課題

1【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

 文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。

 

(1)経営方針

 「大幸薬品は『自立』『共生』『創造』を基本理念とし、世界のお客様に健康という大きな幸せを提供します。」という企業理念を実現するに当たり、「健康社会の『ないと困る』を追求する。」をスローガンとして掲げすべての企業活動の指針としております。

 

(2) 経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等

 当社グループは事業の持続的成長を図る観点より、売上高及び営業利益の成長性を重視しております。また、資本の効率化による株主利益の最大化を目指し、自己資本利益率(ROE)も重視しております。

 前連結会計年度においては、売上高、利益ともに過去最高を記録し、また自己資本利益率(ROE)も18.3%と、これまで目標としてきた10%を大きく超えるものとなりました。しかしながら、一転して当連結会計年度は過去最大の赤字を計上するに至りました。当社グループを取り巻く環境としましては、引き続き厳しい状況が続くことが予測され、事業継続のための体質改善が急務であります。まずはコスト圧縮のために事業や組織の再構築、再編成を大至急進め、黒字転換を遂げるところから目指して参りたいと考えております。

 

(3) 経営環境、経営戦略並びに優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題

① 医薬品事業

 国内市場においては、人口の高齢化等に伴う医療費の高騰が社会問題化する中で、セルフケアとしてのセルフメディケーションの推進により、一般用医薬品の市場はさらに拡大するものと予測されます。一方で、当社の主力製品「正露丸」が属する止瀉薬市場は、多数のメーカーによる厳しい競争環境下にあり、国内人口の減少による市場規模の縮小等と相まって、当社製品のシェアは47.2%と5割を切り、低下傾向にあります。<出所:株式会社インテージ>。

 さらに、新型コロナウイルス感染症の流行拡大の影響により、インバウンド関連の需要消失のみならず、消費者の外出自粛やリモートワークの普及により、止瀉薬の利用機会が低い水準のまま続いております。国内需要は当連結会計年度に入り、やや持ち直しの傾向にはありましたものの、依然、本格的な復調までには至っておりません。また、中国本土や香港を中心とした海外市場でも、国内同様の状況にあり、消費の冷え込みは改善しておりません。

 このような厳しい環境が続きますが、当社グループでは研究開発活動を継続し、「正露丸」及び「セイロガン糖衣A」の主成分「木クレオソート」の新たな知見と成果の探求に努めてまいります。近年では、「木クレオソート」がヒトの腸内細菌に対して作用しないことを臨床的に実証し、日本薬局方ではかつて「化学薬品等」の分類でありましたが、「生薬等」に改正されました。これを受けて一般薬承認基準(胃腸薬)でも同様に、「殺菌剤」から「生薬」に分類が改められました。さらには、アニサキス症に対する効果検証やメトホルミン等の薬物による下痢への効果、安全性として他のお薬との飲み合わせに対する影響の調査等、複数の研究も進めており、引き続き胃腸内環境改善による“健全な体内環境”を実現するための実績と信頼を培ってまいります。

 国内の顧客基盤強化策については、明確なポジショニングとわかりやすいストーリー展開で、若年層を中心とした新規ユーザーの製品理解の深耕に努め、市場シェア拡大を図ってまいります。

 海外市場においては、特に当社グループの主要市場である中国本土、香港、台湾を含むアジア地域で、所得水準の向上等に伴う潜在的な消費需要の拡大が見込まれています。また、日本製品は安全性、信頼性、高品質の点で高く評価されていることもあり、当社製品への需要拡大の期待が持たれます。引き続き、現地の販売代理店と連携を強化し、営業・マーケティング体制を整備し、国内で蓄積した経験・ノウハウ等を活かしながら、主力製品「正露丸」、「セイロガン糖衣A」の販売を強化してまいります。

 生産体制につきましては、成長を支えるための体制強化を図るべく、京都工場・研究開発センターにおいて当連結会計年度中に医薬品の生産が稼働しており、今後、生産性の向上を図ってまいります。ただし、新型コロナウイルス感染症が沈静化せず、国内外の止瀉薬の需要が回復しない状況下においては、低稼働率下における原価の上昇を如何に抑えられるかが重要な課題であると考えております。

 

② 感染管理事業

 感染管理事業においては、世界的な感染症の脅威により、医療・生活等に関わるあらゆる場面で、感染予防と衛生対策への重要性が高まっております。特に2019年末頃に確認された新型コロナウイルス感染症の世界的な流行は未だ沈静化には至っておりません。

 当社グループは、新型コロナウイルスの流行拡大時に想定した衛生管理製品のその後の需要が計画よりも大きく下回ったことから、結果として過剰な投資に至り、当連結会計年度は、その整理のために巨額の損失を伴うものとなりました。衛生管理製品の市場環境につきましては、翌期につきましても引き続き厳しい状況が予想されます。改めて今後の衛生管理製品の需要を冷静に分析し、これに見合った体制整備と体質の改善が急務であると考えております。当社グループの感染管理事業は、もはや新型コロナウイルスの感染状況と当社製品の需要動向とは必ずしもリンクするものではないと考えざるを得ません。しかし、新型コロナウイルス感染症は未だ収束段階には至っておらず、また人類の敵となる新たな未知のウイルスは今後も発生し得るものと当社グループは考えており、その感染予防に備える製品として当社の衛生管理製品の存在感を発揮させていきたいと考えております。今後はコストを抑制しながら、主要製品の供給可能な体制を維持し、また製品ラインナップも当社の強みである商品に絞りつつ、その研究やマーケティングにリソースを集中してまいりたいと考えております。

 また、当社グループは、これまで培ってきた二酸化塩素の基礎研究及び製品の安全性と有効性の研究データを蓄積することにより、世界に先駆けて物体・空間除菌市場を創造し、拡大してまいりました。しかしながら、本年1月20日において、当社感染管理事業売上高の1割程度を占める当該事業製品4品目に対し、消費者庁より景品表示法に基づく措置命令を受けました。当社グループと致しましては、本措置命令については不服と考えており、今後法的措置を講ずる予定でありますが、これまでと同様に、消費者の皆様の安心感の醸成が重要であると考え、研究開発活動に注力してまいります。

 現在、積極的に産学共同研究も進めており大阪大学大学院医学研究科に「空間感染制御学共同研究講座」を設置し、低濃度二酸化塩素ガスによる空間除菌システムを中心に、細胞レベルでの安全性及び有用性研究を行うことで再生医療分野での利用やさらには医学分野での臨床試験に向けての研究を進めております。また、順天堂大学大学院医学研究科に「集団感染予防学講座」を設置し、医療及び社会環境での感染対策における二酸化塩素の有用性と応用について臨床的な検証も進めております。なお、新型コロナウイルスに対する二酸化塩素の有効性の検証を既に進めており、前連結会計年度の二酸化塩素ガス溶存液に続き、当連結会計年度においては、二酸化塩素ガスがヒトの体内への感染を阻止するメカニズムを解明し、英文科学雑誌に発表しました。さらには、現在感染拡大が著しいオミクロン株につきましても、二酸化塩素の有効性研究を進めております。

 海外市場につきましては、当社製品は主に現地の販売代理店を通じ、小売店やECサイト等で消費者に販売されております。世界的な感染予防意識の高まりを背景に、さらなる潜在需要が見込まれることから、中国、香港、台湾の子会社を拠点に現地での拡販を目指すとともに、シンガポール、マレーシアでも代理店を通じた販売を開始しました。また、欧米や中南米等の新規の国・地域に対するアプローチを強化するための子会社も設立しており、さらに顧客エリアを拡大してまいります。今後も、これまで国内で培ってきた感染管理のノウハウを活かし、海外の消費者にも当社製品の需要喚起、認知度向上を図ってまいります。

 生産体制につきましては、前連結会計年度において、新たな工場を立ち上げることにより「クレベリン」の供給能力の大幅増強を実現しました。しかしながら、本工場の稼働開始時点では、すでに衛生管理製品の市場が飽和状態になりつつあり、当初の想定以上に需要が低下しました。その結果、当連結会計年度中の稼働は極めて少ないものとなりました。足元の販売状況と手元の在庫量からは、翌期の稼働も僅かとなる見通しであり、このような状況下で改めて本格的に稼働する時期を見極めながら、当面は生産体制の維持とコスト抑制を重要な課題と認識し、取り組んでまいります。

 

③財務体質の改善、資金繰り

 前連結会計年度は売上高、利益ともに過去最高を記録したものの、一転して当連結会計年度は過去最大の赤字を計上するに至りました。その主な要因としましては、衛生管理製品の需要が計画を大きく下回ったことから、設備や在庫、組織体制等への投資が結果的に過剰なものとなり、急激に高コスト体質になったことに加え、これら過剰となった資産の評価減や処分等各種の整理のための損失を計上したことによるものであります。この結果、運転資金が不足し、当連結会計年度中においては金融機関からの長期融資により50億円を調達しております。

 さらに足元では、前述の通り消費者庁から景品表示法に基づく措置命令を受けておりますが、この措置命令により一定量の返品が見込まれるとともに、当該事業における今後の売上高はマイナスへの影響が避けられません。このような状況においては、まずは事業継続のための体質改善が急務であり、コスト圧縮のために事業や組織の再構築、再編成を大至急進めてまいります。

 なお資金繰りと致しましては、一時的にも販売の状況が極端に悪化した場合に備え、金融機関とのコミットメントラインを契約し、新たに40億円分の融資枠を確保致しております。

 

④SDGsへの取り組み

 当社グループでは、事業活動を通じて、環境・エネルギー問題や社会課題に対応していくことを経営課題のひとつに掲げております。世界では新型インフルエンザや新型コロナウイルス感染症のような新たな未知の感染症の発生やそれらによるパンデミックの脅威への対応、さらには薬剤耐性(AMR)菌による院内感染等への対応が急務になっており、これら人類の脅威に対処していくためにも、当社グループが日本で培った「クレベリン」による「空間除菌」の概念を世界の人々の暮らしに浸透させ、衛生観念を文化として根付かせてまいります。また特に、感染症の流行下では室内空間の換気が推奨されますが、一方で空調等に係るエネルギーの消費が伴います。当社が提唱する低濃度二酸化塩素による「空間除菌」を普及させることで、脱炭素社会の実現にも寄与できればと考えております。

 

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