課題

1 【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

 

(1)会社の経営の基本方針

当社は、元米国アムジェン社 (注1) 本社副社長で、同社の日本法人であるアムジェン株式会社(現在は武田薬品工業株式会社が全事業を譲受)の創業期から約12年間社長を務めた吉田文紀が、2005年3月に設立した医薬品企業です。

経営理念は「共創・共生」(共に創り、共に生きる)で表され、患者さんを中心として医師、科学者、行政、資本提供者を「共創・共生」の経営理念で結び、アンメット・メディカル・ニーズ(Unmet Medical Needs) (注2) に応えていくことにより、社会的責任及び経営責任を果たすことを事業目的としています。

当社は、極めて医療上のニーズは高いものの、新薬の開発が遅れている空白の治療領域をビジネスチャンスと捉え、特に、高い専門性が求められ難度が高いために参入障壁の高いがん及び血液領域を中心とした日本初のスペシャリティファーマです。当社は、大型新薬(いわゆる売上高が1,000億円を超える「ブロックバスター」)の追求ではなく、マーケットは相対的に小規模でも医療ニーズの高い希少疾病分野を中心とした新薬開発に取り組み、これらの医薬品及び新薬候補品を数多く保有することにより、強固なパイプライン・ポートフォリオを構築し、高付加価値で高収益を達成し、持続性のある事業展開を行います。

 

(注1) バイオ医薬品業界最大手。1980年、米国カリフォルニア州サウザンド・オークスにおいて、AMGen(AppliedMolecular Genetics)として設立。日本においては、1993年5月にアムジェン株式会社として業務を開始しました。なお、2008年2月に武田薬品工業株式会社がアムジェン株式会社の株式を100%取得後、現在は武田薬品工業株式会社が全事業を譲受しています。

 

(注2) アンメット・メディカル・ニーズ(Unmet Medical Needs)とは、未だ満たされない医療上の必要性を意味し、患者さんや医師から強く望まれているにもかかわらず有効な既存薬や治療がない状態を指します。

 

 (2)目標とする経営指標

当社は製薬企業として、自社販売体制の下で新薬を継続的に上市していくことが企業価値の更なる向上を図る上での重要な要素と考えており、営業組織及び流通・物流を含めた営業の一貫体制を構築しました。同時に、継続的に開発候補品を導入し積極的に研究開発活動等に経営資源を投下する方針です。

当社は、SyB L-0501が2010年に国内で製造販売承認されて以来継続して製品販売による売上を主として収益を伸ばしています。事業提携契約が有効な2020年12月まではエーザイとの協業によるトレアキシン®の更なる拡販を推し進め、2021年以降は自社による販売体制への切り替えによる更なる収益の拡大を目指してまいります。また、引き続きリゴセルチブの注射剤及び経口剤の承認取得及び上市、抗ウイルス薬ブリンシドフォビルの国内及び海外における開発開始と商業化、新たなパイプラインの導入・開発推進・承認取得等を通じて、安定的に高収益を確保できる体制の早期実現に取り組んでおります。2021年度から自社販売体制に移行したことによって単年度利益を計上できることになりましたが、引き続き積極的な研究開発投資を行っていくことから、ROEやROAなどの経営指標の目標は設定しておりません。

 

(3)中長期的な会社の経営戦略

当社は、中長期的な経営計画を実現すべく、主に以下の5つの事業戦略を展開しています。

 

① ポストPOC戦略による開発リスクの軽減

当社の導入候補品は、主として既にヒトでPOCが確認されていることを原則としています。従って、臨床開発ステージが比較的後期段階にある候補品か、既に海外で上市されている製品が対象となります。これらの導入候補品は既に海外で先行して開発が行われており、新薬としてヒトでの有効性・安全性が確認されていることから、開発リスクを軽減でき、また、先行している海外の治験データを活用することにより日本を含めアジアにおける開発期間を短縮するとともに開発コストを低減し、成功確率を高めることが可能となります。

 

② 高度な探索及び評価能力による、優れたパイプラインの構築

当社の新薬サーチエンジンは、製薬企業及びバイオベンチャー企業等との多様なネットワークによって構築され、膨大な化合物の中から、社内の専門家による厳正な評価を経て、有望な導入候補品が抽出されます。これらの導入候補品はさらに、第一線で研究に携わる経験豊かな専門家により構成されるSABに諮られ、そのアドバイスと評価を受けた上で導入候補品を決定しています。この開発品導入決定までの高度なスクリーニングプロセスは、既に海外において有効性・安全性が確認された開発品を導入するポストPOC戦略と相まって開発リスクの軽減と開発期間の短縮につながることになり、また、候補品が医療の現場において求められるものかどうかの医療ニーズの充足度に対する理解、及び上市後の収益予測の精度向上に貢献しています。

 

③ ラボレス・ファブレス戦略による固定費抑制

当社は、一切の研究設備や生産設備を保有していません。研究設備・生産設備はともに固定費発生源の代表格ですが、当社はこれらを一切保有せずに、開発候補品の探索及び導入後は、開発品の開発戦略策定と実行等の付加価値の高い業務に専念し、そのほかに必要とされる定型的な開発業務は外注しています。これにより低コストの医薬品開発を実現するとともに、財務戦略の機動性を確保しています。

 

④ ブルーオーシャン戦略(注3)による高い事業効率の実現

海外で標準治療薬として使用されている製品が日本では使用できない、あるいは海外で新薬として承認された製品が5年近くも遅れて日本で承認される、いわゆるドラッグ・ラグの問題が深刻化しており、がん患者の難民という言葉も生まれています。このドラッグ・ラグは、当社の戦略的開発領域である難治性のがん及び血液疾患領域で特に目立っています。特に抗がん剤の市場自体は大きく、また高齢化に伴い現在も拡大傾向にあるものの、抗がん剤の対象疾患は多岐にわたり、がん腫により細分化されているため、各々のがん腫でみると対象患者数がそう多くはない治療領域が数多く存在します。これらの領域での新薬の開発には、極めて高い専門性が求められ、開発の難度が高い半面、大手の製薬企業では採算性などの問題から開発に着手しにくいことがその理由のひとつといわれています。しかし、ひとたび、そうした領域において新薬の承認を取得し上市できれば、競合が少ないため、これらの領域で適応拡大・新製品上市を着実に積み上げていくことで、高成長・高収益を実現できるものと考えています。

 

(注3) ブルーオーシャン戦略とは、競合との熾烈な競争により限られたパイを奪い合う市場(レッドオーシャン)を避け、市場を再定義し、競合のいない未開拓な市場(ブルーオーシャン)を創造することで、顧客に高付加価値を与えつつ利潤の最大化を目指す戦略です。

 

 ⑤ アジアからグローバル展開へ

当社はこれまで日本を中心としたアジア各国を対象に事業を展開してまいりました。しかしながら、日本の医療を取り巻く環境が大きく変わっていく中、アジアに留まっていては大きな発展は望めません。今後はグローバルな展開を視野に入れた開発候補品の探索及び評価を実施してまいります。2019年9月にはキメリックス・インク社(本社:米国ノースカロライナ州)との間で抗ウイルス薬ブリンシドフォビルに関しての独占的グローバルライセンス契約を締結し、当社は天然痘疾患を除くすべての疾患を対象とした世界全域における開発・販売に加えて製造を含む独占的権利を取得しております。

2021年3月に、主に小児対象(成人も含む)の造血幹細胞移植後の播種性アデノウイルス(AdV)感染症を対象とする第Ⅱ相臨床試験を開始するため、FDAにIND申請を行いました。本開発プログラムについては、2021年4月に、FDAからFast track指定を受けており、2021年8月には第1例目(FPI: First Patient In)の投与を開始しました。さらに、2022年1月にMHRAにCTAを提出し受理されました。

アデノウイルス(AdV)感染症を対象とする試験により得られた有効性と安全性に関する知見に基づき、造血幹細胞移植後の各種dsDNAウイルス感染症に対する効果を検討し、抗マルチウイルス感染症へ対象領域を拡大し、さらには腎臓移植を含む臓器移植分野、がん領域等の対象領域拡大の可能性を追求することで、市場の拡大とBCVの事業価値の最大化を目指してまいります。

 

(4)主要な経営課題

当社は、以下の点を主要な経営課題と捉え、取り組んでまいります。

 

① パイプラインの更なる充実について

製薬ベンチャー企業として企業価値を高めるためには、開発候補品を継続的に導入し、パイプラインを充実させていく必要があります。

当社では、抗がん剤 SyB L-0501、SyB L-1101、SyB C-1101、SyB L-1701及びSyB L-1702、抗ウイルス薬 SyB V-1901において開発を実施または計画しています。また、現在、新薬候補品の導入に関して複数の案件を相手先企業と協議しており、パイプラインの更なる拡充に向けて今後も新規の開発候補品の導入を積極的に進めてまいります。

 

② 既存パイプラインのライフサイクル・マネジメントの追求

企業価値を高めるためには、開発候補品の導入だけではなく、導入した新薬候補品の適応症を追加することにより、開発品目あたりの収益の最大化を図る、ライフサイクル・マネジメントを追求することが重要となります。

トレアキシン®は、再発・難治性の低悪性度非ホジキンリンパ腫及びマントル細胞リンパ腫、慢性リンパ性白血病、及び未治療(初回治療)の低悪性度非ホジキンリンパ腫及びマントル細胞リンパ腫を適応症として製造販売承認を取得しています。加えて、再発・難治性のびまん性大細胞型B細胞リンパ腫(r/r DLBCL)について2021年3月に製造販売承認を取得しました。また、ライフサイクル・マネジメントを推進することにより、トレアキシン®の事業価値の最大化を図るべく、イーグル社より導入したトレアキシン®液剤(RTD製剤及びRI投与)につきましては、RTD製剤は2020年9月に製造販売承認を取得し、2021年1月より販売を開始しました。RI投与は2021年5月に一変承認申請を行い、2022年2月に承認を取得しております。さらにトレアキシン®に関しては、共同臨床契約を埼玉医科大学と締結し、リツキシマブ併用による自家造血幹細胞移植適応のびまん性大細胞型B細胞リンパ腫に関する第Ⅱ相臨床試験を2022年1月から開始し、BR療法の臨床応用の可能性を追求しております。

リゴセルチブについては、骨髄異形成症候群(MDS)を対象として国際共同第Ⅲ相臨床試験(INSPIRE試験)を実施しておりましたが、2020年8月に医師選択療法との比較において主要評価項目を達成しなかったことを発表しました。当社は日本における臨床開発を担当しており、INSPIRE試験の追加解析から得られた知見を今後のリゴセルチブの開発に活用するための検討を進めております。

リゴセルチブ及びトレアキシン®に関して、東京大学や群馬大学との共同研究等を通じて、両化合物あるいは他の既存薬との併用により新たな有用性を見出すとともに新規適応症の探索を行い、事業価値の最大化に努めます。

抗ウイルス薬ブリンシドフォビルについては、アンメット・メディカル・ニーズの高い造血幹細胞移植後のアデノウイルス感染症を対象にグローバル開発を先行して進めておりますが、新たに、臓器移植後のウイルス感染症、ウイルスにより誘引されたがんを対象とした開発も検討しており、ライフサイクル・マネジメントの追求を通じて収益の最大化を図るとともにグローバル市場を対象に事業展開をするスペシャリティファーマへの転換を進めてまいります。

 

③ 自社による販売体制の構築

当社は、販売委託先であるエーザイとの事業提携契約が2020年12月に満了となることから、2018年10月よりトレアキシン ® の国内販売について自社による販売体制構築の準備を開始し、2020年度には自社による販売体制の構築は完了し、エーザイとの事業提携契約の満了に伴い、2020年12月に自社によるトレアキシン ® 販売体制へ移行しました。自社で専門的な情報提供を行うことによって市場のニーズをより的確に把握しかつ迅速に応えることが可能となり、患者さんの利益に資するとともにトレアキシン ® が持つ事業価値の最大化を図ります。

 

④ 更なる成長を求めてグローバル展開へ

当社はこれまで日本のみならず、中国・韓国・台湾・シンガポールの4ヶ国を戦略地域として位置付け、アジア地域への展開を進めてまいりました。しかしながら、日本においては高齢化とともに医療費が膨張し、それに伴う国家戦略として後発医薬品80%時代が始まり新薬メーカーにとって厳しい環境が続くことが予想されます。また、アジア各国においても同様の政策が始まることも考えられます。

こうした中、当社は更なる発展のためにグローバル展開を進めてまいります。これまでのアジア展開で培った経験を活かし、抗ウイルス薬ブリンシドフォビルに続く新規開発候補品について、グローバルの権利を取得するべく、候補品の探索・評価及び交渉を進めてまいります。

 

⑤ 人材の確保について

当社の経営資源の第一は人であると考えています。優秀な人材なくして、新薬の探索、開発及び情報提供活動、そして今後のグローバル展開において優れた成果をあげることはできません。当社は継続的に優秀な人材の採用を行っており、上場後、特に経営組織をより強固にすべく優れた人材を採用してまいりました。また、OJTや研修等による人材育成を通じて、人材の更なる強化を図ってまいります。

 

⑥ 財務上の課題について

当社は、パイプラインの開発進展、グローバル事業展開、開発候補品の増加等に伴い、研究開発費を中心とする事業活動に合わせて資金を調達する必要があります。

従って、引き続き資金調達手法の多様化を進めるとともに、予算管理の徹底を通じてコスト抑制を図ることで、財務基盤の更なる強化に努めてまいります。

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