課題

1【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

ASV経営を進化させていきます

 味の素グループは、事業を通じて社会価値と経済価値の共創を目指すASV(Ajinomoto Group Shared Value)経営を、経営の基本方針としています。また、2030年に目指す姿として「『食と健康の課題解決企業』に生まれ変わる」ことを宣言し、併せて、2030年までの2つのアウトカムとして「10億人の健康寿命の延伸」と「環境負荷の50%削減」を掲げています。

 

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中期経営計画の進捗

 2030年の目指す姿から現在を振り返って定めた「2020-2025中期経営計画」では、資本効率の改善とオーガニック成長への回帰に取り組んでいます。また、ROIC、オーガニック成長率、重点事業売上高比率、単価成長率、従業員エンゲージメントスコア等の財務・未財務の重点KPIを公表しています。これらのKPIについての2021年度実績と2022年度目標は次のとおりです。

 

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(1) “Return on Invested Capital”(投下資本利益率):企業が事業活動のために投じた資金を使って、どれだけ利益を生み出したかを示す指標

(2) 為替、会計処理の変更及びM&A/事業売却等の非連続成長の影響を除いた売上高成長率

(3) 重点事業:調味料、栄養・加工食品、ソリューション&イングリディエンツ(外食・加工用調味料)、冷凍食品、ヘルスケア、電子材料

(4) 海外コンシューマー製品について、国、カテゴリー毎の前年度からの単価伸び率を売上高による加重平均で示した指標

(5) ビジョン実現に向け、主体的に日々の業務の中でASVを実践している従業員の比率

(6) 年平均成長率

 

中期指標経営に進化させます

 2022年4月からの新体制(代表執行役社長を含む一部執行役の交代)は、2025年度に向けた中期経営計画の途中でのバトンタッチであるため、既に定めている2022年度・2025年度の経営指標の実現に対する責任を引き継ぎ、その早期達成を目指します。

 その上で、日本企業に多いと言われる「中期計画(中計)病」、すなわち先行きが不透明で、将来の予測が困難な時代に、3年程度先の計画の精緻な数値を作り込みすぎ現場が疲弊してしまったり、計画そのものの意味が薄れたりする弊害に対処します。当社では、2025年度の数値目標は受け継ぎながら、今後の中期計画策定プロセスを見直し、2030年の「ありたい姿」と中期経営指標を定め、それらを実現する道筋を未来から現在へと遡る中期指標経営に進化させていくことにしました。そして、激変する事業環境に合わせて、常に素早く機敏に計画を見直すことができるよう準備を進めています。

 

(1)「スピードアップ×スケールアップ」

味の素グループの課題は力強い成長力の回復です

 味の素グループの最大の課題は、成長力の回復です。この課題を克服することなくして、企業価値の向上は実現できません。経営の意思決定や実行を「スピードアップ」し、食品とアミノサイエンスの融合を軸とした成長戦略及び味の素グループの暗黙知を形式知化する成功事例の「型化」とその横展開による「スケールアップ」で成長力の回復を実現します。

 

企業文化の変革によって「スピードアップ」を進めます

 味の素グループの経営課題は、全体最適を見据えたダイナミックな経営判断や実行が遅くなりがちであったことだと考えています。一方で、世界のリーディング企業は、トップダウンでスピード感のある変革を進めており、企業価値の格差は少なからず広がってしまいました。

 こうした認識のもと、当社は、2021年に指名委員会等設置会社に移行し、取締役会から執行側(経営会議)に大幅な権限委譲をすることにより、迅速な意思決定を推進してきました。次に変えるのは、経営会議です。予定調和型の意思決定の場ではなく、事実やデータに基づく率直かつ真剣な議論を行う場にして、執行の更なるスピードアップを図ります。また、新執行体制で2022年4月1日からの100日間の具体的実行計画である「100日プラン」を作成しました。経営会議はまだ進化途上ですが、これまでにないスピードで、従来の方針を覆すような経営の意思決定も行われてきており、結果的にギアチェンジがなされ意思決定のスピードが上がってきている実感があります。この流れを全社に広げていきます。幸いなことに、味の素グループの従業員一人ひとりは真面目で優秀であると自負しており、現場単位での自主的な改善活動を得意としています。適切なトップダウンとボトムアップのハイブリッド型で変革を進め、将来的には会社全体を自発型かつスピード重視の企業文化に進化していきます。

 

食品とアミノサイエンスの融合を軸とした成長戦略と成功の「型化」で「スケールアップ」を実現します

 「スケールアップ」は、食品とアミノサイエンスの融合を軸とした成長戦略及び味の素グループの成功事例における暗黙知(例えば、海外での製品カテゴリー拡大、R&Dにおけるポートフォリオマネジメント、アミノサイエンスにおける新規事業の立ち上げ等)を形式知化や「型化」して、全社に展開すること等で実現したいと考えています。大きなスケールアップにはDXとイノベーションが不可欠であることは言うまでもありません。

 例えば、調味料分野では、うま味調味料「味の素®」⇒風味調味料(「ほんだし®」等)⇒メニュー用調味料(「Cook Do®」等)と、マーケティングの好事例を型化し、新しいカテゴリーを生み出し続けながら国内・海外に展開してきました。東海地区での「ラブベジ®」、東北地区での「Smart Salt(スマ塩)」、青森県弘前市の「岩木健康増進プロジェクト」における弘前大学との共同研究といった行政やアカデミアとのエコシステム構築を通じた取り組みを、野菜摂取不足や塩分過多に悩む世界各国・地域で展開する等、今後も「型化」を進めていきます。

 最適な投資や事業の配分のための「ポートフォリオマネジメント」も強化します。例えば、2010年頃の低資源発酵技術への重点投資はアミノ酸の生産コストの大幅削減につながり、2015年頃からの電子材料、医薬用・食品用アミノ酸、バイオファーマ分野へのR&Dの重点投資は現在のアミノサイエンス事業の事業モデル変革につながり、着実に成果を上げてきたと自負しています。これらのR&D投資の知見を「型化」して、マーケティング、人財、DX、地域等の投資にも応用し、継続的に磨きこんでいきます。また、2030年以降の未来からバックキャストして設定した、味の素グループが貢献できる4つの領域(ヘルスケア・フード&ウェルネス・ICT(情報通信技術)・グリーン)におけるイノベーションを促進し、次世代の事業や市場を創造していきます。

 なお、「スピードアップ×スケールアップ」を掲げるのは、意思決定と執行のスピードが速まるほどスケールアップが一気に全社に広がるためです。この相乗効果で企業価値が向上するものと考えています。

 

(2)無形資産の強化

組織資産、人財資産、技術資産、顧客資産の投資を進めます

 「スピードアップ」にも「スケールアップ」にも重要なのは、無形資産です。大きな木を育て、果実を得るには、土壌をしっかりと耕し、種を蒔き、水や肥料を与え、剪定していく必要があります。企業価値も同じです。特に、根っこをどっしりと張りめぐらせることが大切であり、その根っこが無形資産だと考えています。

 

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 その中でも当社が重視している4つの無形資産について、考え方や増強策を説明します。

 まず、「組織資産」です。これは、企業で共有されている組織全体としての力を指しますが、味の素グループの「組織資産」は、「アミノ酸のはたらきで食と健康の課題解決」という「志」とそれへの「熱意」、ビジョン、ASV経営、コーポレートブランド、ガバナンスをはじめとする経営の仕組み、各種データベース、知的財産等、会社全体の力であり根幹となるものです。これらの「組織資産」と他の無形資産を継続的に磨き込むことで無形資産が蓄積され、「組織資産」は更に大きくなっていきます。

 「人財資産」は、全ての無形資産の価値を高める原動力となります。「志」への従業員一人ひとりの「熱意」と、「志」を共有していただける多様な関係者の皆様からの共感を更に結集して、「人財資産」の総和を高めていきます。そのために、これまで進めてきた「働き方改革」を「働きがい改革」にステージアップします。また、DX人財の育成に力を注ぐとともに、先進的な外部プロ人財の登用や味の素グループの人財の兼業・副業も推奨しつつ、社会の最先端の学びを通じて「人財資産」をより豊かにしていきます。人事制度やその運用についても抜本的に見直します。職能資格等級(人財につく等級)に、ジョブ型(職務・職責につく等級)を組み合わせたハイブリッドな人事制度を導入することにより「適所適財と実力本位の徹底」を一層推進し、実力発揮や貢献度合いに応じた処遇の実現を目指します。

 「技術資産」は、全ての無形資産において味の素グループ「ならでは」の源泉です。「アミノ酸のはたらき」を徹底的に追求した研究開発から生産そして事業まで、イノベーションにより社会価値を創造し続けるために欠かすことのできない無形資産です。食品事業では、「おいしさ設計技術®」を進化させて、世界の各地域で付加価値と機能を強化した製品展開を進め、ヘルスケア、電子材料等アミノサイエンス事業では、市場のイノベーションを見通し「先端バイオ・ファイン技術」を進化させることにより、参入障壁の高い製品やサービスを展開しています。更に、食品とアミノサイエンスの融合による事業モデル変革や次世代事業の創造に向けて「技術資産」を磨き込んでいきます。

 「顧客資産」は、あらゆる無形資産と将来財務価値を繋ぐ資産です。現在のお客様だけでなく、潜在的なお客様、生活者の方々を含み、現在有する約7億人のお客様との接点を2030年までに10億人に拡大し、健康寿命の延伸に貢献することを目指しています。味の素グループのお客様は、アジア、米国、中南米、欧州、アフリカ等グローバルに広がっています。また、一般生活者だけでなく、外食業界や食品会社、医薬、半導体関連業界の企業のお客様も重要です。製品やサービスを通じてお客様の課題解決に貢献した事例や、お客様の顕在・潜在ニーズを的確にとらえる知見を「型化」して、顧客価値、ブランド価値を高め、単価向上や購入者数・購入回数増につなげます。

 

 そして、これらの無形資産を豊かにする土壌ともいえるのが企業文化です。「志」の実現のために従業員一人ひとりが自分ごととして取り組む「自発型企業文化」は、他の無形資産を豊かにします。企業文化変革を経営の一丁目一番地として、最優先で進めていきます。

 

(3)サステナビリティの推進

ステークホルダーの声を聴き、ASVを実践します

 サステナビリティ推進は、持続的な社会の実現だけでなく、味の素グループ自身の資本コストの低減と成長率の向上に資すると考えています。取締役会の下部機構であるサステナビリティ諮問会議は、設置から約1年強が経ちましたが、味の素グループならではのサステナビリティについて、各専門性の観点からも先進的で有意義な議論と検討が進んでおり、ASVの実現につながっているという確信があります。今後、多様性に富むステークホルダーの声を取り入れながら、中長期視点に立ったマテリアリティ(当社にとっての重要課題)やマテリアリティに紐づく環境変化への対応方針等を検討し、取締役会へ答申します。併せて、経営会議の下部機構であるサステナビリティ委員会は、取締役会が示す戦略的方向性に基づき、全社経営レベルのリスクと機会の特定や事業戦略への反映を行います。世界中のステークホルダーの皆様から「志」への共感をいただきながら「トレード・オフ」(何かを達成するためには何かを犠牲にしなければならない関係)になりがちなサステナビリティに関する取り組みを「トレード・オン」(二律背反を超え、両立させること)にすることを目指します。

 味の素グループが取り組むべき社会・環境課題は数多くありますが、とりわけ環境面については、2030年度までの「環境負荷の50%削減」に加え、2050年度までにカーボンニュートラルを実現することを2022年3月に宣言しました。カーボンニュートラルを目指しながら、社会課題の解決によって経済価値を生み出すASVを実践し、強靭かつ持続可能なフードシステムの構築に貢献します。

 

(気候変動リスクへの対応)

サマリー

 世界的な喫緊の課題である気候変動は、味の素グループの事業・戦略に多大な影響を及ぼすため、重要課題の一つです。気候変動の進行により、原材料の調達不全をはじめとするリスクが予想されます。味の素グループは気候変動を全社重要リスクかつ機会と捉え、ガバナンス、戦略、リスク管理、指標と目標の4つの観点から対応策を検討しています。ライフサイクル全体での負荷低減を目指し、省エネ活動や再生可能エネルギー電力の利用を進めるほか、国際イニシアチブに参加し、社内外の連携を図りながら課題解決を目指します。

項目

内容

ガバナンス

味の素グループでは、グループ各社及びその役員・従業員が順守すべき考え方と行動の在り方を示した味の素グループポリシー(AGP)を誠実に守り、内部統制システムの整備とその適正な運用に継続して取り組むとともに、気候変動への対応をはじめとするサステナビリティを積極的なリスクテイクと捉える体制を強化し、持続的に企業価値を高めています。

 

取締役会は、サステナビリティ諮問会議を設置する等、マルチステークホルダーの視点でサステナビリティとESGに係る当社グループの在り方を提言する体制を構築し、気候変動に関する項目をはじめ、ASV経営の指針となるサステナビリティに関するマテリアリティ項目を決定しています。

 

経営会議は、サステナビリティ委員会を設置し、気候変動に関するものをはじめ、「全社経営レベルのリスクと機会」を選定・抽出し、その影響度合いの評価、施策の立案、進捗管理を行う体制を構築しています。

戦略

味の素グループの事業は、調味料・食品、冷凍食品からヘルスケアまで多岐にわたります。また、その活動地域は全世界に広がっています。したがって、気候変動による影響も大きな自然災害による事業活動の停滞、原燃料の調達に関わる事項、消費行動に関わる事項等、多方面にわたります。

味の素グループでは、短中長期における生産に関わる事項として、気候変動の影響のうち、渇水、洪水、海面上昇、主原料収量の変化等を物理的リスクとして、炭素税の導入やその他の法規制の強化及びエネルギー単価の上昇、消費者嗜好の変化等を移行リスクとして捉えています。

リスク管理

サステナビリティ委員会にて、政治、経済、社会情勢、気候変動等、味の素グループを取り巻く環境を踏まえ、事業への影響度、発生可能性からリスクレベルを総合的に判断し、「全社重要リスク」を選定し、その対応策を検討しています。

気候変動に関するリスクは「全社重要リスク」の一つと位置付けており、物理的リスク、法規制・市場等の移行リスクについて、公表されている報告書や専門家のアドバイス等をもとに影響度の評価を行っています。当該委員会の検討・対応内容は、21年度は年4回経営会議及び取締役会に報告しています。

指標と目標

味の素グループは20-25中計において、2030年度までに温室効果ガス(GHG)の排出量を2018年度比で50%削減することを目標としています。

2021年度のGHG排出量は、スコープ1・2総量では、前年度比およそ300,000t-CO2e減、基準年である2018年度に対して27%減となり、2021年度の目標を大きく上回りました。ブラジルにおける再エネ電力発電所との直接契約やタイにおける再エネ証書調達及び国内においてCO2排出係数が低い電力会社との契約が、削減が進んだ主な要因です。一方、スコープ3のGHG排出原単位では、前年度比5%減少したものの、基準年である2018年度に対し2%増加となりました。前年度より減少した主な原因は、味の素アニマル・ニュートリション・ヨーロッパ社(以下、「AANE社」という。)が当社グループ対象外となったことです。

 

 

(1)ガバナンス

 味の素株式会社は、持続可能性の観点から企業価値を継続的に向上させるため、サステナビリティ推進体制を強化しております。2021年4月1日付で、取締役会の下部機構としてサステナビリティ諮問会議を、経営会議の下部機構としてサステナビリティ委員会を設置しました。

 当社の、気候変動対応を含むサステナビリティ推進体制は以下のとおりです。

 

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<各組織体の役割と責任>

取締役 代表執行役社長

最高経営責任者

気候変動を含む環境問題に責任を持ち、気候関連リスクと機会の評価と管理の両方に責任を持っています。

取締役会

下部機構としてサステナビリティ諮問会議を設置する等、マルチステークホルダーの視点でサステナビリティに係る当社グループの在り方を提言する体制を構築し、気候変動に関する項目をはじめ、ASV経営の指針となるサステナビリティに関するマテリアリティ項目を決定しています。2021年度はサステナビリティ諮問会議から2回の報告を受けています。

サステナビリティ諮問会議

サステナビリティの観点で味の素グループの企業価値向上を追求するため、マルチステークホルダーの視点でサステナビリティに係る当社の在り方を提言することを目的として、同諮問会議は取締役会の諮問に基づき以下の検討を行い、取締役会に答申します。

 

ⅰ長期的な視点(2050年まで)に立ち、中期経営計画のマテリアリティ・戦略に反映させるためのマテリアリティ

ⅱマルチステークホルダーの視点でマテリアリティを検討し、マテリアリティに関連する環境変化(リスクと機会)への対応方針

ⅲ2030年以降に企業に期待・要請されるポイントや、社会的ルール作りへの適切な関与

ⅳ環境負荷低減、健康寿命延伸の姿等、社会価値創出に関する2030年以降の目標設定

 

サステナビリティ諮問会議は半年に1回開催され、当社HPへの議事録の掲載やプレスリリースなどを通じ、議論の内容を積極的に公開しています。

経営会議

下部機構としてサステナビリティ委員会を設置し、気候変動に関するものをはじめ、「全社重要リスクと機会」を選定・抽出し、その影響度合いの評価、施策の立案、進捗管理を行う体制を構築しています。なお、2021年度はサステナビリティ委員会から4回の報告を受けています。

サステナビリティ委員会

サステナビリティ経営を推進するため、同委員会は、マテリアリティに則して、施策の立案、経営会議への提案、進捗管理を行います。また、全社経営課題のリスクの対策立案、その進捗管理、内部統制強化に資するリスクマネジメントプロセスの整備及び推進並びに味の素グループ危機管理規程に基づく危機(セーフティ及びセキュリティ)管理に関する事項を行います。

 

(2)リスク管理

 当社グループでは、リスク管理を内部統制のための重要な手段として認識しており、経営責任の一端を担っています。当社グループは、グループ経営戦略及び個別事業戦略と連動して、重大なリスクに対する対応力を高めるために必要な措置を講じています。当社グループは、世界各地の事業環境や政治・経済・社会情勢を考慮し、組織横断的な管理が必要なグループ全体のリスクを特定してまとめています。リスクの中でも、地球規模の気候変動リスクや、水に依存する作物を主原料としているため、水リスクも重視しています。戦略的なリスクマネジメントを推進することで、リスクに強くなり、グループの価値を高めることに寄与しているものと考えています。

 サステナビリティ委員会は、グループ全体のリスクとして認識されたマテリアリティ課題については、グループ全体の対応策を策定、実行するとともに、リスクへの対応状況を定期的に監視・管理しています。当社グループの気候関連のリスクと機会は、シナリオ分析により評価しています。事業所ごとにECP(事業継続計画)を策定し、気候変動を含む各事業所特有のリスクを掘り起こし、対策を検討しています。また、持続的な事業活動に向けて原料となる天然資源の減少に対する研究開発を加速させています。

 気候変動に関するリスクは「全社重要リスク」の一つと位置付けており、物理的リスク、法規制・市場等の移行リスクについて、公表されている報告書や専門家のアドバイス等をもとに影響度の評価を行っています。当該委員会の検討・対応内容は、年に1回以上経営会議及び取締役会に報告しています。

 

(3)戦略

 当社グループは、食品事業について調味料・食品から冷凍食品まで幅広い商品領域を持ち、またヘルスケア等の分野にも事業を展開しています。気候変動は、大規模な自然災害による事業活動の停止、農作物や燃料などの原材料調達への影響、製品の消費の変化など、さまざまな形でグループの事業に影響を与えます。

 

①シナリオ分析の前提

 2021年度は、2100年に地球の平均気温が産業革命後より2℃又は4℃上昇するというシナリオで、グローバルのうま味調味料、及び国内の主要な製品に関する2030年時点と2050年時点の気候変動による影響に関するシナリオ分析を実施しました。

 中長期における生産に関する事項として、気候変動の影響のうち、渇水、洪水、海面上昇、原料の収量変化等を物理的リスクとして、炭素税の導入やその他の法規制の強化及びエネルギー単価の上昇、消費者嗜好の変化等を移行リスクとして捉え分析しました。

 2℃と4℃シナリオにおける2030年時点の平均気温差は0.2℃程度であり物理的リスクに大きな差が見られないと考え、平均気温差が1℃程度と予想され物理的リスクに差があると考えられる2050年時点のシナリオ分析のリスクと機会を次の表に示します。

 以上を要約すると、以下の通りです。

 

2020年度(※)

2021年度

2022年度(予定)

事業

うま味調味料(グローバル)、国内の主要な製品

うま味調味料(グローバル)、国内の主要な製品

うま味調味料(グローバル)、国内・海外の主要な製品

発現の時期

2030年

2030年/2050年

2030年/2050年

シナリオ

2℃/4℃

2℃/4℃

2℃/4℃

※2020年度に実施したシナリオ分析の結果については、サステナビリティデータブック2021をご参照ください。

https://www.ajinomoto.co.jp/company/jp/ir/library/databook.html

 

②シナリオ分析:リスク

2℃シナリオ(2050年):GHG排出量削減に向けた一定の政策的対応が行われ、化石燃料の消費が減少する場合

リスク

平均気温上昇

洪水・渇水の重大性と頻度の上昇

製品に対する命令及び規制

消費者嗜好の移り変わり

右の対象は当社グループ全体

カーボンプライシングメカニズム

リスクの分類

物理的リスク

物理的リスク

移行リスク

移行リスク

移行リスク

事業インパクト

農畜水産物の生産性低下(想定1:養殖の生育環境悪化、想定2:家畜の増体率低下、想定3:乳牛の乳量低下、想定4:家畜の感染症流行)

原料調達のコストアップ(想定:タイの洪水)

使用する原料に関する法規制の強化によるコストアップ(想定:原料のトレーサビリティやリサイクル使用の法規制)

気温上昇による需要減(想定:クノール®カップスープ、ホットコーヒー)

炭素税の導入・増税や排出権取引により、使用する原料・燃料のコストアップ

潜在的財務影響

15億円/年

算定中

算定中

算定中

2030年:200億円/年*

2050年:300億円/年*

対応策

・調達地域の多様化

・代替原料の研究開発

・環境配慮型の製法開発

・調達地域の多様化

・代替原料の研究開発

・サプライヤーの情報収集と協働

・栄養価値訴求を通じた喫食の習慣化を図るコミュニケーション

・アイス飲用に適したマーケティング活動

・内部カーボンプライシング制度による財務影響の見える化

・燃料転換

・再生可能エネルギー利用

・環境配慮型の製法開発

 

4℃シナリオ(2050年):GHG排出量削減に向けた政策的対応を行わない、成り行きの場合

リスク

平均気温上昇

洪水・渇水の重大性と頻度の上昇

消費者嗜好の移り変わり

燃料のコスト増加

リスクの分類

物理的リスク

物理的リスク

移行リスク

移行リスク

事業インパクト

農畜水産物の生産性低下(想定1:養殖の生育環境悪化、想定2:家畜の増体率低下、想定3:乳牛の乳量低下、想定4:家畜の感染症流行、想定5:農産物の生育不良や病害虫流行)

原料調達のコストアップ、操業停止、納期遅延による売り上げ減少(想定1:タイの洪水、想定2:ブラジルの渇水、想定3:日本の局地豪雨による冠水)

気温上昇による需要減(想定:クノール®カップスープ、ホットコーヒー)

使用する燃料の価格上昇

潜在的財務影響

20億円/年

1億円/年

算定中

10億円/年

対応策

・調達地域の多様化

・代替原料の研究開発

・高温耐性品種の導入

・販売価格への反映

・環境配慮型の製法開発

・調達地域の多様化

・代替原料の研究開発

・栄養価値訴求を通じた喫食の習慣化を図るコミュニケーション

・アイス飲用に適したマーケティング活動

・燃料転換

・再生可能エネルギー利用

・環境配慮型の製法開発

* SBT(Science Based Targets)イニシアチブに認定された当社グループの2018年度の基準GHG排出量に、IEA:International Energy Agency(国際エネルギー機関)の2℃シナリオに相当する2030年炭素税・排出権取引の予測:新興国=75$/t-CO2、先進国=100$/t-CO2、2040年炭素税・排出権取引の予測:新興国=125$/t-CO2、先進国=140$/t-CO2を乗じて算出。4℃シナリオは現状の成り行きであり炭素税・排出権取引の追加・増税は想定しておりません。

 

③シナリオ分析:機会

2℃シナリオ(2050年):GHG排出量削減に向けた一定の政策的対応が行われ、化石燃料の消費が減少する場合

機会

低排出量商品及びサービス

消費者嗜好の移り変わり

機会の分類

製品及びサービス

製品及びサービス

事業インパクト

エシカル思考の拡大により環境負荷が低い製品として売上増加

・健康志向によるニーズ拡大=売上増加

・気温上昇による飲料などのニーズ拡大=売上増加

対応策

・環境配慮型の製法や製品の開発

・ESGの好評価を取得する取り組み推進

・低環境負荷を証明するエビデンス強化

・栄養価値が向上する製品開発

・栄養価値訴求を通じた喫食の習慣化を図るコミュニケーション

・環境配慮型の製法や製品の開発

 

4℃シナリオ(2050年):GHG排出量削減に向けた政策的対応を行わない、成り行きの場合

機会

低排出量商品及びサービス

消費者嗜好の移り変わり

機会の分類

製品及びサービス

製品及びサービス

事業インパクト

エシカル思考の拡大により環境負荷が低い製品として売上増加

・健康志向によるニーズ拡大=売上増加

・気温上昇による飲料などのニーズ拡大=売上増加

対応策

・環境配慮型の製法や製品の開発

・低環境負荷を証明するエビデンス強化

・栄養価値が向上する製品開発

・栄養価値訴求を通じた喫食の習慣化を図るコミュニケーション

・環境配慮型の製法や製品の開発

 

④シナリオ分析結果の戦略への反映

(ⅰ)事業戦略への影響

 シナリオ分析における事業への影響を踏まえ、今後一層のGHG排出量削減に向け、燃料転換・再生可能エネルギー利用・環境配慮型の製法に関する投資を計画して参ります。また、サステナビリティに対する取組みが製品の付加価値向上につながる「トレード・オン」の実現に向けて、新たな事業戦略の策定に取り組んで参ります。

 また、2022年度以降のシナリオ分析においては、対象製品をより広げ、原料の水リスクもさらに重視することにより、リスク・機会の分析を高度化して参ります。

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(ⅱ)資金調達戦略への影響

 各種取り組みに対して必要な資金については、サステナビリティファイナンスを基本と致します。これにより、当社グループが掲げる2030年までの2つのアウトカム「10億人の健康寿命の延伸」と「環境負荷の50%削減」の実現、及び持続可能な社会の実現に向けた取り組みをより一層加速させていきます。

 このような考えのもと、当社は2021年10月にグループ初となるSDGs債を発行(*1)し、続いて、2022年1月に「ポジティブ・インパクトファイナンス」によるコミットメントライン契約(*2)を締結致しました。今後も引き続きサステナブルファイナンスを拡充して参ります。

 *1 SDGs債発行に関しては、以下の「サステナブルファイナンス」サイトをご参照ください。

https://www.ajinomoto.co.jp/company/jp/activity/csr/finance/index.html

 *2 「ポジティブ・インパクトファイナンス」によるコミットメントライン契約に関しては、以下のプレスリリースをご参照ください。

https://www.ajinomoto.co.jp/company/jp/presscenter/press/detail/2022_01_28.html

 

(4)指標と目標

 当社グループは、SBT(Science Based Targets)イニシアチブによるNet Zeroを含む新たなGHG排出削減目標への適合を宣言するコミットメントレターを提出しました。これにより、当社グループはSBTイニシアチブより認定を受けている気温上昇を1.5℃に抑えるGHG排出削減目標の取り組みをさらに加速させるため、Net Zero基準に沿って目標の見直しを行います。

 

(ⅰ)目標

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 スコープ1及びスコープ2のGHG排出量については、2030年度に2018年度比で50%削減を目標(総量目標)としています。

 スコープ3の生産1トンあたりのGHG排出量(GHG排出原単位)については、2030年度に2018年度比で24%削減としている目標(原単位目標)の見直しを行います。

 

(ⅱ)2021年度実績

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 スコープ1・2のGHG排出量では、前年度比およそ300,000t-CO2e、基準年である2018年度に対して27%減となり、2021年度の目標を大きく上回りました。ブラジルにおける再エネ電力発電所との直接契約やタイにおける再エネ証書調達及び国内においてCO2排出係数が低い電力会社との契約が、削減が進んだ主な要因です。また、2030年度のGHG排出量目標(2018年比△50%)に対しては、現時点で計画済の投資によりおよそ8割の達成目途が見えておりますが、一層の排出量削減に向け、更なる投資を検討して参ります。

 スコープ3のGHG排出原単位では、前年度比5%減少したものの、基準年である2018年度に対し2%増加となりました。AANE社が当社グループ対象外となったことが削減の主な原因です。2022年度は、スコープ3の原料サプライヤーとの協働のトライアルを行う予定です。サプライヤー含めた外部との連携を今後加速し、GHG排出量の削減に向けて取り組みを進めて参ります。

 

(ⅲ)目標達成に向けた取組み

 スコープ1及びスコープ2の目標を達成するための施策として、省エネルギー活動やGHG発生の少ない燃料への転換、バイオマスや太陽光等の再生可能エネルギー利用、エネルギー使用量を削減するプロセスの導入を進めています(当社・九州工場における、重油から天然ガスへの燃料転換、タイ・カンペンペット工場におけるコジェネレーション設備導入など)。

 スコープ3については、製品ライフサイクル全体のGHG総排出量の約60%を原材料が占めていることから、原料サプライヤーへのGHG削減の働きかけや、アンモニアのオンサイト生産等の新技術導入に向けた検討を進めています。

 

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