課題

1 【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

(1)事業環境の変化と成長機会

当社グループを取り巻く環境は、社会とともに大きな変化の最中にあります。新テクノロジーの台頭により、生活者のメディア接触や消費行動は多様化し、生活者自身も個人化された体験にこれまで以上に価値を感じる状況にあります。生活者のこうした変化に呼応して、顧客企業から当社グループに寄せられるニーズも高度化・複合化しており、従来の広告コミュニケーション領域を超えて、事業戦略に基づく統合的な課題解決や、データとテクノロジーを活用した顧客体験全体の設計および体験価値向上への提案が求められています。

さらに別の観点では、コロナ禍による世界的危機によって、生活者の社会的課題への意識が高まり、サステナビリティを重視する価値観が定着してきています。当社グループを含む企業にとっても、ESG領域での適切な対応が重要命題となっており、その解決に向けた企業への期待が一層高まっています。

これら社会の変化と価値観の変容、それに伴う顧客企業ニーズの拡張は、当社グループにとっても新たな成長機会となります。その一方で、コンサルティング業界やITシステム業界など、従来とは異なる企業と競合するケースも増え、競争環境はより激しさを増している状況にあります。

 

(2)企業価値の最大化に向けて

電通グループは、顧客、パートナー、従業員そしてすべての生活者の成長に寄与することによって、よりよい社会を実現するために存在しています。この当社グループの存在理由を具現化する新しい経営方針として、2022年1月からの新執行体制のもと「B2B2S」を提唱しました。「B-to-B」のさらにその先にある「S(ソサエティ)」と向き合う「B-to-B-to-S (Business to Business to Society)」企業グループへ進化し、顧客企業との仕事を通じて、社会課題をともに解決することで、社会全体に中長期的に価値を生み出しながら、株主、顧客企業、パートナー、従業員などあらゆるステークホルダーにとっての「企業価値」の最大化に取り組むことを目指してまいります。

 

(3)「中期経営計画2024」の進捗およびアップデート

事業環境が激変する中で、当社グループは、2020年8月より「包括的な事業オペレーションと資本効率に関する見直し」にもとづく構造改革に着手し、国内・海外事業双方でのコスト構造の改善、不動産などの非事業資産売却によるバランスシートの効率化を達成しました。

また2021年2月発表の「中期経営計画2024」における1年目となる2021年度は、コロナ禍からの需要回復と構造改革の効果により、オーガニック成長率は二桁となり、調整後オペレーティング・マージンは2020年を大きく上回りました。また既存事業で培ったクリエイティビティなどのノウハウをデータとテクノロジーで進化させて顧客の事業変革を支援する、高成長領域の「カスタマートランスフォーメーション&テクノロジー」も二桁成長で業績に貢献し、結果として、2021年度は上場来最高額となる売上総利益、調整後営業利益、営業利益となっています。

今後の見通しとしましては、新型コロナウイルス感染症の再拡大など不透明な要素はありますが、当社グループの中核事業である広告市場は、2021年に続き、2022年も全世界で9.2%(当社グループ予測)の成長が見込まれています。2022年は、2024年までの中期経営計画において、事業変革と持続的成長のフェーズへと移行する転換点であるため、2022年2月に同計画を更新し、目標ターゲットの具体化・上方修正を行いました。

 

当社グループでは中期経営計画の推進において、以下の4点に注力していきます。

1. 事業変革による成長戦略の実践

2. 収益性と効率性の改善

3. 財務基盤の改善と、株主価値の持続的向上

4. ESG経営の推進

 

 

  事業変革による成長戦略の実践

高度化・複合化する顧客課題に対し、当社グループでは「インテグレーテッド・グロース・ソリューション」として、当社グループが保有するユニークで多岐に渡るケイパビリティを最適に組み合わせ、統合的解決を図るソリューションを戦略の核に据えます。今後は、M&Aによる強化も視野に入れた「カスタマートランスフォーメーション&テクノロジー」領域の成長・拡充を梃に、マーケティング・コミュニケーション領域の多様なケイパビリティの統合を図り、顧客のトップライン成長を実現するソリューションとして一層強化していきます。

さらに新たなソリューションとして、社会への貢献を通じた事業成長を実現するビジネス・アクセラレーター「dentsu good - a sustainability accelerator(dentsu good - サステナビリティ・アクセラレーター)」を2022年4月にローンチする予定です。

当社グループは、その発展の歴史の中で、ケイパビリティを拡張し収益源を多様化してまいりました。「マーケティング・コミュニケーション」領域には、クリエーティブ、メディア、コンテンツ等があり、「カスタマートランスフォーメーション&テクノロジー」領域には、マーケティング・テクノロジー、カスタマーエクスペリエンスマネジメント、コマース、システム・インテグレーション、トランスフォーメーション&グロース戦略等が含まれます。このサービスカバレッジの多様さが当社グループの競争優位の源泉となります。更に、独自のデータ基盤に基づく、コンシューマー・インテリジェンス(生活者の行動理解に結びつけるデータ・アナリティクスとインサイト)によってこれらの幅広いケイパビリティを支えております。加えて、テクノロジー企業やプラットフォーマーとのアライアンスを構築し、これら企業のマーケティング・テクノロジーの導入支援、分析ツールの活用におけるリソースを拡充しており、その規模・質は市場において競争力を発揮しております。

これらの優位性を活かしながら、新しいテクノロジーやソリューション開発、イノベーションへの投資、およびスキル開発や採用など人材への投資を通じたオーガニック成長を実現します。2021年には、米国のエージェンシーであるライブエリア(PFSweb, Inc.の事業ユニットブランド)を買収してコマース領域を強化し、㈱ドリームインキュベータを持分法適用関連会社化してビジネスコンサルティングのケイパビリティを向上させました。また、2022年1月からセプテーニグループを連結子会社化して、日本市場でのデジタル広告シェアにおいてリーダーの地位を獲得しました。今後のM&A 等の資金として2024年度までに2,500~3,000 億円を想定しており、成長領域であるカスタマートランスフォーメーション&テクノロジーへフォーカスした規律ある投資行動によってケイパビリティとスケールを拡充し、事業変革の実現を目指します。

 

② 収益性と効率性の改善

2020年より取り組む包括的見直しにより、国内事業・海外事業における構造改革を進めてまいりました。

国内事業では、これまでの事業領域である「広告」「クリエーティブ」「マーケティング・プロモーション」「デジタル」「メディア」「コンテンツ」などを、4つの事業領域(「AX(Advertising Transformation)領域」「BX(Business Transformation)領域」「CX(Customer Experience Transformation)領域」「DX(Digital Transformation)領域)」)に変革しました。この4つの事業領域が生み出す価値を高めるため、国内事業を構成する電通ジャパンネットワーク(DJN)各社の機能を、専門領域やシナジー創出の観点からグルーピングし、バーチャル組織の設置も含めて最適化しています。2021年7月には、㈱電通デジタルと㈱電通アイソバーを合併しました。また㈱電通ダイレクトマーケティングと㈱DAサーチ&リンクを統合した㈱電通ダイレクトは、上述のセプテーニグループの連結子会社化に際して、同社グループに移管されました。国内グループのコーポレート機能についても、2022年1月に㈱電通コーポレートワンを設立し、人財と機能の集約を進めています。

海外事業では、現在160以上あるエージェンシーブランドを6つのグローバルリーダーシップブランドへ統合する取り組みを推進しています。より統合され、効率化された組織構造に変革することで、「アイデアが先導し、データが推進し、テクノロジーが実現するソリューション」を、個々の顧客企業に最適な形で提供できる体制を目指します。

 

今後も、実行したコスト削減や構造改革の成果を定着させるとともに、必要な施策を引き続き進めてまいります。グループ企業の再編や重複機能の整理による経営効率の改善、ニアショア・オフショアやRPAなどの活用による収益性の向上を図りつつ、統合等によりコーポレート機能の高度化・効率化を進め、管理業務の標準化やIT基盤整備などを通じて、さらに費用削減を推進する予定です。

 

③ 財務基盤の改善と、株主価値の持続的向上

事業変革や成長戦略に必要な資金を確保する観点で、健全かつ柔軟なバランスシートを維持することは重要な課題です。「高成長領域への規律あるM&A投資」「コアビジネス強化に向けた設備投資」「株主還元の充実」「適切な財務レバレッジの管理」「非事業資産の見直し」などを総合的に加味した資金配分方針を定め、株主価値の持続的向上を図ってまいります。

株主還元施策としては、2022年度に上限400億円の自己株式取得を実施することを、2022年2月に発表しました。また2021年度の1株当たり年間配当金は117.5円と上場来最高となりました。今後は中期経営計画で掲げた方針に基づき、配当性向を漸進的に高める方針です。

 

④ ESG経営の推進

当社グループはESG経営を一層重視して企業価値向上へと繋げていきます。「2030サステナビリティ戦略」を遂行し、昨年設置した「サステナブル・ビジネス・ボード」のもと、事業成長とサステナビリティ戦略の統合を進めます。また、従業員のダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン(DE&I)は、国内事業のチーフ・ダイバーシティ・オフィサーと海外事業のチーフ・エクイティ・オフィサーを中心に推進します。ESG経営の推進に向けて、経営幹部の報酬制度に非財務指標も反映します。

ガバナンス強化に向けては、取締役会議長を非業務執行取締役が務めることで、取締役会の監督機能の強化を図ります。

当社グループの環境負荷低減活動、ダイバーシティ&インクルージョン対応、責任あるコミュニケーション・コンテンツ制作方針、SDGsアクションなど、個別活動の詳細については、「電通統合レポート」(https://www.group.dentsu.com/jp/sustainability/reports/)をご覧ください。

 

(4)中期経営計画の経営目標

アップデートした中期経営計画の経営目標は以下のとおりです。

 

①事業変革による成長戦略の実践

・オーガニック成長率:2021年度を基準に2024年度まで年平均成長率ベースで4~5%

・売上総利益に占める「カスタマートランスフォーメーション&テクノロジー」領域の構成比を今後50%に高めることを目指す

②収益性と効率性の改善

・2023年度まで調整後オペレーティング・マージンを17.0~18.0%のレンジで管理し、2024年度には18.0%を確保

③財務基盤の改善と、株主価値の持続的向上

・Net debt/調整後EBITDA(期末)の上限を1.5倍とし、中期的な目線を1.0~1.5倍とする (IFRS16控除ベース)

・配当性向(基本的1株当たり調整後当期利益ベース)を漸進的に高め、2024年度までに35%へ

④ESG経営の推進

・2030年度までにCO2排出量を46%削減、2030年度までに再生可能エネルギー使用率100%を達成(利用可能なマーケットに限定)

・従業員エンゲージメントスコアの向上

・従業員のダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン(DE&I)の強化。2030年度までに女性管理職比率を30%((電通ジャパンネットワーク:25%、電通インターナショナル:50%)へ

 

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