課題

1 【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。

(1) 経営方針

① 企業理念について

当社グループの企業理念の根幹にある価値観は、「しなやかに変化し、独創の価値を生み出し提供する」ことにあります。

「しなやかに変化する」とは、

・既存の価値観に固執せず積極果敢に新しい価値観を取り込むこと、

・変化をいとわず変化の中にこそ勝機を見出せること、

・柔軟な軌道修正や大胆な創造的破壊ができ、それらに応じて自らを再定義できること

「独創の価値を生み出し提供する」とは、

・既成概念にとらわれることなく、顧客ニーズの本質を見極め、そこに一歩でも近づける商品サービスの創造と提供を追求し続けること、

・顧客の要望に応えるだけでなく、確信をもってその本質に顧客を導くこと

であります。

当社グループが企業理念に謳うこの「しなやかに変化しながら、独創の価値を生み出し提供する」という価値観は、当社グループの黎明期でこそ“生き残る術”でありましたが、それは“成長を支える人と組織のあり方”へ、そして“未来に受け継ぐべき企業文化”へと着実に進化してまいりました。

そして、この価値観を実践することによって当社グループが果たすべき使命は、事業を通じて人と社会の活力ある発展に貢献することと考えております。

創業以来、130年超の期間において、当初は染物業とその技術の海外輸出をもって、また近年においては収益不動産とそれを取り巻く付加価値の組み合わせの提供によって、当社グループはこの使命を果たし続けてきたと自負しております。そして今、すべての企業が向き合う新型コロナウイルス感染拡大による経営環境危機は、当社グループにとりましてまさに「しなやかに変化する」ことができるかどうかの試金石になるであろうと認識いたしております。

 

② 第1次中期経営計画で目指す姿

当社は、2021年5月13日付で「第1次中期経営計画」(2021年12月期~2023年12月期)を発表いたしました。その中で目指す将来に向けて次の4点を掲げております。

「SDGs経営」の推進

・主力の収益不動産販売事業は、「社会資本である不動産のポテンシャルを目利き力と商品企画力で最大化する」という社会的意義を有する

・収益不動産販売事業の積極拡大をもって、不動産市場でのESG投資の広がりに寄与し、まずはそれを通じて「SDGs経営」を推進する

「複利の経営」への転換

・これまでは、売上高や経常利益など「額」を増やす経営、また経常利益率など「率」を高める経営を推し進めてきた

・投下資本が生み出す利益を重要視する「利回りの経営」、さらに再投資のリターンを長期継続する「複利の経営」に転換する

「プライム市場」への上場※1

・2022年4月に予定されている東京証券取引所による市場再編において、「プライム市場」への上場を目指す

・基準に満たなければ経過措置を活用し、「第1次中期経営計画」を推進することでそのハードルを超えたい

「5年後3割」への通過点

・DXによる革新、コーポレート・ベンチャー・ビジネス事業(CVC事業)を通じた新たな価値創造、持株会社体制を活用したM&A・資本提携・業務提携を加速する

・“脱”不動産事業※2収益の割合を「5年後3割」に到達させる長期目標に向け、通過点の3ヶ年として積極的に機会獲得を行う

※1 2021年9月1日付でプライム市場を選択する申請をし、「新市場区分の上場維持基準の適合に向けた計画書を提出。

※2 “脱”不動産事業・・・将来的に第2の柱とする不動産領域以外の事業

 

その上で、次の3つの基本方針を明確化するとともに、それぞれに対応した12の重点施策を決定のうえ、鋭意推進しております。

Ⅰ.資本効率を高め、超過利潤を生み持続的に向上させる経営を目指す

・現在、ROIC(投下資本利益率)がWACC(加重平均資本コスト)を下回る状況であるが、2023年12月期にこれを逆転させて超過利潤を生み、さらに持続的に向上させる

Ⅱ.外部資源を積極活用し、創造性と先進性に富んだ組織力を育む

DXなど高速展開する最新の知見を取り込むために、持株会社体制のもと、コーポレート・ベンチャー・ビジネス事業(CVC事業)によって先鞭を付け、M&A、資本提携、業務提携など外部資源の積極活用で変化に対応する

Ⅲ.顧客の対象を拡張し、商品・サービスを広く提供する

・個人富裕層顧客を主軸としつつ、顧客の裾野を拡げネットも活用して幅広い投資需要に応えるとともに、個人だけでなく事業法人や機関投資家へと対象顧客を拡張する

 

③ 資本コストについての考え方

加重平均資本コストを引き下げる観点からは、社債に代表される負債性資金の調達が有効と判断しておりますが、一方で、投資適格となりうる格付けの取得には、一定の純資産額、時価総額が前提となるところであり、ガイダンスで示した規模感はその最低目安と当社では想定しております。

株主資本コストについては、自社で算定し把握に努める一方で、開示についての必要性は認めておりません。一方加重平均資本コストについては、2021年5月13日公表の「第1次中期経営計画(2021年12月期~2023年12月期)」の基本方針の1つ、「超過利潤を創出する経営」「時価総額の向上」を実現するため、一定の前提(株主資本コスト8%、有利子負債コスト1.5%、税率35%)をおきつつ開示しております。

長期的な企業経営の観点からは、ガイダンスで示した規模感へ至る成長過程において資金需要に応じて、柔軟にエクイティ・ファイナンスの検討、実施を必要とすることがあり、加重平均資本コストは一定ではありません。当社グループが投資家や株主の皆様の期待に応えるためには、中長期的な成長の実現が最も重要であると認識し、進捗を明瞭に開示し、当社への投資に際して期待できる収益の検討材料を提供してまいります。

なお、当社は、「(改訂)コーポレートガバナンス・コードに対する当社ガイドライン(方針及び取組み)」(2021年12月23日公表)の序章5の中で、以上の資本コストについての考え方を表明しております。

 

(2) 経営環境

① 当期の経営環境

当連結会計年度における国内経済は、新型コロナウイルスの断続的な感染拡大の影響を受け、概して不透明な状況に終始しました。期中においては、パンデミック下での東京オリンピック・パラリンピックの開催、新政権によるコロナ対策と経済施策への期待、緊急事態宣言及びまん延防止等重点措置の解除、そしてワクチン接種率が約80%に達したことによる社会経済活動の正常化への期待の高まりなど、めまぐるしい変化が相次ぎました。期末にかけては、感染力の強い新たな変異株の急拡大が始まり、不確実性の高い状況は依然として続いております。

当社グループの主要な事業領域である都心部における収益不動産関連の事業環境は、低金利などの資金調達環境を背景にした根強い需要により、好調に推移しております。コロナ禍によるワークスタイルの変容を契機に、オフィスの規模や立地条件が見直され始めたことから、都心部の大規模オフィスビルの空室率の上昇は続いているものの、当社グループが注力している10億~40億円クラスの中規模オフィスビルには、堅実な需要が新たに発生しております。また、居住用の収益不動産につきましては、安定したキャッシュ・フローが得やすいことから、引き続き堅調となっております。一方、当社グループの拠点がある米国のロサンゼルスにおいては、停滞してきた不動産市場が徐々に再開を始め、居住用不動産に対する潜在需要が顕在化し、仕入れ競争が高まっております。

このような事業環境のもと、当社グループの主要な事業である収益不動産販売事業は、コロナ禍以前まで主力としてきた3~5億円クラスの居住用の物件に加え、オフィス物件の中でも需要の旺盛な10億~40億円クラスの中規模オフィス物件の仕入れ活動を積極的に取り組んだことが奏功し、不動産収益の期末残高は過去最高の水準となりました。この背景には、人材育成や組織力強化、不動産情報の取り扱いにおけるIT活用など、総じて仕入れ力向上のための各種施策の成果があります。また、フレキシブルオフィス戦略の成功に象徴されるように、トレンドとニーズを把握した的確な商品企画により、平均賃料を上回る利回りの確保につながりました。

さらに、不動産小口化商品販売事業においては、金融機関との提携を積極的に進め、販売ネットワークを強化してまいりました。2021年12月には、シリーズ第5弾の「ARISTO渋谷」が完売し、現在までに5物件、累計67億円を完売・運用するに至っております。不動産小口化商品は、都心部の優良不動産に対して比較的少額からの投資が可能であることから、全国の投資家から幅広い注目が高まっております。

海外不動産事業も積極的に展開しました。ロサンゼルス事業では、現地パートナーとの協業により現地向け開発・販売を新たに推進してまいりました。またハワイ事業では、社会問題となっている中低所得者向けの安価な住宅不足の解決のために制定された、2019年の現地法令(通称Bill7)に着目し、現地デベロッパーに先駆けて開発案件に着手しております。

 

② 今後の見通し

今後の見通しにつきましては、急激に再拡大を続ける新型コロナウイルス感染症の影響により、不確実な経済環境が続くと考えられます。その一方で、当社グループの主力事業である収益不動産販売事業は、多様化する需要や低金利の状況を踏まえ活況な取引が継続しており、居住用物件及び中規模オフィスビルの需要は底堅さが続くと予想されるため、2021年5月に公表いたしました「第1次中期経営計画」の遂行に関し、その方針に変更はありません。

「第1次中期経営計画」最終年度の2023年12月期は、売上高306億円、EBITDA27億円、経常利益20億円、税引前当期純利益20億円という目標を掲げています(この目標は2021年5月時点の計画であり、今後更新される可能性があります)。2022年12月期はその達成に向けて、様々な観点において蓄積を進めることが肝要であると考えております。すなわち、収益不動産残高はもとより、商品企画力、マーケティング力、販売ネットワーク、DX、そして何より人材力など、来るべき飛躍のための蓄積を積極的に進めてまいります。

この他、SDGs経営を進めるべく、2021年10月に設置いたしました「サステナビリティ委員会」を中心に、社内の推進体制を構築してまいります。「不動産再生」という当社グループの事業は、不動産のもつポテンシャルを最大限に活かし、人々の生活や社会活動に活性化をもたらす意味において、社会的価値の高い事業です。これらの事業を通じて社会課題を解決し、経済的価値及び社会的価値の向上を実現すべく取り組んでまいります。

当社グループの属する不動産業界においても、依然として不透明な状況は続きますが、「2021年の市場環境が継続する」という前提で、翌連結会計年度(2022年12月期)の連結業績計画を下表のとおりといたします。

また主要事業である収益不動産販売事業は、商品企画の内容やバリューアップ工事の進捗など諸般の状況によって販売時期が前後するという特性があります。近時、商品ラインナップの大型化を戦略的に進めたことに伴い、全体収益における個々の物件収益のウェイトが増しているため、不動産市況等にかかわらず、これまで以上に四半期ごとの収益額の多寡が生じる可能性があります。

 

2021年12月期(実績)

2022年12月期(計画)

売上高

24,961

百万円

30,000

百万円

EBITDA

1,073

百万円

1,300

百万円

経常利益

650

百万円

800

百万円

税引前利益

650

百万円

800

百万円

 

(注) 当社グループでは、当連結会計年度の経営目標を「業績計画」として開示しております。「業績計画」は経営として目指すターゲットであり、いわゆる「業績の予想」または「業績の見通し」とは異なるものであります。なお、業績の予想については、その時点におけるグループ全体の確度の高い情報および合理的であると判断される情報を基に、各四半期における進捗の見通しを「フォーキャスト」として適時更新し開示しております。

 

 

(3) 対処すべき課題

① 好循環事業サイクルへの転換

当社グループの主力事業である収益不動産販売事業は、一定量の優良な収益不動産残高を保有することにより、不動産の相場と顧客ニーズとの双方を睨みながらコントローラブルに販売を展開し必要な収益を確保すると同時に、保有する収益不動産から得る賃料収入によって収益の安定化を生み出すビジネスモデルです。これに対し現状は、「第1次中期経営計画」の達成に向けてアグレッシブな拡大基調にあるため、残高拡充のための仕入れが収益確保のための販売を追従する状態にあります。通常期にも増して積極的な仕入れを展開することにより、好循環の事業サイクルに転換する必要があります。

 

② 資金調達手段の多様化

当社グループは、収益不動産販売事業のバリエーションとして、不動産小口化商品販売事業や開発事業などを国内外において積極的にラインナップし、事業全体の拡大を図っております。いずれも旺盛な資金需要があるため、金融機関からの借入を中心としつつクラウドファンディングやSTOを活用するなど、資金調達手段をさらに多様化する必要があります。また「第1次中期経営計画」の最終期に目途とする超過利潤の創出のためには、EquityとDebtの最適なバランスを検討しつつ資本効率を高める必要があることから、資金調達手段の多様化はますます重要となってまいります。

※ STO…Security Token Offering:ブロックチェーンを活用したデジタル証券による資金調達

 

③ 人材力の強化

複雑化する事業環境や加速する変化の中にあり、当社グループがさらなる成長を果たしていくためには、人材力の強化が必要不可欠です。当社は予てより新卒採用に注力してまいりましたが、こうしたファーストキャリア人材の早期戦力化をはじめ、中堅社員のマネジメント力強化、また幹部候補社員の選抜と育成など、すべての階層において適切な教育プログラムを導入し、成長を促進する必要があります。またそうした人材が力を発揮できる新しい人事制度の導入も必要です。同時に、自由と自律を両立した当社グループ独自のワークスタイルも希求してまいります。

 

④ DX推進の加速

当社グループが「第1次中期経営計画」を達成し、さらにそこから先も持続的に成長を果たしていくためには、事業や経営のスピードと効率化を格段に高めること、すなわち生産性の向上が喫緊の課題です。DX(デジタルトランスフォーメーション)の活用はそのキーとなるものであり、優先度を高めかつ全社横断的に取り組む必要があります。またDXはスピードや効率化といったオペレーション改革に留まらず、それを活用した新たな事業機会の創出や獲得まで視野に入れるべきであり、「収益に寄与するDX」を掲げ積極的に取り組んでまいります。

 

⑤ 新たな事業の柱の構築

当社グループは国内における収益不動産販売事業を主力として成長をしてまいりましたが、今後それに匹敵する第二・第三の事業の柱を構築する必要があります。既存事業の延長においては、海外事業や不動産小口化商品販売事業の成長に期待し経営資源を相応に充当してまいります。加えて既存の不動産事業領域を超えた事業を構築するために、コーポレート・ベンチャー・キャピタル事業(CVC事業)やM&A等の手法を果敢に活用し、新たな事業機会の創出を企図します。そうした手法を活用しやすくするという狙いで、すでに持株会社体制への移行を実施しており、今後はその具現化を進めてまいります。

 

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