当連結会計年度における当社グループの財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(以下、「経営成績等」という。)の状況の概要並びに経営者の視点による当社グループの経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は次のとおりであります。
なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において判断したものであります。
(1) 経営成績の状況
当社は、創薬事業においては、アンメット・メディカル・ニーズの高い未だ有効な治療方法が確立されていない疾患を中心に、特にがん、免疫・炎症疾患を重点領域として画期的な新薬の開発を目指して研究開発に取り組み、また、創薬支援事業においては、新たなキナーゼ阻害薬創製のための製品・サービスを製薬企業等へ提供するため、営業活動に取り組んでおります。
創薬事業においては、がん領域で2つのキナーゼ阻害剤(CDC7阻害剤AS-0141、BTK阻害剤AS-1763)の臨床試験を実施しており、免疫・炎症疾患領域ではBTK阻害剤AS-0871の臨床試験を実施中です。また、当社が創出した新規脂質キナーゼ阻害剤のプログラムについて導出先である米国ギリアド・サイエンシズ社(以下「ギリアド社」)が研究開発を進めており、AS-1763の中華圏での臨床開発は中国バイオノバ・ファーマシューティカルズ(以下「バイオノバ社」)が進めています。大日本住友製薬とは、精神神経疾患を標的とした創薬プログラムの共同研究を行っています。
このうち、免疫・炎症疾患を対象として開発を進めているBTK阻害剤AS-0871につきましては、健康成人男女を対象としたフェーズ1試験をオランダで実施しております。当該フェーズ1試験のうち、単回投与用量漸増(SAD)試験については、2021年7月に治験報告書を受領し、全ての用量で安全性、忍容性および良好な薬物動態プロファイルが確認されました。また、薬力学的評価の結果から血中の好塩基球およびB細胞の活性化を100mg以上の用量で強く持続的に阻害することが確認されています。また、2021年12月には、新製剤を用いた反復投与用量漸増(MAD)試験を開始いたしました。
イブルチニブを代表とする第1世代の共有結合型BTK阻害薬耐性の血液がんを治療標的とした次世代BTK阻害剤AS-1763については、2021年4月より健常人を対象としたフェーズ1試験のSADパートにおける投与を開始しました。7月にSADパートの投与が完了し、全ての用量で安全性、忍容性および良好な薬物動態プロファイルを確認しています。新製剤を用いたバイオアベイラビリティ(BA)パートを2021年12月から実施しており、この結果を基に、慢性リンパ性白血病およびB細胞リンパ腫の患者を対象としたフェーズ1b試験を米国で実施する計画です。当該試験の実施に必要なIND(新薬臨床試験開始届)申請を目的として、FDA(Food and Drug Administration)とのpre-INDミーティング(FDAとの事前相談)を実施し、IND申請の準備を開始しています。当社は、AS-1763の中華圏(中華人民共和国および台湾)における開発・商業化の権利を中国バイオノバ・ファーマシューティカルズ(以下「バイオノバ社」)に供与しており、同社は、慢性リンパ性白血病(CLL)・小リンパ球性リンパ腫(SLL)およびB細胞性非ホジキンリンパ腫(B-cell Non-Hodgkin Lymphoma)の患者を対象としたフェーズ1試験を中国で実施するため、2022年1月に中国当局にIND申請を行いました。今後、当社はバイオノバ社と協力して、AS-1763の治験を加速していきたいと考えております。
ファーストインクラスの薬剤として開発を進めているCDC7阻害剤AS-0141につきましては、2021年上期に、日本国内において切除不能進行・再発または遠隔転移を伴う固形がん患者を対象としたフェーズ1試験を開始しました。フェーズ1試験は、用量漸増パートおよび拡大パートの2段階に分かれており、用量漸増パートでは、薬剤の投与量を増やしながら安全性と忍容性を評価し、また薬物動態や薬力学についても調べます。本パートで決定した最大耐用量と推奨用量に基づき、拡大パートでは、より多くの患者で本剤の安全性及び有効性を評価いたします。現在、用量漸増パートを実施中ですが、用量制限毒性が発現していないことから、コホート3(用量レベル3)に移行しています。
また、2019年6月に締結した米国ギリアド・サイエンシズ社(以下「ギリアド社」)との新規がん免疫療法の創薬プログラムに関するライセンス契約に基づき、2021年12月に最初のマイルストーン・ペイメント(開発状況の進捗等に応じて設定した目標を達成した場合に得られる一時金収入)を受領いたしました。このマイルストーン・ペイメントは、ギリアド社が本創薬プログラムを次の開発ステージに進めることを決定したことに基づくもので、当該プログラムがこのまま順調に進捗すると、すでに受領済みのマイルストーンも含め、最大で計450百万ドルのマイルストーン・ペイメントを受け取ることが可能です。
さらに、当社の低分子創薬の高い技術力を生かし、キナーゼ以外を標的として研究を進めている次世代パイプラインの中から、STING(Stimulator of Interferon Genes)アンタゴニストのテーマが前臨床開発段階にステージアップいたしました。
創薬支援事業においては、自社開発品であるキナーゼタンパク質やプロメガ社のNanoBRETTMテクノロジーを用いた細胞内でのキナーゼ阻害剤の作用を評価する受託試験サービスが好調だった一方、代理店ビジネスであるセルベースアッセイサービス受託および結晶化サービスが前年を下回りました。また、上記ギリアド社とのライセンス契約に関連し、同社による当該プログラムの開発をサポートするため、当社の脂質キナーゼ阻害剤に関する創薬基盤技術を一定期間、独占的に同社に供与することとなっており、当期の売上にはこれに関連した売上も含まれています。
以上の結果、2021年12月期の連結売上高は2,017,529千円(前連結会計年度比78.0%増)となりました。地域別の売上は、連結ベースで国内売上高が205,063千円(前連結会計年度比26.2%減)、海外売上高は1,812,465千円(前連結会計年度比111.9%増)となりました。損益面につきましては、営業損失が531,135千円(前連結会計年度は1,057,067千円の営業損失)、経常損失は522,992千円(前連結会計年度は1,077,096千円の経常損失)、親会社株主に帰属する当期純損失は534,474千円(前連結会計年度は1,111,032千円の親会社株主に帰属する当期純損失)となりました。
各セグメントの状況は次の通りです。
1) 創薬事業
当連結会計年度において、ギリアド社からマイルストーン・ペイメントを受領いたしました。また、臨床試験費用を中心に研究開発へ積極的に投資したことから、研究開発費は1,713,234千円(前連結会計年度比25.0%増)となりました。以上の結果、創薬事業の売上高は1,128,000千円(前連結会計年度は53,025千円)、営業損失は820,156千円(前連結会計年度は1,515,809千円の営業損失)となりました。
2) 創薬支援事業
キナーゼ(*)タンパク質の販売、アッセイ(*)開発、プロファイリング(*)・スクリーニング(*)サービスおよびセルベース(*)アッセイサービスの提供等により、創薬支援事業の売上高は889,529千円(前連結会計年度比17.7%減)、営業利益は289,021千円(前連結会計年度比37.0%減)となりました。売上高の内訳は、国内売上が205,063千円(前連結会計年度比26.2%減)、北米地域は513,837千円(前連結会計年度比21.9%減)、欧州地域は80,966千円(前連結会計年度比14.3%増)、その他地域は89,661千円(前連結会計年度比22.4%増)です。
なお、コロナウイルス感染症の世界的な感染拡大が当社に与える影響は、当連結会計年度においては限定的でしたが、今後当社の創薬支援事業の売上及び臨床試験の実施に影響を与える可能性があります。
第16期、第17期、第18期及び第19期のセグメントごとの売上、研究開発費及び営業損益は、以下の通りです。
(単位:千円)
当社グループの連結の財政状態の概要につきましては、以下のとおりであります。
当連結会計年度末における総資産は、5,432,560千円となり、前連結会計年度末に比べて597,204千円の増加となりました。その内訳は、現金及び預金の減少481,307千円、売掛金の増加1,114,663千円等であります。
負債は1,116,988千円となり、前連結会計年度末と比べて105,642千円の増加となりました。その内訳は、1年内返済予定の長期借入金の増加49,600千円、長期借入金の増加88,503千円等であります。
純資産は4,315,572千円となり、前連結会計年度末と比べて491,561千円の増加となりました。その内訳は、株式の発行による資本金及び資本剰余金の増加996,248千円、親会社株主に帰属する当期純損失534,474千円の計上等であります。
また、自己資本比率は79.3%(前連結会計年度79.0%)となりました。
(3) キャッシュ・フローの状況の分析・検討内容
当連結会計年度末における現金及び現金同等物(以下「資金」という)は、前連結会計年度末に比べ481,307千円減少し、3,817,834千円となりました。
(営業活動によるキャッシュ・フロー)
営業活動により減少した資金は1,536,612千円(前年は1,260,972千円の減少)となりました。これは主に税金等調整前当期純損失532,499千円の計上、売上債権の増加1,110,099千円によるものであります。
(投資活動によるキャッシュ・フロー)
投資活動により減少した資金は41,677千円(前年は70,433千円の減少)となりました。これは主に有形固定資産の取得による支出41,522千円によるものであります。
(財務活動によるキャッシュ・フロー)
財務活動により増加した資金は1,064,987千円(前年は724,423千円の増加)となりました。これは主に長期借入れによる収入300,000千円、長期借入金の返済による支出161,897千円、新株予約権の行使による株式の発行による収入949,270千円によるものであります。
(4) 資本の財源及び資金の流動性に係る情報
当社グループは、キナーゼ阻害薬等を創製するための研究開発ならびにその基盤となる技術である「創薬基盤技術」を強化するための研究開発へ積極的に先行投資し、将来の飛躍的な成長を目指しております。そのための研究開発に係る費用は、創薬支援事業が生み出すキャッシュ・フロー及び創薬事業における導出契約やマイルストーン達成に基づく収入、ならびに資本市場等から調達した資金等により充当しております。
創薬支援事業の業績は黒字を継続し安定的に推移しているものの、創薬事業からの収益は、導出契約の成否、導出先製薬企業等における開発の進捗、導出活動の進捗及び当社の研究開発の進捗等により影響を受け安定的でないことから、当社グループの短期的な損益については赤字となる傾向があります。
しかしながら、当社グループは、中長期的な経営方針に基づき、積極的に創薬事業に先行投資を行い、研究開発を推し進めることで、当社の企業価値を高めてまいります。そのための資金を獲得するために、創薬支援事業からの収益力をさらに高めるとともに、当社にとって最適な資金調達方法を検討し、研究開発資金の確保に努めてまいります。
(5) 生産、受注及び販売の状況
当連結会計年度における生産実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。
(注) 1. 金額は、販売価格によっております。
2. 上記の金額には、消費税等は含まれておりません。
3. 創薬事業については、生産を行っていないため記載しておりません。
当連結会計年度における商品仕入実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。
(注) 1. 金額は、仕入価格によっております。
2. 上記の金額には、消費税等は含まれておりません。
3. 創薬事業については、商品仕入を行っていないため記載しておりません。
当連結会計年度における受注実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。
(注) 上記の金額には、消費税等は含まれておりません。
当連結会計年度における販売実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。
(注) 1. 主な相手先別の販売実績及び当該販売実績の総販売実績に対する割合は次のとおりであります。
2. 上記の金額には、消費税等は含まれておりません。
3. 当社顧客との各種契約においては秘密保持条項が存在するため、一部の社名の公表は控えさせて頂きます。
(6) 経営方針・経営戦略または経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等
「第2 事業の状況 1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等 (1)経営方針・経営戦略 ③目標とする経営指標」に記載のとおり、創薬支援事業については、安定的に収益を獲得する基盤事業として、継続的な事業成長と収益基盤の拡大を図るため、売上高、営業利益率の改善を重要な経営指標としております。
当連結会計年度の創薬支援事業は、当社が協力会社の販売代理店として顧客にサービスを提供しているセルベースアッセイサービスやX線結晶構造解析サービス等を中心に売上高が減少しました。これらのサービスによる売上は原価率が高いため、創薬支援事業の売上総利益率は改善しましたが、新規サービスの開発のため研究開発費が増加したため、営業利益率は低下いたしました。
(7) 重要な会計方針及び見積り
当社グループの連結財務諸表は、我が国において一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に準拠して作成されております。この連結財務諸表の作成において、損益または資産の状況に影響を与える見積りの判断は、一定の会計基準の範囲内において過去の実績やその時点での入手可能な情報に基づき合理的に行っておりますが、実際の結果は、見積り特有の不確実性が存在するため、これらの見積りと異なる場合があります。なお、当社グループの連結財務諸表の作成にあたり採用した会計方針は、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 注記事項 連結財務諸表作成のための基本となる重要な事項」に記載のとおりであります。
(注) *を付している専門用語については、「第4 提出会社の状況 4 コーポレート・ガバナンスの状況等」の末尾に用語解説を設け、説明しております。
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