本項においては、将来に関する事項が含まれておりますが、当該事項は当連結会計年度末現在において判断したものであります。
(1)会社の経営の基本方針
ロート製薬は、創業以来「健康」をコアバリューに、OTC(一般用)医薬品やスキンケア商品の提供を通じて、多くの方に身近な「健康」をお届けしてまいりました。生活者の皆さま一人ひとりの健康寿命が延伸し、生活の質(Quality of Life:QOL)の向上を実現することは、社会全体の経済活動を活性化させるとともに、増加する社会保障費を抑制し、持続的な健康長寿社会の実現に貢献につながります。つまり、当社の事業活動は、持続可能な社会を形成することにおいてまさに不可欠な要素であり、ESG経営に近いものであったと考えています。今後も、当社の役割は、世界の人々と健康をつなぐ(Connect)こと。そして世界の人々にWell-beingをお届けすること。当社を取りまく全ての人々と連携・協働していくことでWell-being経営を推進し、世界の人々のWell-beingに貢献するとともに、長寿を健康で幸せに過ごすことができる持続可能な社会の実現を目指してまいります。
経営理念
① 豊かで幸せな生活を送るための心身の健康に貢献し続けることが当会社の最大の責務と捉え、 その実現のた
めに長期視点での経営と価値創出に努める
② 当会社は、社会の公器としての使命を自覚し、当会社を取りまく全ての人たちと協働して 社会課題を解決
し、これにより得られた便益を共有する
(2)経営環境および対処すべき課題等
当社グループを取り巻く環境は、長引く新型コロナウイルス感染症の拡大、ウクライナ危機に端を発する世界的な原材料費や物流費の高騰が懸念され、先行き不透明な状況が続いております。
当社は2019年に制定した総合経営ビジョン2030「Connect for Well-being」の推進に全力を注ぎ、果敢にリスクを取る意思決定や、変化に柔軟に対応できる経営によって持続的な成長を目指しております。コア事業であるOTC医薬品、スキンケアを中心に、6つの事業領域に積極投資を行い、イノベーションを起こすことに取り組んでおります。時代のニーズに応えた環境に配慮した製品開発を続けること、健康で多様性のある人材を育て輩出し続けること、地域社会への貢献と共生を続けること、サプライヤーと信頼ある協力関係を築いていくこと、DXを推進し、お客様との接点を拡大することを重要課題と捉えております。
また予測不能な時代にあっても世の中のWell-beingに貢献していくために、まずその担い手である当社社員自らが健やかで自立した多様な働き方に挑戦できるような組織づくりと挑戦の場の提供を推進しております。一人一人の中にある可能性を引き出す取組みとして、働き甲斐の誘発(健康経営の推進)、人材育成(次世代リーダー育成)、ダイバーシティ(多様な社員によるイノベーションの創出)の3つの観点で人材資本への投資を積極的に進めるとともに、評価・報酬制度を見直してまいります。
これら多岐多様にわたる課題をグローバルな視点で解決するための基盤となるガバナンスの強化として、2022年3月より新マネジメント体制(6つのCxO)で臨みます。各分野における執行責任者の明確化により、経営戦略に係る意思決定の俊敏性を高め、経営における機動力を強化してまいります。またサステナビリティ委員会、コンプライアンス委員会、情報セキュリティ管理委員会にて経営リスクおよび経営倫理の適切な管理を行ってまいります。
① 新型コロナウイルス感染症への対応について
新型コロナウイルス感染症の事業・業績に与える影響やダメージは深刻で、引き続き先行き不透明な状況にありますが、当社が定款にも掲げている経営理念である「豊かで幸せな生活を送るための心身の健康に貢献し続ける」、「当社を取りまく全ての人たちと共同して社会課題を解決する」ことの達成のために、当社のコア事業、つまり医薬品・スキンケアを通しての価値提供だけでなく、医療機関やその従事者への直接的、間接的な支援を続けます。
② 目標とする経営指標
当社グループでは、すべてのステークホルダーの満足度向上を図るという目標に向けて、ヘルスケア市場において、その分野でトップあるいは主要なブランドを築くことを目指すとともに、営業利益率や自己資本当期純利益率、総資産経常利益率に代表される収益指標を重視し、経営管理を行っております。
③ ビジョン2030に掲げる6つの事業
当社が取り組む事業領域は、健康、未病、軽度疾患、病気の全てのステージにおける美と健康の提供です。
これを6つの分野に分けて、それぞれにおいて貢献することを目指しております。
1. OTC医薬品事業
“日本におけるOTC医薬品リーディングカンパニーを目指す”
医療費膨張傾向の中、セルフメディケーションの考え方はますます重要性を増しております。健康寿命の延伸に対する貢献にOTC医薬品は欠かせません。当社は長年の技術とブランド力を活かし、OTC医薬品リーディングカンパニーを目指してまいります。リーディングは必ずしも規模のことに限定せず、顧客満足や市場での影響力、健康意識への貢献度の点において業界トップを走るということであります。既存の眼科用薬、皮膚用薬、胃腸薬、漢方薬、検査薬などに加え、高齢化ニーズ、女性の健康ニーズに応えるカテゴリーに積極的に挑戦します。その基盤となる開発と技術力の優位性を維持していくため技術革新に注力するとともに、ベンチャー企業や国内外研究者との共同研究を図るなど、有機的な研究体制の構築を積極的に推進しております。また必要に応じて異業種を含め他社との提携強化を行ってまいります。
2.スキンケア事業
“肌本来の機能に働きかけ、健やかさを再生するスキンケアを創造する”
既に売上の6割強を占めるスキンケア事業については、引き続き、安全性・有効性・メカニズムを追求するエビデンスベースの研究開発を進めてまいります。再生医療研究の過程で得られた知見の応用や、長年の研究の蓄積である基幹技術をベースにした他社にはできない機能性の高い商品を提供し続けます。またDXを見据えて、顧客との共創関係を構築したマーケティングを実装してまいります。
3.機能性食品事業
“エビデンスと信用に基づく食品事業を第三の柱に育てる”
機能性食品は医薬品の代替になり得る2030年までに最も伸長する可能性が高い領域であり、当社は、当領域のアンメットニーズを狙い差別性の高い商品開発を行ってまいります。グループ会社や提携会社で保有する素材技術、製造設備、販売ルート、顧客との関係性を最大限活用して顧客満足の向上に努めます。特に重点課題として「目」「妊娠」「更年期」「生活習慣病」「肌」「免疫」に機能する分野における開発に取り組んでおります。また異業種とのコラボ、ブランディングについても探索してまいります。
4.医療用眼科事業
“アイケアリーダーとして医療用眼科チャネルを開拓し、早期の収益化を実現する”
当社は2020年3月に医療用眼科用薬メーカーである㈱日本点眼薬研究所を子会社化し、製造および販売に掛かるリソースを確保いたしました。また他企業とも提携を進めながら、医療用眼科用薬の開発を進めております。同時に眼科領域における再生医療研究、眼科用医療機器の開発も進めており、早期の収益化を目指しております。
5.再生医療事業
“革新的なライフサイエンス技術を事業化する”
当社は2013年に再生医療に取り組む再生医療研究企画部を新設以来、再生医療・バイオ事業に注力してまいりました。多様な可能性を秘めた脂肪由来幹細胞を応用してプロフェッショナルメディケーションに挑戦しております。2020年8月にスタートさせた新型コロナウイルス感染症による重症肺炎治療薬の治験も進んでおります。2021年3月には整形外科分野における再生医療アプローチを推進する子会社を買収し、対象患者の多い変形性膝関節症対応の医薬品開発にも取り組んでおります。またこれらをスキンケア等の既存事業とつなぎ合わせることで、当社にしかできない新しいWell-beingの創造に努めてまいります。
6.開発製造受託事業
“独自開発力を付加した開発製造受託(CDMO)へ進化する”
現状の医薬品製造受託(CMO)事業を進化させ、独自の開発力を活かしたバイオ分野製品の開発・製造をワンストップに提供する開発製造受託(CDMO)事業を推進することで競争優位性を実現してまいります。内服剤分野においては当社子会社であるクオリテックファーマ㈱、医療用眼科用薬分野においては当社子会社である㈱日本点眼薬研究所、再生医療分野においては京都府木津川市の当社研究所において、それぞれ開発製造受託が可能な高い技術力とコスト競争力を実現すべく取り組んでおります。
④ デジタルトランスフォーメーション
DXの推進は経営戦略の重要な課題と捉え、継続的なイノベーションの創出を行うとともに、新しいヘルスケアビジネスのモデルとしてデジタルヘルスケアへのシフトに対応してまいります。顧客データを通じて、一人ひとりのヘルスケアに向き合う、また新たなニーズを発掘するConnect for Customer(D2Cプラットフォーム)を実装し、顧客との信頼関係を創出してまいります。また全社員がDXについての見識を深め、現場起点でのデジタル活用アイデアが生まれやすい環境を構築するためにDX人財育成ロードマップを策定し、推進してまいります。
⑤ グローバル事業
全体売上の約4割を占め、2022年3月末時点で110か国以上をカバーしている海外事業については、引き続き現地に根付いて消費者と向き合いながら企業価値の向上を目指してまいります。特にOTC目薬、スキンケアの導入を進めてまいります。日本とビジネス上の親和性の高いアジア地域(中国および東南アジア)を中心に積極的に経営資源の投入を行い、欧米については子会社メンソレータム社の成長戦略の策定と実行を軸に維持・拡大に努めます。
⑥ SDGs
当社の持続的な成長、ひいては持続的な社会成長を目指し、環境に配慮した生産活動、販売活動を推進してまいります。三重県伊賀市に新しい工場棟の建設を進めており、ここは再生可能エネルギーの使用、廃棄物をできる限り削減する仕様に努めております。また機械にできることは機械に任せ、人はより創造的な業務に対処することで生産効率を向上させることを狙います。販売活動においては空容器の回収、再利用というサイクルができるような仕組みの構築、推進に努めてまいります。またロートのESH(Environment+Social+Health)の追求、発信源として、持続性のあるアグリファーム事業、地域創生事業についても実践してまいります。
環境への取組
地球環境を守り、それを次世代に継承することは私たちの責務です。当社は「環境方針」を定め、企業活動を通じて地域及び地球環境の汚染の予防と継続的な改善を行っています。当社は環境に関するサステナビリティ課題のマテリアリティとして、「環境に配慮した商品開発を続けること」を掲げ、国内外のサプライヤー、小売店、代理店とも協働しながら、地球の健康寿命の延伸に挑戦しております。また地球温暖化による自然災害の影響を重く見て、2021年6月にTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)による提言に賛同を表明するとともに、CO2排出削減目標を設定しております。TCFDの推奨する4つの項目に沿った当社の気候関連情報は以下の通りであります。
(1)ガバナンス
① リスクと機会に対する取締役会の監督体制
当社は2021年9月にサステナビリティ委員会を設置し、気候変動に関するリスクと機会について協議し、取り組み方針の決定を行い、その方針をグループに展開する体制を取っております。取締役会はその検討・協議内容について報告を受け、当社グループの気候変動対応について、ステークホルダーへの開示および対話、長期視点での資本支出計画など検討を行い、また実行に際して監督を行う体制としております。
② 気候変動のリスクと機会を評価・管理する上での経営者の役割
サステナビリティ委員会は、2名の取締役ならびにアドバイザーとして1名の社外監査役によって構成し、委員長は取締役副社長が務めております。取締役副社長は当社グループのチーフファイナンシャルオフィサー(CFO)の役職も兼ねており、環境課題を財務課題として評価・管理する役割を担っております。
(2)戦略
当社の気候変動に関するリスクおよび機会が事業に及ぼす影響を主に財務面でのインパクトを中心に評価いたしました。当社は主要な展開国においては現地に開発・生産拠点を保有し、気候変動に伴うバリューチェーンの分断に強い体制を築いております。ここでは主要なグローバル拠点である日本、中国、ベトナム、米国等を総合し、2℃シナリオを想定してそのインパクトを分析しております。移行リスク・物理的リスクそれぞれにおける事業インパクト、影響度および現時点での対応は以下の表の通りであります。現時点では2℃シナリオのみの分析となりますが、今後継続的に分析と評価を進め、多様なシナリオにおいての対策検討を実施するとともに、不確実な将来に向けてのレジリエンスを高めてまいります。
移行リスクと機会
物理的リスクと機会
(3)リスク管理
① 気候関連リスクの識別・評価プロセス
TCFDが提唱するフレームワークに則り、外部環境の変化を予測し、当社のリソースおよび提供サービスを踏まえて、気候変動が事業に与えるリスクについてその影響度をサステナビリティ委員会において識別しています。
② 気候関連リスクを管理するプロセス
識別したリスクはサステナビリティ委員会において管理し、対応について協議を行います。必要に応じて関連部門の責任者を委員会に招集し、より具体的な施策を確認、機動的に推進する体制を取っています。
③ 上記プロセスが当社総合的リスク管理に統合される体制
環境課題以外のリスクも含めて総合的に当社事業の継続性に影響を与えるものについてもサステナビリティ委員会において評価・管理します。案件に応じて代表取締役社長を委員長とするコンプライアンス委員会とも協議を行い、BCPを策定します。
(4)指標と目標
① 気候リスクと機会を評価するために用いる指標と目標
当社の非財務KPIとしてのCO2は排出量削減目標は以下の通りであります。
・Scope1と2の合計CO2排出量を2030年度に2013年度比△46%にする
・中間目標として、2025年度に2013年度比△30%にする
その目標達成に向けてのアクションおよび達成目標は以下の通りであります。
・CO2フリー電力の購入(Scope2)
水力、風力、太陽光等CO2を発生しない再生可能エネルギーで発電された電気を購入し、買電電力消費によるCO2排出量を2030年度までに27.6%削減
・上野工場の新工場棟への太陽光発電設備の設置(Scope1&2)
稼働状況に合わせ、2023~2024年度に太陽光発電設備を設置し、発電及び買電電力消費によるCO2排出量を既存と合わせ毎年1~2%削減
・保全・運用改善、排熱利用、エネルギー転換(Scope1&2)
エネルギー消費を2030年度まで年間1%以上削減
またReduce・Reuse・Recycleを意識した商品仕様の実現、返品の削減、良品廃棄の削減についても取組みを進めており、今後具体的な目標設定とその進捗を開示してまいります。
② 2021年度のCO2排出量実績(速報値)
当社におけるScope1、Scope2のCO2排出量は以下の通りであります。
Scope1・2排出量合計の2013年度比は△12%であります。今後、Scope1、Scope2につきましては主要な生産拠点を持つ国内外子会社の排出量を合計して算定します。またScope3についても、今後集計の精緻化を図るとともに目標設定に向けて取り組んでまいります。
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