我が国の上下水道インフラ資産は、約130兆円との内閣府の試算があり、セクター別で道路に次ぐストックがあります。このうち、上水道はほぼ普及し、国内の全管路延長は約72万kmに達していますが、管路の年間更新率は全国平均で0.68%と低く、管路をすべて更新するのに約130年かかる計算となっています。水道管路は法定耐用年数が40年でありますが、高度成長期に大量に整備された管路施設の更新が進まないため、管路の老朽化はますます上昇すると見込まれ、安全な水を安定的に給水するために経年管路の更新が重要な課題となっています。
下水道分野については、全国の汚水処理人口普及率が92.1%(2020年度末)となっていますが、そのうち下水道によるものが80.1%にとどまり、未だに約990万人が汚水処理施設を利用できない状況にあり、普及促進の加速が求められています。施設の新設のニーズは減少の一途を辿っていますが、高度成長期に急速に整備した上下水道施設は毎年大量に耐用年数を迎え、安心・安全で文化的生活を送るために不可欠なこれらのインフラ資産を維持、更新していくことが求められています。また、近年頻発するゲリラ豪雨、大型台風による風水害などから人命や資産を守る浸水対策や地震が発生してもトイレが使えるなどの耐震化、津波に強い下水道施設の補強対策などのニーズも高まっています。
2021年3月に可決・成立した我が国の令和3年度予算のうち、当社の事業と関わりの深い下水道予算を含む「社会資本総合整備」の配分総額は、国費1兆4,670億円で、この内訳は防災・安全交付金8,376億円、社会資本整備総合交付金が6,295億円となっています。交付金の実施個所は自治体の裁量に委ねられているため、下水道事業に限った配分額は明らかではありませんが、関係予算の内示額は前年度比微増と見込まれています。他方、予算規模の大きい全国の政令指定都市と東京都区部の下水道事業費の合計額は約6,121億円、前年度当初比で1.4%減となっています。
当社は、このような事業環境のもと、主に、上水道分野では、「安全・強靭・持続・連携・挑戦」をキーワードとした厚生労働省水道課が掲げる新水道ビジョンに則ったアセットマネジメント関連業務の積極的な受注活動を展開しております。下水道分野では、国土交通省下水道部の主要7大テーマ、「震災復旧・復興の支援の強化と全国的な安全・安心対策の実施」、「未普及地域の早期解消」、「水環境マネジメントの推進」、「施設管理・運営の適正化」、「下水道経営の健全化」、「低炭素・循環型社会への取組推進」及び「国際展開と官民連携による水ビジネスの国際展開」に沿った受注活動を展開しました。更に、総務省が支援を行っている簡易水道・下水道事業における地方公営企業法の適用による公営企業会計の導入支援関連業務、下水道事業経営戦略策定業務等の受注活動などを推進しております。国内市場においては、既存顧客である地方公共団体の施設整備状況や事業課題を熟知する当社の優位性を背景に、きめ細かい技術提案、柔軟な顧客サービスの提供を通じたリピート率の高い受注活動とともに、積み上げた業務実績を基に新規開拓営業を展開しております。海外分野では、官民連携による新興国の案件発掘などの受注活動を展開しております。
他方、社内の就労環境については、全社9割の社員にスマートフォンとノートパソコンを支給し、フリーアドレスと無線LANを取り入れたオフィス環境の整備により、オフィス内だけでなく、外出先でも働く場所を選ばないテレワーク環境を提供しております。更に、全社で意識付けを行っている社内の各階層での迅速な情報共有・チャットの活用、部署別経営指標の随時確認による部署課題へのスピーディな対応、受注プロジェクトの適正な予算・工程・進捗・外注管理、社内エンジニアのスキル向上、次代を担う若手人材の確保・育成、改正労働基準法を遵守した残業時間の削減、健康経営の促進、時差出勤制度、有給休暇の取得促進など、社員一人ひとりがそれぞれの事情に応じてメリハリをつけて働くことができる社内制度の活用などにより、生産性向上と原価低減を図り、社員還元と収益の拡大に努めております。
当事業年度中、東京オリンピック・パラリンピックが無観客で開催される中、国内での新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止に向けた政府主導の取り組みが行われました。並行して新型コロナウイルスのワクチン接種率が高まりました。当社では、在宅勤務制度や時差出勤制度の活用促進、ワクチン接種休暇の設定などにより、社員の安心・安全に十分配慮した対策を講じて事業活動を継続しました。また、様々な専門技術職の配置が求められる案件への対応策として、ウェブ会議の効率的な活用などにより、社内の遠隔拠点間で社内の人材の相互融通を図り、より効率的な生産体制の構築に努めました。
官公庁の会計年度のスタートである4月からの期間中、当社に関連する地方自治体の予算執行状況は概ね予定通り執行されて、受注活動も順調に進みました。しかしながら、新型コロナウイルス特別措置法に基づく緊急事態宣言やまん延防止等重点措置の影響などにより、当社の技術スタッフの多くが居住する大都市から、多くの顧客を抱える地方部への往来の際には、訪問者の人数制限や事前のPCR検査の結果の提示を求められる自治体もあり、オンラインでは難しい現地調査、質疑応答がスムーズに行うことができる対面協議などが滞り、業務案件の進捗遅延や工期延期が発生しております。一方、海外案件については、渡航制限が緩和された一部地域への渡航が可能となり現地作業が再開されました。
この結果、当事業年度の受注高は63億3千3百万円(前期比1.1%増)となりました。受注増加の主な要因は、若手社員の成長による新規顧客開拓の増加、設計施工一括発注型大型案件の受注、中途採用エンジニアの戦力化による生産体制の向上を背景とした受注件数の増加などとみております。一方、完成業務高は62億7百万円(前期比1.1%減)、営業利益は5億7千5百万円(前期比13.4%減)、経常利益は6億2千5百万円(前期比3.4%減)、当期純利益は3億7千6百万円(前期比0.2%増)となりました。
当社における事業部門別の業績は、次のとおりであります。
建設コンサルタント部門につきましては、受注高は57億8千9百万円(前期比1.2%減)となりました。一方、完成業務高は57億6千3百万円(前期比0.4%減)となりました。
情報処理部門につきましては、受注高は5億4千4百万円(前期比32.7%増)となりました。一方、完成業務高は4億4千3百万円(前期比9.0%減)となりました。
当事業年度末における現金及び現金同等物(以下「資金」という)の残高は、28億3千6百万円(前期比6.6%増)となりました。
当事業年度における各キャッシュ・フローの状況とその要因は、次のとおりであります。
営業活動により獲得した資金は、2億8千2百万円(前期1億2百万円の使用)となりました。
これは主に税引前当期純利益の計上、売上債権の増加及び法人税等の支払額の減少によるものであります。
投資活動により獲得した資金は、1億2千万円(前期6千8百万円の使用)となりました。
これは主に投資有価証券の取得及び償還、並びに固定資産の取得によるものであります。
財務活動により使用した資金は、2億2千7百万円(前期比15.7%増)となりました。
これは主に配当金の支払いによるものであります。
当事業年度における生産実績を事業部門別に示すと、次のとおりであります。
(注) 金額は販売価額で表示しており、消費税等は含まれておりません。
当事業年度における受注実績を事業部門別に示すと、次のとおりであります。
(注) 金額は販売価額で表示しており、消費税等は含まれておりません。
当事業年度における販売実績を事業部門別に示すと、次のとおりであります。
(注) 1.金額は販売価額で表示しており、消費税等は含まれておりません。
2.主な相手先別の販売実績及び当該販売実績の総販売実績に対する割合
(注) 金額は販売価額で表示しており、消費税等は含まれておりません。
経営者の視点による当社の経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は次のとおりであります。
文中における将来に関する事項は、当事業年度末現在において当社が判断したものであります。
① 当事業年度の財政状態の分析
当事業年度における流動資産は、58億2千6百万円(前期比4.2%増)となりました。これは主に業務代金の入金による「現金及び預金」の増加によるものであります。
当事業年度における固定資産は、12億7千3百万円(前期比10.9%減)となりました。これは主に投資有価証券の償還による「投資有価証券」の減少によるものであります。
当事業年度における流動負債は、9億9千3百万円(前期比9.4%減)となりました。これは主に業務代金の入金の減少による「未成業務受入金」の減少及び「未払消費税等」の減少によるものであります。
当事業年度における固定負債は、1億9千1百万円(前期比15.5%減)となりました。これは主にリース契約の減少による「リース債務」の減少及び「退職給付引当金」の減少によるものであります。
当事業年度における純資産は、59億1千4百万円(前期比3.8%増)となりました。これは主に当期純利益の計上により「利益剰余金」が増加したことによるものであります。
当事業年度における完成業務高は、62億7百万円(前期比1.1%減)と前事業年度と比較して微減となりました。コロナ禍に対応した働き方を取り入れた就業環境の向上に取り組み、多くの案件では概ね予定通りに受注残の消化を進めましたが、緊急事態措置を実施すべき期間の延長と区域の拡大などの影響により、一部の受注案件で進捗遅延の影響を受けたことが主な要因と見ています。
当事業年度における営業利益は、5億7千5百万円(前期比13.4%減)となりました。
個々の受注案件、さらに担当職種ごとに、従業員一人ひとりの利益確保意識が定着し、作業内容に応じて内製化とアウトソーシングの内容、費用を適切に判断して取り組んでおります。またウエブ会議の定着により業務効率がより高まっております。一方、原価率が比較的少ない大型企業会計移行業務や上下水道事業実施団体ごとに策定が求められているストックマネジメント事業計画(中長期的な施設改築更新計画の立案業務)などの策定支援業務の受注が一巡し、土木、建築、機械、電気などの工種間で詳細な調整、検討を要する工事発注用の詳細設計業務の比率が高まり、原価率が上昇したことが主要な要因で前期比マイナスとなりました。
コロナ禍での従業員の生活支援と就業意欲の向上の観点から、年間賞与支給率を前期比と同程度に維持したほか、絶対数が少なく採用競争が激しい理工系のバックグラウンドを持つ中途採用の強化、次世代を担う若手人材を確保するため、採用活動関係費や広告宣伝費も増加したことも要因となっています。
当事業年度における経常利益は、6億2千5百万円(前期比3.4%減)となりました。これは主に保有する金融資産の評価額の上昇や償還に伴う「投資有価証券償還益」などが寄与しています。
当事業年度における当期純利益は、3億7千6百万円(前期比0.2%増)となりました。
経営成績に重要な影響を与える主な要因は、国及び地方公共団体の会計年度毎の予算計上、適正な利潤が得られる業務価格での受注、不採算案件の発生を防ぐプロジェクト管理、中長期的人材の確保・育成による着実な技術伝承、社会のニーズに合った技術研究開発などであります。当事業年度における事業環境は、コロナ禍での財政・経済活動の制限の影響を受けたものの、経営成績に与える影響は軽微であったと考えています。
今後について、政府予算は、コロナ禍で落ち込んだ地方公共団体の税収減による財源不足を補い、地域経済を下支えする予算案の量的な執行への期待、地震や豪雨被害などにおいても安心・安全な生活を送ることができる上下水道インフラへの投資の質の変化、国連の定めるSDGs(持続可能な開発目標)の達成に向けた動きの活発化などを予測しております。
このような環境において、当社は持続的な発展を実現するため、中期経営計画に定めた諸施策を適宜軌道修正して推進するものであります。
当事業年度のキャッシュ・フローの状況につきましては、「第2事業の状況 3経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況 (1)経営成績等の状況の概況 ②キャッシュ・フローの状況」に記載のとおりであります。
当社の運転資金需要のうち主要なものは、完成業務原価、販売費及び一般管理費等の営業費用であります。投資を目的とした資金需要は、主に設備投資等によるものであります。
資金需要に対しましては、営業活動によるキャッシュ・フロー及び自己資金で賄うことを基本とし、資金調達を行う場合には、経済情勢や金融環境を踏まえ、当社にとって最良の方法で行いたいと考えております。
当社の財務諸表は、わが国において一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に準拠して作成しております。その作成には経営者による会計方針の採用や、資産・負債及び収益・費用の計上および開示に関する経営者の見積りを必要とします。経営者は、これらの見積りについて過去の実績などを勘案して合理的に判断しておりますが、実際の結果は、見積り特有の不確実性があるため、これらの見積りと異なる場合があります。
財務諸表の作成にあたって用いた会計上の見積り及び仮定のうち、重要なものは「第5 経理の状況 1 財務諸表等 (1)財務諸表 注記事項 (重要な会計上の見積り)」に記載のとおりであります。
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