当社グループは、「つながるモノづくりで感動体験を未来に組み込む」を企業ミッションに掲げ、世の中の物理鍵とそれに伴う様々な制約から人々を解放し、扉で分断されたあらゆる場所や空間に人々が自由にアクセスできる「キーレス社会®」の実現を目指しております。具体的には、スマートロック(注1)等のIoT機器及びクラウド型認証プラットフォームを活用したサービスを開発し、サブスクリプションモデルにより提供することで、物理空間におけるシングルサインオン(SSO)(注2)を実現する世界の創出を目指しております。
(注)1.スマートロックとは、電気制御により鍵を開閉することができるインターネットに接続された錠前のことであります。
2. シングルサインオン(Single Sign On、SSO)とは、1度のユーザー認証によって複数のシステムやサービスの利用が可能になる仕組みであります。1つのIDとパスワードで複数のシステムやサービスを利用することができるため、ユーザーの利便性の向上や負担の軽減を実現します。
現在、私たちは通過する扉やゲートの数だけ物理的な鍵及び解錠ツールを持ち歩く必要があり、扉の数と鍵の数がN:Nの関係となっております。そして、鍵が果たす役割はセキュリティや本人認証など重要なものであるため、鍵の管理に要する心理的・物理的な負荷は非常に大きいと考えております。
このような現状を受け、物理的な鍵による様々な制約を無くし、1つのICカードや個人を特定する物理的なIDであらゆる扉やゲートにスムーズにアクセスできる、扉の数と鍵の数がN:1の世界をキーレス社会と名付け、この物理空間におけるシングルサインオンともいえる世界の実現を目指しております。この社会インフラとしてのキーレス社会を実現することで、人々や社会の利便性の向上やさらなる価値の享受に資するものと考えております。
また、当社グループでは、このキーレス社会の実現に向けた決意表明として、以下のヴィジョン・ステートメントを策定し、事業に取り組んでおります。
「世界から、鍵をなくそう」
遡ること、紀元前2000年。
安心安全のために生まれた鍵は、時代とともに強固に、複雑に、そして増加した。
しかし、それは壁をつくり、世界を分断することにもつながった。
事実、私たちは、行き来する場所やコミュニティの数だけ、
常に大量の鍵やカードを持ち歩き、施錠と解錠を繰り返す。
あらゆる物事がシェアされ、世界が広くつながっていく時代だからこそ、
もっと簡単に、もっとスマートに、それでいて安全につながりたい。
世界を面白くするカギは、鍵をなくすことだ。
そのために、Akerunは存在する。
テクノロジーを駆使し、個人を見分け、自動で開閉する。
物理的な鍵をなくすことで、考える手間をなくし、ストレスのない移動を可能にする。
これまでの常識から解き放たれたとき、
人はもっと自由に行動し、世界はつながれるようになる。
21世紀、人類はキーレスソサエティへ。
(1)Akerun事業の概要
当社グループの中核事業であるAkerun®事業は、キーレス社会の実現に向けて、クラウドとインターネットでつながるスマートロック等のエッジ端末(注1)による個人認証とセキュリティ、そしてクラウド上のアクセス認証基盤を通じた個人認証を主軸とした関連サービスを法人向け、住宅向けに展開しております。
Akerun事業の特徴は主に以下の3点であります。
① サブスクリプションモデルによるHESaaSとして提供
Akerun事業の特徴の1つ目は、ハードウェアとソフトウェアを組み合わせたサブスクリプションモデルであるHESaaS(注2)としての提供形態であります。
Akerun事業で展開される各サービスは、ハードウェアとソフトウェアを組み合わせ、月単位/年単位などで課金されるサブスクリプションモデルによるレンタルサービスとして提供しております。
サブスクリプションモデルによるユーザーの導入障壁の低減や後述のAkerun事業における強みなどを背景に、ARR(Annual Recurring Revenue:毎年繰り返し得られる年次経常収益)は順調に拡大しております。さらに、このARRを支えるサブスクリプション収益の比率も事業収益全体の約90%を実現しております。
また、運用の手軽さや利便性に加え、API(注3)による外部の勤怠管理システム等との連携を通じた“オフィスにおける基幹システム化”や大規模顧客へのさらなる拡販等の解約率低減に向けた取り組みにより、MRR(Monthly Recurring Revenue:毎月繰り返し得られる月次経常収益)ベースのChurn Rate(サービスに関する解約率)は平常時で1%台半ばの低い水準に抑えられております(注4)。
具体的には、継続的なChurn Rateの改善を図ることで、2020年12月期に1.79%だったChurn Rateが、2021年12月期には1.45%に改善しております。
当社グループは、事業収益に占めるサブスクリプション収益の高い比率や低い解約率などを実現する、継続的な収益を生み出すリカーリングビジネスにより、MRR及びARRの最大化を通じた持続可能な成長を実現しております。
(注)1.エッジ端末とは、 エッジ(末端)の端末の意味であり、IoT等においてはインターネットに接続され、システム全体の末端に位置する端末のことであります。インターネットで接続されたシステム全体における末端の端末として、データの収集/処理や上位システムへのデータの送信等に加え、上位システムからの指令やデータ等を受信して稼働したり、利用者に伝達する等の機能を担うハードウェアであります。
2. HESaaSとは、Hardware Enabled Software as a Serviceの略で、アプリケーションソフトウェアをインターネット経由で提供するクラウドサービスであるSaaSと、ハードウェアのサブスクリプションモデル(レンタルモデル)を組み合わせた提供モデルのことであります。
3. APIとは、Application Programming Interfaceの略で、特定のソフトウェアの機能やデータなどを、外部の他のプログラムで利用するための手順やデータ形式などを定めた規約のことであります。
4. 各期のChurn Rateは、当該期の期末月における12ヶ月移動平均であります。
② 堅牢なアクセス認証基盤及びクラウドセキュリティシステム
Akerun事業の特徴の2つ目は、クラウド上に構築するアクセス認証基盤「Akerun Access Intelligence®」(注1)の高度な技術性であります。この認証基盤では、一般的なユーザー情報に加えてユーザーが日常的に利用するICカードなどの固有の物理ID情報を保有し、インターネットを通じて認証に活用しております。
この認証基盤における認証プロセスは、特許を取得している独自の通信方式(注2)やSSL(注3)、AES256(注4)などのセキュアな通信技術でセッションごとに暗号化することで高度なセキュリティを担保しております。また、認証や処理のロジックをエッジ端末とクラウド上のサーバーに集約することで、個人情報などの機密情報のエクスポージャーを減少させ、セキュリティ上の堅牢性をさらに高めております。
この高度なセキュリティ環境を背景としたユーザー認証方式を確立したことで、信頼性と堅牢性に優れたユーザー認証と関連サービスの展開が可能になっております。
(注)1.ユーザーの基本情報(氏名や所属など)、デジタルID情報(電話番号や電子メールなど)、物理ID情報(所有するICカードや生体認証情報など)、認証権限情報(アクセスが許可されている扉、有効な日にち、曜日、時間帯など)などの情報を保有するクラウド上のデータベースであります。
2.セキュリティを確保しながら簡便な方法で第三者に鍵を開けるための権限を一時的に付与することができる電子錠システムに関する特許(公開番号「特開2016-79644(P2016-79644A)」)
3.SSLとは、Secure Sockets Layerの略で、インターネット上でのデータ通信を暗号化し、第三者によるデータの窃取や改ざんを防ぐ通信プロトコルのことであります。
4.AES256とは、米国国立標準技術研究所(NIST)が政府の標準暗号方式として選定したAES(Advanced Encryption Standard)と呼ばれる暗号化方式のうち、256ビット長の暗号鍵を使用する方式であります。
③ アクセス認証基盤を活用した認証プラットフォームとしての価値
Akerun事業の特徴の3つ目は、利用企業の規模や業種業態を問わない広範なユーザー基盤に裏付けられた認証プラットフォームがもたらす、社会インフラとしての価値であります。これまでのサービス展開を通じて、2021年12月末時点で4,200社以上の現契約社数を達成しており、この現契約社数は継続的に増加しております。実際に、Akerun事業を支える中核サービスである法人向けの「Akerun入退室管理システム®」は、「クラウド型入退室管理システムの導入社数/シェア」、「スマートロックの利用者数/シェア」、「法人向けスマートロックの導入社数/シェア」の3分野でそれぞれ国内No.1(注)を獲得するなど、クラウド型入退室管理システム及びスマートロックの市場をけん引する実績を有しております。
このように、Akerun事業はセキュリティ及び認証のプラットフォーム化による社会インフラとしての地位を確立しております。さらに、建築用錠前の提供で国内大手の美和ロック株式会社(以下、美和ロック)との合弁会社となる株式会社MIWA Akerun Technologies(以下、MIWA Akerun Technologies)を2021年1月に設立し、住宅領域にも進出するなど、オフィスや住宅等の利用場所を問わない広範な基盤を通じたビッグデータの取得・活用により、様々な周辺サービスへの展開も可能となっております。そして将来的には、プラットフォームに蓄積されたビッグデータを活用することで、人の動静に合わせた効率的なエネルギー利用による環境負荷の低減、社会や時勢の変化に合わせた働き方の実現、既存の空間を活用した効率的な社会インフラの構築、認証/移動/決済等のソリューションの提供等を通じて、オフィス領域から住宅領域、そして商業施設までのあらゆる場所やシーンで効率的かつ持続可能な社会の構築に貢献していけるものと考えております。
(注)日本マーケティングリサーチ機構調べ(2021年6-7月期_指定領域・日本国内における検証調査)
(2)オフィス領域におけるAkerun事業
① 市場機会
Ⅰ.市場環境の変化
法改正を含む日本政府による働き方改革の推進により、企業では客観的な方法による従業員の労働時間の把握(注1)や、残業時間の上限規制(注2)、勤務間インターバル制度(注3)など、従業員の勤務時間を正確に記録、管理することが求められております。また、2015年の個人情報保護法の改正により、企業では安全管理措置に基づき、個人情報に対する物理セキュリティ及び情報セキュリティの対策を強化する必要があります(注4)。特に、この個人情報保護に向けた流れはより一層加速しており、2022年4月からの施行が予定されている個人情報保護法の改正では、個人情報の漏えい等が発生した際の事業者による報告が義務化(注5)されております。また、この改正に先立つ2020年12月には、個人情報保護委員会からの措置命令等に違反した場合、また個人情報データベース等の不正流用があった場合の法人における罰則(注6)が大幅に引き上げられるなど、企業ではこれまで以上の対策を求められるようになっております。
さらに現在では、企業での働き方改革の進展や直近の新型コロナウイルス感染症の影響の拡大により、勤務する場所も従来のオフィスだけでなく、自宅に加えてコワーキングスペースやシェアオフィスなどの分散型オフィスの活用が進展しております。さらに、オフィスや施設、店舗の運営における運営効率や業務効率のさらなる改善を目指して、受付業務や設備のデジタル化による業務効率化に加え、特にフィットネスジムやコワーキングスペース/シェアオフィスなどの会員制ビジネスを中心にエントランスのセキュリティ強化と受付業務の無人化/省人化へのニーズが顕著に高まっております。
そして、直近では新たな都市開発手法としてミクスドユース(注7)も注目を集めており、オフィス、商業施設、住宅などの様々な用途の空間をシームレスに行き来する空間利用が今後も普及していくと考えられます。
このような従業員の労働時間の適正な把握の必要性、個人情報保護のためのセキュリティ対策、働く場所の多様化と拡大、受付業務等のデジタル化と業務・運営効率の向上へのニーズの高まり、様々な用途の空間へのシームレスなアクセス、といった市場動向に対して、Akerun事業は入退室履歴の勤怠管理への活用、API連携なども活用した認証システムとしての様々なサービスへの拡張性の高さ、導入の容易さなどの特徴を生かし、今後も市場からの要請に応えていけるものと考えております。
(注)1.改正労働安全衛生法第66条の8の3(2019年4月1日施行)及び改正労働安全衛生規則第52条の7の3(2019年4月1日施行)
2.労働基準法第36条及び第139~142条(2019年4月1日施行)
3.改正労働時間等設定改善法第2条(2019年4月1日施行)
4.改正個人情報保護法第2条及び第20条(2017年5月30日施行)
5.改正個人情報保護法第22条の2(2022年4月1日施行予定)
6.改正個人情報保護法第83条〜第87条(2020年12月12日施行)
7.ミクスドユース(mixed-use)とは、1つの建物、街区、地区などの中で、様々な用途の空間を混在させる都市開発コンセプトのことであります。
Ⅱ.入退室管理システムの現状
従来の入退室管理システムは、オンプレミス環境(注1)へのサーバーや管理用PCなどのハードウェア機器の購入・設定に加え、システム設定やネットワーク工事のためのSIer(注2)及び電気工事業者が必要になっておりました。さらに、導入後も機器の改修や保守の費用などが必要となり、加えてIT技術に習熟した担当者でなければ取得データの利活用が難しいなど、費用面及び工数面での負荷やデータ活用の困難さが企業には大きな導入障壁となっておりました。
当社グループでは、このような導入時の障壁を低減し、より少ない負担で入退室管理システムを導入・活用できる「Akerun入退室管理システム」を提供しております。特別な工事やシステム構築が不要かつ後付けで手軽に導入可能、クラウド型システムによる専用IT機器の排除とデータ利活用の支援、サブスクリプションモデルによる保守・運用に要する費用負担の軽減などにより、導入障壁の低減と継続運用のしやすさを実現することで今後も広く需要を取り込み、継続的な売上拡大を実現できるものと考えております。
(注)1.オンプレミス環境とは、ITインフラの構築や稼働に必要なサーバーやネットワーク等の機器及びソフトウェア等を利用者である企業が管理する施設等に保有し、運用するシステムの利用環境のことであります。
2. ITシステムの構築、コンサルティング、設計、開発、運用、ハードウェアの選定等を一括で請け負うITサービス事業者のことであります。
② サービス構成
Akerun事業を支える中核サービスである法人向けの「Akerun入退室管理システム」は、鍵の物理的開閉やデータ通信などを担うハードウェア機器と、認証、鍵権限の管理、履歴の閲覧などを行う、スマートデバイス(注)向けアプリケーション及びWebアプリケーション等のソフトウェアで構成されております。
(注) 対応するスマートデバイスは、Apple社が提供するiOS及びGoogle社が提供するAndroidにて稼働するスマートフォン、タブレットなどの電子デバイスとなります。
Ⅰ.ハードウェアの特徴
「Akerun入退室管理システム」で提供されるハードウェアには、サムターン錠(注1)に対応する「Akerun Pro」と、電気錠(注2)や自動ドア、フラッパーゲート等の電気制御の扉に対応する「Akerunコントローラー」があります。
Akerun Proは、工事なしで既存の扉に後付け可能なスマートロックであります。扉の既存のサムターン錠に設置するだけで、取り付け工事不要、初期費用0円で導入できるため、従来の入退室管理システムと比較して導入にかかる工数や費用を大きく低減しております。
Akerunコントローラーは、既存の自動ドアや電磁錠などの電気錠に後付けで導入でき、簡易的な工事のみで導入し、運用できるハードウェアであります。電気制御で鍵の開閉を行う電気錠に対応することで、「Akerun入退室管理システム」の適用範囲をさらに拡大し、さらに多くのオフィスや施設のニーズに対応することが可能になっております。
また、Akerun Pro及びAkerunコントローラーに共通のハードウェアとして、ICカードリーダーも付帯しております。ICカードリーダーを活用することで、ユーザーが日常的に使用している交通系ICカードや社員証、ビル入館カードなどFeliCa及びMifareの各規格に対応するICカードによる認証を通じた施錠・解錠が可能となっております。
なお、「Akerun入退室管理システム」を構成する各ハードウェアは、当社グループで開発、設計し、製造は外部に委託しております。
(注)1.サムターン錠とは、扉の室内側についている錠の開閉を行うためのツマミ式の金具で開閉を行う錠前のことであります。
2.電気錠とは、電気的に鍵を施解錠する機構を組み込んだ錠前のことであります。
Ⅱ.ソフトウェアの特徴
「Akerun入退室管理システム」は、ソフトウェアにより以下の機能を提供しております。
A.Web管理ツールやソフトウェアによる鍵権限の柔軟な設定
Web管理ツール及びそれを支えるソフトウェア技術を通じて、ユーザーが入退室できる日時などを柔軟に設定することが可能となっております。これにより、ユーザーごとの要件に応じた入退室権限など、ニーズに合わせた柔軟な鍵権限の運用が可能になっております。また、Web管理ツールやソフトウェアは、クラウド型サービスの特徴を生かし、労務関連の法制度の改正やオフィスに求められる要件の変化など、社会状況の変化や市場トレンドに合わせて継続的にアップデートすることが可能となっております。
B.システムから取得するデータの利活用
IoTを活用したクラウド型入退室管理システムの特徴を生かし、ユーザーの利用履歴を永続的に保持し、Web管理ツールなどでいつでも確認できる機能を備えております。さらに、この履歴のビッグデータとしての活用により、セキュリティの機能だけでなく、ユーザーの動静を把握・確認するための空間管理やサービス利用のエビデンスとしての活用など、さらなる価値提供が可能になっております。
C.APIによる外部システムとの柔軟な連携
サービスとしての拡張性を高めるために、外部システムとの連携が可能なAPIを公開しております。これにより、外部システムからの入退室履歴などの各種情報の取得や遠隔での解錠・施錠の操作、日時を指定した鍵権限の発行などが可能になります。また、ユーザーのシステムやサービスと「Akerun入退室管理システム」と連携させたり、又は当社グループ及び外部のパートナー企業でAPI連携させた勤怠管理、生体認証などの認証システム、会員管理システム、決済システム、IoT監視カメラ(注)などとの共同ソリューションを活用することも可能となっております。
(注)IoT監視カメラとの連携機能は現在開発中となります。
③ サービスの強み
当社グループは、市場における優位性として、要件の厳しい法人向け事業で培った広範な実績、高水準の利用体験を可能にするハードウェアの開発及び無線通信やセキュリティにおけるソフトウェアの開発に強みを有しております。
Akerun事業における強みの詳細は、以下の通りであります。
Ⅰ.法人向け事業における強固な実績とそれに支えられたアクセス認証基盤
前述の通り、当社グループはこれまでの事業活動により、法人における広範な導入実績を通じて現契約社数4,200社以上を抱えるアクセス認証基盤「Akerun Access Intelligence」を保持しております。この広範な認証基盤を活用することで、ユーザー認証に加えて勤怠管理や会員管理などの法人向けに提供される様々なクラウド型サービスや認証シーンにも活用でき、また、認証基盤から取得するビッグデータを活用したデータドリブンなビジネス展開も可能となっております。今後も、オフィスに導入されたAkerunのエッジ端末を起点として、入退室管理、労務管理といった従来から提供する機能に加え、API連携などを通じた外部の様々なサービスとの連携も積極的に推進しております。そして、扉を起点としたあらゆる空間における付加価値の向上に取り組むことで、社会インフラとしての認証基盤の利用拡大に取り組んでまいります。
Ⅱ.要件の厳しい法人利用にも応える高水準のハードウェア性能
Akerun事業で展開する各種ハードウェアは、日常的に多人数に触れるハードウェアとしての特性上、ユーザーの利用体験の向上をもたらすハードウェア品質が非常に重要であると考えております。当社グループでは、このハードウェア品質の強化に常に注力しており、実際にAkerun Proにおいては100万回の開閉試験を実施するなど、多人数利用に応える耐久性を確保しております。さらに、サムターン錠の高速な解錠を支える高トルクモーター、1日あたり100回の開閉で電池が6ヶ月以上持続する省電力性能を追求した専用設計回路、耐久性強化のための高機能ベアリングや特許取得済みの専用設計機構など、ユーザーの利用体験を最大限に高めるためのハードウェア技術により、市場でも高水準のハードウェア品質を実現し、ユーザーの利用体験を向上しております。
Ⅲ.信頼性と堅牢性に優れた無線通信技術及びセキュリティ技術
ハードウェア品質と同様に、日々利用されるシステムとしての安定的な稼働が重要であると考えております。当社グループは、認証に使用するBLE(注)通信の制御技術、特に施錠・解錠に用いるスマートデバイスを含む複数のハードウェア機器間での安定的な通信制御技術に強みを持っております。現在では、オフィス環境はもちろんのこと、様々な場所で多くの無線通信が行われており、それぞれの無線通信の混線や干渉などが発生し、無線通信を利用するサービスの安定的な稼働の障害となっております。当社グループでは、法人向けセキュリティという重要なサービスを担う企業として、無線通信における堅牢性と同時に安定性を実現する高度な無線制御技術を備えております。この強みを生かすことで、オフィスや施設における高速かつ安定したユーザー認証が可能になり、日々の利用体験の向上を実現しております。さらに、これまでの広範な導入実績で培われたユーザー基盤を背景に、継続的なソフトウェアの改善を通じて、さらなる利用体験と信頼性の向上を図っております。
加えて、前述の通り、クラウドや各ハードウェア機器間の通信には、特許取得済みの通信技術や高度な暗号化通信技術を採用することで、市場でも高水準の信頼性と堅牢性に優れたユーザー認証プロセス及び認証基盤を実現しております。
(注)BLEとは、Bluetooth Low Energyの略で、低電力通信を可能にする近距離無線通信技術Bluetoothの拡張仕様の1つであります。
④ 今後の成長拡大のための取り組み
Ⅰ.企業規模を問わない新規ユーザーの獲得
オフィス領域におけるさらなる成長拡大に向けて、主要導入企業である全国で約190万社(注)ある従業員10名以上の中小企業及び事業所への販売促進施策を継続的に強化し、新規ユーザーのさらなる獲得を目指しております。中小企業への提供拡大にあたっては、大阪、福岡及び名古屋の地方拠点の活用に加え、販売パートナーとの関係性強化を通じて潜在ユーザーへの提案機会の増加を図る専任チームの強化・拡充と営業活動の強化も継続的に実施しております。
さらに、直近では大規模企業からの問い合わせや導入も増加しております。今後も、これまでの実績を生かして継続的に大規模企業専任の営業チームの強化や拡大を進めることで、大規模企業ユーザーの新規獲得にも注力する計画であります。
(注)経済産業省「平成28年経済センサス‐活動調査」より算出。10名以上の小売・飲食を除く事業所向け(約170万事務所)に加え、医療・教育・スポーツ施設等での商用利用向け(約17万事務所)
Ⅱ.既存ユーザーへの追加導入の提案(アップセル施策)
当社グループでは、既存顧客へのさらなる売上拡大にあたって、継続的なユーザーとの関係性強化やヒアリングに加え、市場動向の調査・分析を通じて変化するオフィス環境や施設の運営環境などの市場ニーズに合わせた空間利用の提案を推進することで、1事業所あたりの追加導入台数の増加を目指しております。
さらに大規模企業での導入の場合、Akerunを導入可能な扉が複数あるケースがほとんどであるため、複数台の契約を獲得しやすい環境であることから、契約の新規獲得を契機に関係性の強化や継続的なヒアリング、提案力の強化などを通じて複数台の契約を追求してまいります。
これらのアップセル施策を促進することで、ユーザーからもたらされるLTV(注1)及びARPU(注2)の最大化を目指し、事業成長を加速する考えであります。
(注)1.LTVとは、Life Time Valueの略で、顧客との取引の開始から終了までの期間にもたらされる総利益(顧客生涯価値)のことであります。
2.ARPUとは、Average Revenue Per Userの略で、ユーザーや利用企業における1人/1社あたりの売上金額を表す指標であります。
Ⅲ.複数用途での導入の促進(クロスセル施策)
現在、Akerun事業では適用領域の多様化に積極的に取り組んでおり、オフィスビルを中心としたビルの入退館管理のための「Akerun来訪管理システム」(現在ベータ版)の開発・提供に取り組んでおります。これにより、従来のオフィスや施設の扉から、ビルの入退館ゲートへと適用範囲を拡大し、ビルの入口からテナントエリアとなるオフィスまでをAkerunを共通の認証・セキュリティの基盤として活用することで、利便性のさらなる向上に資するものと考えております。「Akerun来訪管理システム」においては、三井不動産株式会社やJR東日本スタートアップ株式会社とともに、大規模ビルでの実証実験も実施しております。今後も、不動産ディベロッパーやビルオーナーなどへの提案を強化することで、さらなる提供価値と事業の拡大を目指してまいります。
当社グループでは、このような新規事業の創出に加え、オフィスや施設の運営効率化やDXを可能にする新規機能等の開発・提供を通じて、さらなる収益の拡大を目指してまいります。
(3)住宅領域におけるAkerun事業
① 市場機会
現在、日々の生活の様々な場面でデジタル化が大きく進展し、家事代行サービスや宅配サービス、空間等の不動産や自動車等の動産を有効活用するシェアリングエコノミー(注1)の台頭に代表される消費者の行動態様は大きく変化しております(注2)。さらに現在では、社会環境や消費者の行動態様の変化に伴い、非対面によるサービス利用や荷物の受け取り、人や物品のトレーサビリティなどへのニーズの高まりを受け、デジタルを活用する取り組みも拡大しております。そして、このデジタル化の流れは、消費者だけでなく、住宅関連のサービス事業者や不動産事業者にも拡大しており、物件の内覧や管理をデジタル化によって効率化する取り組みなど、不動産テックと呼ばれる市場も拡大しております(注3)。また、前述の通り、ミクスドユースといった都市開発コンセプトによる住宅を含む様々な空間へのシームレスなアクセスへの需要も高まると考えております。
加えて、これらの直近の市場動向だけでなく、日本では少子高齢化に伴う高齢者の一人暮らし世帯の増加(注4)とそのような世帯への生活支援、健康管理、安全管理などのケアの提供が課題となっております。この課題の解決に向けては、高齢者のための見守りサービスの普及や利用拡大が期待される中で、人員による定期的な対面に加えて、センサーや通信、ロボットなどのIT技術を活用して人員による見守りを支援する取り組みも今後さらに加速するものと考えております。
一方で、これらのサービス利用の課題として、宅配便の増加に伴う宅配クライシスと呼ばれる宅配事業者の業務負荷の高まり、在宅の必要性、利用時の鍵受け渡しの手間、集合住宅エントランスの入退館時のセキュリティ、ユーザーの心理的不安などがサービスの利用拡大の障壁となっております。
当社グループの住宅領域におけるAkerun事業では、建築用錠前の提供で国内大手の美和ロックとの合弁会社となるMIWA Akerun Technologiesを2021年1月に設立しております。この合弁会社を通じて、当社は住宅向けサービスの基盤となるクラウド上の認証基盤やスマートデバイス向けアプリケーションの開発、美和ロックはAkerunと連携する住宅向けスマートロックの開発と提供、そして合弁会社が住宅向けサービスの開発と提供をそれぞれ担い、扉を起点とした住宅向けのサービスを提供することで、これらの課題を解決できるものと考えております。住宅領域のAkerun事業では、当社グループがこれまでに培ったオフィス領域におけるサービス開発、クラウド基盤及びスマートデバイス向けアプリケーションの開発や提供における実績・知見などを活用しております。これにより、住宅のセキュリティを高めながらシェアリングエコノミーの拡大や社会課題の解決に向けた取り組みなどに伴い普及する住宅向けサービスをユーザーが簡便に利用できるプラットフォームを展開し、新領域でのさらなる事業成長を目指しております。
この住宅領域におけるAkerun事業を通じて、人々が持ち歩いていた住宅の鍵を、当社グループの合弁会社が提供する住宅向けアプリケーションやICカードなどへと置き換えることで、当社グループの目指すキーレス社会の実現に向けた取り組みを加速するとともに、関連事業者やユーザーのさらなる利便性向上に資するものと考えております。
(注)1.遊休となっている空間や人材などの資産のさらなる有効活用により、社会課題の解決や生産性の向上などを目指す経済態様のことであります。
2.株式会社矢野経済研究所「2020 シェアリングエコノミー市場の実態と展望」(2020年9月30日発刊)https://www.yano.co.jp/press-release/show/press_id/2545
3.株式会社矢野経済研究所「2021年版 不動産テック市場の実態と展望」(2021年7月28日発刊)https://www.yano.co.jp/press-release/show/press_id/2770
4.内閣府「令和2年版高齢社会白書」(2020年7月31日公表)
② 提供サービス/製品
住宅領域におけるAkerun事業では、美和ロックとの合弁会社であるMIWA Akerun Technologiesを通じて、住宅向けのサービスや製品の開発・提供を推進しております。
2021年9月には、住宅向けスマートロックを活用した最初の製品となるスマートライフシステム「Akerun.M(アケルン・ドット・エム)」の提供を開始しております。この製品により、集合住宅などに標準設備として導入されている美和ロック社製スマートロックをAkerunアプリで開けることができるようになり、追加の機器などを導入する必要なく、Akerunアプリからの施解錠に加え、操作履歴の確認、インターネットを通じたデジタルな合鍵の共有等が可能になり、ユーザーの利便性が向上します。
このスマートライフシステム「Akerun.M」を活用することで、物理鍵の利用からの脱却、日時限定の鍵権限による賃貸物件のスマート内見や修繕業者の入室、時間や場所を選ばない家族や友人等とのAkerunアプリを通じた鍵権限の共有等を通じて、新時代のライフスタイルを実現できます。
さらに今後は、住宅における鍵の施解錠だけでなく、認証、住宅向けの各種サービスの利用、決済等の様々な住宅向けサービスを利用するためのプラットフォームとしての機能の提供に向けて積極的に取り組み、社会環境やライフスタイルの変化に合わせた、宅配サービスやイエナカサービス(家事代行、ペットシッター、介護等)と連携し、安全・安心で快適な暮らしを支えるための取り組みを推進してまいります。
③ サービス提供のスキーム
住宅領域では、サービスや製品の提供にあたり、当社が51%、美和ロックが49%を出資する合弁会社であるMIWA Akerun Technologiesを通じて、当社は住宅向けサービスの基盤となるクラウド上の認証基盤やスマートデバイス向けアプリケーションの開発、美和ロックはAkerunと連携する住宅向けスマートロックの開発と提供、そして合弁会社が住宅向けサービスの開発と提供をそれぞれ担っております。
当社のクラウド上の認証基盤及びスマートデバイス向けアプリケーションといったソフトウェア技術における信頼性と実績、美和ロックの住宅向けスマートロック製品に関するハードウェア技術の堅牢性と実績、そして合弁会社によるスマートロックを起点とした住宅向けサービスの開発と提供という各社のそれぞれの強みを組み合わせることで、ユーザーの安全・安心の実現とともに包括的なサービスを提供し、これまで以上に利便性の高い生活の実現に貢献できるものと考えております。
また、販売・普及にあたっては建築用錠前の提供で国内大手の美和ロックの有する全国規模の販売網やネットワークを活用することで、住宅領域における主要プレイヤーへの積極的な提案を推進し、全国規模でのサービスの提供を図ってまいります。
④ サービスの強み
住宅領域におけるAkerun事業では、美和ロックとの合弁会社を通じて両社の強みを生かした事業を展開してまいります。具体的には、建築用錠前で国内大手である美和ロックがこれまでに培ってきた広範な営業チャネルを最大限活用してまいります。これにより、幅広い住宅への導入を目指してまいります。
また、現契約社数4,200社超える顧客基盤を通じて培った実績あるクラウド上のアクセス認証基盤「Akerun Access Intelligence」も強みとなります。要件の厳しい企業ユーザーを支えるこのクラウド基盤及び認証基盤の信頼性や堅牢性を活用することで、住宅向けにも強固なセキュリティを提供いたします。さらに、住宅領域におけるスマートデバイス向け専用アプリケーションについても、企業向けに提供するアプリケーションをベースにすることで、信頼性や堅牢性の担保と同時に、使いやすさの向上も実現できると考えております。
これらの強みを背景に、スマートライフシステム「Akerun.M」は、大和ハウスグループの株式会社コスモスイニシアが2021年11月に開業したシェアレジデンス「nears(ニアーズ)川崎」にすでに採用されるなど、市場における実績を順調に拡大しております。今後も、当社グループの強みを生かし、集合住宅だけにとどまらない、あらゆる住宅における安全・安心と快適な暮らしを支える製品やサービスの提供を拡大してまいります。
⑤ 今後の成長拡大のための取り組み
現在、住宅向けの各種サービスの興隆や消費者の行動態様の変化等の影響もあり、シェアリングエコノミーの普及を背景とした家事代行や宅配などのシェアリングサービスの利用や提供事業者が拡大しております。
この市場トレンドやニーズに応えるべく、美和ロックが有する営業チャネルを活用して住宅向けスマートロック及びサービス利用のためのプラットフォームを展開することで、新たに施工される集合住宅や戸建住宅に加え既存の住宅への広範囲における提案を強化してまいります。また、合弁会社が提供する住宅向けアプリケーションから利用できる住宅向けサービスに関して、家事代行や宅配、見守りなどの様々なサービス提供事業者と提携することで、より多くの選択肢をユーザーに提供する計画であります。これらの取り組みを推進することで、鍵を起点とした魅力あるサービスプラットフォームを提案し、ユーザー基盤の拡大とともに事業成長を目指しております。
[事業系統図]
(注) 顧客紹介を受けて、当社が顧客との契約及びサービスの提供を行います。
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