研究開発活動

 

5 【研究開発活動】

当社の当事業年度における研究開発費は、825,474千円となりました。

なお、当事業年度における研究開発活動の状況は以下の通りです。

 

(1) 研究開発体制について

 2021年12月31日現在、研究開発部門は14名在籍しており、これは総従業員数の38.9%に当たります。

 

(2) 研究開発並びにビジネス活動について

当社は、以下のプロジェクトを中心に研究開発並びにビジネス活動を進めました。

 

① がんのウイルス療法テロメライシン(OBP-301)(国際一般名称:suratadenoturev)に関する活動

当社は、2021年12月に中外製薬と、テロメライシンのライセンス解消契約に合意しました。この契約に従い、当社は2022年10月15日までに中外製薬が日本国内で実施中の食道がんPhase2臨床試験を引き継ぎます。それまでの期間、中外製薬は実施中の臨床試験を同社の費用負担で進めます。また、テロメライシンのGMP製造開発に関する費用負担は、2022年10月15日までに当社が製造委託先から受領した請求額の約50%を中外製薬が負担します。

 

2021年12月31日現在、テロメライシンは以下の6つの臨床試験が国内外で進められています。

i) 放射線併用による食道がんPhase2臨床試験

ii) 抗PD-L1抗体アテゾリズマブ及び分子標的薬ベバシズマブ併用による肝細胞がんPhase1臨床試験

iii) 抗PD-1抗体ペムブロリズマブ併用による胃がん・胃食道接合部がんPhase2医師主導治験

iv) 化学放射線療法併用による食道がんPhase1医師主導治験

v ) 放射線及び抗PD-1抗体ペムブロリズマブ併用による頭頸部がんPhase2医師主導治験

vi) 抗PD-1抗体ペムブロリズマブ併用による固形がんPhase1医師主導治験

 

今後、当社は日本国内で再生医療等製品の「先駆け審査指定」を受けているテロメライシンの「放射線併用による食道がんPhase2臨床試験」の完了を最優先事項とし、2024年の国内承認申請を目指す方針です。一方、海外に関しては、米国FDAからのオーファンドラッグ指定を活かし、これまでの臨床試験を継続し、同時に再ライセンス活動を推進いたします。

 

上記i)の「放射線併用による食道がんPhase2臨床試験」は、2019年4月の先駆け審査制度の指定に基づき進められており、中外製薬によって2020年3月に第1例目の投与が日本国内で開始されました。目標症例数は37例です。当社は、2022年10月15日までに中外製薬から本試験を引き継ぎます。それまでの期間、中外製薬は本試験を同社の全額費用負担で進めます。

 

上記ii)の「抗PD-L1抗体アテゾリズマブ及び分子標的薬ベバシズマブ併用による肝細胞がんPhase1臨床試験」は、中外製薬によるテロメライシンと抗PD-L1抗体アテゾリズマブを初めて併用する臨床試験として、2021年1月に第1例目の投与が開始されましたが、当社と中外製薬の協議により、本臨床試験は2022年10月までに終了する予定です。なお、本試験の中止理由は、安全性や有効性の問題ではないことを、当社と中外製薬は確認しています。

 

上記iii)の「抗PD-1抗体ペムブロリズマブ併用による胃がん・胃食道接合部がんPhase2医師主導治験」は、米国コーネル大学を中心に、2019年5月に第1例目の投与が開始されました。最も重症度が高いステージ4の患者を対象に、テロメライシンと抗PD-1抗体ペムブロリズマブを併用した場合の有効性及び安全性の評価を行います。既に2020年12月末に評価可能な8例において中間検討会が実施され、PR(Partial Response:部分奏効)が1例、SD(Stable Disease:安定)が1例の結果が得られました。特にPRの結果が得られている症例においては、ペムブロリズマブ単独では見られない局所反応が認められており、これはテロメライシン投与による効果である可能性が高いと考えられました。一方、問題となるような副作用は報告されませんでした。2022年中に18例における中間評価を行い、臨床試験の継続可否の判断を行う方針です。

 

上記iv)の「化学放射線療法併用による食道がんPhase1医師主導治験」は、米国の主要ながん研究グループであるNRGオンコロジーグループが中心となり、最大21例の登録を目標に2021年12月に第1例目への投与を開始しました。テロメライシンは米国においてオーファンドラッグの指定を受けており、同指定の下、本治験は実施されます。そのため、臨床試験実施においてFDAからの助言相談が可能になることに加え、補助金の支給や臨床研究費用の税額控除の優遇を受けることができます。さらに、米国においてテロメライシン承認後の7年間は先発権保護が与えられ、その期間中は市場独占権が得られます。

 

上記v)の「放射線及び抗PD-1抗体ペムブロリズマブ併用による頭頸部がんPhase2医師主導治験」は、米国コーネル大学を中心に、2021年5月に第1例目の投与が開始されました。本治験は、テロメライシンと放射線療法の併用による局所作用の相乗効果に加え、抗PD-1抗体を併用することによる全身性の臨床効果を検討します。2022年中に12例における評価を行い、臨床試験の継続可否の判断を行う方針です。

 

上記vi)の「抗PD-1抗体ペムブロリズマブ併用による固形がんPhase1医師主導治験」は、国立がん研究センター東病院を中心に2017年12月に投与が開始されました。合計22例におけるPhase1a及び1b臨床試験の結果では、テロメライシンと抗PD-1抗体ペムブロリズマブの併用における安全性と、一部症例における食道がん局所での有効性が示されました。本試験の内容は2022年1月のASCO-GIで発表予定と報告を受けていましたが、臨床試験に付随したバイオマーカーの測定に想定以上の時間を要したため発表が延期された、との報告を受けました。なお、本試験は医師主導治験であり、当社が発表内容を事前にチェックすることは差し控えています。

 

 

② 新型コロナウイルス感染症治療薬OBP-2011に関する活動

当社は2006年に鹿児島大学と共同研究契約を締結し、ヒトレトロウイルス学共同研究センターの馬場昌範センター長と各種難治性ウイルス疾患に対する創薬研究を進めてきました。その結果、新型コロナウイルス感染症の原因ウイルスであるSARS-CoV-2に対して強い増殖抑制効果を有するOBP-2011を見出しました。OBP-2011はこれまでに行われた前臨床試験の結果から、経口投与が可能であることが確認されています。

現在、世界の製薬企業が開発している経口コロナ治療薬の主なメカニズムは、ポリメラーゼ阻害やプロテアーゼ阻害ですが、OBP-2011はウイルス増殖過程の後期であるヌクレオカプシド阻害剤であることを実験結果から推定しています。これは現在開発されている他剤とは異なる新規メカニズムであり、ウイルスの突然変異などの影響に左右されないことが期待されています。

また、細胞培養系の実験においても、アルファ株、ガンマ株、デルタ株及びベータに加えて、2022年1月にはオミクロン株に対する有効性を確認し、世界保健機関(WHO)が懸念すべき変異株(VOC: Variants of Concern)として指定する全てのVOCに対する効果が確認されました。さらに、2002年に発生した重症急性呼吸器症候群(SARS)、2012年に発生した中東型呼吸器症候群(MERS)といった他のコロナウイルスに対しても野生型と同等の活性を示すことも確認されており、幅広いコロナウイルスの増殖抑制効果を持つことが確認されました。

21世紀に入り既に3度(SARS、MERS、COVID-19)のコロナウイルスによるパンデミックが発生しており、今後も世界的流行が繰り返される可能性があると、世界中の専門家が予想しています。当社は2022年の治験申請を目標とし、感染初期の患者を対象とした臨床試験でPOCを取得することを目指しています。大手製薬企業とライセンスを行い、短期間でSARS-CoV-2の陰性化が可能となる経口治療薬として、次のパンデミックにも対応できるようにしたいと考えています。

 

③ 核酸系逆転写酵素阻害剤OBP-601(censavudine)に関する活動

2006年にYale大学から導入したOBP-601は、2010年から2014年にかけてBristol-Myers Squibb Co.(以下「BMS社」)へライセンスし抗HIV薬としてPhase2臨床試験を完了しましたが、BMS社の戦略変更を理由にライセンス契約は終了しました。その後、当社は2020年6月にTransposon社との間で、難治性神経疾患領域を主な対象とした総額3億ドル超の新規ライセンス契約を締結し、同年11月にTransposon社は第1回マイルストーンを達成しています。

 

現在、Transposon社の全額費用負担によって「進行性核上性麻痺(PSP: Progressive Supranuclear Palsy)」と「筋萎縮性側索硬化症(ALS: Amyotrophic Lateral Sclerosis)及び前頭側頭型認知症(FTD: Frontotemporal Degeneration)」を対象とした2つのPhase2a臨床試験が進められています。PSPを対象としたPhase2a臨床試験は、2021年11月に1例目への投与を開始しました。また、ALSとFTDを対象としたPhase2a臨床試験も、2022年1月に投与が開始されました。いずれの臨床試験もプラセボを比較対象とした二重盲検試験で実施され、2024年までにはこれらの臨床試験の結果が報告される予定です。

 

④ 次世代テロメライシンOBP-702に関する活動

OBP-702は、強力ながん抑制遺伝子p53による「がん遺伝子治療」とテロメライシン(OBP-301)の「腫瘍溶解機能」を組み合わせた2つの抗腫瘍効果を持つウイルスです。現在、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の助成金事業に採択され、岡山大学消化器外科学藤原俊義教授の研究グループにより非臨床試験が進められており、これまでに多くの学会でその有効性が報告されています。特に、ゲムシタビン耐性すい臓癌細胞株のマウスモデルを用いた実験においては、OBP-702にPD-L1抗体を併用することで、OBP-702又はPD-L1抗体単独投与よりも強い抗腫瘍効果が認められました。今後、すい臓がんに対する臨床試験をPD-L1抗体との併用で実施していくことが期待されます。

 

⑤ がん検査薬テロメスキャン(OBP-401)に関する活動

テロメスキャンは、がん患者の血液中を循環している生きたがん細胞(CTC:Circulating Tumor Cells)の検査自動化プラットフォームの確立を目的に、順天堂大学と共同研究講座「低侵襲テロメスキャン次世代がん診断学講座」を2021年6月に開設いたしました。AI技術を活用することで検査処理の時間短縮だけでなく、CTCの画像解析の感度および検査精度の向上を目指し、このプラットフォームの国内実用化を目指します。

また、2021年12月にはLiquid Biotech社との北米ライセンス契約を、同社の事業計画の大幅な遅延により当社主導で解消しました。検査自動化の完成後に再度世界展開を目指し、ライセンス活動を行っていきます。

 

⑥ HDAC阻害剤OBP-801に関する活動

2009年にアステラス製薬株式会社から導入したヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害剤OBP-801は、米国でのPhase1臨床試験で用量制限毒性(DLT:Dose Limiting Toxicity)が発生したため、がん領域での開発を中断しました。一方、新規適応領域である眼科領域は、京都府立医科大学により研究が続けられています。

 

 

主なパイプラインの開発状況は、以下の通りです。

開発品

適応疾患

併用療法

開発地域

開発ステージ

テロメライシン

(OBP-301)

(suratadenoturev)

食道がん

放射線

日本

Phase2

(中外製薬※1)

化学放射線療法

米国

Phase1

肝細胞がん

抗PD-L1抗体アテゾリズマブ

分子標的薬

日本

Phase1

(中外製薬※2)

韓国・台湾

Phase1

(終了)

頭頸部がん

抗PD-1抗体ペムブロリズマブ

放射線

米国

Phase2

胃がん・

胃食道接合部がん

抗PD-1抗体ペムブロリズマブ

米国

Phase2

食道がん

(固形がん)

抗PD-1抗体ペムブロリズマブ

日本

Phase1

(終了)

OBP-2011

新型コロナウイルス

感染症

未定

全世界

前臨床

OBP-601

(censavudine)

筋萎縮性側索硬化症(ALS)

/ 前頭側頭型認知症(FTD)

未定

米国

Phase2a

進行性核上性麻痺(PSP)

未定

米国

Phase2a

HIV感染症

欧米他

Phase2b

(終了)

OBP-702

固形がん

抗PD-(L)1抗体を想定

米国/日本

前臨床

OBP-801

各種固形がん

抗PD-(L)1抗体を想定

米国

Phase1

(終了)

眼科領域

日本

前臨床

テロメスキャン

(OBP-401)

固形がん

日本

臨床研究

 

※1:現在、中外製薬が実施していますが、2022年10月15日までに当社が引き継ぐ予定です。

※2:現在、中外製薬が実施していますが、2022年10月15日までに終了する予定です。

 

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