課題

1【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

 文中の将来に関する事項は、本書提出日現在において当社グループが判断したものであります。

(1)経営の基本方針

 当社グループは、「日本発のイノベーションを世界へ向けて発信する」という目標を掲げ、全社員が一丸となり、顧客企業のビジネスの成功に貢献する「高付加価値サービスの創造」を追求してまいりました。ビジネスに深く精通したテクノロジーパートナーとして顧客企業に貢献し、持続的な成長と高い収益性の実現を常に目指していくことが、当社グループの経営における基本方針であります。この基本方針に基づき、当社グループは、幅広い業種の顧客企業に対して、コンサルティング、システム提案、構築、運用保守に係るITソリューションの提供を行っております。

 

(2)経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等

 当社グループは、持続的な成長と高い収益性の実現を目指す観点から、経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標として、売上収益、売上総利益率、営業利益、EBITDA(注)を重視し、これらの向上を目指しております。中でも、売上総利益率を最重要視しております。これは、当社グループは、豊富なビジネスノウハウと高度なテクノロジーの両方が求められる、参入障壁が高い領域に特化した事業を展開していることから、当社グループが提供するサービスの付加価値を測る客観的な経営指標が重要であると考えているためです。売上総利益率が高いことは、すなわち、①売上原価の大半を占めるエンジニア・コンサルタントの質が競合他社と比して優位であること、②優秀な人材の生産性を向上させる仕組みが整備され、機能していること、③当社グループのチームが築いた付加価値を価格に反映してもなお顧客から支持されていることを示すものであると考えております。

(注)EBITDA=営業利益+減価償却費+識別可能資産償却費

 

(3)経営環境及び中長期的な経営戦略等

(経営環境)

 近年、デジタル技術の進展・普及に伴い、あらゆる産業において、テクノロジーを駆使してビジネスモデルそのものを改革していく、DXへの対応が急務となっております。こうした環境において、当社グループは、顧客企業のビジネスの成功に貢献するITソリューションの提案、構築、運用保守を行っており、当社グループ及び当社グループが事業を行う業界全体が、かかるDXへの対応に果たすべき役割が益々増大し、同時に、その重要性が増しているものと考えております。なお、各市場における支出総額から測定した当社の事業領域規模の認識は以下のとおりです。

 

領域

金融フロンティア領域に係るIT支出総額

戦略/DXコンサルティングに係る支出額

+新規領域に係るIT支出総額

+金融フロンティア領域に係るIT支出総額

クロスフロンティア領域に係るIT支出総額

マーケット規模

約1,800億円(注)1

約4,500億円(注)2

約18,000億円(注)3

 

 このような対象事業領域において当社グループは、金融フロンティア領域では、機関投資家が資金運用業務に用いる「キャピタル・マーケットソリューション」や、金融機関の収益向上に寄与するディーリングエンジンを搭載した外国為替証拠金取引(FX)ソリューション等に代表される「リテールソリューション」を提供しております。また、近年では、金融フロンティア領域からクロスフロンティア領域へ領域の拡大を実現し、生命保険・損害保険といった保険の種類に関わらず、保険業務における一連の業務をカバーした「生保・損保ソリューション」などを提供しております。

 これらのソリューションの提供にあたっては、ソリューションの区別なく、当社独自の事業モデルである Simplex Wayの基本コンセプトである、最上流のコンサルティングからシステム開発、運用保守に至るすべての工程に責任を持つ一気通貫モデル、下請け会社への丸投げをしない自社完結モデルを徹底することで、当社グループの競争優位性を保ち、高付加価値サービスを提供するに至っております。(Simplex Wayの詳細について は、前記「第1 企業の概況 3 事業の内容 (当社グループのビジネスモデルの特徴)」を併せてご参照ください。

 

(注)1.IDC(2021)『国内IT市場 産業分野別/従業員規模別/年商規模別予測、2021年~2025年』における、2021年の銀行の国内 IT支出額予測値(13,322億円)及び証券/投資サービスの国内IT支出額予測値(3,392億円)のうち、当社グループの顧客の投資動向を参考としてそれぞれ1割程度、及びIDC(2021)『Worldwide Blockchain Spending Guide2021』における、2021年のブロックチェーンの国内合計支出額予測値(190億円)が金融フロンティア領域に向けられていると推定して当社グループが算出したもの。

   2.上記1に記載した金融フロンティア領域に係るIT支出総額の見積りに、戦略/DXコンサルティング及び新規領域(生保・損保、エンタープライズDX)における関連支出額予想値を以下のとおり算出してその合計を算出したもの。保険の国内IT支出額予測値及び建設/土木の国内IT支出額予測値のうちクロスフロンティア領域に向けられる割合については、金融フロンティア領域における推定割合と同等程度であるとの推定に基づく。

      戦略/DXコンサルティング:IDC(2021)『国内ビジネスコンサルティング市場予測、2021年~2025年』における、2021年の国内ビジネスコンサルティングのデジタル関連支出額予測値(1,865億円)

      新規領域:IDC(2021)『国内IT市場 産業分野別/従業員規模別/年商規模別予測、2021年~2025年』における、2021年の保険の国内IT支出額予測値(5,988億円)の1割程度と推定して当社グループが算出したもの、及びIDC(2021)『国内IT市場 産業分野別/従業員規模別/年商規模別予測、2021年~2025年』における、2021年の建設/土木の国内IT支出額予測値(2,308億円)の1割程度と推定して当社グループが算出したもの。

   3.IDC(2021)『国内IT市場 産業分野別/従業員規模別/年商規模別予測、2021年~2025年』における、2021年の全産業分野の国内IT市場支出額予測値(18兆3,772億円)の1割程度がクロスフロンティア領域に向けられていると推定して当社グループが算出したもの。クロスフロンティア領域に向けられる割合については、金融フロンティア領域における推定割合と同等程度であるとの推定に基づく。

 

(中長期的な経営戦略)

 グループ中核企業であるシンプレクス株式会社は、1997年の創業以来、日本を代表する銀行、総合証券、インターネット証券のテクノロジーパートナーとしてビジネスを展開し、金融フロンティア領域における国内トップブランドとしてのポジション獲得に向けて力強い成長を続け、IDC Financial Insightsが発表する世界の金融ITサービス企業ランキング「Fintech Rankings」に2012年より10年連続でランクインを果たすに至っております。現在では、金融フロンティア領域からクロスフロンティア領域へと事業領域を拡大し、生保・損保領域で大きなプレゼンスを獲得すると共に、金融フロンティア領域で獲得したAI/ブロックチェーン/クラウド技術等のキーテクノロジーを軸として、対象顧客を金融機関に限定しない高付加価値サービスを広く提供するに至っております。
 クロスフロンティア領域におけるこれらの成果を踏まえ、当社グループは、金融フロンティア領域で確立した Simplex Wayとプロアクティブなコンサルティングセールスを軸に、参入障壁の高い領域で当社グループの「高付加価値サービス」を提供する戦略について、再現性を持って展開する確かな手応えを掴むことができたと認識しており、複数の参入障壁の高い領域に焦点を当てた事業のさらなる拡充に努めております。
 当社グループは、今後予想される市場環境や顧客ニーズの変化に適切に対応し、さらなる成長を実現するための施策の一環として、中期経営計画(2022年3月期~2024年3月期)を策定しております。中期経営計画では、事業領域の拡大、事業領域の深耕、人材の採用育成の3つの注力テーマを設定し、持続的な成長と高い収益性の実現を目指しております。

 

(4)優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題

 当社グループは、金融フロンティア領域における国内のトップブランドとしてのポジションを確立し、順調な成長を遂げてまいりました。他方、あらゆる産業において、テクノロジーを駆使してビジネスモデルそのものを改革していく、DXへの対応が急務となっていることを踏まえると、金融フロンティア領域以外の領域へ事業領域の拡大を図り、さらに、事業領域の深耕を推進することが優先的な課題であり、これらに対処することが市場環境や顧客ニーズの変化に適切に対応することとなり、同時に当社グループのさらなる成長につながるものと考えております。また、これらを実現するため、競争力の源泉となる優秀な人材な維持・確保をすることも重要課題であると考えております。こうした課題認識に対処するため、当社グループが推進する主要戦略は以下のとおりであります。なお、現時点において特筆すべき財務上の課題は認識しておりません。

 

① 事業領域の拡大

 近年のプロアクティブなコンサルティングセールスの実施により、当社グループの顧客数は順調に増大しております。中期経営計画期間中はこの施策をさらに進めていくために、以下のような対応を行ってまいります。

 

(戦略/DXコンサルティングをフックとした領域拡大)

 新規領域の開拓にあたっては、ビジネス基点で新しい領域に参入するべく、行政、小売・流通、建設、製造といった多様な非金融業種を対象とした戦略/DXコンサルティングの強化を推進してまいります。加えて、金融機関(既存顧客企業)においても、システム開発に紐づかないコンサルティング案件も積極的に受注していくことにより、これまで当社グループが手掛けてこなかった領域におけるDX案件の獲得を目指してまいります。具体的には、戦略/DX特化型コンサルティングファームとして2021年4月に始動した当社の100%子会社であるXspear Consulting株式会社を中核企業として、業界トップティアのコンサルティングファームで経験を積んだプロフェッショナル人材の積極採用を進めることで、行政、小売・流通、建設、製造といった分野におけるコンサルティングを推進し、グループ全体での新規領域の開拓に取り組んでまいります。

 

(当社顧客数の増大)

 近年の事業領域拡大に伴って当社グループの顧客数は順調に増大しており、2017年3月期には43社であったのが2022年3月期には89社となっております。中期経営計画期間中はこの施策をさらに進めてまいります。

 

② 事業領域の深耕

 Simplex Wayを軸とした事業領域の深耕に伴って、当社グループの1顧客当たりの売上は順調に増大しております。中期経営計画期間中はこの施策をさらに進めていくために、以下のような対応を行ってまいります。

 

(金融フロンティア領域における安定的な成長)

 近年、当社グループが国内トップブランドとしてのポジションを確立している金融フロンティア領域でも、テクノロジーを駆使してビジネスモデルそのものを改革していく、DX推進が活発化しております。当社グループは、金融機関のDX推進パートナーとしてさらなる高付加価値サービスを提供することで、金融フロンティア領域における安定的な成長を図ってまいります。具体的には、銀行、総合証券、インターネット証券を対象として、銀証連携等、時勢のテーマに沿った業務支援、金融機関のテクノロジーへの投資に関するコンサルティングセールスの一層の強化並びにAI/クラウド技術に対応したトレーディングプラットフォームの開発・提供に注力してまいります。

 

(新規領域における領域深耕施策の推進)

 当社グループは、2013年10月の株式非公開化以降、Simplex Wayを軸とした事業推進を行うことにより、金融フロンティア領域以外の複数領域において、再現性を持ってトップポジションを獲得できる強い手応えを得るに至っております。当社グループは、こうした新規領域での実績を踏まえ、他の産業に先駆けて新たなテクノロジーの導入を積極的に推し進めてきた金融フロンティア領域での豊富な実績/ノウハウをテコとして、Simplex Wayを徹底することにより、新規領域においても、参入障壁の高い領域で高い収益性の実現を目指す戦略を推進し、領域の深耕を実現してまいります。具体的には、生命保険・損害保険といった保険の種類に関わらず、保険業務における一連の業務をカバーした「生保・損保ソリューション」の拡販、及び将来的な基幹システムの刷新を見据えたブロックチェーン技術の実証実験の推進等に取り組んでまいります。

 

(1顧客当たり売上の拡大)

 近年の事業領域の深耕に伴って、当社グループの1顧客当たりの売上は順調に増大しております。具体的には、2017年3月期には1顧客当たりの年間売上は最大でも10~20億円の範囲にあり、かかる範囲の顧客企業からの売上は11,272百万円と全体の約57%程度にすぎなかったのに対し、2022年3月期には1顧客当たりの年間売上が10~20億円の顧客からの売上は8,087百万円(売上収益全体の約26%)、20億円以上の顧客企業からの売上は10,140百万円(売上収益全体の約33%)となり、領域深耕が進んでおります。中期経営計画期間中はこの施策をさらに進めてまいります。

 

③ 人材の採用育成

 当社グループの事業において中心的な経営資源の一つは人材であり、顧客企業からの要求に応えるためにビジネスとテクノロジーの双方に精通した優秀な人材を確保・定着させることが課題であり、最重要戦略の一つです。中期経営計画期間中はこの施策をさらに進めていくために、以下のような対応を行ってまいります。

 

(ビジネスパーソンとして高いポテンシャルを有した新卒採用のさらなる強化)

 当社グループは2002年頃より、ビジネスパーソンとして高いポテンシャルを秘めた最優秀層のみをターゲットとする新卒採用に注力しております。具体的には、2022年3月期入社の新卒採用者数が113名、2023年3月期入社の新卒採用者数が207名と順調に拡大しており、中期経営計画最終年度にあたる2024年3月期入社の新卒採用目標数についても250名程度に定めております。

 また、新卒採用と併せて、中途採用についても強化を図ってまいります。具体的には、2021年3月期入社の中途採用者数がグループ全体で31名であったのに対して、2022年3月期入社の中途採用者数は85名と大幅に拡大しており、2023年3月期入社の採用目標数についても100名程度と定めております。

 今後も、顧客企業のDX推進を担う人材の採用活動を今まで以上に強化し、国籍/年齢/性別/職歴不問とする採用ポリシーの下、当社の成長に寄与する人材の確保に努めてまいります。

 

(高い専門性を有した人材の採用育成)

 事業領域の深耕と事業領域の拡大に向けて、AI/ブロックチェーン/クラウド技術等、DX推進に欠かすことのできないキーテクノロジーの高度化に努めてまいります。具体的には、中途採用を強化すると共に、各種キーテクノロジー毎に選抜されたコンピテンシーリーダーが、直接的/間接的に各プロジェクトに関与する「コンピテンシー制度」を強化することで、高い専門性を有した人材の育成を推進してまいります。

 

(リテンション施策の拡充)

 採用活動を通じた人材の確保と併せて、複数のリテンション施策を拡充・実行していくことにより、人材の定着率の向上に努めてまいります。「働きがい」と「働きやすさ」を両立しながら、個々人の働き方に沿ったキャリアプランの実現をサポートするための環境支援・制度整備、さらなる教育機会の提供・制度整備、労働分配率の向上施策等、様々な施策を通じて人材定着率の向上を図り、離職率の低減を目指してまいります。

 

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