文中の将来に関する事項は、本書提出日現在において、当社が判断したものであります。
(1)経営方針
当社は「M&A Techにより未来のM&A市場を創造する」という企業理念のもと、従来のM&A仲介サービスに存在するアナログな手法をテクノロジーにより刷新することにより、「成約スピードの向上」と「価格の抑制」を実現し、多くの会社がM&Aという選択肢を検討できる社会を創ることを目指しております。これらの取り組みを通じ、企業価値の最大化を図ることを経営方針としております。
(2)経営環境
①市場動向及び当社の取り組み
現在の日本では経営者の平均年齢が高く、2011年において60.03歳であった平均年齢はその後の10年間で右肩上がりに上昇し続け、2020年では62.49歳となっております。また、2020年における後継者不在企業の割合が65%となっており、こちらは2011年から低下することなくほぼ横ばいとなっております。高齢化に伴う後継者不在問題を背景に中小企業の統合・再編促進が不可欠となっており、M&Aはさらに活発化する見通しです。
2011年より増加を続けていた国内M&A件数は、新型コロナウイルス感染症の発生、拡大により新規営業の中断や対面でのやり取りの回避を余儀なくされたこと、買収意欲の減退等により2020年に減少に転じました。しかしながらオンラインでの新規営業やM&Aの進行が全国的に浸透したこと、買収意欲が復調したことにより2021年より再度増加傾向となっております。今後も国内M&A件数は増加するものと判断しております。
休廃業・解散企業件数は、2021年が44,377件であり、休廃業企業の代表者の約4割が70代で、60代以上でみると8割(構成比84.2%)を超えており、代表者の高齢化が休廃業・解散を加速する要因になっております(出典:㈱東京商工リサーチ 2021年「休廃業・解散企業」動向調査)。
これらの問題に対する解決策としてM&Aによる第三者への事業承継が挙げられます。しかしながら、M&Aは成約するまでの時間的ハードルや、着手金等の金銭的ハードルがあります。また、M&A仲介業は専門性が高い業務であるため、M&Aアドバイザーの絶対数が少なく、遅々としてM&Aが進んでおりません。休廃業・解散企業数に比べると圧倒的に少ないことから、今後もM&Aの件数が増加していくと予測しております。
中小企業庁も事業承継を促進するため、種々の施策を実施しており、2029年頃に官民合わせて年間6万者のM&Aが行われることを目標としております(出典:中小企業庁 第三者承継支援総合パッケージ 2019年) 。
当社は「M&A Techにより未来のM&A市場を創造する」という企業理念のもと、AIの開発やDXの推進により従来のM&Aを効率的に進めることで成約期間の短縮化、仲介手数料の抑制、仲介件数の増加に取り組んでおります。M&A仲介事業者として適切な事業承継を支援することにより、当事者企業のみならず社会全体に貢献すべく取り組んでおります。
②競合優位性
当社では、譲渡希望企業と買手候補企業のマッチングにおいてAIマッチングアルゴリズムを使用しております。
これにより、以下の競合優位性が生じております。
・完全成功報酬制の料金体系
当社はM&Aが成約するまで譲渡企業から報酬を頂きません。競合他社ではアドバイザリー契約の締結時に着手金を収受し、成約までの途中段階で中間報酬(成功報酬の内金)を収受する報酬体系が採用されることがあります。そのため、譲渡企業からすると当社とアドバイザリー契約を締結するハードルが下がり、結果として多くの譲渡企業からM&Aに関する依頼を請け負うことが可能となっております。
・6.6ヶ月の平均成約期間
当社はM&A仲介業務における「ソーシング」「マッチング」「エグゼキューション」の非効率な作業をAIやDXにより効率化しております。特に、マッチングフェーズにおいては、従来はM&Aアドバイザーが自身の経験をベースに買手候補企業のリストを作成し、該当企業に対し電話や手紙、メールによる営業を行うことでマッチングを行っておりました。当社ではマッチング可能性の高い買手候補企業のリストをAIマッチングアルゴリズムが自動作成するため、リストの作成から営業活動までの時間が大幅に短縮され、かつ、マッチング可能性が高い企業のみに打診することができるためマッチングに要する時間を短縮できています。
AI及びDXシステムは全て自社開発であり、すでに8,000回を超える改修を行い参入障壁を築いております。業務の効率化を推し進めた結果として、2022年9月期に成約した全案件の平均成約期間(譲渡企業とアドバイザリー契約を締結してからM&Aがクロージングするまでの期間)は6.6ヶ月となり、業務時間の削減を可能にしたことで採用上の強みにも繋がっております。
・AIならではのマッチング提案
AIマッチングアルゴリズムは過去のM&A事例や当社が独自で蓄積したデータを学習し、譲渡希望企業を買収する可能性が高いと判断した企業を提案するため、属人的な判断に依存することなく、データに基づいて買手候補企業を抽出することを可能にしております。
このアルゴリズムの開発のためには膨大な企業情報の適切なデータベース化が重要であり、当社はデータベースを構築するため、基幹業務システムをゼロベースで開発しました。従前は市販のパッケージソフトを使用しておりましたが、カスタマイズの柔軟性やスピード感において自社開発に劣る部分が大きく、データの突合が適切に行われなかったため社内で開発いたしました。競合他社が同様のアルゴリズムを構築するには、情報を集約している基幹業務システムの抜本的な改修もしくは新規システムへの移行が必要であると考えており、模倣困難性が高いと判断しております。
・高い採用力
M&A仲介事業は継続的に優秀な人材を獲得することが事業成長のドライバーとなります。当社は採用活動上の強みが主に4つあり、これらの点を転職者へアピールすることで人材を獲得してまいりました。
また、AIやDXにより効率化は平均成約期間の短縮化に繋がり、入社した人材が早期に成長することで新たに入社した人材を指導することができ、組織の拡大に耐えうる設計となっております。
③参入障壁、M&Aマーケットにおける競合他社
M&A仲介業務は許認可や資格、大規模な設備投資が不要であるため、参入障壁は比較的低いと考えており、実際にM&A仲介業務を営む会社は右肩上がりに増加し続け、全国で370社(※)となっています。
しかしながら、中小企業庁が公表するM&A専門業者は当社を含め全国で70社のみとなっており、当社のようにM&Aアドバイザーが30名以上いる業者は7社(構成比率11.4%)しか存在しておりません(※)。これは、参入障壁が低いながらも、以下の2点の理由から相当程度の事業規模で運営することが困難であるからと考えております。
第一に、人材獲得の困難性です。
M&A仲介事業は、上述のとおり特段の法規制等が存在しないものの、専門的な知識を要する職種であります。そのため、未経験者が案件獲得までできる戦力に成長するまでは一定期間の時間を要します。また、経験者を中途採用するにもM&A仲介の経験者は年収が高水準であるため、相当程度の年収を支払う必要があるとともに、人材獲得におけるM&A仲介業者の競合は多い状況です。当社の属する業界に関わらず、他業種でも人材不足が指摘されている中で、優秀な人材を獲得するには一定のハードルがあります。
第二に、資金力です。
上述のとおり、優秀な人材には相当程度の年収を支払う必要があることから、多額のキャッシュアウトがある一方で、M&A仲介は案件成立まで一定期間の時間を要するため、キャッシュインが数ヶ月から1年程度先になります。その間の固定費支出に耐えながら事業運営をするだけの資金力が求められます。
当社は多数の専門家を擁していることや、AⅠマッチングアルゴリズムを用いたロングリストの作成及び効率的なアプローチという仕組み面での特徴、これまでに築いた実績等から模倣が困難であると考えておりますが、さらなるサービスの向上に取り組んでまいります。
※ 中小企業庁「中小企業の経営資源集約化等に関する検討会取りまとめ」(2021年4月28日公表)
(3)優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題について
当社は顧客に対するサービス品質向上と投資家との適切なコミュニケーションが企業価値向上において重要であると考えており、主な課題として以下を認識しております。なお、当社のビジネスモデル上、キャッシュ・フローは安定しているため優先的に対処すべき財務上の課題は無いものと判断しておりますが、今後多額の投資アクションを起こす場合にはデット、もしくはエクイティによる資金調達により対処する方針です。このような対応が求められる可能性は現時点では低いと判断しております。
①案件の進捗管理(投資家との適切なコミュニケーション)
適切な業績管理、また、業績予想の精度向上のため、案件ごとの進捗を適時に把握し、管理することが重要であると認識しております。しかしながら、M&Aの案件進捗は当事者企業における意思決定手続等による影響を受けるため当社が掌握しきれない面があります。当社におきましては、案件の開始時に譲渡希望企業と買手候補企業それぞれの成約希望時期を確認し、M&Aアドバイザーが随時両社の意思を適切に汲み取りながら案件をコントロールすることにより、見込成約時期が大幅に変動しないように努めております。成約時期が大幅に変動した案件については原因と対策を全社で共有し、さらなる改善を進めてまいります。
②システム開発への積極的な投資(顧客に対するサービス品質向上)
当社の競争力の源泉であるAⅠマッチングアルゴリズムが確度の高い買手候補企業を抽出することで、効率的にM&Aを成約させることが重要であります。そのため、AIマッチングアルゴリズムの継続的な開発を行うことで、買手候補企業の精度を向上させることが必要であると認識しております。システム投資は競合他社との差別化をより一層強固なものとし、当社の企業価値の向上に寄与するものであるため、積極的に行っていく方針であります。
③情報管理体制の強化(顧客に対するサービス品質向上)
当社は多くの企業の機密情報を預かるため、人員増加局面において情報漏洩やデータの紛失等の事故が起きないように社内の管理体制を強固にする必要があると認識しております。情報管理規則の徹底に加え、運用状況を内部監査により詳細に確認することにより対処してまいります。
(4)今後の成長戦略
M&A仲介事業の売上を拡大させるため、売上高の構成要素を分解し、各要素に対して継続的に改善施策を繰り返すことで急成長を図ります。
①M&Aアドバイザーの採用及び教育体制の強化
当社が持続的な成長をするにあたり、優秀なM&Aアドバイザーを中心とした人材を採用し、育成していくことが最重要であります。
人材の採用については、様々なバックグラウンドを持つ方々のうち、M&A仲介に必要な専門知識を有する人材、優れた営業力を有する人材、多種多様な業界やビジネスモデルに精通した人材を発掘し、その中で「AI・DXを駆使したテクノロジーによりM&A業界を変革する。」という当社のビジョンに共感する方に絞って採用することとしており、今後もその方針に沿って採用活動を継続してまいります。当社の強みであるAIを用いた買手候補企業の抽出により、M&A未経験者においても効率的に買手候補企業へアプローチすることで案件を成約に導くことが可能なため、未経験者であっても優秀な人材と判断した場合には、積極的に採用することとしております。
既存の人材紹介会社との関係、ダイレクトリクルーティングプロセスのPDCA、新卒採用及び採用広報の3つの点を強化していくことにより優秀な人材を採用してまいります。
人材の教育については、入社時の研修に加え、継続的な勉強会を開催し、また、M&Aに関する情報を全社に共有することにより、M&Aアドバイザーに求められる能力の開発を続けております。
②1人あたり売上高の向上及び成約期間の短縮
M&A仲介事業の1人あたり売上高は受託案件数、成約率、成約単価の3つに分解されます。受託案件数についてはM&Aアドバイザーの教育制度のシステム化を進めることで譲渡希望企業とのアポイントからアドバイザリー契約受託率の改善を図ります。成約率についてはAIマッチングの精度を向上させること及びマッチングを担当する部署である法人部の人数を増加させることにより対処してまいります。成約単価は成功報酬総額1億円以上の大型案件を獲得するため、社内で専門のプロジェクトチームを結成し、案件獲得に向けて動いていく方針です。
(5)経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等
当社は、経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標として売上高と営業利益を重視しております。また、これらの経営指標に影響する成約件数、1件あたり平均成約手数料、M&Aアドバイザー数の推移を把握しており、これらの指標につきましては今後も継続的に増加させるよう努めてまいります。
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