当連結会計年度における研究開発費総額は
(1)亜硝酸リチウムを活用したコンクリート構造物の長寿命化技術
我が国の社会資本を支えるコンクリート構造物は老朽化の一途を辿っており、特に、塩害や中性化による鉄筋腐食やASRによるコンクリートの異常膨張など、深刻なコンクリート構造物の劣化に対する効果的な補修技術の開発が急務とされてきました。そのような社会状況の中、当グループは鉄筋防錆効果およびASR膨張抑制効果を有する「亜硝酸リチウム」という材料の性質に一早く着目し、京都大学をはじめ多数の大学との共同研究により「ASRリチウム工法」および「リハビリカプセル工法」というコンクリート補修技術を開発、実用化し、技術の普及に努めています。「ASRリチウム工法」は、ASRにより劣化したコンクリート構造物全体に亜硝酸リチウムを内部圧入する工法であり、これまで不可能とされていたASRの劣化進行を根本的に抑制することができます。現時点でASRリチウム工法に対抗し得る類似工法は実用化されておらず、今後もこの分野で高いシェアを維持できると考えます。「リハビリカプセル工法」は、塩害や中性化により劣化したコンクリート内部の鉄筋付近に亜硝酸リチウムを内部圧入する技術であり、コンクリート中の鉄筋をはつり出すことなく確実に鉄筋防錆処理することができます。これまで塩害補修の決め手は電気防食工法と言われてきましたが、本工法を使えば電気防食工法より安価に補修することが可能となり、採用件数が増加傾向にあります。近年では港湾分野での大規模補修工事、NEXCOや阪神高速道路での大規模更新事業にも採用され、さらなる販路拡大が期待されています。
(2)既設構造物の内部補強技術
我が国の社会インフラは、高度経済成長期に大量に建設されたことから、供用年数が一般的な耐用年数の50年を超過し、老朽化した構造物が今後益々増加することが懸念されています。また建設から年数が過ぎ、その間のニーズの変化によって更新の必要に迫られた構造物や、昨今の地震被害を踏まえて見直された新しい耐震規準に適合しない構造物も数多く存在します。しかし、それら既存の構造物を新たに構築するには多額の費用を必要とするため、今ある構造物を使いながら補強や改築をすることができる技術に対する需要が高まっています。そこで当グループは、得意分野であるプレストレストコンクリート技術のノウハウを応用して、既存構造物の部材内部に固定配置した緊張材にプレストレスを与えて補強する「K-PREX工法」を開発し実用化しました。本工法は、一般的なコンクリート補強工法とは異なり、補強部材外周に補強材を設置する必要がないことから、施工条件の厳しい既存構造物の補強ニーズに応えることができます。近年では、橋梁下部工の補強工事にも採用され、さらなる発展が期待されています。今後は、適用緊張材のラインナップ充実や床版等の薄肉部材への適用拡大を図り、さらなる販路拡大を目指します。
(3)老朽化した橋梁床版の更新技術
近年、社会インフラの老朽化に伴い、高速道路橋の鉄筋コンクリート床版をプレキャストプレストレストコンクリート床版へ取り替える事業(大規模更新事業)が本格化しています。この事業においては、供用中の道路の交通規制を伴うことから、急速施工が求められます。このような社会ニーズに対応するため、当グループでは、日鉄エンジニアリング社との共同開発により、更新工事(既設橋梁の床版取替)における交通規制期間の短縮や施工の合理化・省力化が図れるプレキャスト床版の接合工法「ELSS Joint」を実用化しました。「ELSS Joint」は、従来のような鉄筋を用いた継手工法とは異なり、プレキャスト床版間に低剛性の専用材料を充てんするだけで床版相互を半剛接合するという画期的な工法であり、従来工法と比較して、労働生産性は14%程度向上し、交通規制期間を1 割以上短縮することが可能となります。また、合成桁橋における既設床版の撤去においては、従来ウォータージェットによるコンクリートはつりを伴うことが多く、工程の長期化や高コストが過大となっていました。これに対して、当グループでは、コンクリートカッターを使用した合理的な工法に関する特許を取得し、実用化に向けた研究を進めています。今後、高速道路の大規模更新事業での採用に向けた取組みを推進し、販路拡大を目指します。
(4)コンクリート二次製品を活用した防災・災害復旧技術
近年、我が国では大地震、豪雨、土砂災害などの自然災害が全国的に激甚化、頻発化している傾向にあり、これに対する社会インフラの整備、維持、早期復旧への対応が急務となっています。このような社会ニーズに対応するため、当グループの得意分野であるコンクリート製品の製造技術を生かし、キッコウ・ジャパン社との共同開発により、簡易施工の土留め壁「ロックフレーム工法(S型)」を実用化しました。「ロックフレーム工法(S型)」は、コンクリート二次製品の格子状フレームに石材を密に詰め、フレームと石材を一体化した「もたれ式擁壁」です。従来工法と比較して、技能者の減少が著しい石積みの技能に左右されることのない空石積みの特長を活かし、排水性にすぐれ、環境にやさしい、擁壁や護岸を簡易に構築する技術であり、施工が簡易なことから、法面・斜面の災害復旧等にも適した工法です。今後、フレームのラインナップ拡充による工法の適用拡大を図るとともに、公的技術認定の取得に向けた取組みを推進し、販路拡大を目指します。
(5)建設工事における生産性向上技術・環境負荷低減
建設業では、他の産業に比べて技能者の高齢化が急速に進行しており、将来的に社会資本を維持するために必要な担い手の確保や生産性の向上が喫緊の課題となっています。このような現状に対応するため、ICT(情報通信技術)や規格の標準化等で建設現場のプロセスの最適化を図る活動「i-Construction」(アイ・コンストラクション)が国土交通省で推進される等、官民をあげた取組みが活発になっており、当グループにおいても、建設工事の省力化やプレキャスト製品の合理化といった生産性向上に資する技術導入や新規開発を進めています。その一例として、コンピュータ上で作成した橋梁の三次元モデルを施工計画・施工管理に利用するCIM(コンストラクション・インフォメーション・モデリング)と呼ばれる情報管理技術、コンクリート工事におけるGPS(全地球測位システム)方式の生コン運搬管理システムやICTを活用したコンクリート打設管理およびプレストレス導入管理システム等、様々な建設ICTを橋梁工事に導入し、施工管理業務の高度化・省力化を進めています。また、政府において2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにするカーボンニュートラルを目指すことが宣言され、二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスの排出を抑制することが世界的に求められています。当グループでは、セメント製造時に多くの二酸化炭素が排出されることに着目し、セメントの50%を副産物である高炉スラグ微粉末に置き換えた「中流動コンクリート」の特性に関する研究を行い、工場製品への積極的な採用を進めています。
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