当連結会計年度の研究開発活動は、システムの構築・運用における品質・生産性向上、情報システムの高度化に関する技術開発に加え、クラウドをはじめとするITサービスの競争力強化、お客様との価値共創に寄与する研究開発を進めました。また、お客様のデジタルトランスフォーメーション(DX)に資するAIなどの技術領域に対し、差別性のある情報技術の研究開発に積極的に取り組みました。
当連結会計年度における研究開発費の総額は、
(1)システムの構築・運用における品質及び生産性の向上
システム構築・運用のアジリティを向上する手法としてDevOps(注1)やアジャイルを含む開発プロセス、非定型業務の知的作業支援について研究活動を継続しています。運用プロセスに対しては、物理的に離れた環境においても、仮想空間を共有することで臨場感を持って共同作業やコミュニケーションを可能とする仕組みについてVR技術を活用して整備、研究所内で試用しつつ機能強化を継続しています。
また、実システムでの利用が拡大しているクラウドにおいて、そのメリットを活かした高品質なシステム構築・運用を実現するために、クラウドネイティブ技術(注2)、コンテナ関連技術、マイクロサービスアーキテクチャ(注3)による設計に関する知見を蓄積・整理し、要求される非機能要件を実現する設計・運用技術に取り組んでいます。
加えて、派生開発(注4)を対象に、品質・生産性の向上を目的としたプロセス整備、およびソースコード解析技術を活用した支援ツールの研究開発を継続しています。また、近年発展の著しい自然言語処理の領域の技術をソースコードに適用する研究開発も引き続き行い、テスト仕様書を読んで自動的にテストを実行するAIのプロトタイプの開発などを実行しています。
(2)ITサービスの競争力強化、価値共創の取り組み
重要システムに適用範囲が拡大しているクラウド領域については、次世代クラウドサービスの重要な要素であるコンテナ関連技術の適用やSRE(注5)の実践を複数のお客様の実案件で実行いたしました。さらに、DXを推進するお客様は、「ビジネスアイデアをシステムとして具現化し、ビジネスにフィードバックする」というBizDevOps(注6)プロセス全体のサイクルをアジリティと品質を両立しながら回していく必要があり、この全体プロセスを支えるためのプラットフォームに関する調査や一部機能の開発を進めています。
(3)デジタルトランスフォーメーション(DX)を実現する技術への取り組み
AIを用いた業務高度化では、自然言語処理や機械学習を応用してチーム活動の強化・支援を行う技術や、多目的最適化技術(注7)を使ってトレードオフのある環境下で実用的な計画を高速に立案するとともに、その結果を人が理解しやすい形で提供して、人とAIが協調することによって計画の質的向上を図るための仕組みの研究開発を進めています。
IoTに関しては、「ヒトの安全」をサポートする「安全見守りアプリケーション」に対して研究成果を適用した追加機能の開発や、さらなる機能追加に向けて、例えばGPS電波の届きにくい屋内での正確な位置測位技術などの研究開発を継続しています。
データ利活用に関しては、データマネジメントについての研究開発を強化しています。また、デジタルツイン(注8)の実現に必要な要素技術の研究やプラットフォーム開発、データライフサイクル全体のシステム化の研究開発、プロトタイプの作成を進めています。
データ流通時代に必須となる匿名化技術については、研究開発成果をソリューション化した「匿丸」の機能強化、新たな技術に対する検証・適用領域検討、匿名化技術を競うコンペティションであるPWSCUP2021への参加や実案件を通してのエンジニア育成といった活動を継続して行っています。
AI関連技術を含む高度IT技術の活用においては、引き続き日本製鉄㈱のインテリジェントアルゴリズム研究センター(略称IA3センター)と連携することで、製造現場におけるニーズの捕捉、操業データを用いた深層学習などの活用についての研究開発を継続します。そこで得られた汎用的な成果は積極的に社外へも展開いたします。
この様にこれまで培ってきたシステム開発に関する豊富な研究開発知見をベースに先端的な技術に取り組んできた一つの結果として、データ分析に関する国際的なコンペティションでも多くの実績を残すなど、AI/データ利活用に関する技術的知見を豊富に蓄積しており、そうした先端技術の研究成果を実際のビジネスにいち早く適用していくことで、顧客のDX推進の支援に取り組んでいます。
(2021年度の主なコンペティション成績)
データ分析コンペティション「SIGNATE」優勝
データ分析世界大会「Kaggle」第2位、第5位に入賞
強化学習の世界大会「AutoRL Challenge」第5位入賞
データ分析世界大会「KDD Cup」10位入賞
(注1)DevOps:ソフトウェア開発手法の一つ。開発担当者と運用担当者が連携の上、推進する開発手法。
(注2)クラウドネイティブ技術:クラウドの提供する機能を徹底的に活用して、スケーラブルで信頼性・回復性のある疎結合なシステムを開発する設計技術。
(注3)マイクロサービスアーキテクチャ:アプリケーションを機能ごとのサービスに分割して、それらが連携して動作するアーキテクチャ。開発のアジリティ、スケーラビリティ、可用性の向上などが期待される。
(注4)派生開発 : 新規開発と対峙する概念。既存システムの基本構造を保ったまま機能を拡張していく手法。影響範囲分析や回帰テストの効率化、属人化・暗黙知化の防止が特徴的な課題。
(注5)SRE:Site Reliability Engineeringの略で、ITサービスにおける開発のアジリティ、ならびに可用性や性能などの信頼性を高めるシステム開発運用手法を指す。SREは開発運用業務の自動化を主要なアプローチの1つとしており、様々なAPIを提供するクラウドやコンテナを活用することで導入効果を相互に高めることができる。
(注6)BizDevOps:ビジネス部門、開発部門、運用部門が密に連携し、同じビジネス目標、IT目標を目指し活動すること。
(注7)多目的最適化:複数の目的関数間のトレードオフを考慮して最適解を導く最適化手法。
(注8)デジタルツイン:工場の設備・製品などの実世界のオブジェクトをデータとしてデジタルな空間に転写・再現することで、リモートからの監視・制御や、過去の状況の再現・未来の予測シミュレーションなどを可能にすること。
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