも、持続的成長を実現していくために、以下を対処すべき主要課題と捉えております。
また、この度の当社グループにおいて過年度の不正または誤謬による虚偽表示が行われていたことを厳粛に受け止め、ガバナンス体制の強化を推し進めてまいります。
① ガバナンス体制の強化
積極的なМ&Aも行いグローバルに事業拡大している当社グループでは、買収した会社も含めて上場企業のグループ会社にふさわしい健全な経営を行う必要があります。これを継続して実現するため、グローバル経営の視点に立った同一目標・同一管理手法を確立し、加えて、内部統制システムを全社に適用し、当社グループ全体のガバナンス強化及びコンプライアンス体制の拡充を図ってまいります。
当社は、2021年12月28日に外部調査委員会から調査報告書を受領し、当社グループ17社において過年度の不正または誤謬による虚偽表示を行っていたことが判明したため、2019年12月期から2021年12月期第2四半期までの有価証券報告書等及び2020年12月期から2021年12月期第2四半期までの決算短信等の訂正を行いました。当該訂正を受け、2022年2月22日に株式会社東京証券取引所より改善報告書の徴求及び公表措置の通知を受け、2022年3月8日に改善報告書を提出しております。
株主及び投資家の皆さま、お取引先の皆さま、その他すべてのステークホルダーの皆さまに、多大なるご心配とご迷惑をおかけしておりますことを、改めて深くお詫び申し上げます。当社では、本件事案を厳粛に受け止めるとともに、以下の再発防止策を着実に実行することにより、皆さまからの信頼回復に努めてまいります。
・経営責任の明確化
・経営トップ主導の企業風土改革
・コンプライアンス意識の改革、再発防止策の徹底
・経営体制の強化
・コーポレート・ガバナンス体制・組織体制の再構築
・内部統制部門の強化
・内部通報制度の見直し
・会計処理に係る社内ルールや経理会計システムの見直し
・実現可能な事業計画・予算の策定
・不正の温床となる取引契約の終了
② SDGs経営の強化
当社グループは、サステナビリティ方針に基づき、社会と企業の持続可能な発展に貢献できるよう取り組んでおります。この活動をさらに強化し、5つのマテリアリティ(重要課題)に沿ってKPIを定めており、事業を通じて社会問題の解決に寄与しながらSDGsの目標達成に貢献してまいります。
③ 人材育成による企業体質の強化
人材を活用したビジネスを行う当社グループは、人材を最も重要な資産として捉えております。人材を適正に扱うため、また人材を扱った各種サービスを適正に提供するための基礎的な知識・能力や、生産現場における労務管理能力及び生産管理能力を向上するための教育・育成を徹底しております。併せて高度・多様化し続ける顧客ニーズに迅速、柔軟かつ的確に対応するためにも、優秀な人材確保及び人材育成を重要課題として取り組んでおります。
特に今後は、当社グループの新規分野及び海外分野の経営を展開できる、世界で通用する規律・遵法意識を兼ね備え、多様な知識と経験を有する有能な人材を、国籍や性別を問わず、グローバルに採用・教育することが急務であります。
④ 変動の激しい事業を補完する体制の構築
製造系アウトソーシング事業は、生産変動の激しい量産工程に対する人材派遣や業務請負を行っている性質上、リーマンショックのような大きな景気後退時には、急激かつ大量の雇用解約が発生するのに対し、景気回復時の増産時には採用が追い付かず、往時の業績に戻ることのできない同業者が散見され、機会損失が非常に大きな問題となっています。
このような状況に対し、当社グループでは、急な大型減産でもグループ全体では黒字を維持しながら雇用解約せずに人材を確保しておき、その後の増産に即時配属して業績を回復できる体制が必要と考えます。そのために製造とは異なるサイクルの分野や景気の影響を受けにくい分野の事業拡大を推進し、製造系アウトソーシング事業の売上構成比を相対的に抑制しながら、業績平準化による成長基盤の強靭化を目指してまいります。
⑤ 成長機会を逃がさない基盤構築
日本国内の人口は減少傾向にあるため人材市場は限定的となり、今後の大きな成長は望めませんが、世界全体では人口は増加傾向にあり、今後30億人増加するともいわれております。当社グループの事業の多くは稼働している人員数に業績が連動しているため、人口が増加し余剰感のある国から不足している国へ、グローバルに人材を流動化させる体制を構築し、この成長ポテンシャル獲得に取り組んでまいります。併せて、人材流動化スキームで移動する労働者をサポートするためのプラットフォームの開発・提供にも取り組み、雇用を伴わない新たな事業の柱としての確立・発展を目指します。これらの体制構築及び運用を実現した暁には、世界一の人材サービス企業への道も拓けると考えており、体制構築に向けた成長投資を推進してまいります。
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