当事業年度の国内景気の現状は、新型コロナウイルス感染症の影響を受けながらも基調としては持ち直しており、企業収益や業況感は、全体としては改善を続けています。一方で、ウクライナ情勢の長期化や中国における経済活動の抑制の影響などにより、国内経済の不確実性は高まっています。
当社の主要な事業領域であるクレジットカード業界においては、新型コロナウイルス感染症の影響が続く中で、現金忌避やネット販売の増加、経済産業省が実施したキャッシュレス・ポイント還元事業などを背景に、キャッシュレス決済の浸透が進み、民間消費支出に占めるキャッシュレス決済比率、キャッシュレス支払金額はともに上昇し、市場の成長が続いています。経済産業省の算出によると2021年のキャッシュレス決済比率は32.5%と初めて30%を超え、キャッシュレス支払金額も90兆円を超える規模となっています。
こうした事業環境の中、当社は、中期的な経営目標として、2024年6月期に売上高150億円、営業利益率15%とする、“15ALL(フィフティーンオール)”を掲げ、その達成を目指しています。当社が強みをもつ決済、金融に係るシステム開発業務をベースに、クラウドサービス事業の成長により安定的な収益の確保と、事業規模の拡大を進めるとともに、これまで金融業界の開発業務で培った知識と経験を利用して、金融業界以外の企業向けに新製品の開発を進めるなど事業領域の拡大にも挑戦しています。
当事業年度の業績は、売上高11,493百万円(前期比2.7%増)、営業利益1,519百万円(前期比34.4%増)、経常利益1,556百万円(前期比32.9%増)、当期純利益1,055百万円(前期比25.5%増)となりました。
売上高はクラウドサービス事業の伸長や既存顧客のハードウェア更改等により増収となりました。営業利益については、クラウドサービス事業が今期黒字化したことに加え、システム開発や保守等の品質、生産性向上の取組みやハードウェアの販売増加等により、大幅な増益となりました。
クラウドサービス事業については、期初計画に対して順調に進捗し、売上高は1,173百万円(前期比24.5%増)となりました。また受注実績については、当期は大型案件を複数受注し、受注高は3,461百万円(前期比350.7%増)、受注残高は4,141百万円(前期比123.5%増)となりました。当社のクラウドサービスは、既存のクレジットカード会社だけでなく、新規にカード事業や決済事業を起ち上げる事業会社にとって有力な選択肢の一つになっています。これらの受注が売上に寄与するのは、2023年6月期以降の予定であり、2023年6月期は売上高20億円、2024年6月期は売上高25億円を計画しています。
当社は、クレジットカード会社を中心とした顧客に対して、主にクレジットカードの決済処理を完遂するために必要なネットワーク接続やカードの使用認証等の機能をもつFEP(Front End Processing)システムの開発業務を行っています。
例えば、FEPシステムの新規開発に際しては、システムの中核を構成するNET+1(ネットプラスワン)の販売による売上(当社製品)と、技術者がそのパッケージをカスタマイズして顧客の機能要件に合わせる開発業務による売上(システム開発)、開発したソフトウェアを搭載するサーバーの販売による売上(ハードウェア)、ソフトウェアとハードウェアで構成されたシステムの保守業務による売上(保守)のそれぞれが計上されます。
また、セキュリティ対策製品として、企業組織の内部情報漏えいを防ぐ当社製品と、サイバーセキュリティ対策のための他社製品の販売業務を行っています。
(参考)カテゴリ別売上高 (単位:百万円)
なお、当期より、ストック/フローの類型による売上高の分類を従来より詳細に表示するために、売上カテゴリを再定義して運用しています。契約の形態や業務の実態等から判断して、定常的に一定規模の売上高を計上できる案件をストック、そうではないものをフローとして分類しています。
ストック型売上として典型的なものは、クラウドサービス事業に係るシステムの利用料やシステム運用の対価、または、当社製品や他社製品の保守業務の対価です。クラウドサービスの利用料は、「サービス自社」に分類されます。フロー型売上として典型的なものは、受託開発業務の対価や、自社製品、他社製品の販売対価です。当期実績は以下のとおりです。
(参考2)ストック/フロー別売上高 (単位:百万円)
当期末における資産の残高は、前事業年度末に比べ1,600百万円増加し、12,740百万円となりました。うち流動資産は、前事業年度末に比べ1,298百万円増加し、8,274百万円となりました。これは主に、受取手形、売掛金及び契約資産1,024百万円の増加によるものです。固定資産は、前事業年度末に比べ302百万円増加し、4,466百万円となりました。これは主に、投資有価証券453百万円の減少がありましたが、ソフトウェア515百万円及びソフトウェア仮勘定216百万円の増加があったためです。
負債の残高は、前事業年度末に比べ1,129百万円増加し、4,701百万円となりました。これは主に、前受金651百万円の増加及び買掛金510百万円の増加があったためです。
純資産の残高は、前事業年度末に比べ471百万円増加し、8,039百万円となりました。これは主に、利益剰余金578百万円の増加があったためです。
(営業活動によるキャッシュ・フロー)
当事業年度における営業活動によるキャッシュ・フローは、1,486百万円の収入(前事業年度比12.6%減)となりました。これは全体の事業収支が堅調に推移し、税引前当期純利益が1,556百万円となったものの、売上債権の増加額が716百万円あったことや、法人税等の支払額が384百万円あったため、減少したものです。なお、主な非資金項目として減価償却費829百万円の計上がありました。
(投資活動によるキャッシュ・フロー)
当事業年度における投資活動によるキャッシュ・フローは1,516百万円の支出(前事業年度は742百万円の支出)となりました。これは、販売目的及び自社利用のソフトウェアの構築を主とする無形固定資産の取得による支出1,289百万円があったためです。
(財務活動によるキャッシュ・フロー)
当事業年度における財務活動によるキャッシュ・フローは、350百万円の支出(前事業年度は292百万円の支出)となりました。これは主に、配当金の支払額341百万円があったためです。
キャッシュ・フロー指標のトレンドは下記のとおりです。
(注)1 自己資本比率:自己資本/総資産
2 時価ベースの自己資本比率:株式時価総額/総資産
株式時価総額は自己株式を除く発行済株式数をベースに計算しています。
3 債務償還年数:有利子負債/営業キャッシュ・フロー
有利子負債は、貸借対照表に計上されている負債のうち利子を払っている全ての負債を対象としています。
4 インタレスト・カバレッジ・レシオ:営業キャッシュ・フロー/利払い
(資本の財源及び資金の流動性に係る情報)
当社の主要な資金需要は、システム開発に係る人件費や商品の仕入、販売管理費などの営業費用、新製品開発を行う研究開発、設備の新設や改修等に係る投資等です。これらの資金需要は、手許の資金と営業活動によるキャッシュ・フローを財源とすることを基本方針としています。なお、必要と判断した場合には金融機関等外部からの資金調達も検討します。また、取引金融機関4行及び生命保険会社1社と当座貸越契約及びコミットメントライン契約を締結しており、機動的かつ安定的な資金調達体制を構築し、資金の流動性を確保しています。
④ 生産、受注及び販売の実績
(注)1 生産実績は、販売価格により表示しています。
2 当事業年度の期首より「収益認識に関する会計基準」等を適用しており、当事業年度については、当該会計基準等を適用した金額となっているため、増減率は記載していません。
b.仕入実績
(注)1 当社の仕入はソフトウェア及びサービスであり、数量表示は困難ですので、金額のみで表示しています。
2 当事業年度の期首より「収益認識に関する会計基準」等を適用しており、当事業年度については、当該会計基準等を適用した金額となっているため、増減率は記載していません。
(注)1 当事業年度の期首より「収益認識に関する会計基準」等を適用しており、当事業年度については、当該会計基準等を適用した金額となっているため、増減率は記載していません。
2 当事業年度において、受注実績に著しい変動がありました。これは、主に「クラウドサービス事業」におきまして大型案件を複数受注したことによるものです。
(注)1 当社の製品は多岐にわたっており、数量表示は困難ですので、金額のみで表示しています。
2 主な相手先別の販売実績が当該販売実績の総販売実績に対する割合は次のとおりです。
3 当事業年度の期首より「収益認識に関する会計基準」等を適用しており、当事業年度については、当該会計基準等を適用した金額となっているため、増減率は記載していません。
①経営成績について
1)経営成績の推移
(単位:百万円)
EBITDA* 営業利益+減価償却費
当社は、これまで、事業規模の拡大と事業モデルの変化を重要な要素として、会社と事業の“進化”を追求してきました。
クレジットカード会社向けに特定の機能を提供するシステム開発を主な事業として、安定的な事業基盤を維持してきましたが、決済手段の多様化やキャッシュレス社会の進展という社会情勢の変化を成長機会として、既存のシステム開発事業を伸ばすだけでなく、新たな収益機会の獲得に取り組んできました。
当社は、2022年6月期に売上高114.93億円、営業利益15.19億円の業績をあげることができました。当社の収益力を示す指標であるEBITDAは、1,032百万円から2,349百万円へ大きく成長し、規模的な進化を遂げています。
2018年6月期から5年間の年平均成長率は、売上高が2.0%、営業利益が29.1%の実績でした。主力事業であるシステム開発事業の成長に加えてクラウドサービス事業に続く新製品、新サービスの開発投入を活性化させ、進化の速度を上げていきます。
2022年6月期から2024年6月期までの3事業年度の中期事業計画においては、売上高12.8%、営業利益18.1%の年平均成長率を目標にして、進化の速度を上げていきます。
2024年6月期には、売上高150億円、営業利益率15.0%を目標とする、“15ALL(フィフティーンオール)”を標語として掲げて、この達成を目指します。
2016年6月期に開始したクラウドサービス事業は、当社事業の質的な進化を示す事例といえます。従来、顧客ごとに開発して納入していたクレジットカード関連の業務システムを、当社が運営するデータセンターから期間貸しすることによって、当社は、同一の顧客から安定的に収益をあげることができるようになりました。
顧客は、当社のサービスを利用することで、多額の初期投資を回避してカード業務を開始することができるため、新規参入事業者に途を開く結果になりました。当社にとっても新規の顧客を獲得する重要な機会になっています。
システム開発事業は、案件ごとに売上高が異なり、また利益率が異なる性質がありますが、クラウドサービス事業は、継続的かつ安定的に収益を積上げていくことができる事業であり、一定規模以上の売上高が計上できれば、相対的に高い利益をあげることができる事業です。2022年6月期から業績が改善し、今後、当社の成長を牽引する事業として成長していきます。
(注) 文中の将来に関する事項は、2022年6月期末現在において当社が判断したものです。
2)クラウドサービス事業の推移
(単位:百万円)
②キャッシュ・フローについて
1)キャッシュ・フローの推移
(単位:百万円)
キャッシュ創出力を示す指標であるEBITDAは着実に成長しています。当社は、事業活動から産み出されるキャッシュと手許資金を原資として、成長投資を行います。
投資案件によっては外部からの資金調達を行う可能性もありますが、その場合も案件の収益性と財務の健全性を考慮して検討します。
2022年6月期には、主にクラウドサービス事業の顧客数増加に必要な設備投資、開発投資を行いました。クラウドサービス事業は、今後収益性の改善が見込まれ、当社にとって新たな収益源として期待されます。
今後とも、新規事業に対する投資を積極的に行い、クラウドサービス事業に続く新しい収益源として成長させる方針です。
③株主還元について
1)配当金の推移
(単位:百万円)
当社は、配当を重要な株主還元策と位置付け、経営基盤強化のために、内部留保に留意しながら、安定的な配当を維持する基本方針から、株主還元策を充実させることの一環として、4割程度の配当性向を基準としています。
④経営指標について
当社は、継続的な収益力の向上の指標として営業利益を主要な経営指標としています。
ROE(株主資本利益率)ほかの経営指標の推移については以下のとおりです。
1)経営指標の推移
(単位:百万円)
2)ROEについて
売上高の増加に合わせて資産も増加していますが、総資産の回転率は、0.96から1.22の範囲で推移しました。売上高の増加に伴って、売掛金等の流動資産も増加し総資産の増加につながっています。無形固定資産は、当社製のソフトウェア(販売用のソフトウェアやクラウドサービスに提供されるソフトウェア)が大部分を占めています。この知的資産を有効に活用し、売上高の増加を促進することで、総資産回転率は改善の余地があるものとみています。
3)資産の推移
(単位:百万円)
また、従業員一人あたり売上高の増加は、売上高の成長の効率性を示す指標と考えられます。より長期的には、一人あたり売上高の増加に伴う効率的な売上高の増加によって、規模的な成長とともに収益性も高めることができ、営業利益率を向上させることと期待します。また、営業利益率の向上は、システム開発業務の効率化や成果物の品質を上げることによって実現されるほか、システム開発業務の収益性を超える事業の売上高比率を増やすことによっても実現されます。当社の事業の場合、営業利益率の向上は純利益率の向上に直結します。
売上高の効率的な増加と営業利益率の向上は、結果的にROEの改善に帰結します。
当社は、営業利益率の向上による純利益率の向上と一人あたり売上高を、収益力の向上と効率性の向上を示す指標とし、ROEは当社の株主資本効率を示す指標とします。
当社は、当社の株主資本コストを7.0%*と推計しており、ROEを評価する際の指標にしています。エクイティスプレッド(ROEと株主資本コストとの差分)の増加を意識しつつ、収益力の強化によるROEの改善を目指します。
*CAPM(Capital Asset Pricing Model、資本資産評価モデル)による。
重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定
財務諸表の作成に際し、資産・負債及び収益・費用の報告数値に影響を及ぼす見積り及び仮定を用いていますが、見積り特有の不確実性があるため、実際の結果は見積りと異なる場合があります。
また、新型コロナウイルス拡大による会計上の見積りに関しては、財務諸表作成時における入手可能な情報に基づき見積りを行っていますが、当事業年度の経営成績等に重要な影響を与える事象は認識していません。しかしながら、新型コロナウイルスによる影響は不確定要素が多く、新規案件の受注の遅延等、翌事業年度の当社の財政状態及び経営成績に影響を及ぼす可能性があります。
財務諸表の作成に当たって用いた会計上の見積り及び仮定のうち、重要なものは以下のとおりです。
(a) 市場販売目的のソフトウェアの減価償却の方法
市場販売目的のソフトウェアの減価償却費については、製品ごとに未償却残高を、見込販売収益を基礎として当事業年度の実績販売収益に対して計算した金額と残存有効期間(3年)に基づく定額償却額のいずれか大きい金額で償却を行うものとしています。今後、見込販売収益が減少した場合、減価償却費が増加する可能性があります。
(b) 固定資産の減損判定
固定資産については、当事業年度末に、有形固定資産及び無形固定資産が減損している可能性を示す兆候の有無を判断しています。減損の兆候がある資産又は資産グループについて、サービスの提供に用いるソフトウェアや資産計上したサーバ等の当該資産から得られる割引前キャッシュフローの総額が、事業環境の悪化や開発コストの増加等により帳簿価額を下回る場合には、固定資産の減損処理を実施する可能性があります。
(c) 繰延税金資産の回収可能性の判断
繰延税金資産については、将来の利益計画に基づいた課税所得が十分に確保できることや、回収可能性があると判断した将来減算一時差異について繰延税金資産を計上していますが、繰延税金資産は将来の課税所得の見積りに依存するため、将来の不確実な経済条件の変動等や税制改正による法定実効税率等の変化があった場合には、繰延税金資産の回収可能性が変動する場合があります。
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