課題

1【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

 文中の将来に関する事項は、本書提出日現在において当社が判断したものであります。

(1)会社の経営の基本方針

 当社は創業以来、当社独自の抗体作製技術であるADLib®システムの研究開発や技術導出に向けた取り組みを行ってまいりました。

 現在、当社ではADLib®システムをはじめ複数の抗体作製技術を保有し、これまでの製薬企業等との協業を通じて培ってきた抗体創薬に関わる周辺の技術も蓄積しております。これらの技術を活かし、アンメットニーズの高い疾患に対する抗体創薬の新規創製を進めるとともに、自社の臨床開発機能を活かし画期的な新薬の初期臨床開発に注力する経営を進めております。

 複数の抗体作製技術を用いることでリード抗体取得の可能性を高め、有効な治療法がない重篤な疾患や、薬剤による治療満足度が低い疾患を中心に「医療のアンメットニーズに創薬の光を」あてる研究開発を強く推進し、人類の健康に貢献をしてまいります。

 

(2)経営環境

 「第1 企業の概況 3 事業の内容 1.事業環境」に記載しております。

 

(3)目標とする経営指標

 創薬事業においては、医療用医薬品の開発候補品となるリード抗体を創出し、臨床開発を目的として製薬企業に導出することで収益を得るビジネスに取り組んでおります。当社が保有する開発候補品の収益性向上や導出確度の向上を鑑み、前臨床試験(*)段階、または、初期臨床試験を実施した後の導出を目指しております。一般的には臨床開発を行い、医療用医薬品として承認に至る可能性が高まることによって、導出時に得られる収益性が高くなります。しかしながら、臨床開発に入った抗体医薬品候補が承認に至るまでの成功確率は一般的に10~20%程度と言われているため、1つの開発品目だけに当社の事業や将来の収益の可能性を依存することは経営上の様々なリスクが大きくなります。従いまして、当社は研究開発の各段階において、複数の開発品目を保有することで事業全体の成功確度を高めることを目標に掲げております。なお、当社では臨床段階のプログラムにつきましては、研究開発費と導出によって得られる収益の状況を鑑みて、同時期に扱う品目数を2~3つと想定しており、現在、当社ではCBA-1205とCBA-1535の2つの開発品目を有しております。これらの開発品目の初期臨床開発を進め、抗体の安全性及び初期の有効性の評価を行ったのちに、製薬会社等へ導出することにより契約一時金や開発マイルストーン等の獲得を目標としております。また、導出契約締結時には契約一時金の獲得により単年度の黒字化を達成することも重要な目標としております。

 また、探索研究段階にある創薬プロジェクトではリード抗体獲得及び知財化に向けて、抗体作製や動物試験等の研究開発を推進しております。リード抗体獲得の成功確率を向上させるために、社内での技術改良に加え、社外の技術導入や共同研究等のアライアンスも積極的に推進することで、創薬力を高める取り組みを行っております。リード抗体獲得に資する共同研究は常時10テーマ程度を実施することを目安にしており、現在国内のアカデミアや企業を中心に12件の共同研究が進んでおります。なお、当社の開発・導出候補品で構成される開発パイプラインの拡充に向けては、有望なシーズ(*)の導入も視野に入れております。

 創薬支援事業においては、複数の安定顧客に質の高い抗体作製およびタンパク質・抗体の発現精製等の委受託業務を継続的に提供することで、収益基盤の安定化と本事業で獲得した収益を創薬事業での研究開発投資に充当しております。本事業では収益性を高めるために、当社の抗体研究領域における高い業務品質と柔軟な業務遂行を通した高付加価値型のビジネスの遂行により、セグメントの利益率50%確保を目指しております。また、付加価値の高い業務品質や柔軟な業務遂行力を維持することが本事業における目標達成にとって重要な要素であり、収益性を高めるために現在は国内の大手抗体医薬企業との取引に注力をしております。

 

(4)中長期的な会社の経営戦略

 当社の中長期的な事業シナリオは次のとおりです。

 

① 治療用抗体の臨床開発及び導出戦略

 ファースト・イン・クラス抗体であるCBA-1205および、多重特異性抗体であるCBA-1535の臨床開発を進め、第Ⅰ相臨床試験終了後の導出を目指します。CBA-1205については、第Ⅰ相臨床試験の前半パートの症例登録が2021年に完了し、安全性の高さが示されたため、2022年から始まる後半パートでは肝細胞がんの有効性を探索する計画としております。本抗体の導出時期については、前半パートの結果によって導出契約を獲得するケース、後半パートにおいて肝細胞がんに効果を示唆する有用なデータを取得できることによって導出するケースの2つの導出シナリオを想定しておりますが、いずれの場合も導出により2023年末以降において単年度の黒字化を目指しております。また、2022年2月16日にPMDAへ治験計画届を提出したCBA-1535は2022年央の患者さんへの治験薬の投与を目指して、臨床試験の準備を進めております。

 

② 治療用リード抗体の継続的な創出

 アカデミアやバイオベンチャー等との共同研究を軸に、当社の抗体作製技術を用いてアンメットニーズに対するリード抗体を継続的に創出し、製薬企業等へ早期に導出することを目指します。2021年1月にはLIV-2008/2008bの新規導出契約の締結をいたしましたが、当社ではこれに続く新規パイプラインとしてがん治療用抗体のPCDC(ヒト化抗CDCP-1抗体)のPCT出願を完了し同抗体の導出活動を開始しております。さらにPCDCに続く新規パイプラインの創製に向けた基礎研究及び新規の特許出願も推進しております。このようには継続的に新規リード抗体を創出し製薬企業へ導出を推進することで、当社の抗体基盤技術を生かしたリード抗体創製に注力するとともに、単一のプロダクトや契約に依存しない経営を進めております。

 

③ 開発候補品の継続的な保持

 当社が手掛けるような医薬品の研究開発事業は通常、開発期間が長く相当程度の開発中止リスクが伴うため、安定的な成長にはステージの異なる複数のパイプラインの確保が必要となります。当社では自社の創薬研究によってリード抗体を継続的に創出し、新たなパイプラインに加えるだけでなく、外部からのパイプラインの導入も行うことにより、開発ポートフォリオを充足させ開発候補品を断続的に保持することを目指します。また、CBA-1205やCBA-1535に続く自社で手掛ける臨床開発については、2022年以降に新たな臨床開発候補品のCMC開発に着手すべく、当社の創薬プロジェクトの研究活動を積極的に推進するなど、臨床開発候補品の確保にむけた取り組みを進めてまいります。

 

④ 創薬開発と事業開発の連動

 新規の創薬開発においては、将来の提携や早期の導出が実現できるよう、業界での開発動向や既存薬剤による医療ニーズの充足度等を調査、検討の上、最適な創薬ターゲットの選定と出口戦略の策定が重要です。そのため、当社では自社での評価の他に、製薬企業等との情報交換による需要の発掘やアカデミアとの連携などを通じて、ターゲットの選定が適切に行われるよう努めてまいります。その上で提供可能なパイプラインがクライアントのニーズに即していた場合には、早期にライセンス契約へと繋げていくことを目指します。

 

⑤ 収益最大化を目指した初期臨床開発の実施

 医療用医薬品の導出において、一般的には開発後期になるほど医薬品開発の成功確率があがり、それにより導出時の経済条件は有利になります。当社は、一部のパイプラインにおいては前臨床段階での導出のみならず初期臨床開発を実施した上で導出することで、当社の収益性が最大化するような取り組みを進めてまいります。

 

(5)対処すべき課題

 当社が認識する対処すべき課題については以下のように考えております。

 

① 抗体作製力の維持向上とパイプライン拡充

 当社は、抗体医薬の開発候補品を継続的に創出して、革新的な医薬品を待ち望む患者さんに貢献することを目指しておりますが、保有するパイプラインが様々な理由で開発の遅延や中断、中止等になるリスクがあります。また、承認申請にむけた臨床開発は導出後の製薬企業で行われますが、導出先企業の開発戦略変更等によりライセンス契約終了などの影響が生じるリスクがあります。それらの開発や事業上のリスクに対応するためには、開発パイプラインを拡充することにより、開発中止等によって生じる経営上の様々なリスクを分散する必要があると考えております。そのためには抗体作製技術の継続的な改良を行い自社での抗体作製力の向上を図りパイプラインを創出することにより、様々な開発ステージでバランス良く構成された複数のパイプラインを保有してまいります。また、大学や企業等の外部の有望な抗体医薬の候補品の導入も含め、開発パイプラインの拡充を進めてまいります。

 

② 初期臨床開発の着実なる遂行

 当社は、医薬品の研究開発段階の中でも比較的早期の導出を目指しておりますが、初期臨床開発によって得られたデータにより医療用医薬品として承認される可能性を高め、導出時の収益性を向上させることも重要であると考え、自社での初期臨床開発の取り組みも進めております。現在、当社が保有するパイプラインのうち、がん治療用抗体のCBA-1205とCBA-1535については、価値最大化を目指して社外専門家と提携しながら治験計画の策定を行い、また、CRO(*)を活用し、臨床試験を進めております。

 

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