研究開発活動

5 【研究開発活動】

当社グループは松から得られる植物資源であるトールロジンとガムロジンの2種類のロジンを、日本国内をはじめブラジル、アルゼンチン、ニュージーランド等においてグローバルに生産する唯一のメーカーです。この強みを更に活かす為に、ロジンや脂肪酸の成分や純度をコントロールできる技術開発や、松に含まれる天然資源の生成に関する代謝経路の解明やその仕組みを活かした生産技術を外部機関と連携しながら推進しています。新規分野については、環境対応への関心の高まりから有機溶剤から水に代替する技術の必要性がさらに加速すると予想しています。そこで当社が有する乳化技術、分散技術を活かすべく研究に取り組んでいます。
 当連結会計年度の研究開発費は、2,536百万円、特許の登録件数は国内9件、海外が10件、国内の出願件数は4件、海外の出願件数は7件でした。

 

(1)樹脂化成品

当事業においては、塗料用樹脂、印刷インキ用樹脂、粘接着剤用樹脂、機能性樹脂、合成ゴム用乳化剤及び脂肪酸誘導体の研究開発を行っています。当期は、前期にコロナ禍により落ち込んだ市場が回復し、総売り上げは年度計画を達成しました。しかし、印刷インキ用樹脂に関しては当社の主力市場である平版インキの市場の縮小が続いており、厳しい状況が続いています。回復する市場に対し、新たな価値を提供する新製品投入に注力するとともに、近年の環境意識の高まりもあり、当社の材料・技術で環境に貢献できる新製品の開発にも注力しています。

塗料用樹脂においては、建築外壁用の環境配慮型弱溶剤系樹脂の開発を進めるとともに、より環境に配慮した水系塗料用の樹脂開発に取り組んでいます。水系ながら高光沢で高付着性、耐水性を併せ持つとともに、建築外装だけでなく鉄部等の塗装に適した耐久性を持つ樹脂の開発を進めています。

印刷インキ用樹脂においては、環境意識の高まりを受け、プラスチック基材に高い密着性を示す水系樹脂の開発を進めています。従来の平版用途ではなく、フィルム用グラビア・フレキソインキ向けを目指すとともに、その高い密着性を活かした用途展開を図るべく開発を進めています。当社の強みであるロジン、脂肪酸を組み込んでおり、バイオマス樹脂としても高い機能発現を目指しています。

粘接着剤用樹脂においては、より高温な使用環境下でも粘着力を維持できる耐熱性を高めた新規タッキファイヤーを開発中です。また、この用途では従来ガムロジンが主流でしたが、当社の強みであるトールロジンを使用した新製品開発も進めています。ゴム用添加剤については、自然災害が年々増加する中、ビル、建物を守る制振ゴム用の添加剤を開発しました。これは従来以上に揺れに対する減衰性を示しており、今後の拡大が見込まれます。また、各ゴム製品に求められる性能を最大化するように機能発現のメカニズムを踏まえながら新しい添加剤の開発を進めています。

機能性樹脂においては、光学フィルム用の屈折率調整ハードコート剤の製品改良を進めるとともに、新規用途展開を図っており、複数の開発テーマを進めています。また、自動車の塗装を保護する目的で貼られるペイントプロテクションフィルムと呼ばれるフィルムに塗工し、傷・汚れ防止機能を付与するコート剤については開発を完了し、顧客への提案、最終調整を行っている段階です。加えて、ナノ粒子を分散する技術を光学用途以外に展開する事を進めており、顧客評価を進めながら製品の高機能化に挑戦しています。

また、当社の基盤技術である表面・界面制御から、離型フィルムや帯電防止コート剤などの新規開発を進め基本設計まで完成しました。

当事業における研究開発費の金額は377百万円でありました。

 

(2)製紙用薬品

当事業においては、水性樹脂の合成をコア技術として、段ボール等に使用される板紙の強度を高めるポリアクリルアミド系紙力増強剤、紙や板紙の吸水性を制御して水性インクのにじみ防止や耐水性を付与するロジン系サイズ剤、紙や板紙の表面に塗ることで印刷適性や撥水性を付与する表面紙力増強剤や表面サイズ剤といった、主に製紙工程で使用される機能性薬剤に関する開発を行っています。

日本国内における紙・板紙の内需は、2011年以降、2020年にかけてマイナスで推移しました。とくに2020年は、電子化等の影響による出版・広告向けの印刷用紙の減少に加え、コロナ禍の影響を受け、リーマン・ショック直後の2009年を上回るマイナス幅(9.5%減)となりました。しかし、2021年は、コロナ禍におけるネット通販の拡大、食品・化粧品・健康関連市場の伸び等からパッケージング用紙が増加し、紙・板紙の合計では11年ぶりにプラス(1.6%増)に転じました。また、2022年4月からプラスチック資源循環促進法が施行され、これまで以上に脱プラスチックによる紙化の動きが期待されます。この様な状況を受け、国内の製紙会社は、海外事業、エネルギー事業、ケミカル事業、ヘルスケア事業やパッケージ事業といった分野への事業展開を進めています。

このような業界の動向を踏まえ、研究開発では、ポリアクリルアミド系紙力増強剤やロジン系サイズ剤を中心に、パッケージング用途で使用される板紙の中性抄紙化(Alum使用量の削減)や軽量化(紙力効果及び操業性の改善)に対応できる製品やアプリケーションの開発を進めています。また、紙の原料となるパルプを生産する工程においては、操業性や生産性を改善する工程薬剤であるピッチコントロール剤を開発しています。薬剤と併せて適切な使用方法も提案することで、高品質パルプの生産に欠かせない薬剤として、大手製紙会社様での実績が拡大しています。さらに、脱プラスチックの動きの中で、紙製素材の利用を推進できるバリアコート剤の開発も進めています。耐水性や耐油性に加え、ヒートシール性等を付与できるコート剤の開発により、紙化を望まれるお客様のニーズに応え、紙製素材の普及に貢献していきます。

これら製品開発においては、世界中で安心してご使用いただくことを目的に、安心で安全な製品(間接食品添加物として海外法規制に対応可能な製品)の拡充を進めています。ロジン系エマルションサイズ剤『NeuRoz シリーズ』は、米国のFDA、ドイツのBfR、中国のGB9685といった認証を取得しています。またPAM系乾燥紙力増強剤『ハーマイド KSシリーズ』は米国のFDAと中国のGB9685を取得しており、現在はFDAとBfRの認証を取得した『ハーマイド T2』についてGB9685の申請を進めている段階です。なお、ピッチコントロール剤『ASシリーズ』はFDAとGB9685、バリアコート剤『ハイコートBCシリーズ』はFDAとBfR、といった認証を取得しています。

海外市場においては、中国、北米、東南アジア地域における市場拡大に注力しています。紙・板紙の生産量が世界一位(1億1,260万トン/2020年)の中国では、浙江省の杭州杭化哈利瑪化工有限公司を中心として、広東省の東莞市杭化哈利瑪造紙化学品有限公司、山東省の山東杭化哈利瑪化工有限公司の三拠点にて事業展開を進めています。また世界二位(6,796万トン/2020年)の米国では、Plasmine Technology,Inc.によるFDA認証取得製品を軸とした事業展開、東南アジアやオセアニア地域では、日本からの技術支援による事業展開に取り組んでいます。日本を含め、世界の紙・板紙生産量の50%以上を占めるこれら市場にて、各地域における最適なアプリケーションや必要となる法規制に対応できる製品を加速させることにより、更なるグローバル展開を進めていきます。

当事業における研究開発費の金額は 656百万円でありました。

 

(3)電子材料

当事業においては、主として自動車業界と電子機器・情報産業向けのはんだ付け材料、及び自動車用熱交換器等の組み立てに用いるろう付け材料、半導体製造に用いられるレジスト用樹脂を展開し、お客様に安心してご使用いただけるように地球環境への配慮と信頼性を重視した製品の開発を推進しています。

  2021年の自動車の生産台数は世界的な新型コロナウィルス感染や半導体不足の影響を受け、2020年より5%増加に転じたものの8,014万台の生産に留まりました。2022年はこれらの影響が収まり復調に転じる期待の中でスタートしましたが、コロナ感染による経済活動や物流への影響、半導体不足の長期化、ウクライナ情勢、各原材料の高騰など非常に厳しい市場環境が継続しています。

 このような動向の中ではんだ材料においては、より一層の電子機器の高機能化や精細な電子制御を実現し安全で快適な運転を実現する商品や大きなストレスにも壊れない接合耐久性を有する高耐久はんだ材料の開発、上市を推進しています。また、ヘンケル社のはんだ事業の買収を受け、各々が保有する技術の統合、革新による新製品開発と商品力強化を図ります。

 熱交換器等に用いられるろう付け材料においては、自動車用アルミニウム熱交換器接合用材料の海外展開の推進と、給湯器などへの搭載が拡大しているステンレス熱交換器を接合するろう付け材料の開発に注力しています。熱交換器の更なる軽量化、低燃費化だけでなく生産各工程における使用エネルギーの削減にも取り組んでいます。

 半導体製造に用いられるレジスト用樹脂においては、テレワークや巣ごもり需要の拡大、企業でのデジタルトランスフォーメーションの推進などの旺盛な需要を受け2021年も大きな成長となりました。当社の得意である有機合成技術を更に磨き、今後も半導体産業に貢献していきます。

当事業における研究開発費の金額は527百万円でありました。

 

(4)パインケミカル

 当事業においては、当社の強みである粗トール油精留事業を更に活かすため、その精留向上技術を開発しています。精留によりトールロジンやトール油脂肪酸が得られる原料粗トール油は、製紙会社から得られるバイオマス資源です。一方で、バイオマス資源自体のニーズが、いま世界的に急激に高まっています。このような動向の中で、当社は、世界の粗トール油を使いこなす、また使い分けられる技術についての構築を進めています。

 粗トール油の精製技術は、石油精製とは異なりニッチな技術ですが、社内独自の評価体制を整え、日々アップグレードしています。今後ともトール油関連製品を安心してお使い頂けるよう、安定供給に貢献できる技術開発を続けます。

 また、そこから得られるロジンや脂肪酸を使った商品開発においては、トール油製品の価値向上のため、世界に続き日本でも2022年夏までに指針が策定される予定の人権デューデリジェンスへの対応、また、産地証明のためのISCC、RSBなどの認証取得を進めています。一方で当社は、独自の購買ルートにより、世界中のロジンや脂肪酸も活用できます。松種違いによる製品性能への影響差の解明を続けており、万一のBCP対応への貢献、またその差を生かした製品価値の向上に活かしていきます。

 環境対応については、日本の加古川製造所にはバイオマス発電プラントを有しており、隣接する粗トール油精留プラントで分離した、製品原料として活かせない成分をバイオマス燃料とすることで、環境にやさしい電力や熱源を発生させ、活用しています。現在、そこから排出されるCO2を商品に組み込んで、さらにカーボンニュートラルに貢献できる商品開発にも注力しています。

 当事業における研究開発費の金額は 435 百万円であり、報告セグメントに帰属しない全社費用であります

 

(5)ローター

当事業においては、粘接着剤用樹脂、道路標識塗料用樹脂、印刷インキ用樹脂、合成ゴム用乳化剤及びアロマケミカルなどの研究開発を行っています。

粘接着剤用樹脂においては、水系粘着付与剤樹脂(商品名:SnowTackTM)の高いグローバルシェアを維持しつつ、得意とするラベル・シール用途だけでなく、産業用テープ向け粘着付与剤樹脂市場への用途拡大をめざしています。また、省エネルギーの観点から水系粘着付与剤樹脂の高濃度化、乾燥工程を必要としないUV粘着剤向け粘着付与剤樹脂の開発にも着手しています。さらに、自動車部品などに使用される当分野の製品については、顧客から事業継続計画(BCP)の策定を強く求められるようになっており、ハリマ化成の日本国内拠点とローターのグローバル拠点で共通の製品づくりができる体制へ向けた研究開発も推進しています。

印刷インキ用樹脂においては、特にフレキソ、グラビアインキ市場においては、食品包装材料や電子商取引の伸長により今後も成長が期待されています。特に、水系フレキソインキ市場では、持続可能な社会の創造をめざす顧客が掲げる二酸化炭素削減目標を達成するために、包装容器に使用されるインキ、コーティング剤の原料を従来の石油由来から植物由来に置換したいという需要が高まっています。その需要に対応すべく開発したロジンをベースにした水系フレキソインキ用樹脂(商品名:SnowpackTM)は一部の顧客に採用され、商業化の段階に入りました。一方、商業出版印刷インキ市場においては、コロナ禍の影響で世界的に生産量の落ち込みが加速しましたが、ローターが出資するスウェーデンのサンパイン社で製造されたトールロジンを活用し、高懸念物質であるアルキルフェノールを使用しない環境対応型インキ用樹脂(商品名:EcorezTMシリーズ)の商品群を拡充しました。

アロマケミカルにおいては、テレピン油から派生する香料原料の開発を進めています。香料市場においては、昨今の環境志向の高まりにより、石油由来香料から植物由来香料への原料置換ニーズが高まっています。ローターでは、ニュージーランドで、松材を原料としたパルプ製造工程で副生する粗サルフェートテレピン油を蒸留し得られた成分から香料原料の製造を行っていますが、今後の需要拡大に対応すべく生産効率向上をめざした製造技術の開発を進めています。また、ハリマ化成の研究開発部門と協働で新規香料原料の開発も進めています。

さらに、ローターでは中長期的な視野で研究開発を行う部門を設け、ロジンや脂肪酸などバイオマス原料の機能を追求し、石油化学品を代替できるグリーンな製品の開発を行っています。今後市場伸長が見込める事業への新規開発投資を推し進め、ハリマ化成の研究開発カンパニーと連携の上、戦略的な技術開発、マーケティングを進めております。
 当事業における研究開発費の金額は539百万円でありました。

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