(1) 事業の概況
当社グループは、「世界を便利に、人々を幸せに」をミッションとし、独自開発のAIアルゴリズムによる画像・動画解析と端末処理(エッジコンピューティング)技術を活用した「AIエンジニアリング事業」を展開しております。
なお、当社グループは、AIエンジニアリング事業の単一事業であります。デジタルトランスフォーメーションの潮流が加速し、さまざまな分野でデジタル化が進む中、当社グループも新しい社会の形、人々の働き方の変化に合わせてサービス分野を広げ、スマートシティを形成する多様なサービスを顧客企業や地方自治体、官公庁へ提供してまいりました。「人流・防犯」、「駐車場・モビリティ」、「サイネージ広告」、「在宅勤務支援」、「ファッショントレンド解析」をAIメディア、デジソリューション、ライフスタイルの3つのサービスドメインに分類し、効率的にサービス開発・営業活動が行える体制を整えております。
当社グループは、技術分野として、独自の深層学習技術のライブラリを開発し、当社グループのAIエンジニアリング事業に活用しております。深層学習の開発にあたっては、汎用のオープンアルゴリズムを転用せず、独自の学習データを収集して構築した高い検出精度の学習モデルを使用しております。また、当社グループは、光学分野の専門家等を有しており、画像の認識・解析の際に、カメラ特性等を踏まえた独自の前処理、後処理による精度の向上、新しい学習データによるAI技術の使用目的に合わせたカスタマイズを行うことができます。当社グループでは、深層学習における学習データ準備に深い知見をもつアノテータチームがサービス開始後もAIの精度の継続的な向上を進めております。
例えば、ファッショントレンド解析関連サービスでは、ファッションコーディネート画像を学習データとして独自に収集・分類し、98%注を超えるファッションアイテムの検知を実現しております。
学習データの仕分けに用いる独自のソフトウエアを開発・保有しており、数百万枚規模の学習データ分類を用いた学習モデルを数か月という短期間にて実装する能力を保有しております。また、実際の画像を基にコンピュータ・グラフィックスを活用した学習モデルの開発も行っております。開発した学習モデルは、さまざまなサービスに活用・転用でき、新規サービス開発期間の短期化や、AIモデルの継続的な精度向上、スケーラビリティをもった事業開発に直結しております。
(注)人物の全身が映った100枚の写真を対象に行ったファッションアイテム検知の精度評価において、写真に写っていた424のファッションアイテムうち416アイテムを正しく検知し、正解率は98.1%となりました。
当社グループは、端末処理(エッジコンピューティング)による深層学習モデル(エッジAI)の低コスト活用を進めております。これまでのAI解析では、動画や写真、音声やデータといった容量の大きな情報を、通信網を用いてサーバールームにアップロードし、サーバーで大規模処理を行う必要がありました。こうしたサーバールームの活用は、画像を送受信する通信網やサーバーへの負担に加え、通信料やサーバールームの運用コスト、電気代などが大きく膨らむことから、AIサービスが広く社会に浸透するための課題となっていました。
エッジAIでは、画像を撮影しながらカメラなどに搭載したエッジコンピュータ内でAI解析が行われ、解析後のメタデータ(解析結果を記した文字データ)のみが必要に応じてサーバーに送信されることになります。そのため、容量の大きい動画そのものを通信を使って送受信する必要がなく、大規模なGPUサーバーを使う必要がないため、低コスト化・省電力化が実現できます。また、携帯電話が使える程度のインターネット環境と電源さえあれば、当社のAIを搭載した機器の設置ができることから、拡張性の高いサービスを提供できます。
エッジコンピューティングを活用することで、個人情報を含む人物の顔画像等をサーバーに送ることなく解析できることから、個人情報やプライバシー保護の面においても優位性の高い技術と言えます。
当社グループのAIソフトウエアはデバイスとプロセッサ種別に横断的に搭載することが可能です。当社グループは、商用基準を満たすパッケージを用いた開発の経験を有しており、社会インフラとして設置できる信頼性を担保した製品を開発することができます。また、内蔵のメモリに負荷をかけない最適化されたアルゴリズムを実装する開発に深い知見を有しており、スマートフォンにもこれまでになかった高度なAIを組み込むことが可能です。
当社グループはエッジコンピューティングを積極的に用いることにより、保有する深層学習モデルの産業応用を加速すると同時に、省電力化といった環境負荷低減やSDGs(持続可能な開発目標)、プライバシー保護に配慮した産業発展を支援しております。
AIとエッジコンピューティングの親和性の高さは、従来から認識されていましたが、エッジコンピュータに深層学習モデルを搭載するには、モデルの軽量化が必須要件でした。オープンソース化された汎用ライブラリを組み合わせて開発した深層学習モデルでは、メモリサイズが大きすぎることから、エッジコンピュータ上で動かすためには独自に軽量化したモデルを開発する必要がありました。当社グループは、独自に開発した軽量・高精度な深層学習モデルと、エッジコンピューティングの親和性を最大限に活かし、拡張可能性を担保した深層学習の開発と事業化を進め、AIサービスの活用場面を広げてきました。当社グループは、エッジAI技術によるビジネス創出基盤を持つAIエッジプラットフォーマーとして事業を推進しております。
当社グループが現在保有している深層学習の学習モデル及び開発・運用支援ツールは、以下のとおりとなっております。
(4) 展開するAIサービスと販売形態
当社グループは、独自に開発した多数の深層学習モデルを用いて事業を創出し、AIサービスを提供しております。「AIメディア」ドメインでは、AIライセンス供与に対する対価の他、当社グループがブランドとして提供するマンションサイネージ広告サービスにおいては、広告枠の販売による対価を受領しております。「デジソリューションズ」ドメイン、「ライフスタイル」ドメインにおいては、ライセンス供与、システム開発及びAI搭載機器の設置・販売・メンテナンスに係る対価を受領しています。
① AIメディア
2021年11月1日よりハイグレードマンションを中心にサイネージ広告事業を展開する株式会社フォーカスチャネルを完全子会社化し、グループに取り込みました。これを契機に、自社ブランドとしてのサイネージ広告事業の展開を加速してまいりました。
(i) 本サービスにおける当社グループの位置づけ
当社グループは、AIカメラを搭載したサイネージを無償でマンションに設置し、サイネージで配信する広告枠を販売いたします。広告枠の間にエンターテイメント性の高い情報などを配信することで、自然と目を引く広告メディアを目指しております。また、AIサイネージの隣に紙のチラシを置くことができるラックも設置し、デジタルと紙媒体の両面でマーケティングが打てる仕組みとなっております。
AIサイネージはマンションの入り口付近やエレベーターホール、コンシェルジュデスクの脇など、住民の方が必ず通る動線上に配置しており、一定以上の視認回数を確保できるものとなっております。
(ii) 本サービスの特徴
本サービスで使用するサイネージ機器では、従来品では取得できなかったものを含め、年齢・性別の推定、視線の検知が可能です。コロナ禍でも通行人数に大きな差が出にくいマンションエントランスにAIサイネージを設置することで、安定的な広告視聴回数を維持できるのが特徴です。設置場所となるマンションにも施設が自由に情報配信できる枠を無償で提供しており、これまでは紙で掲示していたマンション側のお知らせをオンラインでサイネージに配信することができるようになります。マンション共有スペースの景観改善と管理業務のデジタル化を推進するツールとして導入が進んでいます。
② デジソリューションズ
(I) 駐車場・モビリティ(デジパーク)
当社グループは、AI画像解析技術及びエッジ処理技術を応用した駐車場サービスを展開しております。当社グループ技術を活用すると駐車場全体の満空状態だけでなく、具体的にどの車室が空いているのかといった詳細情報を限られた台数のカメラを設置するだけで把握することができます。デジパークを導入した商業施設では、屋外の複数駐車場と屋内立体駐車場の満空状況をリアルタイム(5分間隔)でウェブサイト上で更新しています。また、電光掲示板を活用して現地での満空表示も実施しております。
また、従来のOCR(光学的文字認識)技術に変わる新しい技術を開発し、ナンバープレートを100%に近い精度で検知するライセンスも保有しております。事前登録などとあわせてパーキングチケットのチケットレス化への取組みも強化し、精算時の混雑の緩和による快適なパーキング運営の実現を目指しています。
(i) 本サービスにおける当社グループの位置づけ
当社グループは、AIカメラに搭載するAIソフトウエアの提供・機能更新、データレポーティングを行います。ショッピングモールの大規模駐車場や、物流施設のトラックバース等で導入が進んでいます。AIカメラとその周辺機器を一式セットで提供するユニット販売が主流となっています。電気機器の設置工事を受注できる体制を整備するため、2021年10月1日ニューラルエンジニアリング株式会社を設立し、一般建設業許可(電気通信工事業)を取得いたしました。これによりAIライセンスの提供だけではなく、機器の設置と保守運用まで一気通貫でサービスを提供できるようになりました。
(ⅱ) 本サービスの特徴
屋外の大規模駐車場から屋内の小規模な駐車場までさまざまなタイプの駐車場で導入いただけるサービスです。1台のカメラで最大200車室の満空を解析することができるのが最大の特徴で、駐車場運営の効率化を実現します。
本サービスで使用するAIカメラは、多くの数値・指標をリアルタイムで取得するという非常に高度な機器ではあるものの、設置においては、設置作業者に特別な技術を要求することはなく、設置する機器の画面に表示される指示に従って数分程度の簡単な作業を行うだけで設置を完了できるようにしております。通常、高機能機器は、その管理運営面においても相応の技術を要求するケースがあり、事業展開の大きな課題となりますが、本サービスで使用する機器は、オペレーションの簡易さとして設置作業の難易度が低いという特徴を有しています。
・エッジ処理技術の活用
取得する数値・指標の判定等の全てを機器の端末内で完結させるエッジ処理技術も大きな特徴となっております。通信負荷が低く長時間にわたり安定稼働ができ、また、データ送信などに有線回線が不要なため、AIカメラから外部に出る配線は電源コードのみで、機器の出荷・納入、設置の手軽さにつながっています。
(II) 人流・防犯(デジフロー)
新型コロナウイルス感染拡大により、人の混雑や交通渋滞を回避できる都市モデルへの社会的ニーズが高まっています。そうした要請に応え、当社グループサービスを観光地での過観光回避や人が密集しやすい場所の防犯対策等での当社グループサービスの活用が進んでいます。
また、地方創生の枠組みでは、道の駅などの観光施設の活用の見える化や効率的な施設運営に活かすサービスも徐々に広がっています。
具体的には、官公庁や地方自治体、教育機関等と連携して、国内複数拠点の街づくりプロジェクトの実証実験等に参加しております。
(III) 在宅勤務支援
新型コロナウイルス感染拡大を受けた緊急事態宣言を受け、国内外の多様な事業者において、従業員の在宅化が急速度で進みました。そうした新しい働き方を支えるソリューションとして在宅勤務支援「リモデスク」を開発し、特に、個人情報を多く扱うために在宅勤務が難しいとされていたコールセンター中心にサービスを提供しています。エッジAIの優位性を活かし、個人情報保護やプライバシーに配慮しながら自宅でも高い情報セキュリティを維持できるインフラを整えることで、コールセンターの在宅化を推進するツールとして活用の場を広げております。
2021年8月にはSaaS版をリリースし、小規模な事業者でも導入しやすいサービスとして、コールセンターだけではなく、在宅勤務中の従業員の勤怠や健康管理にリモデスクを活用したい事業者への導入が進んでおります。
当社グループは、本サービスにおいて、ユーザーが使用する一般的なコンピュータに内蔵されたカメラとCPUを使って画像を解析しております。コールセンター内で問題行動とされる、スマートフォンを使った画面撮影や、本人以外の第三者のなりすまし、画面の覗き込み等の行為が行われた場合に、それを検知し、監督者に通知するAIソフトウエアを提供しております。
(ⅱ) 本サービスの特徴
本サービスはエッジAIを活用することにより、勤務中の画像を通信し続けることなく、問題行動が起きた場面だけが通知される仕組みになっており、働く人のプライバシーに配慮しながら、機密性の高い情報を扱う方の在宅勤務を可能とするサービスです。顧客側では特別な機器の導入の必要がなく、容易に導入できるのも特徴の一つです。
③ ライフスタイル
ファッショントレンド解析
当社グループは、拡大する余剰在庫や商品値引、並びに焼却廃棄等の社会問題に課題認識を持ち、AIを通じた業界再生やSDGs(持続可能な開発目標)の観点での持続可能性の向上、人の感性に頼った手作業からの進化を目指しています。また、ECサイトでのレコメンド機能の拡充やサイネージを活用した実店舗のデジタル化等ファッショントレンド解析サービスから派生したシステム等の開発により、アパレルメーカーの業務効率化、デジタル化に資するサービスを提供しております。
当社グループは、本サービスにおいて独自の画像解析エンジン(特許 第6511204号)を用いて、SNSなどにおける2,500万枚以上のファッションコーディネート画像をAIが解析し、ファッションのアイテム(シャツ、ポロシャツなど)、色彩(ホワイト、グレーなど)、シルエット(半袖、長そでなど)、素材感(ナイロン、レザーなど)などをビッグデータ化します。
本サービスのユーザーとなるアパレル企業は、そのデータ解析結果により、それまで属人的な勘と経験によって断定されていたファッション特性を定量化し、MD(商品企画)業務をデジタル化・強化しています。
AIによるファッション解析を行うことで、トレンドに合わせた商品投入計画の策定に活用され、プロパー消化率(定価で販売した割合)の向上に寄与するサービスです。直近のトレンドデータに基づき、値引き判断を最適化することもできると考えています。結果として、投入商品と在庫水準が最適化され、営業利益率の改善につながると考えています。当社グループのサービスを活用して企画された商品は大手アパレルブランドをはじめ、全国の店舗で販売されています。当社グループのサービスを導入している顧客企業の一部ではプロパー消化率を改善する成果があがるなど、粗利改善に貢献しています。
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