課題

1【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

 文中における将来に関する事項は、有価証券報告書提出日(2022年6月28日)現在において当社グループが判断したものです。

 

(1)当社の経営方針・企業理念・行動方針

 当社グループは、社会、環境との調和を求め、お客様から信頼していただける良きパートナーとして共に発展することを目指し、経営の基本方針として、次の企業理念・行動指針を掲げています。

・企業理念 : 「運ぶ」を支え、信頼されるパートナーとして、豊かな暮らし創りに貢献します。

・行動指針 : 私たちは、信頼をすべての基本とし、自ら考え、行動し続けます。

  (商品) 「真のニーズを追究し、魅力ある商品・サービスの創造」

  (自己) 「約束を守り、誠実で、迅速な対応」

  (組織) 「世界の仲間とチームワークで達成」

 

(2)当社の対処すべき課題

 今後、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響は緩和されていくものと考えられる一方で、半導体不足や原材料価格高騰に伴う生産コストへの上昇圧力、ウクライナ危機等に伴う地政学リスクの上昇、さらにはカーボンニュートラルへの潮流の加速等、当社グループを取り巻く事業環境の一層の変化が予想されます。

 このような環境変化・課題への対応は当社グループの社会的使命及び責務であり、これらの変化への柔軟な適応は、当社グループの持続可能な成長のためには必要不可欠であると認識しています。そのため当社グループでは、2030年に向けての中長期に目指す姿を、“人々の生活環境、社会の生産活動を支えるCV・LCVとパワートレインのエクセレントカンパニーとして、広く愛される会社”と定め、この中長期に目指す姿の実現に向けた取組みを進めています。前中期経営計画期間中(2019年3月期から2021年3月期まで)も、この中長期に目指す姿の実現に向け「攻め」の施策を展開し、ボルボ・グループとの連携・UDトラックスのグループ会社化をはじめとしたアライアンス体制構築の完遂やピックアップトラックのフルモデルチェンジによる商品競争力強化等の成果を達成することができました。

 そして、2022年3月期より開始した「中期経営計画2024」(2022年3月期から2024年3月期まで)では、中長期に目指す姿の実現に向け、社会とともに持続可能な成長を続けていくために、社会的価値の創造に一層取り組んでいます。

 「中期経営計画2024」では、当社グループは「既存事業の拡大・収益向上」を図ると共に、「カーボンニュートラル戦略」及び「進化する物流へ商用車メーカーとして貢献」の2つを「イノベーションの基軸」として、その実現・実装に向けて取り組んでまいります。そして、変革期を乗り越え、認められ、存続できる企業(=サステナブルな企業)となるべく「ESGを視点とした経営への進化」を強化していきます。

 

 次に挙げる7つの課題は、「中期経営計画2024」の実現のみならず、自動車業界・商用車業界におけるお客様のご期待や技術的変革に対応するため中長期的な観点から抽出したものです。

 

[既存事業の拡大・収益向上]

 「カーボンニュートラルの潮流の世界的な加速」や「社会インフラとしての物流の安定性・安全性への期待」といった社会的要請への対応には、CASE(※)をはじめ多額の研究開発費・投資が必要となります。当社グループでは、財務健全性を維持しつつ、その原資を確保するため一層の収益力の強化を図り、今回の計画最終年度である2024年3月期には、売上高2兆7,500億円、営業利益2,500億円を目標とします。そして、この中計施策の効果を中長期的に拡大し、4年後の2026年3月期に売上高3兆円・営業利益3,000億円につなげていくことを目指しています。2022年3月期は後述の施策の確実な実施により売上高2兆5,142億円、営業利益1,871億円を達成いたしました。

※略語:Connected(コネクテッド)、Autonomous(自動運転)、Shared & Services(シェアリングとサービス)、Electric(電動化)の総称

 以下①及び②は、「既存事業の拡大・収益向上」実現のための課題となります。

 

①商品/販売/サービス力強化

 ニーズの多様化が進んだ商用車市場においてお客様に選ばれ続けるためには、多様化するニーズに対応した商品力、その魅力をお客様に届ける販売力、さらに、商品販売以降の機会においてもお客様に価値を提供するサービス力が必要不可欠であると当社グループでは考えています。

 当社グループでは、これまでも環境性や安全性・快適性といった機能について刷新を図ったピックアップトラック「D-MAX」や、その派生車である「MU-X」の新モデル投入による販売増を実現してきました。また、日本国内においては高度純正装備「PREISM」の全車標準搭載による稼働サポート事業の展開により、収益基盤を強固なものとしてきました。

 

(当連結会計年度の取組み)

 2022年3月期には、2021年4月にボルボ・グループより全株式を取得し連結子会社化したUDトラックスとの連携を進め、商品の相互補完、両社の拠点インフラを活用した販売力・サービス体制の向上など国内外のCV事業の強化を図りました。商品面ではボルボ・グループとの共同開発を推進しており、2023年を目途に新型トラクタヘッドをいすゞ/UDトラックス双方のチャネルに投入する予定です。販売面でも、UDトラックスブランドの継続によるマルチブランド体制で同社の顧客支持と知名度を活用しつつ、両社の国内営業本部を2022年5月から新本社に集約したことを皮切りに、海外営業本部も一層連携を深めていきます。

(今後の計画)

 今後も引き続きボルボ・グループ及びUDトラックスとの一層の連携を推進し、商品・販売・サービス力の強化を目指していく予定です。具体的な計画としては、ボルボ・グループとの先進技術領域での協業も見据えた、いすゞ/UDトラックス共通の大型車の開発を開始しています。

 

②ものづくり革新

 当社グループでは、価格競争力の維持・向上と、適正な利益の確保による投資原資の獲得の双方の観点から、ものづくり革新の実現による一層の効率化が必要であると考えています。前中期経営計画期間中(2019年3月期から2021年3月期まで)も、市場(販売地)近接のものづくり・サービス体制の定着を図り、各国において効率化・シェア上昇を達成していますが、今後も一層の効率化を推進していきます。

 

(当連結会計年度の取組み)

 2022年3月期には、LCV事業においてタイ・インド・南アフリカの3生産拠点の役割を明確化し、グローバル生産体制の最適化を実現しました。タイは、新型モデルを中心に生産するグローバルマザー工場として位置づけ、生産能力を34万台に増強しました。インドは、ワークホース用途モデルの輸出拠点として、インドの国内需要に応えるのみならず中近東への輸出体制を強化しました。また、南アフリカはアフリカ市場全体をカバーする生産拠点として、従前モデルのみならず新型モデルの生産を開始しました。

(今後の計画)

 2023年を目途に中小型商用車のフルモデルチェンジを計画しています。フルモデルチェンジ後は、BEV (バッテリー式電動自動車)も商品ラインナップに取り揃え、多様化するお客様の要望にお応えしていきます。新型ラインナップは、日本国内市場を皮切りに、いすゞ/UDトラックス両チャネルを通じて順次海外にも展開します。この新型ラインナップには、「I-MACS」と呼ばれるいすゞのモジュラー設計コンセプトを取り入れており、国・地域のニーズや動力源に合わせた一層フレキシブルな商品開発に活用していきます。

 

[イノベーションの基軸]

 当社グループでは、カーボンニュートラルと物流インフラへの期待などの社会的要請を踏まえ、「カーボンニュートラル戦略」と「進化する物流へ商用車メーカーとして貢献」をイノベーション推進の基軸に据え、集中的にリソース投入をし、5年後、10年後のイノベーションが実現する様に取組みを加速します。

 以下③及び④は、これら「イノベーションの基軸」の実現・実装のための課題となります。

 

③カーボンニュートラル戦略

 日本政府が掲げる「2050年カーボンニュートラル」をはじめ、カーボンニュートラル・脱炭素社会の実現に向けた世界的な潮流は一層加速しています。また、2021年6月に策定された「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」において明確化された商用車における電動化目標では、小型商用車では2030年までに新車販売における電動車の割合を20~30%に、大型商用車でも2020年代に5,000台の先行導入を目指すと具体的な数値目標が明示されました。

 当社グループとしても、気候変動対策を2050年の社会が豊かで持続可能な社会であるための重点課題の一つと捉え、2020年3月に中長期的視野で地球環境問題に取り組むための方向性を示す、「いすゞ環境長期ビジョン2050」を策定しました。「いすゞ環境長期ビジョン2050」に基づき、当社グループでは2050年までに製品のライフサイクル全体、及び事業活動から直接排出される温室効果ガス(GHG)ゼロに向けた取組みを進めています。

 

(当連結会計年度の取組み)

 2022年3月期においては環境負荷の低い商品開発を進め、国内商用車メーカーとしては初めて大型LNGトラック「ギガLNG」を発売しました。

(今後の計画)

 商用車においても電動化/脱CO2化への転換が強く求められることを踏まえ、2023年3月期には小型商用車においてBEVを国内市場に投入し、順次海外にも展開していく予定です。また、アライアンスパートナーとの協業を図りつつ積極的に対応を進めていく予定であり、具体的には、2024年の市場投入を目標に大型路線BEVバスの開発を進めています。他にも、小型・大型FCV(実証車製作中)、大型路線FCVバス(CJPT(※)を中心に検討中)、電動ピックアップトラック、北米中型BEV等、環境負荷の低い商品の開発に取り組んでいます。なお、内燃機関に頼らざるをえない用途や使用条件に鑑みて、技術の選択肢は狭めず、よりクリーンな内燃機関の開発も継続し、カーボンニュートラル燃料活用の検討等を進めていきます。電動化に向けた具体的目標やスケジュールの見通しは日々変わっており、今後も進捗を随時公表してまいります。

※Commercial Japan Partnership Technologiesの略称:当社・トヨタ自動車・日野自動車・スズキ・ダイハツで共同出資して設立。

 

④進化する物流へ商用車メーカーとしての貢献

 新型コロナウイルス感染症の流行に伴う生活様式の変化により、物流の社会インフラの重要性が一層増大し、その安定性・安全性への期待は益々高まっています。また、物流業界全体における生産性向上の要請は、ドライバー不足問題等と相まって、更なる高まりをみせています。

 当社グループとしても進化する物流への商用車メーカーとして貢献を図るべく、コネクテッド技術や自動運転技術などの先端技術の開発・活用に取り組んでいます。コネクテッド技術については、当社グループでは、これまでも業界に先駆けて、運行管理・ドライバー支援サービス「MIMAMORI」、高度純正装備「PREISM」などのコネクテッドサービスを展開してきました。自動運転技術については、これまでも当社グループでは藤沢工場内での市街地自動配送実験などを通じて基礎を固めてきました。

 

(当連結会計年度の取組み)

 コネクテッド技術については、「MIMAMORI」と連携した国内商用車メーカー初の運行管理スマートフォンアプリ「MIMAMORIドライバー向けアプリ」の運用を開始しました。「MIMAMORI」については、UDトラックスも2023年1月より運用トライアルを開始する予定です。

 自動運転技術については、福岡空港内での自動運転バス実証実験、UDトラックスによる神戸製鋼所と共同での製鉄所内におけるレベル4自動運転の実証実験等を通じて、実際の活用場面を想定した検証を進めました。

(今後の計画)

 コネクテッド技術については、当社グループのみならず他社製の商用車を併用しているお客様においても総合的に稼働サポート可能なサービスの提供を目指していきます。2022年10月には、当社・富士通株式会社・株式会社トランストロンの共同で、2021年より構築を開始した「商用車コネクテッド情報プラットフォーム」により、約50万台のトラックにサービスの統一提供開始を計画しています。また、CJPTを通じて、各社の個別データ(運行・交通等の情報)を匿名化した上でビックデータとして収集・分析する商用車コネクテッド情報プラットフォームを構築し、お客様の事業を支えるサービスの幅の拡大を目指していきます。

 自動運転技術についても、これまでの実証実験で得られた知見を踏まえ、省人効果・安全性・実現性の高いユースケースから、優先的に取り組む方針です。加えて、アライアンスパートナーとの共同開発による開発の早期化を図り、最適化された社会インフラの早期実現を目指します。

 

[ESGを視点とした経営への進化]

 今後の商用車市場は、異業種からの参入の加速により競合企業の一層のグローバル化・多様化が想定されます。他方、これらグローバルプレイヤーとの世界レベルでの競争は事業拡大の好機であると捉えることもできます。従って、当社グループではグローバルプレイヤーとの競争に耐えうる強固な経営基盤を確立していきます。

 以下⑤、⑥、⑦は、「ESGを視点とした経営への進化」のための課題となります。

 

⑤株主価値重視

 当社グループには多様なステークホルダーが存在しており、こうしたステークホルダーとの適切な協働を欠いては、持続的な成長を実現することは困難です。その中でも資本提供者である株主は要となる存在であり、コーポレートガバナンスの規律の起点となるものです。

 上記の認識に基づき、当社グループでは株主価値を重視した経営を一層推進し、資本効率の向上、株主還元の強化に努めていきます。

 

(当連結会計年度の取組み)

 2022年3月期においては、原材料価格高騰・半導体不足等の厳しい事業環境の中でも資本効率の向上に努め、ROEは11.4%となりました。また、株主還元について過去最高額となる1株当たり66円の配当を実施し、配当性向は40.5%となりました。今後も株主価値を重視した経営を一層推進し、その更なる価値向上を目指します。

(今後の計画)

 今後も、当社グループでは株主価値を重視した経営を一層推進し、資本効率の向上により2026年3月期にROE15%を目指します。また、株主還元も強化し、配当性向は中期経営計画期間(2022年3月期から2024年3月期まで)平均で40%を目標とします。加えて、資金状況を踏まえつつ機動的な自社株買いも検討していきます。

 

⑥ガバナンス強化と開示拡充

 前項で示したとおり、当社グループの持続的成長のためには、株主をはじめとするステークホルダーとの適切な協働を欠かすことはできません。当社グループでは、協働のための前提となるコーポレートガバナンスの実効性向上及び適切な情報開示を一層推進していきます。

 

(当連結会計年度の取組み)

 2022年3月期には、2021年6月25日開催の第119回定時株主総会における承認により、監査等委員会設置会社へ移行しました。また、取締役会による経営の監督機能強化及びその多様性の向上のため、社外取締役を5名(取締役総数13名)とし、取締役のうち女性を2名とする体制としました。加えて、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)に沿った気候変動関連開示を開始しています。

 また、人権を尊重した事業活動を推進し持続可能な社会の実現に貢献するため、2022年2月に国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」に準拠した「いすゞグループ人権方針」を制定し公開しました。

(今後の計画)

 今後も一層のコーポレートガバナンスの実効性向上及び適切な情報開示を目指します。具体的には、財務報告の国際企業間の比較を容易にし、資金調達及び株主価値向上を図ることを目的に、将来的なIFRS適用に向けて準備を進めています。

 

⑦イノベーションを創出する集団

 ③及び④で記したとおり、「カーボンニュートラルの潮流の世界的な加速」や「社会インフラとしての物流の安定性・安全性への期待」等の社会的要請に応え、当社グループが持続的な成長を実現するためには、絶えずイノベーションを創出し続けることのできる集団へと当社グループが変革していく必要があります。

 

(当連結会計年度の取組み)

 2022年3月期にはイノベーションの源泉の1つである多様性の一層の向上を目指し、ダイバーシティ・アンド・インクルージョン推進活動「VOIS」をボルボ・グループと共同で結成しました。また、「多様性」をコンセプトとした人事制度改革にも着手しています。さらには、業界内コミュニケーションの促進の観点から、ボルボ・グループ、カミンズ、CJPT等のアライアンス先とのエンジニア交流を実施しました。

(今後の計画)

 2022年5月に当社は横浜に本社を移転しました。様々な業種が拠点を構える横浜の強みを生かして今後は業界を超えたコミュニケーションの促進に取り組みます。加えて、グループ企業も集約した新本社の最新オフィス設備・IT環境を活用して、海外拠点も含めた社内・グループ内コミュニケーションの活性化を目指します。

 

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