業績

 

3 【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】

(1) 経営成績等の状況

当社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(以下、「経営成績等」という)の状況の概要は次のとおりであります。

なお、当事業年度より、「収益認識に関する会計基準」(企業会計基準第29号 2020年3月31日)等を適用しております。詳細は、「第5 経理の状況 1 財務諸表等 (1) 財務諸表 注記事項(会計方針の変更)」に記載の通りであります。

 

① 財政状態及び経営成績の状況

当事業年度におけるわが国経済は、新型コロナウイルス感染症対策の行動制限緩和等により、経済社会活動に正常化の動きが見られました。その一方で、新たな変異株による感染者数が増加していることや、ウクライナ情勢の長期化、原材料価格の上昇、金融資本市場の変動による下振れリスクもあり、依然として先行き不透明な状況が継続しています。

国内の製薬業界においては、 世界の医薬品市場が拡大する一方、国内市場は増加する薬剤費を抑制するため、薬価改定による価格引き下げが継続して行われ、後発医薬品への切り替えも進んでいます。また、新型コロナウイルス感染症拡大による受診抑制等の影響があったほか、薬価制度改革をはじめとする継続的な医療費抑制策の推進によって製薬会社にとって厳しい環境が続きました。一方、新型コロナウィルス感染症が拡大したことによって、医薬品の開発には膨大なコストと時間を要するものの、ワクチンをはじめとする医薬品の開発・供給基盤を確保することが、安全保障面においても重要であることを多くの国民が認識するようになりました。国産のワクチンや治療薬の登場が待ち望まれている中、最先端のICT (Information and Communication Technology:情報通信技術)の活用によって、新薬の研究や開発に必要となる期間やコストをいかに短縮できるかが課題となっています。

こうした中、当社は「ICTの活用で“持続可能な医療”を目指す」というビジョンを掲げ、自社構築のデジタル医療プラットフォームを活用した治療用アプリ開発の「DTx (デジタル治療:Digital Therapeutics)プロダクト事業」、並びに臨床試験の支援、機械学習自動分析システムの提供、DTx開発支援等の「DTxプラットフォーム事業」を展開し、ブロックチェーンやAI(人工知能) 技術の応用で業界に新たな価値を生み出して社会課題を解決することを目指して事業を推進しています。

DTxプロダクト事業におきましては、不眠障害治療用アプリの検証的試験(治験の最終ステップである第Ⅲ相臨床試験に相当)にて主要評価項目を達成しました。本臨床試験は「不眠障害患者」を対象とした二重盲検比較試験(*1)であり、主要評価項目であるアテネ不眠尺度(不眠重症度の指標)の改善において、当社の治療用アプリ群ではシャム群(*2)との間に統計学的な有意差が認められました。この結果を基に、2022年2月に本アプリの薬事承認申請を行っております。また、本アプリについて、塩野義製薬株式会社との間で販売提携契約を締結いたしました。本契約に基づき、当社は製造販売業者として、アプリ開発、薬事承認取得及び保険償還に向けた準備を進め、塩野義製薬株式会社は、本アプリの日本における独占販売権を獲得します。当社は、塩野義製薬株式会社から契約締結に伴う一時金2億円を受領しており、その他、今後の開発進展などに応じたマイルストン収入として総額最大45億円を受領する予定です。また上記のマイルストン収入に加えて、製品上市後の販売額に応じたロイヤリティを受領します。なお、不眠障害治療用アプリ以外にもアドバンス・ケア・プランニングを支援するアプリのPoC取得に向けた探索的試験(第Ⅱ相臨床試験に相当)を開始し、慢性腎臓病患者向けの腎臓リハビリアプリに関して臨床試験の準備を行っております。今後も長期的視点での収益の最大化のために、財務指標に先行する開発パイプラインの件数や臨床試験の進捗を重要な経営指標と位置付けて事業運営を行ってまいります。

DTxプラットフォーム事業におきましては、株式会社スズケンが展開するRFIDとIoT技術を搭載した専用保管庫による医薬品のトレーサビリティシステム「キュービックスⓇ」のデータ利活用による新たな付加価値サービスの構築を開始しました。2022年6月には、アキュリスファーマ株式会社との間で、企業治験としては世界初 (*3)となるブロックチェーン技術を活用した治験の実施に関する業務受託契約を締結いたしました。データ改ざんが難しいブロックチェーン技術を用いて新薬開発コストの適正化と治験データの信頼性向上を同時に実現することを目指します。

アカデミア等との連携強化についても、当社が開発している治療用アプリやプラットフォームシステムの着実な普及のために重要な取組みであると考えております。公立大学法人名古屋市立大学との「機能性疾患を対象とした治験用アプリの開発」に関する共同研究契約や、国立大学法人浜松医科大学との治療用アプリの新たなシーズ探索のための共同研究契約をそれぞれ締結したほか、ブロックチェーン技術を実装した臨床試験システムの活用に関しては国立大学法人東京医科歯科大学との共同研究成果の公表準備を進めるとともに、国立大学法人東北大学との共同研究契約を締結しております。また、「心房細動における経皮的カテーテル心筋焼灼術のエキスパート治療を提案する人工知能モデル開発」に関して、国立大学法人九州大学との共同研究を開始いたしました。この共同研究は国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の2021年度メディカルアーツ研究事業との連携による「循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策実用化研究事業」に採択されております。

 

こうした事業活動の結果、当事業年度における業績は、事業収益316,873千円(前事業年度は115,489千円)、営業損失229,152千円(前事業年度は333,421千円)、経常損失217,444千円(前事業年度は271,080千円)当期純損失233,483千円(前事業年度は277,554千円)となりました。

 

*1 被験者、治験実施医師いずれもが割付られた治療内容を知らない形で進められる最もバイアスの影響を受けにくい比較試験

*2 本アプリから治療アルゴリズム等の治療の機能を除いたもの

*3 医学文献情報DBであるPubMed、アメリカ国立衛生研究所の国立医学図書館によって管理される臨床試験情報DBであるClinicalTrials.gov、欧州医薬品庁の臨床試験情報DBである EU Clinical Trials Register、その他リサーチツールに基づくサスメド調べ

 

セグメント別の概況は、以下のとおりです。

(DTxプロダクト事業)

当セグメントは、治療用アプリ開発で構成されております。治療用アプリ開発では、不眠障害治療用アプリの検証的試験を終了し、本臨床試験において主要評価項目を達成しました。現在本アプリの薬事承認申請を行っております。また複数の医療機関と共同研究を行い、次のパイプラインの獲得を目指しております。医療機器承認を取得し、販売段階にあるプロダクトはまだございませんが、塩野義製薬との不眠障害治療用アプリに関する販売提携契約の締結によって、契約締結一時金200,000千円が事業収益として計上されました。

この結果、本事業の事業収益200,000千円(前事業年度はなし)、セグメント利益11,616千円(前事業年度は160,130千円のセグメント損失)となりました。

 

(DTxプラットフォーム事業)

当セグメントは、汎用臨床試験システム及び機械学習自動分析システムの提供、並びにこれらシステムを活用したDTx開発の支援で構成されております。

臨床試験システムの提供に関しては、AMEDのプロジェクトに採択されていた東京医科歯科大学との臨床研究成果に関する報告の準備を行っているほか、国立大学法人東北大学と共同研究契約を締結いたしました。また、2022年6月には、アキュリスファーマ株式会社との間で、企業治験の実施に関する業務委託契約を締結いたしましたが、収益への貢献はまだ限定的になっております。なお、機械学習自動分析システムの提供並びにDTx開発の支援に関する活動につきましては、前期からの継続利用に支えられ、収益は安定的に推移しております。

この結果、本事業の事業収益は116,873千円(前事業年度は115,489千円)、セグメント利益は57,694千円(前事業年度は8,848千円のセグメント利益)となりました。

 

 

(資産)

当事業年度末における流動資産合計は、4,935,598千円となり、3,260,750千円増加いたしました。これは主に上場に伴う増資及びストック・オプションの行使等により、現金及び預金が3,277,429千円増加したほか、売掛金及び契約資産が3,947千円増加した一方、前払費用が5,644千円減少したこと等によるものであります。

当事業年度末における固定資産合計は、8,124千円となり、前事業年度末に比べ8,121千円増加いたしました。これは主に投資その他の資産のその他が8,121千円増加したことによるものであります。

 

(負債)

当事業年度末の流動負債合計は、87,689千円となり、前事業年度末に比べ8,620千円減少いたしました。これは主に未払法人税等が31,847千円増加した一方、治験関係の請求減少等により未払金が49,925千円減少したこと等によるものであります。

当事業年度末の固定負債合計は、5,650千円となり、前事業年度末に比べ4,759千円増加いたしました。これは、本社事務所移転に伴い資産除去債務が5,650千円増加した一方、繰延税金負債が890千円減少したことによるものであります。

 

(純資産)

当事業年度末の純資産合計は4,850,384千円となり、前事業年度末に比べ3,272,733千円増加いたしました。これは、上場に伴う増資及びストック・オプションの行使により、資本金及び資本剰余金がそれぞれ1,753,108千円増加した一方、当期純損失の計上に伴い利益剰余金が233,483千円減少したことによるものであります。

この結果、自己資本比率は98.1%(前事業年度末は94.2%)となりました。

 

 

② キャッシュ・フローの状況

当事業年度末における現金及び現金同等物(以下、「資金」という。)の残高は4,904,074千円となりました。当事業年度におけるキャッシュ・フローの状況は次のとおりであります。

 

(営業活動によるキャッシュ・フロー)

営業活動の結果支出した資金は165,283千円(前事業年度は235,088千円の支出)となりました。これは主に、助成金の受取52,714千円(前事業年度は60,542千円)、未払法人税等の増加33,698千円(前事業年度は未払法人税等の減少5,409千円)等により増加し、税引前当期純損失233,163千円(前事業年度は275,713千円)、未払金の減少49,503千円(前事業年度は未払金の増加67,707千円)等により減少したものであります。

 

(投資活動によるキャッシュ・フロー)

投資活動の結果支出した資金は20,362千円(前事業年度は4,401千円の支出)となりました。これは主に、敷金及び保証金の回収による収入3,038千円(前事業年度はなし)により増加し、有形固定資産の取得による支出12,612千円(前事業年度は4,401千円)、敷金及び保証金の差入による支出7,138千円(前事業年度はなし)、資産除去債務の履行による支出2,900千円(前事業年度はなし)等により減少したものであります。

 

(財務活動によるキャッシュ・フロー)

財務活動の結果増加した資金は3,463,075千円(前事業年度は1,500,000千円の増加)となりました。これは主に、東京証券取引所マザーズ(現グロース)市場への上場及びストック・オプション行使に伴う株式発行による収入3,481,986千円(前事業年度は1,500,000千円)、及び上場関連費用の支出18,910千円(前事業年度はなし)によるものであります。

 

③ 生産、受注及び販売の実績

a 生産実績

当社は受注生産活動を行っておりませんので、該当事項はありません。

 

b 受注実績

当社は受注生産活動を行っておりませんので、該当事項はありません。

 

c 販売実績

当事業年度における販売実績は、次のとおりであります。

セグメントの名称

金額(千円)

前年同期比(%)

DTxプロダクト事業

200,000

DTxプラットフォーム事業

116,873

1.2

合計

316,873

174.4

 

(注) 主な相手先別の販売実績及び総販売実績に対する割合は次のとおりであります。

 

 

相手先

前事業年度

(自 2020年7月1日

  至 2021年6月30日

当事業年度

(自 2021年7月1日

  至 2022年6月30日

金額(千円)

割合(%)

金額(千円)

割合(%)

塩野義製薬株式会社

200,000

63.1

株式会社スズケン

20,250

17.5

43,980

13.9

科研製薬株式会社

31,071

26.9

6,682

2.1

日本ケミファ株式会社

14,000

12.1

4,750

1.5

 

 

(2) 経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容

経営者の視点による当社の経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は、次のとおりであります。なお、文中の将来に関する事項は、本書提出日現在において判断したものであります。

 

① 重要な会計方針および見積り

当社の財務諸表は、我が国において一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に基づき作成しております。その作成において、資産・負債及び収益・費用の報告金額及び開示に影響を及ぼす見積りの判断は、一定の会計基準の範囲内において、過去の実績や判断時点で入手可能な情報に基づき合理的に行っておりますが、見積り特有の不確実性があるため、実際の結果がこれら見積りと異なる可能性があります。

当社の財務諸表で採用する重要な会計方針は「第5 経理の状況 1 財務諸表等 (1) 財務諸表 注記事項 (重要な会計方針)」に記載しております。

 

財務諸表の作成にあたって用いた会計上の見積り及び仮定のうち、重要なものは以下のとおりであります。なお、会計上の見積において、新型コロナウィルス感染症の感染拡大による影響が、当社の業績に与える影響は軽微であると判断しております。

 

(固定資産の減損)

当社は、固定資産の減損について、事業用資産においては管理会計上の区分を基準に、本社等に関しては共用資産としてグルーピングし、減損の兆候の有無を判定しております。減損の兆候があった場合、将来キャッシュ・フローを見積り、減損の要否を判定しております。判定の結果、減損が必要と判断された資産については、帳簿価格を回収可能価格まで減損処理をしております。

 

 

② 経営成績等に関する分析

(事業収益)

当事業年度の事業収益は、316,873千円(前事業年度は115,489千円)となりました。前事業年度からの増加の主な要因は、DTxプロダクト事業において塩野義製薬との不眠障害治療用アプリに関する販売提携契約の締結によって、契約締結一時金200,000千円が事業収益に計上されたこと等によるものです。

 

(事業費用、営業損失)

当事業年度の事業原価については10,374千円(前事業年度は9,761千円)となりました。前事業年度からの増加の主な要因は、事業収益の増加に伴い、機械学習自動分析システム及びDTx開発支援における事業原価が増加したこと等によるものです。当事業年度の研究開発費は226,369千円(前事業年度は249,137千円)となりました。前事業年度から減少の主な要因は、主に治験費用の減少等によるものです。当事業年度の販売費及び一般管理費は、309,282千円(前事業年度は190,012千円)となりました。前事業年度からの増加の主な要因は、上場時の公募増資等による事業税(外形標準課税)の増加や、事業規模の拡大による人件費、採用教育費の増加及び本社事務所移転に伴う地代家賃の増加等によるものです。その結果、営業損失は229,152千円(前事業年度は333,421千円)となりました。

 

(営業外収益、営業外費用、経常損失)

当事業年度の営業外収益は、54,937千円(前事業年度は62,351千円)となりました。主な要因は、助成金収入52,714千円等によるものです。また、当事業年度の営業外費用は43,229千円(前事業年度は10千円)となりました。その結果、経常損失は217,444千円(前事業年度は271,080千円)となりました。

 

(特別利益、特別損失、法人税等合計、当期純損失)

当事業年度の特別利益はなく(前事業年度もなし)、特別損失は15,719千円(前事業年度は4,633千円)となりました。これは、固定資産の減損損失15,719千円によるものになります。当事業年度における法人税合計は319千円(前事業年度は1,840千円)となりました。これは法人税、住民税及び事業税1,210千円及び法人税等調整額890千円によるものです。その結果、当期純損失は233,483千円(前事業年度は277,554千円)となりました。

 

③ 経営成績に重要な影響を与える要因について

経営成績に重要な影響を与える要因に関しては、「2 事業等のリスク」をご参照ください。

 

④ 資本の財源及び資金の流動性について

当社の最重要課題は不眠障害治療用アプリの販売を確実に実現させることです。また、新たなパイプラインとして「ACPアプリ」「慢性腎臓病患者向け運動療法アプリ」の開発に取り組むと同時に、汎用臨床試験システム、機械学習自動分析システムの開発も継続して行っていきます。ベンチャー企業である当社は、不眠障害治療用アプリの販売が開始されるまでは赤字が継続する見込みであるため、上記の治療用アプリや各種システムに関する研究開発資金については外部調達が不可欠であります。研究開発での必要資金に関しては、手許資金と株式上場によって調達した資金によって確保いたしました。加えて将来的には不眠障害治療用アプリの販売利益の再投資も行うことで、企業価値の最大化を目指してまいります。

 

⑤ 経営者の問題意識と今後の方針

経営者の問題意識と今後の方針に関しては、「1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」をご参照ください。

 

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