業績

3【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】

(1)経営成績等の状況の概要

当連結会計年度(以下、「当年度」といいます。)における当社グループを取り巻く事業環境は、新型コロナウイルス感染症の感染者数が増減を繰り返すなか、ワクチン接種の進展や財政・金融政策により、経済活動は徐々に回復しました。しかし、近時ではウクライナ情勢の影響を受けて、原燃料価格のこれまで以上の高騰や材料供給の逼迫がみられ、インフレ圧力が高まる状況にあります。国内においては、年度末にかけて新型コロナウイルス変異株による感染者数がピークアウトしたものの、原燃料価格の高止まり、自動車産業での半導体不足や部品供給網の混乱が長期化する懸念が強まっています。

こうした事業環境のもと、液晶偏光子保護フィルム“コスモシャインSRF”が新ラインの稼働により販売を伸ばしたほか、PCR検査用原料や試薬の販売も堅調に推移しました。一方で、包装用フィルムをはじめ、エンジニアリングプラスチック、エアバッグ用基布、ポリエステル短繊維や長繊維不織布スパンボンドなどでは、原料価格高騰の影響を受けました。

また、財務面では、資産の効率化および財務体質の健全化を図るため、当社グループが保有する投資有価証券を一部処分し、売却益65億円を特別利益に計上しました。一方、医薬品製造受託事業における事業用資産、衣料繊維事業における休止予定資産、および高耐熱性ポリイミドフィルムを製造販売する当社子会社(ゼノマックスジャパン株式会社)の事業用資産に関して、減損損失94億円を特別損失に計上しました。

以上の結果、当年度の売上高は3,757億円と前年度比11.4%の増収、営業利益は284億円と前年度比6.6%の増益、経常利益は231億円と前年度比11.5%の増益、親会社株主に帰属する当期純利益は、129億円と前年度比206.2%の増益となりました。

 

セグメント別の概況は、次のとおりです。

 

(フィルム・機能マテリアル)

当セグメントは、工業用フィルムが堅調に推移しましたが、原料価格高騰の影響を受けた結果、増収減益となりました。

フィルム事業では、包装用フィルムは、巣ごもり需要が継続しましたが、前年度の火災事故による販売減少や原料価格高騰の影響を受け苦戦しました。工業用フィルムは、液晶偏光子保護フィルム“コスモシャインSRF”が、新ラインの稼働により販売を伸ばしました。セラミックコンデンサ用離型フィルム“コスモピール”は、新ラインの稼働により、年度前半は堅調に推移しましたが、年度後半の市場環境の変化により販売は伸び悩みました。

機能マテリアル事業では、工業用接着剤“バイロン”は、エレクトロニクス用途の販売が堅調に推移したものの、原料価格高騰の影響を受けました。また、水現像型感光性印刷版用途の光機能材料は、中国・北米・欧州向けに販売を伸ばしました。

この結果、当事業の売上高は前年度比175億円(11.4%)増の1,703億円、営業利益は同1億円(0.7%)減の199億円となりました。

 

(モビリティ)

当セグメントは、前年度に対して販売は回復しましたが、原料価格の高騰、半導体不足などによる自動車減産の影響を受けた結果、増収減益となりました。

エンジニアリングプラスチックは、海外は、中国、米国、タイの販売が堅調に推移したことに加え、原料価格高騰に対して販売価格改定が進みました。一方、国内は、販売価格改定が追いつかず、年度後半は自動車減産の影響を受けました。

エアバッグ用基布は、原料価格高騰に対して販売価格改定が追いつかず、苦戦しました。

この結果、当セグメントの売上高は前年度比81億円(22.3%)増の447億円、営業損失は18億円となりました(前年同期は営業損失16億円)。

 

 

(生活・環境)

当セグメントは、経済活動の復調に伴い一部で需要が回復したものの、原料価格高騰の影響を強く受けた結果、増収減益となりました。

環境ソリューション事業では、溶剤を回収するVOC処理装置がリチウムイオン電池市場の拡大に伴い回復基調にあるものの、前年度の海外での営業活動の停滞により受注が減少し、苦戦しました。

不織布事業では、長繊維不織布スパンボンドは、建材用途で回復しましたが、自動車減産と原料価格高騰の影響を受けました。機能フィルターは、マスク向けの販売が減少しました。

繊維機能材事業のスーパー繊維では、“イザナス”が釣糸用途やロープ用途で堅調に推移し、また、“ザイロン”も自転車タイヤ用途や消防服用途の需要が回復し、それぞれ販売を伸ばしました。一方、ポリエステル短繊維、機能性クッション材“ブレスエアー”は、原料価格高騰の影響を受けました。

衣料繊維事業では、中東向け特化生地は、円安により輸出採算が好転し、インナー用途も市況が回復したものの、スポーツ用途は店頭販売が振るわず、ユニフォーム用途は企業向けが低調でした。

この結果、当セグメントの売上高は前年度比51億円(4.7%)増の1,143億円、営業利益は同9億円(21.1%)減の35億円となりました。

 

(ライフサイエンス)

当セグメントは、PCR検査需要が底堅く、増収増益となりました。

バイオ事業では、PCR検査用原料・試薬、遺伝子検査装置・診断薬の販売が拡大しました。

医薬品製造受託事業は、FDA対応のため、操業度を下げたことが影響し低調でした。

メディカル事業では、人工腎臓用中空糸膜、ウイルス除去フィルターの販売が堅調に推移しました。

この結果、当セグメントの売上高は前年度比79億円(29.2%)増の350億円となり、営業利益は同41億円(91.6%)増の87億円となりました。

 

(不動産、その他)

当セグメントでは、不動産、エンジニアリング、情報処理サービス、物流サービス等のインフラ事業は、それぞれ概ね計画どおりに推移しました。

この結果、当セグメントの売上高は前年度比4億円(3.2%)減の114億円、営業利益は同1億円(3.7%)減の22億円となりました。

 

②キャッシュ・フローの状況

(営業活動によるキャッシュ・フロー)

営業活動によるキャッシュ・フローは、前年度比179億円収入が減少し、171億円の収入となりました。主な内容は、減価償却費201億円および税金等調整前当期純利益148億円による資金の増加と棚卸資産の増加による資金の減少182億円です。

 

(投資活動によるキャッシュ・フロー)

投資活動によるキャッシュ・フローは、前年度比71億円支出が減少し、246億円の支出となりました。主な内容は、有形及び無形固定資産の取得による支出291億円および投資有価証券の売却による収入115億円です。

 

(財務活動によるキャッシュ・フロー)

財務活動によるキャッシュ・フローは、17億円の支出となりました(前年度は53億円の収入)。主な内容は、長期借入れによる収入150億円、長期借入金の返済による支出104億円、社債の発行による収入100億円、社債の償還による支出100億円および配当金の支払額36億円です。

 

この結果、当連結会計年度末の現金及び現金同等物の残高は、前年度末比81億円減の264億円となりました。

 

 

③生産、受注及び販売の実績

(イ)生産実績

当連結会計年度における生産実績をセグメントごとに示すと、次のとおりです。

セグメントの名称

金額(百万円)

前連結会計年度比(%)

フィルム・機能マテリアル

176,684

14.8

モビリティ

47,299

24.6

生活・環境

117,911

8.1

ライフサイエンス

37,616

33.4

不動産

その他(うち製造)

23,047

16.6

合計

402,558

15.4

(注)1.金額は平均販売価格によっており、セグメント間の内部振替前の数値によっています。

2.外注生産を含んでいます。

3.不動産の生産実績はありません。

 

(ロ)受注実績

当社グループの製品は一部の受注生産を除き見込生産を行っています。

(ハ)販売実績

当連結会計年度における販売実績をセグメントごとに示すと、次のとおりです。

セグメントの名称

金額(百万円)

前連結会計年度比(%)

フィルム・機能マテリアル

170,326

11.4

モビリティ

44,721

22.3

生活・環境

114,295

4.7

ライフサイエンス

35,003

29.2

不動産

3,957

△0.1

その他

7,419

△4.9

合計

375,720

11.4

(注)1.総販売実績に対する販売実績の割合が100分の10以上となる販売先はありません。

2.セグメント間の取引については相殺消去しています。

 

 

(2)経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容

経営者の視点による当社グループの経営成績等の状況に関する認識および分析・検討内容は次のとおりです。

なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において判断したものです。

 

①重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定

連結財務諸表の作成に当たって用いた会計上の見積りおよび当該見積りに用いた仮定のうち、重要なものについては、「第5経理の状況 1連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 注記事項 (重要な会計上の見積り)」に記載のとおりです。

 

②当連結会計年度の経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容

(イ)財政状態の分析

当連結会計年度末の総資産は、前年度末比266億円(5.4%)増の5,178億円となりました。これは主として棚卸資産が増加したことによります。

当連結会計年度末の負債は、前年度末比181億円(6.0%)増の3,206億円となりました。これは主として支払手形及び買掛金や借入金が増加したことによります。

当連結会計年度末の純資産は、主として利益剰余金が増加したことから、前年度末比85億円(4.5%)増の1,971億円となりました。

 

また、財政状態に関する各種指標(連結ベース)は次のとおりです。

回次

 

第160期

第161期

第162期

第163期

第164期

決算年月

 

2018年3月

2019年3月

2020年3月

2021年3月

2022年3月

自己資本比率

(%)

40.5

38.3

36.4

37.8

37.6

時価ベースの自己資本比率

(%)

41.8

27.2

20.8

25.8

18.8

自己資本当期純利益率

(%)

7.5

△0.3

7.8

2.3

6.8

キャッシュ・フロー対

有利子負債比率

(年)

6.5

21.0

4.0

5.3

11.2

インタレスト・カバレッジ・レシオ

(倍)

16.9

6.0

32.2

28.0

14.0

有利子負債自己資本比率

(D/Eレシオ)

(倍)

0.81

0.93

0.98

1.01

0.98

自己資本比率:非支配株主持分を含まない期末純資産/期末総資産

時価ベースの自己資本比率:株式時価総額[期末株価終値×自己株式控除後の期末発行済株式数]/期末総資産

自己資本当期純利益率:親会社株主に帰属する当期純利益/非支配株主持分を含まない期末純資産の期首・期末平均

キャッシュ・フロー対有利子負債比率:期末有利子負債/営業キャッシュ・フロー

インタレスト・カバレッジ・レシオ:営業キャッシュ・フロー/(連結キャッシュ・フロー計算書)利息の支払額

有利子負債自己資本比率(D/Eレシオ):期末有利子負債/非支配株主持分を含まない期末純資産

 

当社グループは、財務の健全性の指標として特に有利子負債自己資本比率(D/Eレシオ)を重視しています。当連結会計年度末のD/Eレシオは0.98倍となりました。

 

 

(ロ)経営成績の分析

当連結会計年度の期初において、新型コロナウイルス感染症再拡大に加え、半導体不足、原燃料価格高騰の影響により、国内を含む世界経済の正常化には時間がかかることが懸念されました。一方で、PCR検査需要に応えるため、PCR検査用試薬、遺伝子検査装置などの提供に尽力するとともに、工業用フィルムの増産計画を踏まえ、売上高3,600億円、営業利益270億円を計画し、事業活動を進めてきました。その結果、原燃料価格高騰の影響を受けましたが、工業用フィルムやPCR検査用原料や試薬の販売が堅調に推移したことから売上高3,757億円、営業利益284億円と計画を上回ることができました。

売上高については、原料価格高騰に伴い各製品の価格転嫁を進めたことに加え、2020年7月から商業生産を開始した液晶偏光子保護フィルム“コスモシャインSRF”の新機台(3号機)が1年間稼働し、販売量は堅調に推移しました。これにより、液晶テレビ保護フィルム市場におけるシェアが50%超となったものと推定しています。また、当連結会計年度より、「収益認識に関する会計基準」(企業会計基準第29号 2020年3月31日)等を適用していますが、これによる当連結会計年度の連結財務諸表に与える影響は軽微です。以上の結果、売上高は期初の計画を達成しました。

営業利益についても、売上高の増加理由に加え、変異した新型コロナウイルス感染症の再拡大によりPCR検査用原料・試薬、遺伝子検査装置・診断薬の販売が大きく増加したことから期初計画を達成し、「総資本営業利益率(ROA)」は5.5%となりました。

親会社株主に帰属する当期純利益については、資産の効率化および財務体質の健全化を図ることを目的として、当社および当社の子会社が保有する投資有価証券の一部を売却し、特別利益として投資有価証券売却益65億円を計上しました。一方、当社の医薬品製造受託事業における事業用資産、衣料繊維事業の休止予定資産および当社の子会社であるゼノマックスジャパン株式会社の事業用資産において減損損失94億円を計上するなど合計148億円の特別損失を計上したことなどから、当連結会計年度における親会社株主に帰属する当期純利益は129億円となりました。以上により、「自己資本当期純利益率 (ROE)」は6.8%となりました。

(単位:億円)

 

2021年度

(計画(*))

2021年度

(実績)

増 減

(実績-計画)

売上高

3,600

3,757

157

営業利益

270

284

14

親会社株主に帰属する当期純利益

115

129

14

(*) 期初において計画した計画値

 

 

2019年3月期から2022年3月期までの2018年中期経営計画において、当社グループが重視する経営指標は、「営業利益」、「総資本営業利益率(ROA)」および「自己資本当期純利益率(ROE)」です。数値目標としては、営業利益は300億円以上、ROAは7%以上およびROEは8%以上を目標としてきました。当連結会計年度は2018年中期経営計画の最終年度であり、目標に対して、結果は以下のとおりです。

[2018年中期経営計画(2018年度~2021年度)]

経営指標

2018年度

実績

2019年度

実績

2020年度

実績

2021年度

実績

2021年度

目標

売上高

(億円)

3,367

3,396

3,374

3,757

3,750

海外売上高比率

(%)

30.5

32.3

33.0

34.3

35.0

営業利益

(億円)

217

228

267

284

300

営業利益率

(%)

6.5

6.7

7.9

7.6

8.0

親会社株主に帰属する当期純利益又は親会社株主に帰属する当期純損失(△)

(億円)

△6

138

42

129

160

ROE

(%)

7.8

2.3

6.8

≧8.0

ROA

(%)

4.7

4.7

5.4

5.5

≧7.0

D/Eレシオ

(倍)

0.93

0.98

1.01

0.98

<1.0

・ROE=親会社株主に帰属する当期純利益÷(期首・期末平均自己資本)

・ROA=営業利益÷総資産

 

2018年中期経営計画の期間中に出来たこと、出来なかったことや新たな課題は以下のとおりと考えています。

(出来たこと)

・企業理念体系「TOYOBO PVVs」の整理

・工業用フィルムの拡大

・バイオ・メディカルの拡大

・財務体質の健全性維持

 

(出来なかったこと、新たな課題)

・信頼性にゆらぎ:大規模火災事故、品質不適切事案

・成長をめざした事業の拡大遅れ

・課題事業の正常化遅れ

 

今後も、信頼回復を最優先課題とし、持続的な成長に向けて、全社一体となって企業価値の向上に取り組んでまいります。

 

(ハ)経営成績に重要な影響を与える要因について

当社グループの経営成績に重要な影響を与える要因については、「第2 事業の状況 2 事業等のリスク」に記載のとおりですが、特に、度重なる火災事故、品質の不適切事案により損なわれた信頼を回復すべく「安全・防災」「品質」を最重要課題として改善に取り組んでまいります。また、新型コロナウイルスの流行を受けた移動制限の広がりによる中国経済の景気動向や半導体不足などによる自動車生産台数の影響について注視するとともに、原燃料などの価格動向や為替変動についても 引き続き注視していく必要があると考えています。

 

 

(ニ)当社グループの資本の財源および資金の流動性について

a.キャッシュ・フロー

当連結会計年度のキャッシュ・フローの分析については、「(1)経営成績等の状況の概要 ②キャッシュ・フローの状況」に記載のとおりです。

b.契約債務

2022年3月31日現在の契約債務の概要は以下のとおりです。

 

年度別要支払額(百万円)

契約債務

合計

1年以内

1年超3年以内

3年超5年以内

5年超

短期借入金

40,592

40,592

長期借入金

92,100

21,418

38,807

15,207

16,668

リース債務

3,557

864

1,287

531

875

上記の表において、連結貸借対照表の1年内返済予定の長期借入金は、長期借入金に含めています。

当社グループの第三者に対する保証は、関係会社の借入金等に対する債務保証です。保証した借入金等の債務不履行が保証期間内に発生した場合、当社グループが代わりに弁済する義務があり、2022年3月31日現在の債務保証額は、5,253百万円です。

c.財務政策

当社グループの2025中期経営計画(2022~2025年度)では、安全・防災・環境対応を最優先とし、同時に成長事業へ積極投資を行うとして、成長投資(1,150億円)、つくりかえる投資(920億円)、安全・防災・環境投資(330億円)の合計2,400億円を計画しています。

必要資金に関しては、内部資金または外部調達により資金を調達し、外部調達は、直接金融・間接金融を活用し、D/Eレシオは1.2倍未満、Net Debt/EBITDA倍率は4倍台の範囲になるように管理していきます。

また、マーケット環境の一時的な変化など、不測の事態への対応手段確保のため、当連結会計年度末において、複数の金融機関との間で合計17,500百万円のコミットメントライン契約を締結しています(借入未実行残高17,500百万円)。

 

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