課題

1【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

(1)経営方針、経営環境及び経営戦略等

 当社グループは、「高齢社会に適した情報インフラを構築することで人々の生活の質を向上し、社会に貢献し続ける」ことをグループミッションに掲げています。医療・介護・ヘルスケア・シニアライフを高齢社会における事業領域とし、価値提供先である従事者・事業者・エンドユーザをつなぐプラットフォームを情報インフラと定義しています。高齢社会を取り巻く人々を情報を介してサポートする情報インフラの構築を通じ、高齢社会で生じる様々な課題を解決し、生活の質の向上に貢献していきます。

 

未曽有の少子高齢化・人口減少時代が到来

 日本では、急速な少子高齢化と人口減少が同時に進行する、かつて誰も経験したことのない時代が到来しています。65歳以上の高齢者人口は2021年10月時点で3,621万人に達し(注1)、既に25%を超える高齢化率は、高齢者人口が3,900万人を超えピークに近づく2040年には35%を上回る見通しです。一方、経済活動の中核を担う15~64歳の生産年齢人口は減少に歯止めがかからず、その人口構成比は2000年の68%から、2040年には50%近くにまで低下すると予測されています(注2)。

 

高齢社会が直面する「3つの課題」

 このような人口動態の変化を背景として、経済動向や国家政策、人々の価値観といった社会のありようは大きく変容し、これまでにない新たな課題も生じています。当社グループは、高齢社会において解決すべき重要な社会課題を下記の3つと捉えています。

 

課題1:質の高い医療・介護サービスの提供が困難に

 高齢化に伴い医療や介護の需要が増大する一方で、生産年齢人口の減少により、これらのサービスを支える従事者の不足が深刻な課題となっています。国の推計によると、医療・介護従事者の需給ギャップは2025年に看護師で6~27万人、介護職で22万人にまで拡大する見込みであり(注3)、高齢者や患者のケアを担う従事者の不足により、質の高い医療・介護サービスの提供が難しくなると予想されます。

 

課題2:現役世代の負担がより深刻に

 高齢者人口の増加を受け、年金・医療・介護を支える社会保障費は、2040年には2018年と比較して約1.6倍の170兆円規模に増大すると見込まれています(注4)。一方、生産年齢人口の減少により、医療・介護のみならず、日本のあらゆる産業で労働力が不足していきます。そして、1人の高齢者を支える現役世代の人数は2018年の2.1人から2040年には1.5人にまで減少し、現役世代にかかる負担はますます重くなる見通しです(注5)。

 

課題3:高齢社会の生活にまつわる困りごとの解決が困難に

 高齢化の進行により、社会で必要とされるサービスも変化しています。高齢社会では、介護や終活といった新たなニーズが生まれ、その需要は拡大していきます。しかし、こうした高齢社会の生活にまつわる情報は質・量ともに不足しており、また整理された形で提供されていないという問題があります。さらに、今後多くの産業で労働力が不足することで、高齢社会で求められるサービスの供給自体が不十分となることも懸念されます。このため、高齢者やその家族にとって、生活におけるさまざまな困りごとの解決が難しくなることが想定されます。

 

高齢社会の課題と解決の方向性

 当社グループは、高齢社会が直面する3つの課題を情報インフラの構築を通じて解決していくため、それぞれの社会課題に対して具体的な解決の方向性を定めています。

 まず、質の高い医療・介護サービスの提供が困難になるという課題(課題1)に対しては、圧倒的な人材の需給ギャップを解消するとともに、これらのサービス提供を担う事業者の業務効率向上や経営課題を解決することが重要であることから、「医療・介護の人手不足と偏在の解消」と「医療・介護事業者の経営改善」が解決の方向性になると考えています。

 また、社会保障費の増大と生産年齢人口の減少により現役世代の負担がより深刻になるという課題(課題2)に対しては、より多くの人が生産性高く、健康に長く働けるようにすることが、「健康な労働力人口の増加」を通じて、課題の解決につながると考えています。

 そして、高齢社会の生活にまつわる困りごとを解決するのが困難になるという課題(課題3)に対しては、高齢社会に関わる様々な情報を分かりやすく整理し、「多様な選択肢と質の高い意思決定情報を提供すること」が、解決につながると考えています。

 

各事業分野での取組み

 当社グループでは、上記の課題と解決の方向性を踏まえ、各事業分野で社会課題解決に向けた取組みを行い、グループミッションの実現と、持続的な成長を通じた長期的な企業価値の向上を目指しています。

 

<キャリア分野>

 キャリア分野においては、「質の高い医療・介護サービスの提供が困難になる」という社会課題(課題1)に対し、医療・介護従事者と事業者の最適なマッチングを通じ、「医療・介護の人手不足と偏在の解消」に貢献することで解決を目指しています。

 医療領域においては、今後、従事者の需要の拡大と同時に、必要とされる医療機能が急性期から慢性期、在宅といった分野にシフトしていくと予想されます。求められる医療が変化する中、医療従事者の需給ギャップはますます拡大しており、また、医療機能間や地域間の偏在も大きな課題となっています。医療キャリアでは、医療従事者に対し、従事者の職業人生の全期間を通じて、就職・転職・復職の支援、スキル・キャリアアップ情報の提供など、「キャリアを一歩前に進める」ための支援をしています。事業者に対しては、人材の採用や労働環境の改善などの人材関連課題の解決を支援するとともに、そこでの働き方やキャリアの魅力を従事者に的確に伝えていくことで、社会から求められるより良い事業者への就業を支援することが可能になります。従事者が理想のキャリアを歩むことを支援しながら、必要とされる医療機能・地域の事業者への最適なマッチングを促すことで、医療従事者の不足と偏在の解消に貢献していきます。

 介護領域においては、高齢者の増加に伴い、日常生活において介助を必要とする要介護者の増大が見込まれており、長期間にわたって圧倒的な従事者不足が続くことが確実です。国の推計によると、介護職の不足数は2025年の22万人から、2040年には65万人にまで拡大する見通しとなっています(注3)。介護キャリアでは、介護従事者の圧倒的な不足を解消するため、介護業界への新規就業者を増やすと同時に、定着を促し業界外への離脱を減らしていく取組みを行っています。資格取得スクールを通じて未経験者の資格取得を支援し、未経験者でも働きやすく育成環境の整った事業者への就業をサポートすることで、業界外からの新規就業を促進しています。就業後は、従事者の不安や職場での悩みを解消する定着支援サービスを通じ、早期離職の防止に貢献しています。また、従事者がスキルや経験を活かしてやりがいを持って働ける最適な介護事業者とのマッチングを行うとともに、採用や労働環境の改善といった事業者の人材関連課題の解決を支援し、従事者にとってもより良い職場環境の実現につなげることで、従事者の定着と業界からの離脱防止にも貢献していきます。

 今後も、医療・介護の人手不足と偏在の解消に向け、従事者・事業者への提供価値を最大化し、長期にわたり持続的な成長を実現していきます。

 

<介護事業者分野>

 介護事業者分野においては、「質の高い医療・介護サービスの提供が困難になる」という社会課題(課題1)に対し、サブスクリプション型の経営支援プラットフォーム「カイポケ」の提供を通じ、「介護事業者の経営改善」に貢献することで解決を目指しています。全国には25万もの介護事業所が存在し(注6)、その8割を従業員50人未満の法人が占めており(注7)、小規模ゆえの経営課題を抱えている事業者も数多く存在しています。書類作成などの間接業務に多くの時間を割かれる上に、人材採用難による人手不足、購買力の弱さ、資金繰り難といった業務上や経営上の問題があり、本来注力すべき高齢者のケアに十分に集中できないことが事業者共通の悩みの種となっています。カイポケでは、介護事業所の運営に不可欠な保険請求の機能に加えて、業務・採用・購買・金融・営業・M&A等を支援する40以上のサービスをワンストップで提供することにより、介護事業者の経営を総合的に支援し、事業者の経営改善とサービス品質向上に貢献していきます。

 今後も、カイポケを提供する介護サービス種別の拡張、サービス利用事業者数の拡大、経営に必要なサービスの開発と利用促進、蓄積された介護経営データの分析・活用により、経営支援プラットフォームとしての提供価値を最大化し、長期にわたり持続的な成長を実現していきます。

 

<事業開発分野>

 事業開発分野(ヘルスケア事業領域)においては、社会保障費の増大と生産年齢人口の減少により「現役世代の負担がより深刻になる」という社会課題(課題2)に対し、企業の健康経営を支援するプラットフォームの提供を通じ、「健康な労働力人口の増加」に貢献することで解決を目指しています。生産年齢人口の減少により、日本では今後、あらゆる産業で労働力が不足すると予想される中、現役世代の中には、糖尿病などの重篤な病や認知症に進行することも多い生活習慣病の患者やその予備軍が多く存在しています。また、過労や職場でのストレスなどに起因したメンタル不調も深刻で、うつ病などの気分障害が原因で医療機関を受診する患者数は近年増加傾向にあります。労働力の減少を食い止め、その生産性を高めていく上では、人々が長く健康に働けることが不可欠です。国も生活習慣病予防やメンタルヘルス改善のための対策に力を入れており、中でも企業が従業員とその家族の健康増進に取り組む「健康経営」の普及促進に向けた政策を積極的に推進しています。当社グループでは、医師や看護師、管理栄養士などの医療従事者の力を活用したエビデンスに基づくデジタルヘルスサービス(注8)を企業や健康保険組合に提供する健康経営支援プラットフォームを構築することで、従業員とその家族の健康増進に貢献していきます。当社グループが有する医療従事者ネットワーク、ICTの知見及び官公庁等との実証事業の実績という強みを活用することで、健康保険組合に対する遠隔での特定保健指導サービスや企業に対する産業保健サービス等の安価で実効性のあるソリューションの提供を実現しています。

 今後も、サービス利用企業数・利用者数の拡大、健康経営に必要なサービスの開発、医療従事者の確保・育成によるサービス品質向上、蓄積されたデータの分析・活用により、健康経営支援プラットフォームとしての提供価値を最大化し、加速度的な成長を実現していきます。

 

 事業開発分野(シニアライフ事業領域)においては、「高齢社会の生活にまつわる困りごとの解決が困難になる」という社会課題(課題3)に対し、生活にまつわる悩みやニーズを抱えた人々を、その解決に役立つ相談先やサービスにつなぐ困りごと解決プラットフォームの構築を通じ、「多様な選択肢と質の高い意思決定情報の提供」をすることで解決を目指しています。介護で悩む人向けコミュニティサービスにおいて、他の介護者との交流や専門家からのアドバイスを通じて介護を中心とした多様な困りごとの解決を支援すると共に、住まい・食・終活など特定テーマの困りごとを持つ人々を、解決策を提供する事業者につなぐサービスを提供することで、エンドユーザが抱えるあらゆる困りごとの解決を総合的に支援していきます。

 今後も、介護で悩む人向けコミュニティの介護の総合相談窓口としての価値向上、高齢社会特有のテーマの拡張とその中でのサービスの拡充、困りごとの解決策を提供する提携事業者の拡大、提携事業者向け経営支援を通じて、困りごと解決プラットフォームとしての提供価値を最大化し、加速度的な成長を実現していきます。

 

<海外分野>

 海外分野(メディカルプラットフォーム事業領域)においては、アジア・パシフィック地域(APAC)では相対的に「医薬品・医療機器等の普及が遅く、医療の質が十分ではない」という社会課題に対し、医療関連事業者等と医療従事者をつなぐAPAC各国に最適化されたメディカルプラットフォームの構築を通じ、「医療の普及と安全性の向上を促進」することで解決を目指しています。当社グループが有するAPAC各国の医療従事者の会員基盤を活かし、全世界の製薬会社をはじめとした医療関連事業者等のマーケティング活動を支援しています。価値のある情報を特定・作成・整理しローカライズした上で医療従事者に提供することによって、さらなる会員基盤の拡大・活性化につなげ、医療関連事業者等のより効果的・効率的なマーケティング活動に貢献していきます。

 今後も、サービス提供先の業種・業態の拡張、顧客数の拡大、提供する情報の種類・量の拡大と質の向上、医療従事者の会員基盤の拡大・活性化、蓄積された情報の分析・活用により、メディカルプラットフォームとしての提供価値を最大化し、長期にわたり持続的な成長を実現していきます。

 

 海外分野(グローバルキャリア事業領域)においては、経済発展や高齢化に伴い世界的に医療サービスに対するニーズが高まる中で「世界的な医療従事者の不足と偏在」が生じているという社会課題に対し、世界の医療従事者と医療事業者をつなぐ医療従事者供給プラットフォームを構築することで、解決を目指しています。各国の医療従事者と医療事業者の需給状況に応じて、クロスボーダー/ドメスティックで最適なマッチングを促進することで、グローバルな医療の質の向上に貢献していきます。

 今後も、紹介先医療事業者の展開国と事業者数の拡大、就業を支援する医療従事者側の展開国及び従事者数の拡大、事業者と従事者の最適なマッチングとマッチング量の拡大により、医療従事者供給プラットフォームとしての提供価値を最大化し、長期にわたり持続的な成長を実現していきます。

 

 当社グループは、今後も拡大する市場から生まれる様々な事業機会を捉え、国内外において新たなサービスを数多く生み出すことで社会課題の解決に貢献し、持続的かつ長期的な成長を実現していきます。

 

(注1)総務省「人口推計」

(注2)国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(平成29年推計)」

(注3)看護師:厚生労働省「医療従事者の需給に関する検討会 看護職員需給分科会」

    介護職:厚生労働省「第8期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数」

(注4)内閣官房・内閣府・財務省・厚生労働省「2040年を見据えた社会保障の将来見通し」

    金額は年金・医療・介護の合計

(注5)内閣府「令和2年版高齢社会白書」

(注6)厚生労働省「介護給付費等実態統計(令和2年3月審査分)」

(注7)当社調べ

(注8)デジタルヘルス:AI、ICT、IoT、ウェアラブルデバイス、ビッグデータ解析など最新のデジタルヘルス技術を活用し医療や

    ヘルスケアの効果を向上させること

(2)経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等

 当社グループは、企業価値と関連する総合的な業績指標である当期純利益の成長を経営上の目標として重視しています。限られた経営資源を効率的に活用し、株主資本コストを超える高いROEを実現しながら、当期純利益を継続的に成長させていくことを目指しています。

 

(3)事業上及び財務上の対処すべき課題

 当社グループは、持続的な成長と社会への貢献を通じて、長期的な企業価値向上を実現することを最も重要な課題と考えています。既存事業の更なる成長と積極的な新規事業の開発・育成により高齢社会で生じる様々な課題を解決し、当期純利益を継続的に成長させていくことを目指しています。このような認識のもと、各事業部門において以下のような取り組みを推進しています。

 

① キャリア分野

 当社グループでは、キャリア分野の成長が当社グループの持続的な成長の土台になると考えています。医療・介護従事者と事業者の最適なマッチングを通じ、医療・介護の領域における人手不足と偏在の解消に貢献していきます。

 このような方針のもと、今後もキャリアパートナーの継続的な採用・育成を通じた既存サービスの拡大、従事者・事業者のニーズに応える多様なサービスの開発・育成を進めると共に、看護師、介護職向け人材紹介等に続く新たな成長事業を育成していきます。

 

② 介護事業者分野

 当社グループでは、介護事業者分野の成長が当社グループの持続的な成長を牽引すると考えています。経営支援プラットフォーム「カイポケ」を提供する介護サービス種別の拡張、サービス利用事業者数の拡大、経営に必要なサービスの開発と利用促進、蓄積された介護経営データの分析・活用により、経営支援プラットフォームとしての提供価値を最大化し、介護事業者の経営改善とサービス品質向上に貢献していきます。

 このような方針のもと、今後も安定したシステム基盤の構築、営業体制の強化による会員数の着実な増加、介護事業者の経営改善に寄与する新サービスの積極的な開発に加え、継続的なシステム開発を通じて新たな介護サービス種別に対応するサービスの開発を進めていきます。

 

③ 海外分野

 当社グループでは、MIMSグループのAPACでの圧倒的なブランド力、医療従事者の会員基盤及び医療・ヘルスケア関連事業者や医療機関との取引基盤を活用することで、海外戦略を強力に推進できると考えています。メディカルプラットフォーム事業やグローバルキャリア事業等を通じて、APACにおける医療の普及・安全性の向上と、世界的な医療従事者の不足と偏在の解消に貢献していきます。

 このような方針のもと、メディカルプラットフォーム事業においてはオフライン・オンライン両面での様々なチャネルを通じた最適なマーケティング手段の提供、グローバルキャリア事業においては展開国拡充を通じた事業拡大を進め、海外分野全体で力強い成長を図っていきます。

 

④ 事業開発分野

 当社グループでは、長期的な成長を実現するためには、積極的な新規事業の開発・育成によりキャリア・カイポケ・海外事業に続く新たな主要事業を創出することが不可欠だと考えています。また、ヘルスケア領域及びシニアライフ領域を中心に新規事業の開発・育成を進めることで、社会保障費の増大と生産年齢人口の減少により「現役世代の負担がより深刻になる」、「高齢社会の生活にまつわる困りごとの解決が困難になる」という高齢社会における社会課題の解決に貢献できると考えています。

 このような方針のもと、今後も事業開発を担う人材を積極的に採用・育成し、高齢社会で生まれる膨大な事業機会を確実に捉えて新たなサービスを次々と生み出していきます。

 

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