(1) 時代認識
ウクライナ情勢が混迷を深め、目下の世界情勢の大きな波乱要因となっています。世界のパワーバランスが方向感を失い、資源エネルギー・食糧の危機、サプライチェーンの混乱など社会の構造を揺るがしています。コロナパンデミックが長期化し、ウクライナ戦争が加わりました。まったく先の読めない時代に突入しています。想定外をマネージする感性を高め、環境の変化に即応できる経営の「Adaptability」力が試されると考えております 。
以上のように、経済情勢の先行きは非常に不透明感が強いものの、科学とテクノロジーの進化、イノベーションが加速しており、社会は環境にやさしい健康で安全な暮らし、サステナビリティを可能にする新常態に向かっております。
(2) 当社の存在意義(Purpose)~カガクでネガイをカナエル会社・カネカ~
当社は、世界がこのようなサステナビリティの実現をめざす動きは、「人間性の回復(ルネッサンス)」を求めているものと考えています。社会の潮流を構造化し、「地球環境・エネルギーの危機」「食の危機」「健康(豊かに生きる)の危機」の3つをサステナビリティのクライシスと考え、事業領域としてきました 。
当社は「技術革新とグローバル展開を通して、革新的な素材開発によるソリューションを提供することにより、社会的課題を解決し、サステナブルな社会の構築に貢献する」ことを存在意義と定義しております。
地球環境を守り、人間性の回復に貢献し「命を育む社会を支える」健康経営を進めてまいります 。
(3) 経営方針、経営戦略
当社は、ESG経営を「世界を健康にする健康経営-Wellness First」と定義し、全ての活動のプラットフォーム(憲法)とします。当社の健康経営は人間賛歌の経営です。価値あるソリューションをグローバルに提供することを通じて世界の人々の人生と環境の進化に貢献し、存在感のある企業として成長し続けます。
・これらの取り組みを強化・加速させるべく、2022年4月1日付で、新たにTask Force「Sustainability(SX)本部」を立ち上げました。
・多様な異種技術を組み合わせることで価値あるソリューションを創り出す「ハイブリッド経営」に基づき、変革と成長を加速します。
① サステナブルをめざす健康経営(ESG経営)
ⅰ.カガクでネガイをカナエル会社~カネカは実験カンパニー~
化学という「不思議の海」の冒険を通して、環境負荷を低減し人々の人生に役立つ会社になります。
ⅱ.ソリューションプロバイダー
「経営システムTransformationのトリプルPackage」に基づいてソリューションプロバイダーの道を進みます。
図1、2
ⅲ.実験カンパニー
(大量に試していいものだけを残す)熱い「実験カンパニー」を行動指針とし、新陳代謝を繰り返しながら新しいポートフォリオに変革する「Value Creating Company」を目指します。
② 選択と集中
ⅰ. Domain
3つのクライシス(「環境・エネルギー」「食糧」「健康と豊かな暮らし」)をDomainとしたポートフォリオ変革を急ぎます。
ⅱ.R&B(リサーチ&ビジネス)
革新的な素材開発(Breakthrough Technology)により社会課題を解決し、サステナブルな社会の実現に貢献します。
ⅲ. コア事業群の強化
キャッシュを生むコア事業群を強化しながら、(未来への投資である)研究開発活動に経営資源を積極的に投入します。
③ 経営基盤の強化
ⅰ.新規事業の社会実装化をスピードアップ
スケールのあるテーマに「選択と集中」させ、R&Bの生産性を向上させます。
ⅱ.業務の変革とDX
時代に合致する新しい制度を導入し、(AIではできない)人間的価値を回復させる(ルネッサンス-人間性の回復) Work Culture創出に取り組みます。一人ひとりが価値を生む生産性の高い組織・人づくりを実現します。
ⅲ.カネカ「1on1」
狙いどおり、仕事と人の成長を両立させる制度として運用を図ります。
ⅳ.オープンイノベーション
アライアンス、M&Aを積極的に実行し、事業ポートフォリオの変革と非連続な成長を加速させます。
図1 カネカタワー
・ 当社の経営モデルの基本構造であり、当社の創業以来の持つ強み(DNA)を活かし、「事業構築力(内なる力)」と「市場開発力(外なるPower)」を進化させ、「現場力」がその実行を支え、常に時代の変化に応じて経営革新を自律的に行えるようにします 。
・ 自治機能を高める2つのWork Shop(変革と成長のトライアングル、カネカ1on1)を通して現場をInspireします 。
図2 経営システムTransformationのトリプルPackage
・変革と成長を実現するための、ビジネス思考のプラットフォームです。経営のソフトウェアとハードウェアをドッキングすることにより、実効性を上げます。
・時代認識/仕掛け/成果のトライアングルは、経営計画のなかで、どのように目標を設定し、技術革新を含めた達成のための仕掛けを整え、スケール・スピードを意識したうえで、いったい何を成果として位置付けるのか。経営計画の骨格そのものとなります。
(4) ポートフォリオの変革
① Earthology Chemical Solution
化学素材の無限の可能性を引き出し、持続可能型社会を支え、地球環境と生活の革新に貢献します。
・ 生分解性バイオポリマー「Green Planet® 」は今後大型新規事業化を目指します。PV & Energy management SVはカーボンニュートラル社会への貢献を目指します。
・Vinyls and Chlor-Alkali SV、Performance Polymers(MOD) SV、Performance Polymers(MS) SV、Foam &Residential Techs SV、Performance Fibers SVについては、ユニークな特性を生かし世の中の変化に対応した製品群のラインナップを急ぎます。
・E & I Technology SVは5Gに代表されるAIやIoTなどの社会の急速なデジタル化、スマート化、デバイスの高機能化への動きを先取りし、ソリューションを提供する素材開発に注力していきます。
② Active Human Life Solution
化学を軸に、食と医療を一つにとらえ、人々に健康で活力のある人生をもたらす革新的なソリューションを提供します。
・Foods & Agris SVはおいしさに加え食を健康の原点とする食生活の質的向上に貢献する素材を提供してまいります。乳製品など新規事業の本格事業化、サプリメントとの協業によるNutrition価値を追求した製品を開発してまいります。
・Medical SVはユニークな医療デバイスの市場開拓を進め、最新鋭医療機器工場の新設により医療器事業のグローバル展開を加速してまいります。
・Pharma & Supplemental Nutrition SVはジェネリック化する医薬品市場において新しい中間体・API製品を開発するとともに、カネカユーロジェンテックを中心としたワクチンや感染症医薬品などバイオ医薬の成長を実現します。還元型コエンザイムQ10や乳酸菌を柱とするサプリメント素材の多様化・品揃えを進めてまいります。
(5) 経営施策
① R&B(リサーチ&ビジネス)戦略
サステナブルな社会の実現に向けて、当社は多様な事業、多様な技術、Only One、グローバルNo.1の技術から生み出したオリジナル製品により貢献してまいります。
a.研究開発に積極的に資源投入を行い、新事業創出に向けての研究テーマの「選択と集中」を行います。
b.自社の多様な技術に加えオープンイノベーションやM&Aにより、世の中の最先端技術を融合させ、失敗を恐れず「実験カンパニー」としてチャレンジを続けます。
c.新しい製品の創出と社会実装により、付加価値の高いポートフォリオ変革を実現します。
② モノづくり戦略(R&B+P)
世界がサステナブル社会への潮流を加速するなか、私たちの技術を製品化し、市場に広く採用されることで社会課題の解決に貢献する(市場の高い評価を得る)ことが、研究開発型企業としての当社のモノづくりの理想像と考 えています。その実現に向け、「研究」、「製造」、「販売」それぞれの組織と「顧客・市場」をつなぐネットワーク的企画機能によりR&B+Productionを強化することに取り組んでまいります 。
③ グローバル戦略
ユニークな技術と製品を世界の隅々にまで届け、人の命や社会課題を解決する企業を目指しています。地域に根ざした活動を推進していきます。海外事業は文化の移植です。化学に国境はなく、文化の違いを乗り越えた現地発信(グローカル)にフォーカスしていきます。ボーダレスに価値あるソリューションをタイムリーに世界の市場に提供し、グローバルに存在感ある企業を目指します 。
④ 人材戦略
・ 「Human Driven Company」こそ当社の経営思想の背骨であり、仕事を通じて人の成長を企図する「Work Shop」を制度化したものが「カネカ1on1」です。「カネカタワー(図1)」においても、経営革新力を支える「実験カンパニー」の背骨であります 。
・ 「人の成長」と「仕事の成果」はコインの表と裏であり、「カネカ1on1」を通じて人材育成と目標達成を同時に実現することを目指しています 。
・ 多様な事業を成長させるには、人材の多様性は欠かせません。年齢、性別、国籍などを問わず意欲の高い多様な人材に挑戦の場を用意しています。女性の活躍推進に特に力を入れており、採用の拡大や登用を重点的に進めています 。
⑤ コーポレートガバナンスの充実
当社は、社員一人ひとりの心と体の健康と、企業活動や姿勢が健全であるという「健康経営」に取り組んでいます。重要なことは、経営があるべき社会に熟慮し、姿勢を正して行動する企業統治力、コーポレートガバナンスの強化です 。
パラダイムチェンジが進み、事業が拡大するなか、執行機能の強化が課題になります。イノベーションを行動の羅針盤“Scope of compass”にして未知を開くESG経営・健康経営を組織(現場)に定着させます。そのためには、各執行機能が全体知(Perspective)を反映させながら、現場を観察し、チョークポイントを発見する執行機能の強化に取り組んでまいります。自己変革を続け、経営目標を実現する体制づくり、コーポレートガバナンスの一層の充実を図ることが重要と考えています 。
(6) 対処すべき課題
IMFは本年4月、2022年の世界GDP成長率を3.6%に引き下げました。大きく減速すると見込んでいます。コロナの長い戦いとウクライナ戦争という二重の戦いが世界経済全体のパフォーマンスに強いネガティブインパクトで反映されつつあります。食料やエネルギー価格が跳ね上がり経済の回復基調の腰折れ局面を迎えようとしています。特に本年1月以降の情況変化は著しい状況にあります。加えて、地球温暖化を原因とする自然災害についても予断を持てません。予測不可能ですが、不確実性の困難を超えて、Adaptabilityがキーワードと考えています。
他方、科学とテクノロジーの進化、イノベーションが加速しています。当社は化学の化ける力を総動員して世界の変化のPainをGainにする戦いにチャレンジしています。地球環境を守りサステナブルな人間性の回復に貢献します。続けてきた長年の研究開発の努力が世界の課題解決への可能性と希望の扉を開きつつあります。変化に素早く対応するAdaptability はカネカがカネカであるための「Going Concern」です。
コア事業群が、既存の事業領域にある未知のフロンティアを見つけ、新鮮な目で新しいテクノロジー開発に取り組んでおり、先端事業化が進んでいます。先端事業群が広げようとしているニュードメインは地平線の向こうにある未知を見ることではなく、当社研究者が安全な既知の場所に居つかず、地平線の向こうに向かって一歩を踏み出す毎日を習慣にしています。当社は既存事業群も先端事業群もドキドキワクワクして未知なるものに触れる実験を楽しむ「科学する心」を大切にし、ドメインを変え新しい土俵(ニューフロンティア)を意識してユニークな技術による変身をつづけています。なお、今年度より、変成シリコーンポリマー事業を先端事業群に加えました。
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