課題

1 【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

文中の将来に関する事項は、本書提出日現在において当社グループが判断したものであります。

 

(1) 経営方針

当社グループは、顧客企業による顧客やユーザーの獲得及び効率的な売上拡大等の企業のマーケティングにおける経営課題の解決を支援する人工知能(AI)を活用した各種のソリューションをプラットフォームを通じて提供することで、顧客企業の成長をサポートしております。

 

(2) 経営環境

インターネット及びモバイルデバイスの普及によるデータの爆発的増加とAIへのニーズ

インターネット及びモバイルデバイスの急速な普及と、その結果生み出された検索や商取引等の膨大なトランザクション・データや画像・動画等の非構造化データ、そしてそれらのデータを保管・処理する技術の飛躍的な進化により、企業がデータに基づいた意思決定を行う必要性は益々高まっていると考えております。

そのような環境の中で登場したAIソフトウェアは、各種デバイス、センサー、アプリケーション等を通じて収集される膨大なデータを統合し、より複雑な分析や処理を行うことを可能にしました。とりわけ、マーケティング領域においては、PCに加えて、スマートフォン・タブレット等のモバイルデバイスを通じて収集されたユーザーに関する各種データを分析、活用することにより、ウェブサイト又はモバイルアプリケーションを通したより効果的なマーケティングが可能となりました。また、AIソフトウェアを用いて企業が保有するカスタマーデータからより有意義な知見を抽出して理解を深めることや、既存の又は潜在的なカスタマー等とのマーケティング・コミュニケーションにAIソフトウェアを活用して、よりパーソナライズされた提案を行い、エンゲージメントを高める取り組みも進んでおります。

 

AI利用の重要性に対する認識の高まり

今では、様々な事業部門におけるAI利用の重要性に対する認識が高まっており、ある調査(注1)では、企業の73%(注2)が近い将来に事業にAIを展開する計画があるとしています。しかし、当該調査によれば、AIの導入を完了している企業はわずか19%であり、また別の調査によれば、専門技術を有するスタッフが欠乏していることがAI導入における最も一般的な障害(注3)であるとされています。

 

内製AI組織ではなく、AI SaaSソリューションの活用が拡大する可能性

AI人材が不足していることから、企業が自社内に内製のAIデータサイエンティストチームを立ち上げるのではなく、当社のような外部ベンダーの提供するAIソリューションの導入を選択することが増えてくると予想されます。特に、他のソリューションと比較して導入が容易なSaaSのソリューションが増えると、当社グループでは予想しています。

 

デジタル化の加速

一般消費者やビジネスがデジタルの世界にシフトしていることによって良質なデータが大量に発生しており、新型コロナウイルスの流行がデジタル化を更に加速しています。そのため、AIを導入して分析しようという動きが促進されていると当社グループは考えております。ある調査(注4)では、デジタルデータは今後年換算複利成長率26%のペースで増加すると予測されています。

 

AIによる予測がマーケティングやセールスへの投資の中心に

マーケティングやセールスへの投資は投資対効果の予測が難しいですが、AIを活用することでその予測が可能となります。将来的にマーケティングやセールスへの投資はAIを活用したものが中心となると、当社グループでは考えています。

 

デジタルマーケティングにおけるAIによる自動化と効率化

現在、デジタルマーケティングは、担当者が各種の設定を手作業で調整するという労働集約型のビジネスとなっています。AIは過去のデータに基づき最適解を予測するので、AIの普及により、デジタルマーケティングの組織の効率化とマーケティングの成果の増加をもたらす可能性があると考えています。

 

顧客企業のニーズを満たすことができない既存のソリューション

当社グループのソリューションのような、AIを活用したソリューションは、既存のソリューションでは満足できない顧客企業の課題に対して、例えば以下の点において適切に対処することができると考えています。

① ユーザーの予測や獲得

既存の多くのソリューションでは、デジタルマーケティング担当者が結果を改善するために手作業でA/Bテストを行う必要があります。AIによる予測を活用することで、手作業の時間とコストを削減し、過去のデータから最適な結論を導き出すことができます。

② ユーザーの維持及び関係構築

既存のマーケティング・オートメーション・ソリューションの多くは、所定のルールに基づいて対応するという手法を用いており、ビジネスチャンスを逃すリスクがあります。AI予測を用いてユーザーの将来行動を予測し、先回りしてユーザーに対してエンゲージメントすることで、そのようなリスクを軽減することができます。

③ 購買への動機付け

多くの場合、購買をうながすためのクーポン等の配布は、ユーザー全員に一律に配布されたり、限定的なデータと直感に基づいて特定のユーザーに配布されたりしています。これでは、効果的に売上を伸ばすことはできず、また、収益に悪影響をもたらすことがあります。当社グループのAI予測を用いることによって、購買をためらっているユーザーにだけ限定的にクーポン等を配布することができます。

④ オーディエンス・インテリジェンス

既存のソリューションは、コンサルティング会社やAIシステム会社によって開発された自社内製分析システムになります。一定の質が担保されコストが明確なAI SaaSソリューションと比較すると、開発に関わるAI人材の質が一定ではないため、時間とコストがかかり、想定したシステムが構築できないリスクが高くなります。

 

ファーストパーティーデータ中心の世界におけるAIの重要性の高まり

当社グループの強力なAIにより、当社グループのソリューションはリアルタイムに予測を行い、顧客企業がビジネス上の目標を達成するために必要な、ユーザーの獲得、維持、エンゲージメントを支援することができます。このような予測は、外部のサードパーティーデータを利用せず、顧客企業がウェブ、アプリ、CRMデータベースから提供するファーストパーティーデータのみに基づいて行われます。ファーストパーティーデータの品質、関連性、精度は常にサードパーティーデータを上回っていますが、これまでは当社グループのソリューションなしでは、断片的でサイロ化した膨大な量のデータを統合して有効活用し、意味のある意思決定を進めることが技術的に困難でした。このため、ユーザーIDやユーザー行動を同期させてユーザーの嗜好を把握するためにサードパーティーデータに依拠するか、膨大なデータを時間のかかる手作業で整理し、過去のデータ分析や経験に基づき意思決定を行う必要がありました。しかしながら、当社グループのAI技術と顧客企業が保有するファーストパーティーデータを利用することで、大量のデータを自動的に統合し、より高い精度でリアルタイムに予測することを通して、ディープラーニング技術を活用しファーストパーティーデータの価値を最大限に引き出すことが可能になります。ファーストパーティーデータの活用はデジタルマーケティング分野において最も重要なトレンドの一つとなっており、当社グループがリーディングプレーヤーとなる高い可能性を持っていると確信しています。

 

 

 

大きなチャンスのある市場

AIの市場規模は今後も成長が予測され、そのうち89%がソフトウェアによるものと予想されており、また、AIソフトウェアの市場規模は、2020年の2,640億米国ドルから2022年には3,560億米国ドル超に達すると見込まれています(注5)。当社グループは、IDCの定義による「カスタマーリレーションシップマネジメント」セグメントと「データ分析及びAIソフトウェア」セグメントにおける当社グループのTAM(注6)について、2020年に合計約533億米国ドルだったものが、2022年に約670億米国ドルまで拡大すると見込んでいます(注7)。なお、当社グループは、現在はアジア太平洋地域に売上収益が集中していますが、長期的には他の地域にも事業を拡大する計画を有しており、また当社グループのソリューションはそれが可能であると考えていることから、TAMを世界規模で捉えて算出しております。

 

(注) 1.Gartner CIO Survey(2020年5月)。64カ国の主要産業におけるCIOからの1,000超の回答によるもの。

2.Gartner「Machine Learning Engineer — A Role That Bridges the Gap Between Data Science and IT (2020年7月)」。回答の73%が、今後12から36カ月以内にAIを事業に展開する計画を有していると答えた。

3.Gartner「Three Barriers to AI Adoption(2019年9月)」。AI導入のための障害を3点問う設問に対して、最多の56%がこのように答えた。

4.IDC「Global DataSphere(2020年5月)」。2020年から2024年までの5年間の年換算複利成長率の予測。

5.IDC「IDC Semiannual Artificial Intelligence Tracker, 2H 2020(2021年7月)」

6.Total Addressable Marketの略。当社グループが想定する最大の市場規模を意味する用語。当社グループが本書提出日現在で営む事業に係る客観的な市場規模を示す目的で算出されたものではなく、一定の前提の下、外部の統計資料や公表資料を基礎として、当社が推計したものであり、これらの資料やそれに基づく当社の推計は、高い不確実性を伴うものであり、大きく変動する可能性がある。また、出典元の予測機関は、予測値の達成を保証するものではない。

7.IDC「IDC Semiannual Artificial Intelligence Tracker, 2H 2020(2021年7月)」及び「Semiannual Software Tracker, 1H 2020(2020年11月)」。IDCの定義する「カスタマーリレーションシップマネジメント」セグメントでは、2020年の約267億米国ドルから2022年の約358億米国ドルまで、年換算複利成長率16%の割合でソフトウェアの総売上高が増加するとされており、同じく「データ分析及びAIソフトウェア」セグメントにおいては、2020年の267億米国ドルから約312億米国ドルまで、年換算複利成長率8%の割合でソフトウェアの総売上高が増加するとされている。

 

 

(3) 目標とする客観的な指標等

当社グループは、売上収益を中長期的に成長させるためには、既存顧客企業からの安定的な売上収益を拡大させることが重要であると考えております。そこで、当社グループにおいては、当該目標の達成状況を判断するための客観的な指標として、売上収益成長率、ARR及びARR成長率を重視し、また、これらに関連する指標として、売上総利益成長率、リカーリング売上収益比率、NRR、月次顧客解約率及び月次顧客収益解約率に着目しております。

 

 

(4) 当社グループの強み

① 機械学習を用いたAI技術の継続的なイノベーション

当社グループは、AI分野において数々の表彰を受けています。フォーチュン誌から中国本土を除くアジアを拠点とする企業で唯一の「AI革命を牽引する50社(2017年)」に選定されました。2017年と2018年には、CBインサイツから「世界で最も有望なAIスタートアップ企業100社」に二度選定されました。また、国際的なデータ・マイニング・コンテストであるKDDカップにおいて、2008年から2020年の間に当社グループの従業員が参加したチームが7回優勝しています。

 

当社の革新的な機械学習を活用したAI技術は、当社グループのソリューションの基盤となっており、以下の強みがあります。

・深層表現学習技術(注1):当社グループが提供する機械学習を用いたAIテクノロジーのプラットフォームは、深層表現学習技術を有しています。この技術を活用することにより、新たな言語にも展開が容易となっています。

・自動化された機械学習:分析するデータ量が増加すると自動的にシステムとAIアルゴリズムが拡張され、データサイエンティストの人手を介すること無く、AIモデルが自動的に構築されます。

・オンラインリアルタイム学習:従来の機械学習技術とは異なり、リアルタイムでの分析が可能な技術を有しています。これにより、ユーザーの嗜好の変化にも速やかに適応することができ、また、データの適切性や予測結果の正当性に関わる問題を直ちに処理することができます。

・転移学習(注2):新しい顧客、新しい業種、または新しい予測に対応するために、当社グループは先駆的にプラットフォームに転移学習を導入し、AIモデルが学習時間を短縮するために効果的な「コンセプト」の伝達を実現しています。

 

そして、SaaSの形式でソリューションを提供していることから、安定したパフォーマンスが出すことが可能な堅牢なシステム設計となっています。

 

(注) 1.データから特徴検出や分類に必要な表現を自動的に発見し、テキストだけでなく画像や動画のソースからも深い意味を抽出することができる技術

2.ある領域で学習したAIモデルを別の領域に活用し、効率的にAIモデルを学習させる技術

 

② AIのエキスパートとビジネスのベテランによる経営陣

当社グループの共同創業者の1人であり代表取締役CEOである游直翰は、米国スタンフォード大学で修士号を、米国ハーバード大学で博士号をそれぞれ取得しているワールドクラスのAIサイエンティストです。大規模システムに深い経験を持つ共同創業者兼取締役CTOの蘇家永は、当社グループの技術と製品開発を牽引しています。さらに、当社の共同創業者兼取締役COOの李婉菱は、免疫学者や医学分野の研究者としての経歴を持ち「オペレーションへの科学的アプローチ」をもたらしています。

また、当社グループの技術部門には、チーフAIサイエンティストであるMin Sun博士(米国ミシガン大学で博士号取得、国立清華大学准教授)、チーフMLサイエンティストであるShou-De Lin博士(米国南カリフォルニア大学で博士号取得、国立台湾大学教授)、チーフデータサイエンスコンサルタントであるHsuan-Tien Lin博士(米国カリフォルニア工科大学で博士号取得、国立台湾大学教授)など、研究に強いバックグラウンドを持つシニアのAIおよびデータサイエンティストが多数在籍しています。当社グループの役員又は従業員によるトップジャーナル、カンファレンス、ワークショップ(注3)における発表論文数は300を超え、国際的なデータ・マイニング・コンテストにおいて実績を有する(注4)者を多数擁しているほか、エンジニアの多くがAI、ビッグデータ又はコンピューターサイエンスの領域における博士号又は修士号を有しています。これらの人員により、当社グループには、AI業界の課題に立ち向かうため、向上心、オープンマインド、ダイレクトコミュニケーションを大切にするカルチャーがあります。

 

 

また、ビジネスの執行面においても、ソフトウェア及びテクノロジー分野の大手企業で営業や財務の上級管理職を務めた経験のある多数のメンバーが在籍しているほか、他の取締役やアドバイザーの専門的な知見も活かせる強みを持っていると考えております。

 

(注) 3.アルバータ大学による定義

4.国際的なデータ・マイニング・コンテストであるKDDカップにおいて、当社の従業員が参加したチームが7回優勝しております。

 

③ プラットフォームの価値を高めるネットワーク効果


当社グループでは、相互に補完的でありかつ緊密にリンクした複数のソリューションをプラットフォームとして提供しています。これにより、強力なネットワーク効果を生み出します。

すなわち、まず、顧客企業が当社のソリューションを採用すると、顧客企業の利用に応じて分析されるデータ量が増加します。これにより、当社のAIアルゴリズムの精度が向上し、顧客企業の満足度が高まることが期待されます。そのため、顧客企業は当該ソリューションをより一層利用するようになるとともに、別のソリューションを利用する意欲が強まることが期待されます。

そして、当該顧客企業に当社グループの提供する別のソリューションが導入され、その利用が増えれば、分析されるデータの種類と網羅性が上がり、当社グループのアルゴリズムの精度が更に向上します。

このようなネットワーク効果は、多様な異なる業種の様々な利用方法に対応してきた当社グループのソリューションの経験の蓄積から生まれたものであり、他社では短期間には再現できないものであると考えています。

また、デジタルマーケティングやセールスの領域で実証してきたように、最先端の機械学習を活用したAIモデルを、既存のソフトウェアやソリューションに適用させることで、これまででは実現できなかったような新たなソリューションを提供してきました。このように、ソフトウェア業界を変革する能力を当社グループは有していると考えています。

 

既存顧客からの利用拡大による好循環に加え、営業生産性の向上も継続しています。このような改善の原動力となったのは、各国における潜在顧客企業を探索し、より高い成約率を見込める最も適切なタイミングで当該顧客企業にアプローチするという効率的な営業組織を、営業戦略組織を中心に体系的なアプローチで構築したことです。個々の営業メンバーの顧客企業獲得数が増えることで、営業活動への投資の回収サイクルをさらに短縮することができます。そして、より多くの地域で事業成長を推進するための営業担当者を、より多く採用することができます。その結果、最終的には売上、利益ともに持続的な成長を遂げるという好循環を達成することができると考えています。

 

 

④ 戦略的な買収によるポートフォリオの拡大

当社グループは、内製でのソリューション開発に加えて、既存ソリューションと補完的な関係にあるソリューションを持つ企業を戦略的に買収し、ソリューションのポートフォリオを拡大してきました。

2018年にQuantumgraph Solutions Private Limited.を、2019年にEmotion Intelligence株式会社を買収し、両社のソリューションを当社グループの最先端のAI技術で再設計・改良することによりAIQUAとAiDealを完成させ、顧客企業を増やしています。また、2021年には邦妮科技有限公司を買収し、同社の提供するBotBonnieを複数の言語にローカライズして販売地域を拡大しました。BotBonnieはオムニチャネルの会話型マーケティング・プラットフォームであり、既存ソリューションとの間にシナジーがあることから、当社グループの営業生産性と顧客当たりのACVの改善に貢献しています。

進出する領域を特定し、当社グループのソリューションや事業展開地域を補完する適切なターゲットを体系立てて探し出し、買収したソリューションを当社グループのシステムと融合させ、当社グループの最先端のAI機能を活用して再設計・改良し、そして顧客企業を増やしてきたという実績があり、今後も同様の手法で新製品の開拓や地域的な拡大を柔軟に実行できると考えております。

 

⑤ アジア太平洋地域にまたがる顧客基盤

当社グループには、ソリューションを様々な業種に適応させ、異なる国・地域で事業を拡大していくことができるという強みがあります。創業以来、当社はグローバルに事業を拡大することに成功し、17の都市にオフィスを構えています。北東アジア地域(日本及び韓国)、グレーターチャイナ地域(中国、台湾及び香港)、東南アジア地域の各主要地域では、継続的な成長を示しています。加えて、米国では毎四半期、前四半期比で50%超の急速な成長を示しています。それぞれの国・地域に合わせて体系的に事業を拡大することができるよう、ノウハウ、インフラ、人材を整えており、今後のグローバル展開でも積極的に活用していきます。

当社グループでは、主としてアジア太平洋地域における、eコマース、ゲーム&エンターテインメント、その他インターネットサービス、消費財ブランド&金融サービス等を中心とする幅広い業種の顧客企業を多数有しており、多様な業界の著名な企業に対して当社のプラットフォームを提供しています。2021年12月31日現在、当社の顧客企業は1,088の企業グループとなっており、2020年12月31日時点の827の企業グループから増加しています。


 

⑥ 顧客企業の獲得・維持・拡大における実績

当社グループでは、国際的かつ経験豊富なセールスチームが、アジア太平洋、欧州及び米国の主要な市場に展開しています。強固な市場獲得戦略により、当社グループは事業を拡大しており、また継続率の高い顧客企業基盤を構築することが可能となっております。さらに、当社グループのソリューションを複数利用する顧客企業の数は大きく伸びており、当社グループのソリューションはデータを扱うビジネスに決定的なプラットフォームとなることから、顧客企業は当社グループの提供するソリューションを長く使うことによってますます手放すことが難しくなると考えております。2021年12月期において、月次顧客解約率(注6)は約0.73%、月次顧客収益解約率(注7)は約0.49%となっています。これらの結果、NRRは123.8%という高い水準になっています。

 

(注) 6.月末時点の顧客企業(当月のみの利用又は有償での試験的利用等により一時的に当社グループのソリューションを利用した顧客企業を除く。)の数に対する当月に離脱した顧客企業数の割合

7.月末時点の顧客企業(当月のみの利用又は有償での試験的利用等により一時的に当社グループのソリューションを利用した顧客企業を除く。)からの米国ドル建ての売上収益に対する当月に離脱した顧客企業からの米国ドル建ての売上収益の割合

 

月次顧客解約率及び月次顧客収益解約率

期間

2020年

2021年

月次顧客解約率

0.82%

0.73%

月次顧客収益解約率

0.59%

0.49%

 

 

⑦ リカーリング売上収益の増加と営業レバレッジ

前記「③ プラットフォームの価値を高めるネットワーク効果」に記載したように、当社グループのソリューションには、顧客企業の使用量の増加や別のソリューションの追加購入を促すネットワーク効果があります。「ランド・アンド・エクスパンド」手法(まずは顧客企業に1つソリューションを利用していただき、その後、別のソリューションへの利用拡大を促すこと)が有効に機能しており、2021年12月期のNRRは123.8%となっています。

この結果、当社グループでは、安定した収益源であるリカーリング売上収益が増加傾向にあります。さらに、当社グループの顧客企業は多様な業界及び地域に亘っているため、市場の不安定な時期においても、業績に与える影響は緩和されると考えております。

2021年12月のARRは13,806百万円で、2020年12月の9,436百万円と比較した成長率は46.3%となっています。また、2021年下半期のリカーリング売上収益比率は95.7%となっています。

 さらに、当社のARPC(注8)は2020年の10.8百万円から2021年12月期の11.5百万円へと成長し、これは当社のプラットフォームを継続して利用する顧客企業による当社ソリューションの利用が増加したことを反映しています。

 

また、CrossXについては、多くの顧客企業のデータを学習することでAIアルゴリズムが自動で予測の精度を高め、より少ないマーケティング・プラットフォーム利用料で多くのユーザーを獲得できるようになることから、売上総利益率の改善が見込まれる仕組みとなっています。さらに、売上総利益率が比較的高いAIQUA、AiDeal及びAIXON等の顧客企業基盤を拡大することもまた、当社グループの売上総利益率の向上につながります。当社グループの財務モデルは、このように収益基盤の拡大に伴って売上総利益率の向上が期待できるという営業レバレッジに支えられております。加えて、当社グループにおいては、収益基盤が拡大するにつれて、販売及びマーケティング費用並びに一般管理費の売上収益に対する割合は減少すると想定していることからも、売上収益の増加に伴って売上高営業利益率の改善を実現しうるコスト構造になっていると考えております。

 

 

(注) 8.Average Revenue Per Customerの略。1顧客当たりの平均売上収益を意味する。ある年度の売上収益を当該年度末の顧客企業数で除した、顧客企業1社当たりの平均年間売上収益(当月のみの利用又は有償での試験的利用等により一時的に当社グループのソリューションを利用した顧客企業及び対応する売上収益を除く。)

9.上記に記載の2020年12月期及び2021年12月期に係る各数値は未監査のものです。

 

 

(5) 中長期的な経営戦略

① AI技術の継続的な強化と新たなソリューションの開発

AI技術の革新への投資を継続することは、当社グループの重要な優先事項です。研究としてのAIには長い歴史がありますが、ビジネスとしてのAIはまだ黎明期にあります。当社グループは、AI研究のバックグラウンドを持つ経営陣が率いるAI企業のパイオニアとしての自負を持って、最先端の研究を現実の世界に応用するために、その強みを発揮し続けています。

当社グループのイノベーションは、以下の方向性に分けることができます。

(1)より効率的な機械学習・深層学習技術により、顧客企業がより短期間でAIの恩恵を享受できるようにする。

(2)ユーザー分析機能を強化し、動画や音声など、構造化されたデータや非構造化されたデータの分析範囲を拡大する。

(3)機械学習の意思決定フレームワークを適用できる領域を広げる。

これにより、既存のエンタープライズ・ソフトウェアアプリケーションをAIでさらに自動化することが可能になります。

さらに、顧客企業との対話、企業の意思決定、リソース管理、社内業務の自動化など、イノベーションを推進できるエンタープライズ・ソフトウェアの領域はさらに広がると考えています。これらの分野はいずれも、AIを活用することで、効率性と精度を次の水準に高めることができます。

 

② 新規顧客企業の獲得

当社グループの新規顧客獲得戦略は、緻密なセールスの分析と、トップダウンでの市場分析に基づいています。AIの受容度、各業界における成功事例の有無、販売効率の予測を踏まえた上で、地域参入・顧客獲得戦略を策定し、優先順位をつけています。

また、隣接する業界や同業界で似た課題を抱える企業に対して、当社グループのAI技術によりAI活用の成功事例を適用させることで、潜在的なターゲット顧客を拡大していきます。これにより、eコマースやゲームなどの既存業界での活用事例を増やすとともに、消費財や金融業界などの新たな業界での活用事例を拡大し、さらに幅広い業界への参入を可能にしています。これらによって、顧客基盤の拡大が可能となります。

 

 

③ 既存顧客企業からの売上収益の増加

常に価値を提供して顧客のロイヤルティを高め、顧客基盤を拡大し強固にすることに、当社グループは注力しています。

顧客が、当社グループのソリューションを長く使うほど、ネットワーク効果が強まります。顧客の大量のデータを処理することで、時間の経過とともに当社グループのAIアルゴリズムとAIモデルの精度が向上し、当社グループのソリューションは一層効率的になります。その結果、顧客にとってより大きな価値が得られることから、当社グループのソリューションへの依存度が高まる傾向にあります。このようなネットワーク効果により、当社グループは、既存顧客に対して、時間の経過とともにより多くの価値を提供してきた実績を有しています。

当社グループは、当社のソリューションの利用拡大によるメリットを顧客に実感していただき、より多くの契約をいただくために、営業力をさらに強化していきたいと考えています。これまで、既存顧客からの収益成長の大部分はアップセルが占めてきましたが、ソリューションの拡大に伴い、今後はクロスセルを増やしていきます。

 

④ アジア太平洋地域及び米国への一層の浸透と新たな地域への展開

計画的な海外展開は当社グループの強みであり、市場の拡大には今後も注力していきます。アジア太平洋地域は引き続き当社の最重点地域であり、そこでの地位をさらに強化していきたいと考えています。特に、日本と韓国のような大規模でデジタル技術の浸透した市場では、シェアを高める余地があると考えています。これらの国では、既に取引のある業種でのシェアを継続的に拡大しながら、新たな業種への進出に注力しています。

タイ、シンガポール、ベトナム、インドネシアなど、東南アジアでは、デジタル経済がかつてない速さで成長しています。この地域では、eコマースをはじめとするオンラインサービスなど、デジタルに精通した業種に注力しています。また、世界第2位のデジタル経済大国である中国では顧客企業の海外展開が加速しており、当社グループの成長ドライバーの1つになっております。更に、当事業年度より本格進出を開始した米国における売上収益は全体の3%となり、成長モメンタムの加速に貢献しております。

当社の差別化されたAI技術と強力な業務遂行能力を活用して、アジア太平洋地域の国々及び米国での成功パターンを再現し、他の地域への更なる進出とグローバルな成長を継続しています。

 

⑤ 外部成長の機会の追求、戦略的なM&A

当社グループは、AIを活用したエンタープライズ・ソフトウェアの革新を実現するための重要な施策として、当社グループのAI技術によって既存ソリューションの再設計・強化を行うというM&A戦略を考えています。新たな業界や地域を志向した新たなソリューションを開発しようとするときには、まずは既存ビジネスとのシナジーが期待できる隣接領域から始めます。当社グループが追求している方向性と同様のビジョンを持った素晴らしいパートナーシップの機会があれば、技術とソリューションの強化の観点からM&A戦略の実行の可能性を検討します。今後も、これまでの買収実績に裏付けられた、当社のAI技術が重要なシナジー効果を発揮するような、戦略的な買収・投資の機会を選択的かつ体系的に選び抜いて参ります。

 

(6) 当社グループが優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題

当社グループが対処すべき主な課題は以下のとおりであります。

① 研究開発体制の強化

当社グループの事業領域であるAI関連の技術は、将来的な利用可能性の高さから世界的に研究開発が活発に行われております。このような事業環境の下で当社グループが事業を継続的に拡大していくには、様々な新技術に適時に対応していくことが必要であると認識しております。

そのためには、さらなる優秀な人材の確保及び研究開発への投資、社内におけるノウハウの共有や教育訓練等が不可欠であると認識しております。優秀な人材を確保し積極的に採用するとともに、研究開発への投資を継続的に実施し、より強固な開発体制の構築に努めて参ります。

 

 

② 営業体制の強化

当社グループのサービスはエンタープライズ向けであり、その販売には顧客企業の経営課題の適切な理解とそれに基づき適切にAIプラットフォームを活用したソリューションの提案が必要となります。また、見込み顧客の獲得や、契約獲得後のオンボーディング、既存顧客向けの高品質なカスタマーサクセスの提供も重要であります。このような認識に基づき、当社グループでは優秀なマーケティング・営業・カスタマーサクセス人材の採用と、適切なトレーニングの提供による生産性の向上に努めて参ります。

また、当社グループの最大の売上収益を占めるソリューションはCrossXですが、引き続き、他のソリューションの販売も強化し、ソリューション別でバランスの取れた売上収益構成を目指していきます。

 

③ 内部管理体制の強化

当社グループは、既存の拠点に加えて、アジア全域及び欧米への更なる展開を企図しております。そのため、多数国における事業展開に見合った経営管理体制の構築・強化を図るとともに、財務報告の適切性確保、リスク管理及び内部統制の強化等が重要な課題であると考えております。このため、子会社管理を統一的に実施するべく、人材の採用を含むバックオフィス業務の整備を推進し、経営の公正性・透明性を確保するため、より強固な内部管理体制の構築に取り組んで参ります。

 

④ 情報管理体制の強化

当社グループは、顧客企業へのサービス提供の遂行過程において、顧客企業の機密情報や顧客企業のユーザーに関する情報を取り扱う可能性があり、その情報管理を徹底することが信頼確保の観点から重要であると考えております。現在、社内にて個人情報やデータの保護に関する各種の方針を設定し、当社グループ内に周知し情報管理を徹底しておりますが、今後も社内教育・研修の実施等を継続して行って参ります。

 

⑤ 財務基盤の強化

当社グループは、当社の設立以降の4事業年度にわたって営業損失及び当期損失を計上しておりますが、製品・サービスの開発、顧客企業基盤の拡大、事業領域や市場の拡大を重視しているため、今後も積極的に投資を行っていく方針です。直接金融、間接金融を活用し、資本市場とのコミュニケーションを深め、事業展開に見合った財務基盤の強化を図ってまいります。

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