研究開発活動

5 【研究開発活動】

当社グループは、腸内菌叢(腸内フローラ)を構成する微生物のヒトへの役割を中心とした生命科学の追究により、世界の人々の健康で楽しい生活づくりに貢献するという企業理念の達成を目指しています。その中にあって当社研究開発部門は、長期的展望に立った基礎研究を行うとともに、それら基礎研究の成果を活かした飲料・食品、医薬品および化粧品などの研究開発に取り組んでいます。あわせて、事業戦略上求められる研究開発課題の解決や社会の要請に応じた商品の安全性確保と環境対策に関する研究にも力を注いでいます。

当連結会計年度の研究開発費の総額は8,655百万円で、セグメント情報にかかわる研究開発活動の概要は、次のとおりです。

 

(1) 基礎研究開発分野

基礎研究開発分野においては、腸内フローラとヒトの健康との関わりを明らかにするために、分子生物学・微生物学・免疫学・生理学・栄養学等の多面的な研究を行っています。プロバイオティクスとしての乳酸菌・ビフィズス菌がヒトの健康維持・増進に果たす役割の解明に重点をおくと同時に、新規の微生物や天然物の探索を行い、飲料・食品、医薬品および化粧品等への利用を目指した機能性素材の開発に積極的に取り組んでいます。

当連結会計年度の研究成果は次のとおりです。

① 国立精神・神経医療研究センターとの共同研究で、うつ症状を有する患者(大うつ病性障害または双極性障害)を対象に、患者の精神症状や腸内細菌叢等に「L.パラカゼイ・シロタ株(乳酸菌)」を含む乳製品の摂取が与える影響を前後比較試験で検証しました。その結果、乳製品の摂取により、ハミルトンうつ病評価尺度によるうつ症状スコアとピッツバーグ睡眠質問票(PSQI)による睡眠の質スコアが有意に改善されました。また、乳製品の摂取に伴う抑うつ症状の軽減は腸内細菌叢と関連しており、ビフィドバクテリウムとアトポビウムクラスターが高い数で維持されている患者で顕著であることを確認しました。本研究により、「L.パラカゼイ・シロタ株(乳酸菌)」の摂取によるうつ症状の緩和作用は、ビフィドバクテリウムやアトポビウムクラスターとの相互作用により高まる可能性が示され、今後、これら腸内常在菌との相互作用を活用した新たな治療法に繋がることが期待されます。本研究成果は、学術雑誌「Microorganisms」に掲載されました。

② 東京都健康長寿医療センター研究所との共同研究で、群馬県吾妻郡中之条町に在住の高齢者を対象に、腸内細菌叢の経時変化と、「L.パラカゼイ・シロタ株(乳酸菌)」を含む乳製品の習慣的摂取が腸内細菌叢の変化に与える影響を疫学的に調査しました。具体的には、高齢者の糞便を2年連続で採取し、次世代シーケンサーにより腸内細菌叢の構成を分類学上の「科」レベルで測定しました。その結果、高齢者のほとんどは腸内細菌叢が安定しているが、約10%の高齢者では1年の間に大きな腸内細菌叢変化が生じていること、また、「L.パラカゼイ・シロタ株(乳酸菌)」を含む乳製品を習慣的に週3日以上摂取している高齢者では、摂取頻度が週3日未満の高齢者に比べて、1年間の腸内細菌叢変化が小さいことが明らかになりました。本研究により、「L.パラカゼイ・シロタ株(乳酸菌)」を含む乳製品の習慣的な摂取が、高齢者の腸内細菌叢の安定化に貢献する可能性が示されました。「L.パラカゼイ・シロタ株(乳酸菌)」を含む乳製品が腸内細菌叢を安定化するメカニズムと腸内細菌叢の安定性が高齢者の健康に及ぼす影響を明らかにすることは、健康長寿社会の実現への糸口になると考えられます。本研究成果は、学術雑誌「Scientific Reports」に掲載されました。

③ 名古屋大学との共同研究で、食道がん患者を対象に、術前化学療法によるバクテリアルトランスロケーション(BT)の発生にシンバイオティクスの摂取が与える影響を無作為化比較試験により検証しました。その結果、術前化学療法の7日前から手術の1日前まで毎日、シンバイオティクスとして「L.パラカゼイ・シロタ株(乳酸菌)」を含む乳製品、「B.ブレーベ・ヤクルト株(ビフィズス菌)」を含む乳製品およびガラクトオリゴ糖液糖を摂取した患者では、シンバイオティクスを摂取しなかった患者と比較してBT発生率が有意に低いことが確認されました。さらに、シンバイオティクス摂取患者では、重度の胃腸障害の軽減や腸内環境の改善も確認されました。本研究により、シンバイオティクスの摂取は術前化学療法を受ける食道がん患者に対し、腸内環境の改善を介して、がん治療中の負担を軽減する可能性が示され、今後、医療領域でのさらなる活用が期待されます。本研究成果は、学術雑誌「Clinical Nutrition」に掲載されました。

④ 弘前大学との共同研究で、健常成人を対象に、腸管各部位の内容物や粘液、便に含まれる腸内細菌叢を解析しました。具体的には、従来の死菌と生菌を区別しない測定法に加えて、生菌のみが検出可能なPropidium monoazide (PMA)と次世代シークエンシングを組み合わせて、ヒトの大腸各部位における“生きた”菌叢構成の解析を行いました。その結果、従来の測定法では大腸の各部位で細菌叢の構成に差は認められませんでしたが、PMAを用いた生菌の解析では、いくつかの細菌群の生菌構成比が部位により異なることが分かりました。ヒト腸内の生きた細菌が健康にどのような影響を与えるかについては、まだ多くのことが解明されていない中、本研究により、本手法を用いた生きた腸内細菌叢の解析は、腸内細菌叢の生態とヒトの健康や病態との関係を明らかにするうえで有用であると考えられます。本研究成果は、学術雑誌「Scientific Reports」に掲載されました。

 

今後も、最先端のバイオテクノロジーに基づく腸内フローラ研究を推進し、プロバイオティクスの健康維持・増進機能の検証と解明に取り組んでいきます。さらに、生活習慣病予防をターゲットとした次世代プロバイオティクスや新規機能性素材の研究開発に重点的に力を注いでいきます。

当分野の研究開発費は1,411百万円です。

 

(2) 飲料および食品製造販売事業分野

飲料および食品研究開発分野においては、ヒトの健康に積極的に寄与する商品開発を目指しています。特に、研究開発の対象としては、生活環境の変化や加齢によってバランスのくずれた免疫調節機能を正常化する生体防御面と、世代を超えて拡大している生活習慣病の予防に配慮した生理・代謝機能面に加え、近年の研究により明らかになってきた脳と腸が自律神経を介してお互いに密接に影響を及ぼしあう「脳腸相関」に着目しています。具体的には、プロバイオティクスのパイオニアとして「乳酸菌 シロタ株」や「ビフィズス菌 BY株」「B.ビフィダム Y株」等を利用し、作用領域を拡大した乳酸菌飲料等、自然界に存在する多くの機能性素材を利用した食品の研究開発に力を注いでいます。

また、より一層お客さまのニーズに応えるため、プロバイオティクスを使用した乳製品、清涼飲料等のラインアップの充実を図っています。

当連結会計年度の成果は次のとおりです。

① 乳製品

ア. 機能性表示食品である乳製品乳酸菌飲料「Yakult(ヤクルト)1000」の店頭向けシリーズ品として、一時的な精神的ストレスがかかる状況での「ストレス緩和」「睡眠の質向上」の機能を有する乳製品乳酸菌飲料「Y1000」を昨年10月に導入しました。

イ. 「乳酸菌 シロタ株」とガラクトオリゴ糖を配合したアイスクリーム「アイス de ヤクルト」を昨年6月に数量限定で導入しました。

ウ. ハードタイプヨーグルト「ソフール」について、期間限定アイテムとして、「アップル」を昨年4月に、「白桃」を7月に、「ぶどう」を10月に、「ゆず&レモン」を本年1月に導入しました。

② 清涼飲料等

ア. 紫サツマイモ由来アントシアニンを有効量含み、肝機能に関連する酵素(AST、γ-GTP)値の低下に役立つ機能性表示食品「肝ファイン」を昨年10月に地域限定で導入しました。

イ. ミルクをバランス良く配合し、すっきりした後味が特長の「オ・レ」シリーズの「カフェ・オ・レ」「いちご・オ・レ」について、生乳感を高めた風味に変更し、昨年9月に導入しました。

ウ. 野菜入り低果汁飲料「きになる野菜」(125ml)シリーズについて、栄養成分を強化し、昨年10月に導入しました。

当分野の研究開発費は5,433百万円です。

 

 

(3) 医薬品製造販売事業分野

医薬品研究開発分野においては、抗がん剤を中心とした薬剤の研究開発を進めています。

4SC社(ドイツ)から導入したHDAC阻害剤「レスミノスタット」については、皮膚T細胞リンパ腫を対象とした国際共同第Ⅱ相臨床試験を実施中です。

セキュラ・バイオ社(米国)から日本における開発および商業化に関する独占的ライセンスを受けているPI3K阻害剤「デュベリシブ」については、再発または難治性の慢性リンパ性白血病/小リンパ球性リンパ腫を対象とした国内第Ⅰ相臨床試験の主要な解析が完了し、本年3月に製造販売承認申請を行いました。また、再発または難治性の末梢性T細胞リンパ腫を対象とした国際共同第Ⅱ相臨床試験、再発または難治性の濾胞性リンパ腫を対象とした国内第Ⅱ相臨床試験および再発または難治性の成人T細胞白血病・リンパ腫を対象とした国内第Ⅱ相臨床試験を実施中です。

基礎創薬研究分野では、抗がん剤およびその周辺領域でのシーズを確保するための研究を引き続き実施しています。

当分野の研究開発費は1,182百万円です。

 

(4) その他事業分野

<化粧品製造販売事業分野>

その他事業分野のうち化粧品研究開発分野においては、多様化するお客さまのニーズに応えることを目指し、「美」と「健康」の追究と当社独自の乳酸菌はっ酵技術を活かした「高機能・高品質で安全性の高い化粧品」の開発を志向しています。

基礎化粧品については、乳酸菌生まれの保湿成分である「S.E.(シロタエッセンス)」を配合した保湿効果の高い基礎化粧品「ラクトデュウ」シリーズから、新たに「ラクトデュウ S.E.クリーム」を昨年10月に発売しました。また、エイジングケアブランドである「パラビオ」シリーズから、エイジングサインに幅広くアプローチする成分を贅沢に配合した高機能美容液「パラビオ ACセラム サイ」を本年3月に発売しました。

トイレタリー商品については、大人の乾燥肌に向けた高保湿ボディケアシリーズ「Coculme(コクルム)」から3品(ボディシャンプー・ボディシャンプー(つめかえ用)・ボディミルク)を昨年7月に、ボディクリームを10月に発売しました。

当分野の研究開発費は627百万円です。

 

tremolo data Excel アドインサービス Excel から直接リアルタイムに企業の決算情報データを取得

お知らせ

tremolo data Excel アドインサービス Excel から直接リアルタイムに企業の決算情報データを取得