①キナーゼへの着目
がん疾患、リウマチなどの免疫・炎症疾患、アルツハイマー病などの神経変性疾患では、生体恒常性機能に異常をきたしており、生体内では異常なシグナル伝達が起こっていることが知られています。この原因と考えられている分子のひとつに、細胞内外の情報伝達をつかさどるキナーゼ(*)と呼ばれる酵素があります。このキナーゼが遺伝子変異やストレスなどによって異常な働きになった場合には、シグナル伝達機能に支障をきたし病気につながることが知られています。当社は、このキナーゼを主な創薬標的として画期的な新薬の創製を目指し研究開発を行っております。
②キナーゼ阻害薬の活躍
がん、炎症、リウマチなどの疾患では、細胞のなかに存在する特定のキナーゼが遺伝子変異やストレスなどによって異常な働きになり、それが原因となって生体恒常性機能に異常を引き起こしていることが徐々に明らかになってきました。しかしながら、キナーゼは生体内に500種類近く存在し、生命機能において大変重要な働きを担っているため、近年になるまで、キナーゼを阻害する薬の開発は副作用懸念のために進んでいませんでした。
その流れを変えたのが、2001年に米国で販売が開始されたBCR-ABLチロシンキナーゼを選択的に阻害する慢性骨髄性白血病治療薬のグリベック® (一般名:イマチニブ、製造販売元:Novartis AG)の成功です。この成功により、特定のキナーゼの働きのみを選択的に抑制する、安全で有効な分子標的薬(*)の研究が製薬企業で活発に進められるようになり、その後、様々ながんの治療薬として次々に大型のキナーゼ阻害薬(*)が誕生し、多くのがん患者に届けられています。また、免疫・炎症疾患を対象としたゼルヤンツ®(一般名:トファシチニブ、製造発売元:Pfizer Inc. )が、米国FDA(U.S. Food and Drug Administration)により承認されると、キナーゼは、がん疾患のみならず、様々な疾患の創薬標的として認知され、その研究開発が拡がりをみせています。さらに最近では、欧米の製薬企業だけでなく、わが国の製薬企業が開発した低分子のキナーゼ阻害剤が相次いで上市されるなど、今後もブロックバスターと呼ばれる大型新薬を目指した製薬企業によるキナーゼ阻害薬の開発は発展していくものと予想されます。
さらに、がん治療分野における画期的な進展として、ヒト型抗ヒトPD-1モノクローナル抗体であるオプジーボ®(一般名:ニボルマブ、製造発売元:小野薬品工業株式会社等)に代表されるがん免疫療法に基づくバイオ医薬品の相次ぐ承認が挙げられます。一部の患者では治療により寛解する等、これまでにない成果を挙げておりますが、多くの患者に効果が出るよう、こうしたがん免疫療法薬の効果をさらに高めることが重要な課題となっています。その代表的なアプローチとして、がん免疫療法薬と他の低分子医薬品との併用療法が注目されており、そのような薬剤の一つとしてキナーゼ阻害薬がその成果を挙げつつあります。特に、エーザイ株式会社が開発したレンビマ®は、抗PD-1抗体であるキイトルーダ®(一般名:ペムブロリズマブ、製造販売元:Merck & Co., Inc.)との併用で高い抗腫瘍効果を示したことから、大型提携に発展しています。このように、キナーゼ阻害薬は、単剤としての効果のみならず、これら併用療法において治療効果を高める薬剤としても大いに期待されます。
上記のような分子標的薬は、特定の疾患において特異的に発現している標的分子を選択的に阻害するため、効果的でかつ副作用が少ないという特徴をもっており、加えてコンパニオン診断による投薬前の事前検査を行うことで、治療効果が高いと判定された患者への投薬が可能となり、より高い安全性と治療効果をもたらし、個別化医療の実現に着実に近づくことが期待されます。現在、70を超えるキナーゼ阻害薬が米国FDAにおいて承認されているとともに、世界中の製薬企業やバイオベンチャーでさらに新薬候補品が研究開発され、臨床試験段階に入っております。
(注)図中のATP(*)については、「第4 提出会社の状況 4 コーポレート・ガバナンスの状況等」の末尾の用語解説をご参照願います。
③低分子経口薬(分子標的薬)の社会的価値
細胞内にあるキナーゼという酵素をターゲットとするキナーゼ阻害薬は、従来の治療薬と比較して治療効果が高く、副作用が少ないと考えられることから、近年、新たな分子標的薬の分類として、世界各国の大手製薬企業や研究機関、バイオベンチャー等で活発な研究開発が進められています。
現在、医薬品として認可され、上市(*)されている薬剤は、大きく分けて2種類あります。ひとつは、注射により患者に投与される抗体などの高分子(バイオ)医薬品であり、もうひとつは、当社が研究開発を行っている経口投与可能な低分子医薬品です。近年、抗体がバイオ医薬品として注目を集めておりますが、主に細胞で培養し製造されるため複雑な製造工程を有していることから、比較的薬価が高いものが多く、医療経済を圧迫する一因ともなっています。また、注射剤であることから、患者は投与を受けるために通院を要し、肉体的な負担が比較的大きい薬といえます。他方、当社が研究開発を行っているキナーゼ阻害薬等の低分子医薬品は経口投与可能であり、医師による処方により患者自身が自宅等で服用できることから身体的負担が少なく、さらに化学合成により比較的安価に製造されるため薬価を低く抑えることができ、医療経済上においても優しいものであることから、開発途上国などを含む世界中の患者に広く提供可能な薬といえます。
また、抗体は高分子薬であることから細胞膜を透過することができず、細胞外の分子のみが標的となりますが、キナーゼ阻害薬等の低分子阻害薬は細胞膜を透過することが可能なことから、細胞内の分子を標的とすることができ、抗体で治療できない疾患の治療薬の開発が可能となります。
当社グループは、当社(カルナバイオサイエンス株式会社)及び連結子会社(CarnaBio USA, Inc.)により構成されており、「創薬事業」及び「創薬支援事業」という2つの事業を、主たる事業として手掛けております。
当社グループの事業内容及び当社と子会社の当該事業における位置づけは次のとおりです。
(注) セグメントは事業の区分と同一であります。
新薬の創薬標的を同定し、その標的に有効な医薬品候補化合物を創製して、さらにその有効性・安全性を確かめ医薬品としてわが国の厚生労働省や米国FDA等の規制当局に承認申請を行い、承認を得るまでの過程を「創薬」といいます。当社グループは、この「創薬」の中でも、特にキナーゼ阻害薬を創製するための基盤となる技術、いわゆる「創薬基盤技術」をベースに、「創薬事業」及び「創薬支援事業」を展開していることが特徴です。
当社グループの事業内容の系統図は以下の通りです。
①創薬事業
当社グループの創薬事業は、キナーゼ阻害薬等の創薬研究を行い、そこから生み出された新薬候補化合物の前臨床試験ならびに臨床試験を行うとともに、創薬に係る研究開発成果を製薬企業等へ導出(ライセンスアウト)し、その対価として収益を獲得するというビジネスモデルに基づいて事業を行っております。この対価には、製薬企業等へ医薬品候補化合物を導出した時点で獲得する契約一時金、その後の研究開発の進展に伴い目標を達成した時点で獲得するマイルストーン収入、さらに新薬の上市後の売上の一定割合を獲得するロイヤリティ収入があります。
a.キナーゼ阻害薬等の研究開発
当社グループは、創薬事業において、これまでにない画期的なキナーゼ阻害薬等の新薬創製に係る研究開発を行っております。研究開発テーマは、アンメット・メディカル・ニーズの高い、いまだ十分な治療方法が確立していない疾患を中心に選定しており、特にがん、免疫・炎症疾患を重点疾患領域として、画期的な新薬の創製を目指し研究開発を行っております。当社グループでは、自社単独で行う研究開発プログラムに加えて、製薬企業、大学及び公的研究機関等とも共同研究を実施しております。
当社グループの創薬事業においては、比較的早期に有効性が確認できるがん領域は最大第2相(フェーズ2)試験まで自社で実施し、パイプラインの価値向上を目指す方針です。それ以外の疾患は第1相(フェーズ1)試験もしくは前臨床試験まで自社で実施し、製薬企業等へ導出(ライセンスアウト)することを基本方針としています。当社グループは、自社もしくは共同研究で創出した医薬品候補化合物の知的財産権に基づく開発・商業化の権利を製薬企業等に供与することによって、ライセンス契約締結時における契約一時金、前臨床試験や臨床試験等の各ステージを開始/完了した時、承認申請時、承認取得時等の目標達成に伴うマイルストーン収入、並びに新薬の上市後にその売上高等に対する目標達成に伴うマイルストーン収入、さらに当該売上高等に対する一定の割合をロイヤリティ収入として受け取る収益モデルを想定しております。
なお、2021年12月末現在で、2つの創薬プログラムを製薬企業等に導出済みであり、3つの創薬プログラムが臨床試験のフェーズ1段階にあり、1つの創薬プログラムが前臨床開発段階にあります。その他複数の創薬プログラムについても非臨床段階の研究開発を行っております。また、1つの創薬プログラムについて製薬企業と共同研究契約を締結しております。
b.新薬の研究開発プロセスについて
<新薬の研究開発プロセス及び一般的な期間>
※ 当社グループの創薬事業は、がん領域については最大フェーズ2試験、それ以外の疾患はフェーズ1試験もしくは前臨床試験まで自社で実施する方針です。上表の点線部以降の各ステージは、導出先の製薬企業等が手がけることになります。
(a) 創薬研究
創薬研究の初期段階では、疾患に関連すると想定される遺伝子やタンパク質を標的として、その標的が創薬の対象として妥当であるか、また可能性があるかを検討します。基礎研究段階で創薬の標的となりうることが確認されると、その標的に対するハイスループットスクリーニング(HTS)を実施し、一定の基準を満たしたヒット化合物の選出を行います。そのヒット化合物の中からさらに医薬品になる可能性のある構造を持ったリード化合物(*)の創出研究を行います。見出されたリード化合物は、試験管内での標的に対する作用や疾患モデル動物での治療効果を評価する薬理試験や毒性試験を通して、リード化合物の化学構造を最適化していきます。このとき、経口吸収性や体内での安定性などを評価する薬物動態試験も実施し、標的への作用だけでなく薬としての特性も同時に明らかにしていきます。動物を用いた試験が必要な場合には、動物愛護の観点に配慮しつつ、科学的観点に基づく適正な動物実験等を実施します。そして、前臨床試験段階に進めるべき医薬品候補化合物を決定します。
(b) 前臨床試験
医薬品の臨床試験実施に必要な前臨床試験は、薬理試験、薬物動態試験、安全性試験の3種類に大別されます。これらの試験のうち、薬事法に基づき、「医薬品の安全性に関する非臨床試験の実施の基準に関する省令(医薬品GLP(*)省令)」で定められている試験についてはGLP基準で実施します。前臨床試験の結果を総合的に判断し、選択した医薬品候補化合物を臨床試験に進めるべきか否かを決定します。
(c) 臨床試験(治験)
前臨床試験で薬効、安全性と薬物動態が確認された医薬品候補化合物は、「医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令」(GCP(*)省令)に従い、ヒトに投与して、まずは安全性や薬物動態を評価します。その後、疾患に対する薬剤の効果を検討していきます。
当社が手掛ける新薬に関する治験は一般的に以下のように実施されます。
フェーズ1試験では、原則として同意を得た少数の健康な被験者に治験薬を投与し、安全性や体内動態を確認します。当社は、免疫・炎症疾患などがん以外の疾患はフェーズ1試験もしくは前臨床試験まで自社で実施し、それ以前のいずれかの段階で製薬企業等へ導出することを基本方針としています。
抗がん剤の場合は、フェーズ1試験で患者に投与することで、POC(Proof of Concept)を確認できることが多く、このためフェーズ2試験では、フェーズ1試験で決定された投与量の有効性・安全性についての検討が行われます。当社は、がん領域は最大でこのフェーズ2試験まで自社で実施する方針です。
②創薬支援事業
当社グループは、製薬企業やバイオベンチャー、大学等の各種研究機関を顧客として、これらの研究者に対してキナーゼ阻害薬の創薬研究において基盤となる技術、いわゆる「創薬基盤技術」に基づく製品及びサービスを提供し、これら顧客の創薬活動を支援する創薬支援事業を展開しております。特に、創薬における研究プロセスの初期段階であるヒット化合物の抽出から前臨床試験の手前までの研究段階(新薬候補となる新規化合物の創製及び絞り込み)に焦点を当てて、キナーゼ阻害薬の研究開発における品質及び信頼性向上ならびにコスト圧縮や期間短縮などの効率化に寄与することを通じて、製薬企業等における新薬の創製に貢献するとともに、当社の自社創薬に係る研究開発資金を自ら捻出し、創薬事業に融通しています。
キナーゼ阻害薬等の新薬の研究開発を行うプロセスは、1)創薬ターゲットの同定、2)スクリーニング及びリード化合物の創出、3)リード化合物の最適化といった段階を経て、前臨床試験ならびにその後の臨床試験へと進みますが、当社グループの創薬支援事業においては、これら1)、2)、3)の段階において必須となる以下の製品及びサービスを提供しております。
a.キナーゼタンパク質
b.アッセイ開発
c.プロファイリング・スクリーニングサービス
d.セルベースアッセイサービス
e.その他関連サービス
製薬企業や創薬ベンチャー企業が他社との創薬競争を勝ち抜くためには、他社に先駆けて新薬を開発し、医薬品として規制当局の承認を経て上市する必要があります。このような製薬企業等における創薬のスピードアップを図るためには積極的に外部のリソースを活用することが重要であるといわれており、アッセイ系構築、プロファイリング・スクリーニング、X線結晶構造解析(*)並びにセルベースアッセイ等をアウトソースする製薬企業等は引き続き増加するものと思われ、また、創薬研究の担い手が創薬ベンチャー企業中心となるなかで、潤沢な社内の研究リソースを有しない創薬ベンチャー企業を中心にこれらサービスの需要は拡大基調にあると予想しており、また創薬研究プロセスの効率化の観点から、これまでに存在しなかったアッセイ系やより高度化されたサービスの需要が高まっているといえます。当社は創薬基盤技術を駆使し、顧客ニーズに合致した付加価値の高い製品・サービスを開発してきましたが、今後も積極的に開発に取り組み、売上の拡大に取り組んでまいります。
<創薬研究プロセス及び当社グループ創薬支援事業の事業領域>
a.キナーゼタンパク質
当社グループは、2021年12月末時点で365種類486製品のキナーゼタンパク質を主に製薬企業等に販売しております。製薬企業等の研究所では、当社から購入したキナーゼタンパク質を使って、キナーゼ阻害薬の創薬研究を行います。少量(5㎍)から大量(mgレベル)まで幅広く供給できる体制を整え、表面プラズモン共鳴 (SPR)やバイオレイヤー干渉法 (BLI)といった物質間の相互作用を評価する系(解析機器)で利用可能なビオチン化キナーゼタンパク質(*)についても149製品を販売しております。2021年12月末現在、79種類147製品のチロシンキナーゼ(うち59製品は活性ミュータントキナーゼ(*)等)、269種類283製品のセリン/スレオニンキナーゼ(うち7製品は活性ミュータントキナーゼ)及び17種類の脂質(リピッド)キナーゼ、並びに8種類の非活性キナーゼ及び8種類の非活性ミュータントキナーゼについて、キナーゼタンパク質の販売を行っております。また、既存の品ぞろえにないキナーゼタンパク質についても、顧客の要望に応じて、特注でキナーゼタンパク質の製造・販売を行うなど、顧客ニーズに合致した高品質のキナーゼタンパク質を製造・販売し、売上の拡大を図っております。
b.アッセイ開発・アッセイキット
当社グループは、遺伝子クローニングの技術、活性のある/ないキナーゼを発現し抽出する技術、基質(*)探索及びアッセイ系構築に関する各種の知見ならびに技術を蓄積しています。2003年にヒトゲノムが解読され、これによって簡単にヒトの遺伝子を取得できるようになりましたが、高い活性を有するキナーゼを取得するには、組み換え(リコンビナント)タンパク質の構造、発現細胞の選択及びその培養方法、キナーゼの高純度精製技術などのノウハウが必要です。キナーゼの活性を測るために必要な基質についても、当社が保有する基質ライブラリーを用い、個々のキナーゼに対応する基質を探索したデータが蓄積されています。
これらにより2021年12月末時点で356製品のキナーゼのアッセイキットの開発に成功し、当社で製造したキナーゼタンパク質、それに適合した基質、アッセイバッファー(希釈液)及びプロトコル(手順書)を一式にしたキナーゼ活性測定キットとして販売をおこなっております。その他のキナーゼについても顧客より要望があれば、カスタムでアッセイ系の開発を行うサービスを提供しています。このアッセイキットにおいても、開発に注力してきた脂質キナーゼ製品で12種類を提供しており、変化する顧客ニーズを的確に把握し、売上の拡大を目指してまいります。
c-1.プロファイリングサービス
リード化合物の最適化の段階では、副作用の少ない新規医薬品候補化合物を創製するために、毒性試験等を実施し、標的とする特定のキナーゼのみを選択的に阻害し、阻害すべきでないキナーゼは阻害しない化合物を見つけ出すことが重要となります。そのための、より多くのキナーゼに対し網羅的かつ迅速に阻害すべきキナーゼと阻害すべきでないキナーゼを見極める測定方法として、プロファイリングが最適な方法と考えられます。
当社グループは、2021年12月末時点で336製品のキナーゼについてプロファイリングが可能です。そのうち224製品のキナーゼについては、より生体内に近いATP(*)濃度である1mMでのプロファイリングが可能です。これにより、顧客である製薬企業等は特定のキナーゼのみを阻害する選択性の高い化合物を見つけることが可能となります。顧客がどのキナーゼを選んだらよいか手間であるという場合に備え、当社グループはQuickScout®パネル(MAPキナーゼカスケードのキナーゼ31種類をあらかじめ選択したプロファイリングパネル等4種類のプロファイリングパネル)を用意しています。顧客から化合物をお預かりし、キナーゼに対する阻害率の測定、50%阻害濃度(IC50値)の測定を行い、結果を報告するサービス等を展開しております。当社グループのサービスを利用することで、顧客は網羅的なプロファイリングが可能となり、副作用の少ない新薬開発のための時間とコストを削減することが可能です。
さらに、強い阻害効果を示すキナーゼ阻害剤(*)の中には、キナーゼへの結合が遅いもの(slow binder)もあることが知られています。このような化合物を評価する際、アッセイ時のキナーゼ反応の前に化合物と対象キナーゼとのプレインキュベーション(事前にキナーゼと化合物を反応させること)を実施することにより、本来の化合物の阻害活性を算出することが可能となります。顧客からの要望に基づき、Mobility Shift Assay法(*)で室温でのキナーゼ活性の安定性が確認されたキナーゼ171製品について、本サービスを提供しています。通常の測定では適正な評価が難しいslow binderの評価に有益なサービスです。
当社グループは、プロファイリング及び後述のスクリーニングを行うために、PerkinElmer, Inc.(米国、以下「パーキンエルマー社」という)のアッセイ機器(LabChip® EZ Reader)を使用しており、この測定機器を用いて自動化を図り、効率的なアッセイを行っております。
c-2.スクリーニングサービス
スクリーニングとは、顧客から化合物をお預かりし、当社が構築したアッセイ系を用いて、特定のキナーゼに対して、阻害活性があるかどうかなど特定の性質を有するかについて一度に大量に評価し、結果を報告するサービスです。特に、数十万化合物の中からヒット化合物を探索する過程で用いられる大規模アッセイ(ハイスループットスクリーニング(HTS))を効率的に実施するためには、試薬を混ぜるだけで反応が検出できるホモジニアスなアッセイ系構築のノウハウが必要です。
当社グループは、上記c-1.に記載の通り、2021年12月末時点で、336製品のキナーゼのアッセイ系の構築に成功しており、これらアッセイ系を用いて顧客からお預かりした化合物のなかで、特定のキナーゼに対して阻害活性があるものを選び出し、結果を報告するスクリーニングサービスを提供しております。また、当社のアッセイ系は環境への負荷を考慮して、洗浄・分離の工程を必要とせず且つ放射性同位体を使わないアッセイ系を複数のアッセイプラットフォーム(*)(Mobility shift assay法、TR-FRET法(*)、IMAP®(*)等)で構築し、スクリーニングを実施しております。
d.セルベースアッセイサービス
上記のプロファイリング・スクリーニングサービスは、バイオテクノロジー技術を駆使して、細胞内から抽出したキナーゼという酵素の活性(リン酸化)について、キナーゼ阻害薬がどのくらい阻害するかしないかを試験管の中で確認するためのものでありますが、セルベースアッセイサービスは、細胞レベルでのアッセイであり、細胞内に存在するキナーゼが、キナーゼ阻害薬によりどれくらい阻害される/されないか等を確認する評価系です。より実際の生体内の環境に近いレベルで薬剤の効果を確認することができます。
当社グループは、2021年12月末現在で、下記の自社提供ならびに協力会社の販売代理店となり、下表のサービスを提供しております。
これらのセルベースアッセイサービスは、キナーゼ阻害薬の研究が深化するにともなって需要が高まっており、より安価に、より迅速に、細胞レベルにおいてリン酸化シグナルの状態を解析することを望む顧客において、広く利用されております。
e.その他関連サービス
当社グループは2016年8月にSARomics Biostructures AB(スウェーデン、サロミクス社)及びIniXium(カナダ、イニキシウム社)と販売代理店契約を締結し、サロミクス社が提供するX線結晶構造解析サービス並びにイニキシウム社が提供する結晶化グレードタンパク質の販売等を行い、当社グループを通じ顧客に提供しております。
③同一の創薬基盤技術で顧客の創薬研究の支援と自社の創薬研究を行うことについて
当社グループの創薬支援事業は、当社の創薬研究により見出されたキナーゼ阻害薬の創製に係るさまざまな技術、知見、ノウハウの集大成である「創薬基盤技術」を駆使して事業を行っています。この「創薬基盤技術」は、世界最大クラスのキナーゼコレクション、数万種類のキナーゼフォーカス化合物ライブラリー、高品質な各種アッセイプラットフォーム及びキナーゼプロファイリングパネル等、キナーゼに係る創薬技術により構成されており、長年の創薬研究において培われた当社の重要な財産であります。
この「創薬基盤技術」を当社の創薬研究のみならず、世界の製薬企業、バイオベンチャー及び研究機関に対して提供することにより、画期的な新薬をより早く世に送り届ける一翼を担いたいとの思いから、新薬の創製を自ら行なう創薬事業と同時に他社をサポートする創薬支援事業を行っています。同時に、創薬支援事業で獲得した資金を創薬事業に融通することにより、創薬事業における創薬研究のスピード化を図ることもその目的としております。
しかしながら、一つの会社の中に自社の知的財産を創造する機能と、他社の知的財産の創造を支援する機能が共存していることは、顧客に対して顧客情報の秘匿性の確保についての懸念を与えかねません。
当社グループは、創薬支援事業が創薬事業と顧客に関する情報を共有することを禁止しております。また、プロファイリング・スクリーニングサービスの委託契約において、顧客からの委託を受けて行ったプロファイリング・スクリーニングの結果を用いた顧客の研究成果について、全て顧客に帰属する旨の契約を締結すると共に、顧客データへのアクセス権を厳密に設定、管理し、それらへのアクセスログをすべて記録する等、社内において全ての顧客情報の秘匿性に万全を期しており、情報セキュリティ及び管理体制の向上にも常に取り組んでいます。
(注) *を付している専門用語については、「第4 提出会社の状況 4 コーポレート・ガバナンスの状況等」の末尾に用語解説を設け、説明しております。
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