課題

1【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。

(1)経営方針

当社グループは、『「人と人」「技術と技術」の橋渡し』の経営理念に従い、専門分野の人と技術を有する企業との連携を深め、価格以外の要素(技術力やノウハウ等)も評価対象となる総合評価落札方式等、発注方式の多様化に対応していきます。

また、橋梁技術の複合化や構造物の維持管理分野で、品質を保証したうえでコストダウンを図り、今後ともインフラストラクチャーの充実に貢献し、広く社会から支持される企業となり、株主の期待に応えていくことを、基本方針としております。

 

(2)経営環境

当社グループの主力事業である建設事業では新設PC橋梁の発注は減少傾向にある一方、既存社会インフラの老朽化に向けた市場が拡大しており、市場環境の変化が生じております。当社グループは市場環境の変化を新たな機会と捉え、積極的な対応を模索しております。

当社で認識する経営環境及び競争力の源泉は次のとおりであります。なお、記載は当社グループの経営成績及び財政状態へ大きな影響を与える主たる事業(建設事業及び製品販売事業)に絞り記載を行っております。

①建設事業

a.新設PC橋梁工事

計画路線の逐次完成に伴い新設PC橋梁の発注量は年々、減少しております。なお、近年、東北地区における東日本大震災復興事業が当社グループの経営成績に貢献してまいりましたが、復興事業の終盤をむかえ、今後は発注量の漸減を見込んでおります。

PC橋梁の新設工事では、同業他社との競争、また素材価格や労務単価の高騰等を受け損益面で厳しい状況が続いておりますが、当社グループは過去の工事で各国土交通省地方整備局長表彰を獲得し、工事成績表定点も高水準にあることから、技術力を強みとして受注獲得に取り組んでおります。

b.補修工事

社会インフラの長寿命化志向の高まりや国土強靭化関連法案の成立に伴い、橋梁等コンクリート構造物に係る補修工事の発注は年々増加しております。当社グループでは、これまで蓄積したノウハウと進化し続ける技術力によりコンクリート構造物の長寿命化に挑戦しており、極東興和㈱はマイクロパイル工法(MP)で国内約50%のシェアを、K-LIP工法で国内約80%のシェアを持つリーディング・カンパニーとなっており、これらの実績をもとに受注獲得に取り組んでおります。

c.高速道路橋工事

各高速道路株式会社では高速道路未開通区間の解消に向け、新設PC工事の大量発注が今後数年間続くことが見込まれます。なお、近年、高速道路工事では高難度かつ大規模工事の発注が増加しておりますが、これらの工事では特に優秀な現場技術者の確保が課題となります。当社グループでは、過去に培ったノウハウと技術力を活かすとともに人員教育を適宜行い、受注獲得に取り組んでおります。

d.PC床版取替工事

高度経済成長期に大量に建設された高速道路は建設後50年近く経過し続々と老朽化しており、社会資本の長寿命化に向け、既存高速道路の大規模更新事業が増加することが見込まれます。当社グループではこれに対し、床版取替工事のノウハウを蓄積し受注獲得に取り組んでおります。

 

②製品販売事業

a.マクラギ製品

当社グループでは、東日本旅客鉄道㈱、東海旅客鉄道㈱向け及び第三セクター向けの供給は底堅く推移するなか、西日本旅客鉄道㈱の需要が加わり今後も安定的にして推移することが見込まれることから、マクラギ製品の安定供給に向け当社グループの生産体制の整備を進めてまいりました。

b.リニア用パネル・床版製品

リニア新幹線は、東海旅客鉄道㈱が推進する2027年に東京名古屋間を結ぶ巨大プロジェクトです。当社グループでは、スーパーゼネコンとの関係強化に取組み、受注機会確保に向け取り組んでおります。なお、高速道路の大規模修繕工事に向け床版製品の需要増加が見込まれることから、生産体制の整備に取り組んでおります。

c.建築用部材

当社グループでは、橋梁工事で培ったプレストレスト・コンクリート製品の製造ノウハウを活かし、プレキャスト柱、梁及びスラブ材等コンクリート2次製品の製造販売を手掛けております。

(3)経営戦略等

当社グループの事業セグメント別の経営戦略は次のとおりであります。

①建設事業

・近年、震災復興事業や東京五輪関連等の大型プロジェクトを背景に公共工事の発注額は増加傾向にありました。しかしながら、当社グループの主要な事業領域であった橋梁新設事業は、長期的には漸減していくことが予想されます。当社グループは、事業基盤維持のために一定の事業量を確保すると共に、競争力確保のため現場技術者の増員・育成を推進いたします。

・i-Construction、i-Bridgeを推進し、プレキャスト技術とICT 技術を活用した生産性の向上に取組みます。

・今後、拡大が見込まれるメンテナンス市場においては、技術力向上を図り高難度補修工事受注に取り組んでまいります。

・高利益率が期待できる独自事業(MP・K-LIP)の更なる受注拡大を目指し、営業・施工ノウハウを本社から支店に移転いたします。また、技術の独自性・優位性拡大のため、当分野および新規分野の研究開発を加速いたします。

・市場優位性を確保するために、顧客満足度の向上を追求いたします。工事成績表定点の高得点獲得のため、安全管理活動を徹底させ施工検討会・施工・品質パトロールにおける指導や、各種情報の水平展開などを、全社一丸となりサポートを行ってまいります。

②製品販売事業

・急拡大が予測されるPC床版・リニア関連事業への本格参入のため、顧客候補となるスーパーゼネコンに対し、グループ各社・各部門が連携し組織的に営業展開を推進いたします。

・マクラギ事業において、既存顧客と関係強化を図りつつ、山陽新幹線のマクラギ交換事業を推し進めてまいります。

・市場拡大が期待できる土木製品及び建築部材の受注増を目指し、顧客開拓を積極的に推進すると共に、生産体制の拡充を図ります。

・品質管理を徹底し、クレーム及び不適合を根絶し、製造コストの縮減を継続的に実施いたします。

・上記製品事業の拡大を適切に予測し、タイムリーかつ合理的な設備投資を実施いたします。

③情報システム事業

・当社グループおよび社会に貢献し続ける自立した会社、働き甲斐のある会社になることを根幹とし、目標達成に向け受注環境の多角化、IoT、AI、RPA 等の先端技術への取組みによる新規ビジネスの創成、開発プロセスの標準化・効率化による品質向上と原価改善の取組みを要点とし、事業の変革を推進いたします。

④不動産事業

・当社保有の極東ビルディングのテナント収入が収益の柱となっておりますが、売上と老朽化による維持管理費の収支バランスをとりつつ、売上と利益の最大化を目指します。

・広島駅周辺開発に伴う需要の高まりを受け、建替えや移転等も視野に費用対効果の最大化を実現し、不動産活用を経営戦略の一環としてとらえ、企業価値向上を目指します。

 

(4)優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題

当社グループの属する建設業界では大規模プロジェクト(リニア中央新幹線、整備新幹線3路線など)や、既存社会インフラの更新等により堅調に推移することが予想されます。当社グループにおいても長期大型工事の受注により、建設事業の期末手持高は46,770百万円となりました。

(長期大規模工事受注件数の推移)

 

2016年3月期

2017年3月期

2018年3月期

2019年3月期

2020年3月期

2021年3月期

2022年3月期

件数(件)

5

4

8

4

4

6

7

(注)当社グループの建設事業は受注額が1件当たり100百万円から300百万円、工期が1年前後の工事が一般的となっております。上表では1件当たりの受注額 1,000百万円以上の工事を長期大型工事として件数を記載しております。なお、これらの工事は一般的な工事と比べ、工期は概ね2から6年(最長10年)と長くなっております。

こうした状況の中、長期大型工事に対応する優秀な現場技術者の確保及び生産性の向上、多額な立替工事費への対処を目下の経営課題として認識しております。

①長期大型工事に対応する優秀な現場技術者の確保及び生産性の向上

当社グループではこの課題に対し、人材の確保(a.技術職の積極的な採用)及び工事の生産性向上(b.生産性向上のための諸施策)により対処しております。

a.技術職の積極的な採用

当社グループでは、次のような取組みにより技術者を積極的に採用いたしました。

・当社グループは大学等研究機関と現在18件の共同研究を進めており、大学研究室から新卒社員を獲得してまいりました。

・社内ベテラン技術者の雇用を延長し、70歳まで雇用を継続できるようにいたしました。

・他社を定年退職した技術者を Advanced Civil Engineer(ACE)として常時、中途採用してまいりました。

b.生産性向上のための諸施策

当社グループは、建設事業の生産性を向上させる施策(i-BridgeおよびCIM)を進めております。

国土交通省は建設現場の生産性向上(目標2025年までに2割向上)を目的として、「i-Construction」を提唱し、推進しております。橋梁業界においては、PC建協が「i-Bridge」として①プレキャスト技術の活用、②ICT技術の活用をPC橋梁における生産性・安全性を向上する方策として打ち出しております。

CIMとは、コンピュータ上に作成した3次元形状情報に加え、材料・部材の仕様・性能、コスト情報等、構造物の属性情報を併せもつ構造物情報モデル(CIMモデル)を構築し、建設生産プロセスの各段階(調査・測量・設計~施工~維持管理)においてCIMモデルを一元的に共有・活用、発展させることにより、各業務の効率化・高度化を図る手法であります。

いずれの手法も既存工事において導入済みであります。

②多額な立替工事費への対処

工期の長期化、工事の大規模化に伴い、当社グループではこうした工事で立替える工事代金が増加する傾向にあります。

工事費立替の状況を表す経営指標として、一般的に立替工事高比率が利用されますが、当社グループの立替工事高比率は当連結会計年度で57.5%と上昇傾向にあります。

(立替工事高比率の推移)

 

2018年3月期

2019年3月期

2020年3月期

2021年3月期

2022年3月期

立替工事高比率

21.1%

33.0%

41.9%

55.2%

57.5%

(立替工事高比率の計算式)

0102010_001.png

この傾向は、営業活動によるキャッシュ・フローが少額になる等、当社グループの資金繰りに重要な影響を与えております。

当社グループではこれに対し、CMSによるグループ内の効率的な資金運用に加え、当連結会計年度においてコミットメントラインの1年更新及び長期借入1,000百万円により、増加する資金需要へ対処いたしました。

 

(5)経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等

当社の採用する経営指標

株主資本利益率(10%)

当社グループは、経営指標として株主資本利益率 10%以上を継続的に確保することを目標としております。

(目標とする理由)

当社は、投資していただいた資金を効率よく活用し、将来の事業展開及び経営基盤強化を行うため内部留保を積み立てるとともに、積極的に利益還元を行っていく方針であります。

株主の皆様の期待に沿うため、株主資本利益率10%以上を継続的に確保し、企業価値、株主価値の極大化を図ることを目標としております。

(目標数値を実現するための方策)

市場の競争は激化しておりますが、組織の効率化、事務の効率化、補修事業の拡大のための技術開発により利益の拡大を図り株主資本利益率10%以上の継続的確保を目指し努力してまいります。また、企業の継続的な成長と持続可能な地球環境・社会を同時に目指すサステナビリティ経営の重要性がますます高まっていることから、スピーディーに時代の変化に対応すると共に、関連する経営課題(SDGs・DX)の解決に向けた取り組みを実施するため、サステナビリティ推進委員会を設置するとともに、サステナビリティに関連する専任組織としてサステナビリティ推進室を設置いたしました。

地球温暖化防止のため世界的に対応の機運が高まっている2050年カーボンニュートラルの実現に向け、CO₂排出量の多いセメントの代替材料の利用促進や環境に配慮した独自工法の採用拡大、クリーンエネルギーの利用促進などにより、サステナブルな社会の構築に向け、継続的に取り組んでまいります。当社グループはこれら課題に対しスピード感をもって取り組んでまいります。

なお、新型コロナウイルス感染の蔓延が、将来の工事の進捗やインプット法の計算要素である工事原価総額に影響を及ぼす可能性がありますが、現時点において工事中止や工期延長となった工事、ないしそれらの懸念される工事はないため、目標数値の見直しは行っておりません。

 

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