課題

1 【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものですが、予測しえない経済状況の変化等さまざまな要因があるため、その結果について当社が保証するものではありません。

 

(1) 企業集団の経営戦略

当社グループは、「革新的価値の創造」、「未来と世界への貢献」、「環境・社会との共生」を経営理念とし、「領域をこえ 未来へ」向かって、中長期的な企業価値向上に取り組んでいます。

これらの経営理念の下、「森のリサイクル」、「水のリサイクル」、「紙のリサイクル」という、バリューチェーンを通じた3つの資源循環を引き続き推進し、事業を通じて社会に対し価値を提供していくことで、真に豊かな社会の実現に貢献していきます。また、企業存続の根幹である「安全・環境・コンプライアンス」を経営の最優先・最重要課題と位置付け、労働災害リスク撲滅、環境事故防止、企業としての社会的責任を果たすための法令遵守等、全役員・全従業員へ確実に浸透させる取り組みを続けていきます。

2021年度を最終年度とする中期経営計画では、「国内事業の収益力アップ」、「海外事業の拡充」、「イノベーションの推進」をグループ経営戦略の基本方針に据え、「持続可能な社会への貢献」を通じて連結営業利益1,000億円以上を安定的に継続するグローバルな企業集団を目指しました。

2021年度の経営目標として、「連結営業利益1,500億円以上」、「海外売上高比率40%」、「ROE10.0%」、「ネットD/Eレシオ0.7倍」を掲げて事業運営を行い、新型コロナウイルス感染拡大に伴う経済活動の停滞・回復の遅れ等はあったものの、「ROE10.0%」と「ネットD/Eレシオ0.7倍」は目標達成しました。

一方、当社グループは新型コロナウイルス感染拡大により多様化する消費構造やライフスタイル・働き方を見据えた事業構造改革、及び中期経営計画に基づいた企業価値向上施策を着実に進めました。国内では、需要の変化に応じた生産体制再構築、保有設備の有効活用等によって資本効率化を行うと同時に、有望事業に経営資源を集中し、収益力の強化に努めました。海外では、主に東南アジアのパッケージング事業において既存拠点からの有機的な拡大や事業・拠点間シナジーの創出を進めました。さらに、環境・社会ニーズに対応した新事業・新製品の開発促進と早期事業化を図りました。これらの諸施策により、2021年度は営業利益1,201億円と過去最高益を達成しました。

 


 

そしてこの度、さらなる発展を遂げるために、経営理念を踏まえ、当社グループのあるべき姿として、森林を健全に育て、その森林資源を活かした製品を創造し、社会に届けることで、希望あふれる地球の未来の実現に向け、時代を動かしていくという存在意義を新たに定義しました。

健全に育て管理された森林は、二酸化炭素を吸収、固定するだけではなく、洪水緩和、水質浄化等の水源涵養、防災という機能の他に、生物多様性や人間の癒し、健康増進等にも貢献する効果があります。そして、森林資源を活かした木質由来の製品は、その原料が再生可能であり、化石資源由来のプラスチック、フィルムや燃料等を置き換えていくことができます。当社グループは、森林を健全に育て管理し、その森林資源を活かした製品を創造し、社会に届けることで、地球の温暖化や環境問題に取り組み、希望あふれる地球の未来の実現に向け、時代を動かしていきます。

また、当社グループのあるべき姿の実現に向け、2030年までの長期ビジョンとして、「成長から進化へ」をグループ基本方針に据え、具体的な取り組みとして「環境問題への取り組み -Sustainability-」、「収益向上への取り組み -Profitability-」、「製品開発への取り組み -Green Innovation-」の三本柱を掲げました。「環境問題への取り組み -Sustainability-」では、石炭使用量ゼロ化に向けた燃料転換、再生可能エネルギーの利用拡大による温室効果ガス削減の推進や、植林地を取得・拡大し、有効活用することによる森林によるCO2純吸収量の拡大など、環境問題への対策を継続して進めていくことで事業の価値を高めていきます。「収益向上への取り組み -Profitability-」では、更なる最適な生産体制の構築等を通じ、既存事業を掘り下げ深めると同時に、海外パッケージング事業や、環境配慮型製品の拡販等、有望及び新規市場へ事業を伸ばしていくことで事業の価値を高めていきます。「製品開発への取り組み -Green Innovation-」では、環境配慮型素材や製品の開発、プラスチック代替品の商品化等、木質由来の製品を新しく世に出していくことで、事業の価値を高めていきます。これらの取り組みを通じ、2030年度までに売上高2.5兆円、及び2020年9月に制定した「環境行動目標2030」を達成し、「森林を健全に育て、その森林資源を生かした製品を創造し、社会に届けることで、希望あふれる地球の未来の実現に向け、時代を動かしていく」企業として、社会へ貢献してまいります。


 

この2030年までの長期ビジョンに基づき、その目指すべき姿の実現のためにこれからの3年間で取り組むべき戦略・目標を中期経営計画としてまとめました。この2022年度から2024年度を最終年度とする新たな中期経営計画では、以下の数値目標を設定しています。

 

2024年度経営目標

連結営業利益

連結純利益

海外売上高比率

ネットD/Eレシオ

1,500億円以上

1,000億円以上

(安定的に1,000億円

以上を継続)

40%

(将来的には50%を

目指す)

0.7倍

(2022年3月末0.7倍)

 

※ ネットD/Eレシオ=純有利子負債残高/純資産

 

 

具体的には以下の取り組みを行います。

 

(a) 生活産業資材

・産業資材(段ボール原紙・段ボール加工事業、白板紙・紙器事業、包装用紙・製袋事業)

海外では、引き続き東南アジア地域を中心にパッケージング事業の拡大を図ります。2021年10月にマレーシアで段ボール原紙の新マシンが稼働したことにより、東南アジアにおける原紙・加工一貫での事業展開を一段と推し進め、コスト競争力を強化していきます。川下の段ボール事業では、旺盛な需要に応えるべく、新工場建設やM&Aにより積極的に事業を拡大しています。2021年3月にはインドネシアでは初となる段ボール工場を稼働させ、ベトナム、マレーシアにおいても段ボール新工場の建設を進めており、2022年度上期から2023年度上期にかけて順次稼働予定です。インドでは2021年10月に段ボールの製造・販売を行うEmpire Packages社の発行済み株式の80%を取得しました。これにより、同社が持つ顧客基盤とその信頼関係を通じてインドにおける段ボール事業をより一層推進していきます。ニュージーランドでは、クライストチャーチ市にある段ボール工場の移転を行い、2021年11月以降順次稼働を開始するなど、事業基盤のさらなる強化に努めています。

国内では、原紙・加工一貫での生産体制を一層強化し、より品質の高い製品を持続的かつ効率的に供給する体制を整えます。2021年10月には王子製紙苫小牧工場において段ボール原紙マシンが稼働し、収益力向上を図っているほか、段ボール需要の伸びが特に大きいと期待される関東において、船橋地区では段ボール新工場を稼働させ、宇都宮地区では段ボール原紙生産工場敷地内へ段ボール工場の移転(2023年1月完成予定)を行います。さらに、段ボール・紙器・製袋といったあらゆる包装資材について、素材加工一貫の製造・販売・製品開発・提案等、グループ総合力を活かしたトータルパッケージングを推進しています。具体的な取り組みの一つとして、自動包装システム「OJI FLEX PACK’AGE」の提供及びその包装資材である連続段ボールシート「らくだん」の販売を行い、包装資材の削減や省人化、配送費削減など、お客様のニーズに合わせた包装ソリューションの提供を進めています。

また、世界的な環境意識の高まりに伴い、紙製品への一層の期待が集まる中、脱プラスチック製品の開発・拡販を一段と進めていきます。さらに、既存事業である液体紙容器についても国内外への販路をますます拡大していきます。

 

・生活消費財(家庭紙事業、紙おむつ事業)

家庭紙事業では、森林認証を取得した環境配慮型製品や「鼻セレブ」に代表される高品質製品を取り揃えた製品展開により、一層の「ネピア」ブランドの価値向上に努めています。関東地区の新加工拠点では、中国で製造した家庭紙原紙を加工しており、さらに自社物流倉庫の設置を決定しています(2022年8月稼働予定)。家庭紙加工拠点と配送拠点の一体化により関東圏での家庭紙・紙おむつ事業の拡大を図っていきます。環境配慮型製品の開発にも積極的に取り組んでおり、2022年1月には、クラフト紙で包装したティシュ製品「nepia krafco mini」を発売しました。また、2022年4月には、パッケージを紙素材に変更した「ネピeco」シリーズの新商品として、キッチンタオルとボックスティシュを発売しました。

新型コロナウイルス感染症の流行以降、自社開発医療用ガウン製品、マスク製品の提供を開始しています。2021年11月には「ネピア 長時間フィットマスク」シリーズを発売しました。中でも「ネピア 長時間フィットマスク ブロックフィルタープラス サージカル」は、医療用マスク規格において最高クラスであるクラスⅢに適合と審査されており、最高クラスの医療用マスクを市販品として発売することで、お客様に安心と安全をお届けしていきます。また、2022年3月には、「ネピeco」シリーズから、不織布に植物由来の素材を80%使用した「ネピア ネピeco バイオマスマスク」を発売し、2022年4月には、株式会社タイタンとコラボレーションした新しい包装形態のマスク「ネピア 鼻セレブポケットマスク」を発売しました。本製品は、マスク装着が日常化し、予備のマスクを持ち歩くユーザーが増えた一方で、一般に販売されているマスクのパッケージはどれもサイズが大きくかさばり、小さなカバンやポーチに入れて持ち運べないという不満を解消するアイデア商品です。当社グループは、新型コロナウイルス感染拡大の早期終息に少しでも貢献できるよう今後も努めていきます。

紙おむつ事業の子供用分野では、国内外で統一ブランドとして展開しており、2021年4月にリニューアルを行った「Genki!(ゲンキ!)」の販売を通して、紙おむつ事業においても「ネピア」ブランドの価値向上に努めていきます。マレーシアでは紙おむつ加工機の新設を含む生産体制再構築により生産能力を増強し、インドネシアでは合弁会社における現地紙おむつ工場での製造及び販売によって、コスト競争力の確保と事業基盤の強化を図り、周辺国を含めて一層の事業拡大を進めています。さらに、中国では品質と性能をより高めた「Whito Premium(ホワイトプレミアム)」の拡販を進めています。国内における大人用紙おむつについては、要介護・要支援人口の増加に伴い、成長が見込まれていることを受け、2022年9月に福島県で新たな加工機の稼働を予定しています。

また、2022年2月には、株式会社レデイ薬局と協業で、在宅介護向けECショップ「ネピア×くすりのレデイハートショップ 介護のしたく。おうち介護のかんたん通販」を開設しました。在宅介護が初めての方にも分かりやすいよう、病院や介護施設にも販売している大人用紙おむつに加えて、在宅介護に必要な製品を幅広くラインアップしています。2022年3月には、医療・福祉施設向け製品「ネピアテンダー」シリーズから、介護をする方・される方、双方にとって介護負担の軽減を目指した「ぬれタオル」、「おしりふき」、「おしり洗浄液 つるんとさん」、「介護用タオル おしぼりの素」を発売しました。引き続き、高齢化が進むわが国の介護現場が抱える課題を解決する製品の開発を進めていきます。

環境への配慮や品質を重視した製品展開をもとに、顧客ニーズ、時代の変化に応じ、「ネピア」ブランドの再構築を行い、さらなる新製品の開発、価値創出を目指していきます。

 

(b) 機能材(特殊紙事業、感熱紙事業、粘着事業、フィルム事業)

海外では、南米での旺盛な感熱紙需要に対応するため、ブラジルで生産能力をほぼ倍増とする設備増強・増設工事を実施、2022年1月から稼働しました。欧州においても感熱紙の設備増強(2024年1月稼働予定)を決定しました。東南アジア・南米・中東・アフリカ等の新興国市場の経済発展に伴って拡大する需要に応じて、これまで培ってきた「抄紙」や「紙加工(塗工・粘着)」、「フィルム製膜」といった当社グループの強みである基幹技術をベースに事業エリアの拡大を図ると同時に、既存拠点での競争力強化を目指していきます。

国内では、高機能・高付加価値製品の迅速な開発に継続して取り組んでおり、2021年12月には、従来両立が困難であった高い遮熱性と光線透過性を両立した自動車用ウィンドウフィルムの開発に成功しました。2022年2月には、従来は廃棄されていた繊維・端切れ・回収衣料等を紙原料として配合した循環資源混抄紙「MEGURISH(綿)」を開発しました。また、植物由来のセルロースとポリ乳酸を主原料とし、生分解性を有した不織布素材「キナリト」を開発しました。「キナリト」は、立体成型が可能で、プラスチック容器の代替やデザイン性を重視したアイテムへの展開が期待されることに加え、茶葉やコーヒーかす等の従来は廃棄されてきたバイオマスを配合することができるため、廃棄物削減等の新たな価値を提案することも可能です。さらに、機能材市場の需要構造の変化に応じて生産体制の継続的な見直しを行い、競争力・収益力を高めることで既存事業の基盤を強化しています。また、脱炭素社会への転換がグローバルに進行し電動車が急速に普及していることを受け、電動車のモーター駆動制御装置のコンデンサに用いられるポリプロピレンフィルムの生産設備を滋賀県に2基増設することを決定しています(2023年、2024年稼働予定)。これにより、生産能力は2022年2月時点に対し、倍増する予定です。

今後も環境配慮型素材及び製品の開発を進めるとともに、市場ニーズを先取りし、期待を超える製品やサービスを迅速に提供できるよう、新たな事業領域の拡大に積極的に取り組んでいきます。

 

(c) 資源環境ビジネス(パルプ事業、エネルギー事業、植林・木材加工事業)

パルプ事業では、パルプ市況の変動に耐え得る事業基盤を強化するため、主要拠点において戦略的収益対策を継続して実施しています。ニュージーランドのOji Fibre Solutions社では、操業の安定化及び効率化対策に取り組み、ブラジルのCelulose Nipo-Brasileira社では製造設備の最新鋭化等による継続的な収益対策を進めています。国内の溶解パルプ事業ではレーヨン用途向け製品に加えて、医療品材料や濾過材用途等の高付加価値品の生産を行い、収益力の強化を進めています。

エネルギー事業では、再生可能エネルギーの利用拡大を目指しさらなる事業拡大を進めています。2022年9月には、伊藤忠エネクス株式会社と合弁で建設しているバイオマス発電設備が徳島県で稼働予定です。また、エネルギー事業の拡大に合わせバイオマス燃料事業の強化を進めており、国内では未利用木材資源を活用した燃料用チップの調達増、海外では適法性と持続性を確保しつつ、インドネシアやマレーシアにおける燃料用パーム椰子殻の調達増に向けた取り組みを行っています。

植林・木材加工事業では、アジア・オセアニア・ブラジル地域を中心に持続可能な森林資源の確保及び生産能力増強に取り組みます。また、国内では建築資材分野での拡販等を通じ、収益力の強化を図ります。

 

(d) 印刷情報メディア(新聞用紙事業、印刷・出版・情報用紙事業)

新型コロナウイルス感染症の流行により、人々の生活様式が変化しており、企業においてもテレワークの活用等、デジタルトランスフォーメーション(DX)の取り組みが加速しています。これら事業環境の変化に伴うグラフィック用紙市場への影響を見極め、継続的な生産体制の再構築とコストダウンを徹底するとともに、キャッシュフローの増大を図ります。

具体的な取り組みとして、国内では、2021年10月には王子製紙苫小牧工場において新聞用紙マシンから改造した段ボール原紙マシン、2022年4月には王子マテリア名寄工場より同工場に移設した特殊ライナー・特殊板紙マシンが稼働しています。また、引き続き、三菱製紙株式会社との業務提携を進め、収益力の強化を図ります。

中国では数少ない紙パルプ一貫生産体制の強みを最大限に活かしたコストダウンを継続して行い、さらなる競争力強化に取り組んでいます。

 

(e) イノベーションの推進と持続可能な社会の実現に向けた取り組み

当社グループは、「環境・社会との共生」の経営理念の下、環境経営の推進を掲げ、環境と調和した企業活動を展開しており、また、「革新的価値の創造」を行うべく、柔軟かつ効率的な研究開発活動を充実させ、新たなニーズの探索に取り組み、イノベーションの推進による新製品・新事業の創出を進めています。これらの活動により、真の豊かさと持続可能な社会の実現に貢献することを目指しています。

次世代素材として幅広い産業に応用が期待されているセルロースナノファイバー(CNF)については、CNFの粘度適性を利用した生コンクリートの圧送先行剤用添加剤や、化粧品原料「アウロ・ヴィスコCS」の化粧品メーカーでの採用に加え、塗料向け添加剤としても採用されています。また、CNFシートの卓球ラケット本体への採用拡大等、多方面での活用が進んでいます。さらに、自動車部材への採用に向けた取り組みとして、ゴムや汎用樹脂との複合材料や、ポリカーボネートと複合した透明樹脂の開発を進めており、石油由来樹脂の使用量削減や、ガラス代替による軽量化・燃費向上への貢献を目指しています。今後も、様々な用途への活用を積極的に推し進め、CNFの普及に貢献していきます。

地球規模の課題である気候変動や海洋プラスチック問題への対応として、プラスチックに替わる紙パルプ製品の需要が高まっている中、環境配慮型素材・製品の開発に積極的に取り組んでいます。紙マーク対応製品であるマルチバリア紙「SILBIO(シルビオ)シリーズ」では、既存の「SILBIO BARRIER(シルビオ バリアー)」に、3製品をラインアップに加えることにより、従来品ではカバーできなかった遮光性、透明性、容易なヒートシール機能などを必要とする幅広い用途への対応も可能となりました。また、プラスチック代替として、マレーシアにおいてNestlé Group(ネスレグループ)製品のパッケージ素材に採用されました。今回でNestlé社への採用はタイ、日本に続き3か国目となり、より幅広い普及が実現しました。2021年12月には株式会社デルタインターナショナルの製品のパッケージ素材にも採用されるなど、多様な展開を進めています。他にも、滑らかな表面と自由な立体成形性が特徴のパルプモールド製品「PaPiPress(パピプレス)」においても様々な分野のお客様からの引き合いに対応し、2021年6月には全日本空輸株式会社(ANA)の国際線での機内使用紙コップ蓋に、7月には株式会社アルビオンの化粧品容器に採用されました。今後もさらなる展開を進めていきます。

プラスチック代替となるバイオマス素材の製造技術についても開発中です。石油資源を原料とする従来のプラスチックに替わり、植物を起点とした糖液(グルコース)から、乳酸やエタノールを製造し、さらにポリ乳酸やポリエチレンを製造する実証試験を進めています。これにより、化石燃料由来のCO2排出を抑制し、地球温暖化防止についても貢献することを目指していきます。また、当社グループの二軸延伸ポリプロピレンフィルム(OPP)製造で培った原料樹脂の混合技術と高度な製膜技術を駆使し、植物由来原料のポリ乳酸樹脂を配合した環境配慮型OPPの開発に成功しました。OPPはプラスチック製の包装材料として幅広く使用されていますが、原料に植物由来のポリ乳酸を配合することにより、石油由来のポリプロピレンの使用量を削減することが可能となりました。この製品は、日本有機資源協会のバイオマスマーク商品に認定され、2022年1月より販売を開始しています。今後はヒートシール性を付与した銘柄の開発など、ラインアップ拡充を目指していきます。さらに、当社独自の不織布製造技術を応用して開発したセルロースマットのサンプル提供も開始しています。このセルロースマットは、セルロース繊維とポリオレフィン系繊維が均一に分散されており、熱加工することでプラスチックより変形に強く、割れにくい樹脂成形体となります。絞りのある立体的な形状にも成形できるため、自動車部材などへの適用が期待されます。従来のポリプロピレン樹脂成形体との比較で、石油由来のプラスチック使用量を最大で約70%削減できます。今後も、私たちの暮らしに欠かせないプラスチック製品を石油由来から資源循環型の素材に切り替えていくことで、環境問題の解決へ貢献していきます。

木質主要成分の一つであるヘミセルロースの産業利用においては、化学修飾した「硫酸化ヘミセルロース」の医薬品化を王子ファーマ株式会社が進めており、動物用医薬品申請に向けた試験を開始しています。さらに、人体用医薬品の開発も並行して行っており、2023年度には非臨床試験への移行を目指しています。また、同じく木質由来の医薬品開発を進める株式会社レクメドとの共同開発を進めています。今後も、大学や製薬企業との連携を推進し、木質資源由来の医薬品開発を推進していきます。

水処理技術の分野では、当社グループが長年培ってきた技術や操業ノウハウを活かした幅広いニーズに対応できる水処理システムを提供し、工業・生活用水の製造設備や排水処理設備が国内外で採用されています。また、これらの設備にIoT技術を活用した遠隔監視機能を組込むことにより最適な水処理設備の運用のサポートを可能にしています。今後も、安定した技術を提供し限りある水資源を有効活用することで、持続可能な社会の実現を目指します。

当社グループは事業を通じて社会に様々な価値を提供していくことで、真に豊かな社会の実現に貢献していくとともに、常に時代のニーズを先取りし、イノベーションに挑戦して、持続的に成長する企業グループを目指していきます。

 

(2) サステナビリティについての取り組み

当社グループは「環境・社会との共生」の経営理念のもと、国内外に保有する広大な社有林の多方面での活用、各製造現場における環境負荷低減策の追求などを通じ、サステナビリティについての取り組みを推進しております。また、 2003 年から国連グローバル・コンパクトに参加して「人権・労働・環境・腐敗防止」に関する 10 原則を支持し、日々の事業活動における実践に努めております。

当社グループの具体的な取り組みについて環境及び社会に関する事項に整理し、以下に記載します。

 

①環境に関する事項

(a) 気候変動への対応

当社グループは、気候変動問題を経営上の重要課題と認識しており、この問題に積極的に取り組むことにより、事業活動の持続可能性を高めることができると考えています。

この方向性を明確に示すため、当社グループが目指す姿「ネット・ゼロ・カーボン」を中核とする、 2050 年に向けた「環境ビジョン 2050 」と、そのマイルストーンとして「環境行動目標 2030 」を 2020 9 月に制定しました。

「環境ビジョン 2050 」の中核は、海外植林推進と森林保全により「森のリサイクル」を進め、二酸化炭素(CO2)の吸収・固定を図り、また、エネルギー消費の効率化、再生可能エネルギー利用の拡大など生産活動による温室効果ガス排出量の削減等により、 2050 年のネット・ゼロ・カーボン(温室効果ガス(GHG)排出の実質ゼロ)を目指すものです。

その過程として、GHG排出量を 2030 年度に 2018 年度対比で 70% 以上削減する目標を設定し、併せて、資源の有効活用の推進や様々な環境負荷の低減、生物多様性の維持保全等について、総力を挙げて取り組み、持続可能な社会の実現に貢献してまいります。

 

<TCFDへの対応>

当社グループは、各国の金融関連省庁及び中央銀行からなる金融安定理事会により、気候関連の情報開示及び金融機関の対応をどのように行うかを検討するために設置された、気候変動関連財務情報開示タスクフォース(TCFD: Task Force on Climate-related Financial Disclosures )の提言に賛同しており、TCFDの提言に基づいた「気候変動が事業に与えるリスク・機会」について、ガバナンス・戦略・リスク管理等を俯瞰した情報開示を進めています。

 

(ⅰ) ガバナンス

サステナビリティへの取り組みについて、企業に対して期待される役割と果たすべき責任は増しており、当社グループではグループ全体でサステナビリティへの取り組みをさらに推進することを目指し、グループCEOを委員長とするサステナビリティ推進委員会を新たに設立しました。サステナビリティ推進委員会では、気候変動対策や持続可能な森林経営、サプライチェーン対策、環境負荷の低減、人権の尊重、インクルージョン&ダイバーシティの推進等のサステナビリティに関する重要課題や推進状況を協議し、必要に応じてグループ経営会議へ付議します。付議された重要事項はグループ経営会議の審議を経て、取締役会において執行決定を行います。また、サステナビリティ推進委員会の直下に、サステナビリティ推進本部を王子ホールディングス株式会社に設置しました。サステナビリティ推進本部ではグループ各社の取り組みを統括管理し、グループ一体となったサステナビリティに関する取り組みを推進していきます。

 

 

 ■サステナビリティ推進体制


(ⅱ) リスク管理

当社グループでは、取締役会が整備・監督するリスク管理体制の下「グループリスク管理基本規程」を定め、コーポレートガバナンス本部がグループ全体の共通リスクを一元管理しています。リスクの類型によって管掌役員と所管部門を明確化し、経営層への確実な伝達と迅速かつ的確な対応を可能としています。このような体制の下、気候変動に関するリスクについても「グループリスク管理基本規程」に基づき、当社グループの事業活動に不確実性や経済損失をもたらす類別されたリスクについて、サステナビリティ推進本部がグループ各社を統括し、グループ横断的なリスク管理を行っています。

 

(ⅲ) 指標と目標

「2050年ネット・ゼロ・カーボン」を掲げた環境ビジョン2050、そのマイルストーンとして「2030年温室効果ガス(GHG)排出量70%削減(基準年2018年比)」を2020年9月に策定しました。目標の達成に向けて、サステナビリティ推進本部でグループ各社の取り組みを統括し、推進していきます。また、その他にも石油由来プラスチック代替のバイオマス原料、新素材の開発、製紙技術を応用した水処理事業やバイオマス発電事業にも力を入れていきます。


 

 

(ⅳ) リスクと戦略・対応策

当社グループでは、気候変動に関する重要なリスクについて、2℃シナリオによる移行リスクと4℃シナリオによる物理的リスクを整理し、下表の通り抽出しました。移行リスクにおけるGHG排出量の規制強化、化石エネルギー価格の上昇によるリスクは、従来より進めている省エネルギーの徹底・強化、石炭使用量の削減、持続可能な森林経営等により、事業へのインパクトの軽減を図っていきます。物理的リスクにおける異常気象の激甚化等による水害、異常乾燥によるリスクは、従来より継続しているBCPの策定による事業継続性への対応、原材料調達の多角化、災害情報の水平展開による類似災害予防対策の実施等により、事業へのインパクトを低減していきます。

 


 

(b) 持続可能な森林経営の実践

森林は木を植え、育て、伐採した後、再植林することによって再生産できる、持続可能な資源です。 当社グループは、「木を使うものは、木を植える義務がある」との理念の下、木を育て、森を受け継ぎ、現在では国内外に約58万ヘクタール(ha)もの広大な社有林を保有しています。その内訳は、環境に配慮しつつ、木材生産を主目的とした生産林が約45万ha、生物多様性や流域保全を主目的とした環境保全林が約13万haです。「環境行動目標2030」では、2030年度までに現在より14万haの森林面積を増やすことを目標としています。

植林事業開始当時の目的は製紙原料の安定確保でしたが、時代の変化に伴い、森林は持続可能な資源として見直され、その利活用に対して、さまざまな分野から注目が集まっています。さらに近年は、“資源”としてはもちろん、国土や生活環境の保全、水源の涵養、生物多様性の保全、そしてCO2の吸収・固定など、森林が持つ“機能”にも、多くの期待が寄せられています。

当社グループでは、事業と直結した持続可能な森林経営を実践するとともに、脱炭素社会の実現に向けて、森林資源の価値を高め、さらなる社有林の拡大も視野に歩みを進めています。

なお、 2022 4 月、当社グループが所有・管理する森林に関する「王子グループ持続可能な森林管理方針」を定め、また、 2030 年までに陸と海の 30 %以上を健全な生態系として効果的に保全するための取り組みを進める「生物多様性のための 30by30 アライアンス」に参加しました。

 

(c) 環境配慮型素材・製品の開発

地球規模の課題となっている気候変動問題や海洋プラスチックごみ問題への対応として、プラスチック代替製品へのニーズが急速に高まっています。これを受け、当社グループでは環境配慮型素材・製品の開発に積極的に取り組んでおり、未来を担う「グリーンイノベーション」に注力しています。

プラスチックフィルムに替わる紙製パッケージ素材やプラスチックのように自由な立体成形が可能なパルプ 100 %のパルプモールド製品、植物由来の新不織布素材などを開発しプラスチックの代替として様々な引き合いに対応しています。

また、プラスチックに替わるバイオマス素材の製造技術についても開発を進めています。次世代素材として幅広い産業に応用が期待されているセルロースナノファイバー(CNF)では、自動車部材への採用に向けた取り組みも進めており、石油由来樹脂の使用量削減やガラス代替による軽量化・燃費向上への貢献を目指しています。

私たちの暮らしに欠かせないプラスチック製品を石油由来から資源循環型の素材に切り替えていくことで、持続可能な社会の実現に貢献していきます。

 

 

(d) バリューチェーンを通じた資源循環

当社グループの基盤となるサステナブル・ビジネスモデルは、

・木を育て収穫し、また木を植えるという持続可能な森林経営を実践する「森のリサイクル」

・製造工程における水の循環・再利用による水使用量削減、排水浄化に取り組む「水のリサイクル」

・紙製品の回収と再資源化を図る「紙のリサイクル」

という3つのリサイクルに支えられています。このモデルをグローバルに展開することにより、私たちの事業そのものが、持続可能な社会の構築に繋がるよう、取り組んでいます。

 

②社会に関する事項

(a) 職場の安全衛生の確保

当社グループは、「安全・環境・コンプライアンス」が最優先の方針のもと、労働安全衛生について、王子グループ企業行動憲章や行動規範に定めています。グループ従業員一人ひとりが責任を認識して実践・遵守し、労働者の安全と健康の確保、快適な職場環境の形成の促進、より良い職場安全風土の構築等、当社グループで働く仲間が、安全な環境で安心して働くことができる企業であるよう、取り組んでいます。

グループ各社は、毎年策定される王子グループ安全衛生推進計画に基づき、各社・各事業場の安全衛生推進計画と具体的な活動計画を策定し、グループ従業員だけでなく、協力会社や臨時入構業者が一体となって、労働災害撲滅を目指した活動を推進しています。

新型コロナウイルスに対しては、主に下記を実施しています。

・マスクの着用、こまめな手指の消毒、出社時の検温の徹底

・在宅勤務、時差出勤、フレックスタイム制等の活用

・座席や会議室等へのパーテーションの設置

・事業所内共用部分の定期的な消毒

・本社地区等におけるワクチン職域接種

・ワクチン接種及び副反応発生時の特別休暇の導入

 

(b) 人権の尊重

当社グループは、「人権を尊重する責任は、重要なグローバル行動基準」と考え、人権尊重の取り組みをより一層推進・実践するため、 2020 年8月に「王子グループ人権方針」を制定しました。方針周知に向けて、「王子グループ人権ハンドブック」の作成、新任管理職研修等における人権教育などを実施しており、今後も本方針の周知徹底を図っていきます。 さらに、2022年度に「人権デュー・ディリジェンス」を開始し、人権尊重に係る企業責任を履行してまいります。

 

(c) 人材に関する取り組み

企業価値の向上を目指すには、社員一人ひとりが価値観の多様性と発想の柔軟性を身につけ、能力を高めていくことが重要と考えています。当社グループは、グローバル企業として「領域をこえ未来へ」成長するべく、「企業の力の源泉は人材にあり」という大原則のもと、王子グループ共通の人材理念に基づき、企業価値向上のための人材戦略を進めています。

取り組みの概要は次のとおりです。

・人材育成

経営戦略の完遂に向けた人材の育成、特にグローバル人材育成に注力しています。

・働き方改革・健康経営

総労働時間削減や業務効率化に取り組むほか、従業員の健康に配慮した健康経営にも力を入れています。

・インクルージョン&ダイバーシティ

背景の異なる全ての従業員が安心した状態でその能力を最大限発揮できる環境づくりに向けて、ダイバーシティ推進方針に沿って取り組みを継続しています。

 

(d) 地域・社会への貢献

当社グループでは世界中に広がる拠点それぞれで、「未来と世界への貢献」、「環境・社会との共生」といった経営理念に則した、文化・スポーツの推進など様々な社会貢献活動に取り組んでいます。

tremolo data Excel アドインサービス Excel から直接リアルタイムに企業の決算情報データを取得

お知らせ

tremolo data Excel アドインサービス Excel から直接リアルタイムに企業の決算情報データを取得