(業績等の概要)
当事業年度(2021年4月1日から2022年3月31日まで)の我が国の経済状況及び世界の経済状況は、新型コロナウイルス感染症の世界的流行の長期化に加え、ロシアによるウクライナ侵攻等の地政学的リスクも高まり、先行き不透明感が増大しています。一方で新型コロナウイルス感染症に対するワクチン接種も進み、社会活動への制限は徐々に緩和される兆しも見えてきました。
一方、医薬品の研究開発の現場では、世界的に新型コロナウイルス感染症患者に対する治療を優先する風潮が強まり、医療機関が医療資源を急性期医療・感染症外来に優先配分する等の影響によって、臨床試験が停滞する事例が生じました。
このような状況下、当社はがん免疫治療薬(がん細胞を攻撃する免疫の仕組みを利用する治療薬)の開発を進めました。
細胞医薬では、理化学研究所で創製されたiPS細胞由来再生NKT細胞療法(iPS-NKT)の第Ⅰ相医師主導治験が千葉大学で実施されており、当事業年度においても、着実に前進しました。当社は本治験を支援するとともに、次相臨床試験を見据えた製造工程改良に取り組んでいます。また、信州大学と共同開発を進めているHER2 CAR-T細胞療法(BP2301)は、当社において臨床試験に入る2つ目の細胞医薬プログラムとして、当事業年度中に準備をほぼ終え、2023年3月期の第1四半期中に信州大学にて第Ⅰ相医師主導治験を開始します。
抗体医薬では、PD-1/PD-L1の次に来る有望な標的として、T細胞の疲弊や機能抑制に関する免疫チェックポイント分子 *1 もしくは免疫調整因子の機能を阻害する抗体の開発を進めています。抗CD73抗体(BP1200)、抗CD39抗体(BP1202)、抗TIM-3抗体(BP1210)、抗CD39抗体×抗TIM-3二重特異性抗体(BP1212)等で、早期ライセンスアウトを目指すための非臨床データの国際学会等での発表を順次進めました。なかでも2021年9月には、BP1200に関する2021年欧州臨床腫瘍学会年次会議(ESMO 2021)での発表が、優れた研究発表に贈られるベストポスター賞を受賞しました。
がんワクチンでは、完全個別化ネオアンチゲン・ワクチンをより強い抗腫瘍効果を発揮させるために免疫チェックポイント抗体によって送り届けるという新規プラットフォームBP1209の非臨床段階におけるコンセプト実証を達成しました。
一方、米国で開発を進めてきたがんペプチドワクチンGRN-1201の非小細胞肺がんを対象とする免疫チェックポイント阻害抗体ペムブロリズマブとの併用第Ⅱ相臨床試験は、コロナ禍において患者登録が停滞し、当初目標とした当事業年度内の中間評価には至りませんでした。
その他、期初には想定していなかった臨床サンプル測定を当事業年度後半に受託し、期初計画に対して大幅な増収になったものの、研究開発費の規模に比べて十分に小さいため、増益効果の点では、期初に予定していた研究開発活動の翌年度への繰り越しによる研究開発費の縮小規模に比べて若干の上乗せとなっています。
これらの結果、当事業年度につきましては、売上高は15,408千円(前年同期の売上高は2,504千円)、営業損失は1,476,033千円(前年同期の営業損失は1,732,802千円)、経常損失は1,481,945千円(前年同期の経常損失は1,738,636千円)、当期純損失は1,484,192千円(前年同期の当期純損失は1,719,634千円)となりました。
① 流動資産
当事業年度末における流動資産は前事業年度末より954,942千円減少し2,696,050千円となりました。これは、現金及び預金が株式の発行による収入があったものの、研究開発に関連する支出等で減少したことにより960,361千円減少したことが主な要因であります。
② 固定資産
当事業年度末における固定資産は前事業年度末より23,283千円減少し75,152千円となりました。これは、研究機器の減価償却等により工具、器具及び備品が23,283千円減少したことが主な要因であります。
③ 流動負債
当事業年度末における流動負債は前事業年度末より28,249千円増加し184,655千円となりました。これは、社債の発行に伴い1年内償還予定の社債87,500千円を計上したこと、前事業年度末と比べて研究開発費等が減少したことにより未払金が66,763千円減少したことが主な要因であります。
④ 固定負債
当事業年度末における固定負債は前事業年度末より308千円減少し55,071千円となりました。これは、退職金の支払により退職給付引当金が399千円減少したことが主な要因であります。
⑤ 純資産
当事業年度末における純資産は前事業年度末より1,006,167千円減少し、2,531,475千円となりました。これは、新株の発行により資本金及び資本剰余金の合計が481,341千円増加し、当期純損失により利益剰余金が1,484,192千円減少したことが主な要因であります。以上の結果、自己資本比率は前事業年度末の93.7%から90.5%となりました。
当事業年度末における現金及び現金同等物(以下「資金」という。)は、前事業年度末と比べて960,361千円減少し、2,305,026千円となりました。当事業年度における各キャッシュ・フローの状況とそれらの要因は次のとおりであります。
(営業活動によるキャッシュ・フロー)
営業活動の結果使用した資金は1,512,022千円(前事業年度は1,769,848千円の支出)となりました。これは主に税引前当期純損失1,481,772千円を計上したことによるものであります。
(投資活動によるキャッシュ・フロー)
投資活動の結果使用した資金は17,566千円(前事業年度は36,211千円の支出)となりました。これは主に研究開発機器等の有形固定資産の取得による支出17,646千円によるものであります。
(財務活動によるキャッシュ・フロー)
財務活動の結果得られた資金は569,226千円(前事業年度は2,053,090千円の収入)となりました。これは、主に新株予約権の行使による株式の発行による収入478,051千円によるものであります。
(生産、受注及び販売の状況)
当事業年度における生産実績をセグメントごとに示すと、以下のとおりであります。
当事業年度における受注実績をセグメントごとに示すと、以下のとおりであります。
(3) 販売実績
当事業年度における販売実績をセグメントごとに示すと、以下のとおりであります。
(注)1.最近事業年度の主な相手先別の販売実績及び当該販売実績の総販売実績に対する割合は、以下のとおりであります。
(経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容)
当事業年度における当社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析は下記のとおりであります。なお、当社は、医薬品開発事業の単一事業であるため、セグメント別の業績に関する記載を省略しております。また、文中の将来に関する事項は、当事業年度末現在において当社が判断したものであります。
(経営指標について)
当社は、創薬ベンチャーであり、研究開発活動という投資期間が長く、その研究開発活動の成果として、ライセンスアウトによる契約一時金やマイルストン収入等などを獲得するビジネスモデルであります。
中長期的視点からの経営の安定化、企業価値の向上を目指して、また著しい技術革新がなされ、大きな期待を受けているがん免疫治療薬分野における大きな事業機会を逃さないために、既存のパイプラインの推進のみならず、新規のパイプラインを積極的に導入していく方針であります。
従いまして、売上高や当期純損益の推移やROE、ROAといった経営指標を目的とすることはせずに、現預金残高の推移、研究開発活動の効率化、パイプライン数の拡大・充実について、財務状況を勘案しながら、早期のライセンスアウト及び黒字化の実現に向けて、事業を進めてまいります。
当社の財務諸表は、わが国において一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に準拠して作成されております。この財務諸表の作成にあたり、見積りが必要な事項につきましては合理的な基準に基づき、会計上の見積りを行っております。この見積りに関しては、過去の実績や適切と判断する仮定に基づいて合理的に算出しておりますが、実際の結果はこれらの見積りと相違する可能性があります。
当事業年度末における資産合計は、前事業年度末より978,225千円減少し2,771,202千円となりました。
これは、現金及び預金が、財務活動による収入があったものの研究開発に関連する支出が大きかったこと等により960,361千円減少したことが、主な理由であります。
また、当事業年度末における資産の内訳としましては、現金及び預金が2,305,026千円と、資産の合計の83.2%を占めており、研究開発を推進していくにあたり、当面の資金は確保している状況にあります。
今後の現金及び預金の残高推移については、株式市場等からの資金調達やライセンスアウトによる契約一時金収入・マイルストン収入の獲得が実施されるまでの期間において、主に研究開発費用及び研究機器等の購入に伴う支出により減少する傾向にあります。現金及び預金の残高推移を注視しつつ、がん免疫治療薬分野の最先端の研究開発を積極的に推進してまいります。
当事業年度末における負債合計は、前事業年度末より27,941千円増加し239,727千円となりました。
これは久留米大学への包括的業務契約に基づくロイヤリティ支払により買掛金が1,444千円増加したこと、前事業年度末と比べて研究開発費等が減少したことにより未払金が66,763千円減少したこと、1年内償還予定の社債87,500千円があることが主な理由であります。
当事業年度末における総資産に占める負債の割合は8.7%であります。当社の有するパイプライン開発の推進に伴い、未払金は増加する傾向にあります。当事業年度末における現金及び預金の残高に対する負債の割合は非常に小さいと考えており、引き続き効率的な研究開発活動を推進してまいります。
当事業年度末における純資産は、前事業年度末より1,006,167千円減少し2,531,475千円となりました。
これは新株発行により資本金及び資本剰余金の合計が481,341千円増加し、当期純損失により1,484,192千円減少したことが主な理由であります。自己資本比率は前事業年度末の93.7%から90.5%となりました。
当事業年度の売上高につきましては、前事業年度と比べ12,904千円増加(515.3%増)し、15,408千円となりました。
当事業年度における営業損失は、前事業年度と比べ256,769千円損失が減少し1,476,033千円となりました。
当社は新規のがん免疫治療薬に開発領域を特化し、がんワクチン、細胞医薬、抗体医薬モダリティに関する探索から早期臨床試験段階にある複数のパイプラインの開発を同時並行で進めておりますが、当事業年度の研究開発費は前事業年度と比べ19.4%減少し1,135,847千円となりました。
当社の販管費に占める研究開発費の割合は76.3%となり、研究開発費の推移が営業損益に直接影響を与える構造となっております。
各パイプラインの推進に加え、日進月歩でサイエンスが進む環境に迅速に適合していくためにも、新規シーズの導入は今後も引き続き積極的に行っていく方針であるとともに、川崎創薬研究所において創出している新規医薬品候補の開発を順次進めてまいります。
当事業年度における当期純損益は、前事業年度と比べ235,442千円損失が減少し1,484,192千円となりました。
当事業年度の研究開発費が前事業年度と比べ272,596千円減少、減損損失が前事業年度と比べ3,928千円減少したことが主な要因であります。
当事業年度のキャッシュ・フローの分析については、「第2 事業の状況 3.経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析 業績等の概要 (3) キャッシュ・フローの状況」をご参照ください。
経営成績に重要な影響を与える要因は、当社が推進する研究開発を遅延又は中止させる事象でありますが、詳細については「第2 事業の状況 2 事業等のリスク」をご参照ください。
当社の資金需要は、研究開発にかかる人件費、試薬等材料費、消耗品費、外部委託費及び研究機器の購入等及び事業運営・上場維持にかかる人件費、外部委託費及び特許関連費用等であります。これらの費用及び研究機器の購入等については、自己資金により支出していく予定であります。自己資金については、すべて銀行預金としておりますので、すべての支出について迅速かつ確実に対応できるよう資金の流動性を確保しております。
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