(1)経営成績等の状況の概要
当事業年度における当社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(以下、「経営成績等」という。)の状況の概要は次のとおりであります。
① 財政状態の状況
(資産)
当事業年度末における流動資産は3,355,490千円となり、前事業年度末に比べ359,783千円減少いたしました。これは主に、前渡金が210,491千円増加したものの、現金及び預金が609,538千円減少したことによるものであります。
また、当事業年度末における固定資産は9,223千円となり、前事業年度末に比べ3,873千円増加いたしました。これは主に、細胞実験機器5,116千円の取得によるものであります。
この結果、資産合計は3,364,713千円となり、前事業年度末に比べ355,910千円減少いたしました。
(負債)
当事業年度末における流動負債は188,674千円となり、前事業年度末に比べ36,584千円増加いたしました。これは主に、未払金23,372千円、未払費用18,585千円の増加によるものであります。
この結果、負債合計は188,674千円となり、前事業年度末に比べ36,584千円増加いたしました。
(純資産)
当事業年度末における純資産合計は3,176,039千円となり、前事業年度末に比べ392,494千円減少いたしました。これは、当期純損失682,265千円の計上に加え、第三者割当増資及び新株予約権の行使により資本金及び資本準備金がそれぞれ143,040千円増加したことによるものであります。
この結果、自己資本比率は94.3%(前事業年度末は95.9%)となりました。
② 経営成績の状況
医薬品業界では新薬の研究開発の難易度が上昇しており、製薬会社は、従来の主役であった低分子医薬に加え、抗体医薬品、遺伝子医薬品、細胞医薬品・再生医療等の新しいタイプの創薬シーズ・モダリティ(創薬技術)を創薬系ベンチャー等から導入して研究開発パイプラインの強化を図っております。
当社が取り組んでいる抗体誘導ペプチド等の機能性ペプチドも新しいタイプの創薬シーズ・モダリティであり、当社は、大学等のシーズをインキュベーションして製薬会社に橋渡しすることで、医薬品業界における大学発創薬系ベンチャーの役割を果たしていきたいと考えております。この役割を担うため、当社は、大阪大学をはじめとする大学等の研究機関との間で、共同研究等により連携を図り、大学の技術シーズを生かした基礎研究を実施しております。更に、当社は、開発品の開発規模(試験規模及び必要資金規模)を踏まえ、医薬品の研究開発プロセスのうち、基礎研究から、一定段階の臨床試験や薬事承認までを実施して技術シーズのインキュベーションを行う方針です。
一方、医薬品の研究開発は期間が長く必要資金も大きいことから、当社は、研究開発段階から製薬会社等との提携体制を構築し、その提携収入等により、研究開発遂行上の財務リスクの低減を図っていく方針です。医薬品の研究開発段階においては、契約一時金、研究開発協力金及び開発マイルストーンを受取り、当社開発品が将来上市に至った場合には、提携製薬会社からのロイヤリティ―収入等によって本格的な利益拡大を実現する計画です。
このような業界環境及びビジネスモデルのもと、当社は、大阪大学大学院医学系研究科の研究成果である機能性ペプチド「AJP001」を強みとして展開する抗体誘導ペプチドプロジェクトと機能性ペプチド「SR-0379」を中心に研究開発を進めております。
(A)抗体誘導ペプチドプロジェクト
当社の創薬活動の強みは、新しいモダリティである抗体誘導ペプチドの創薬プラットフォーム技術「STEP UP(Search Technology of EPitope for Unique Peptide vaccine)」を保有していることです。当社は、機能性ペプチド「AJP001」を利用した創薬プラットフォーム技術により、多様な抗体誘導ペプチドを創生して開発パイプラインの強化を図ってまいります。高額な抗体医薬品に対して医療費を抑制できる代替医薬品として抗体誘導ペプチドを開発することにより、先進国で深刻化する医療財政問題の解決や患者様の経済的負担の軽減に貢献していきたいと考えております。
(a)抗体誘導ペプチド「FPP003」(標的タンパク質:IL-17A)
FPP003は、標的タンパク質IL-17Aに対する抗体誘導ペプチドの開発化合物です。先行する抗IL-17A抗体医薬品は、尋常性乾癬、強直性脊椎炎、乾癬性関節炎及びX線基準を満たさない体軸性脊椎関節炎等の幅広い薬事承認を取得しており、既に世界市場は数千億円規模まで拡大しております。
当社は、2019年4月からFPP003の尋常性乾癬を対象疾患とする第Ⅰ/Ⅱa相臨床試験をオーストラリア(注)で進めております。
また、強直性脊椎炎を対象とする開発は前臨床試験の段階にあります。
なお、FPP003に関しては、2018年3月に大日本住友製薬株式会社との間でオプション契約を締結しており、同社は、北米での全疾患に対する独占的開発・商業化権の取得に関するオプション権を保有しております。
(注)オーストラリアでの臨床試験データは米欧等での承認申請に使用可能であり、次相以降は米国等での臨床試験を想定しております。
(b)抗体誘導ペプチド「FPP004」(標的タンパク質:IgE)
FPP004は、標的タンパク質IgEに対する抗体誘導ペプチドの開発化合物です。
先行する抗IgE抗体医薬品は、喘息、慢性蕁麻疹及び花粉症(季節性アレルギー性鼻炎)の薬事承認を取得しております。当社は、日本で患者数が多い花粉症(季節性アレルギー性鼻炎)を対象として開発しており、現在、前臨床試験の段階にあります。
なお、SR-0379及びFPP003の既存プロジェクトが進展し、新規開発化合物FPP005の開発が開始されて研究開発パイプラインが拡充される中、当社は前臨床試験等の人的リソースをFPP005等の開発に優先的に投下し、FPP004については、当面の間、バックアップ化合物の探索研究を進めていくことにいたしました。
(c)抗体誘導ぺプチド「FPP005」(標的タンパク質:IL-23)
FPP005は、標的タンパク質IL-23に対する抗体誘導ペプチドの開発化合物です。
先行する抗IL-23抗体医薬品は、尋常性乾癬、乾癬性関節炎、クローン病及び潰瘍性大腸炎等の幅広い疾患を対象に開発が進んでおります。当社は、2021年1月から前臨床試験を進めております。
(d)抗体誘導ペプチドの研究テーマ
抗体誘導ペプチドの探索研究は、大阪大学との共同研究により実施しております。
自社研究テーマは、抗体医薬品の代替医薬品として、アレルギー性疾患を対象とする抗体誘導ペプチドの研究を行っております。更に生活習慣病の高血圧及び抗血栓を対象とする抗体誘導ペプチド、遺伝性疾患の家族性大腸腺腫症を対象とする抗体誘導ペプチドの研究にも取り組んでおります。
また、2018年3月に大日本住友製薬株式会社との間で精神神経疾患を対象とする抗体誘導ペプチドの研究契約、2019年2月に塩野義製薬株式会社との間で疼痛を対象とする抗体誘導ペプチドの共同研究契約(注)を締結し、製薬会社とのアライアンスのもとでの探索研究にも取り組んでおります。
さらに、2021年8月に株式会社メドレックスとの間でマイクロニードル技術を用いた抗体誘導ペプチドの次世代製剤技術開発に関する共同研究契約を締結いたしました。
(注)塩野義製薬株式会社との共同研究については、共同研究期間を終え、本共同研究の研究成果に基づき、当社が開発化合物の創生に向けた候補化合物の最適化研究を進めております。
(B)機能性ペプチド「SR-0379」
SR-0379は、皮膚潰瘍を対象疾患とする開発化合物です。皮膚のバリア機能が欠損して様々な細菌が創面に付着している皮膚潰瘍の治療には、細菌、感染のコントロールが重要です。SR-0379は、血管新生や肉芽形成促進による創傷治癒促進作用に加え、抗菌活性を併せ持つことが強みです。当社は、SR-0379の開発により、高齢化社会を迎え重要性が増している褥瘡等の皮膚潰瘍の早期回復を促進し、患者様のQOL向上に貢献することを目指しております。
SR-0379の開発は、複数のアカデミア主導の医師主導治験、更に企業治験を経て、現在、塩野義製薬株式会社と当社の共同開発により日本での開発を進めております。2021年6月に第Ⅲ相臨床試験を開始してから被験者への治験薬投与が進んでおります。
(C)新型コロナウイルス感染症(COVID-19)予防ワクチン
当社は、大阪大学との連携のもと、抗体誘導ペプチドの技術基盤を活用し、新型コロナペプチドワクチンの研究開発を行っております。
既存のワクチン(mRNAワクチン及びウイルスベクターワクチン)と異なり、ペプチドワクチンは、一般的に重要な機能を持った短い配列(エピトープ)のみで免疫を誘導することが特徴であり、副反応が少ないワクチンになること、誘導される中和抗体のターゲット部位の特異性が高く変異が入りにくい部位をターゲットとすることで様々な変異株に対応可能なワクチンになることが期待されます。
当社は、2020年4月から、大阪大学及びアンジェス株式会社との間で、当社のペプチドワクチン技術を活用した次世代ワクチンの共同研究を実施しております。
(D)機能性ペプチドの販売
医薬品以外の分野においては、2018年3月に株式会社ファンケルから「マイルドクレンジングシャンプー」、更に2020年4月に株式会社SMV JAPANから「携帯アルコール除菌スプレー」等が発売され、当社の機能性ペプチドを含有する商品が販売されております。
これらの商品販売に関し、当社は化粧品原料商社又は販社に対して機能性ペプチドを販売しております。
以上の事業を進めた結果、当事業年度の業績は、事業収益126,869千円(前事業年度は事業収益2,970千円)、営業損失745,044千円(前事業年度は営業損失564,598千円)、経常損失679,654千円(前事業年度は経常損失505,080千円)、当期純損失682,265千円(前事業年度は当期純損失507,930千円)となりました。
なお、当社は医薬品等の研究開発事業の単一セグメントであるため、セグメントごとの情報は記載しておりません。
・事業収益
事業収益は、前事業年度に比べ123,899千円増加し、126,869千円となりました。
当事業年度は、塩野義製薬株式会社からのSR-0379の日本での第Ⅲ相臨床試験開始時のマイルストーン125,000千円及び株式会社SMV JAPAN等に対する機能性ペプチド販売額1,869千円を計上いたしました。
・事業費用、営業損失、経常損失及び当期純損失
事業費用は、前事業年度に比べ304,345千円増加し、871,914千円となりました。
研究開発費はSR-0379の臨床試験費用の増加等により前事業年度に比べ298,513千円増加の662,112千円、その他の販売費及び一般管理費は株式上場関連費用の増加等により前事業年度に比べ6,834千円増加の209,419千円を計上いたしました。
この結果、営業損失は745,044千円(前事業年度は営業損失564,598千円)、経常損失は679,654千円(前事業年度は経常損失505,080千円)及び当期純損失は682,265千円(前事業年度は当期純損失507,930千円)となりました。
③ キャッシュ・フローの状況
当事業年度における現金及び現金同等物(以下、「資金」という。)は、前事業年度末に比べ609,538千円減少し、当事業年度末には3,007,138千円となりました。
当事業年度における各キャッシュ・フローの状況とそれらの要因は次のとおりであります。
(営業活動によるキャッシュ・フロー)
営業活動の結果使用した資金は887,466千円(前事業年度は413,950千円の支出)となりました。これは主に、税引前当期純損失679,654千円の計上並びに前渡金210,491千円の増加によるものであります。
(投資活動によるキャッシュ・フロー)
投資活動の結果使用した資金は4,753千円(前事業年度は実績なし)となりました。これは主に、細胞実験機器5,116千円の取得によるものであります。
(財務活動によるキャッシュ・フロー)
財務活動の結果得られた資金は282,680千円(前事業年度は3,138,221千円の調達)となりました。これは主に、新株式の発行による収入によるものであります。
④ 生産、受注及び販売の実績
a.生産実績
当社は研究開発を主体としており、生産実績を定義することが困難であるため、生産実績は記載しておりません。
b.受注実績
当社は研究開発を主体としており、受注生産を行っておりませんので、受注実績は記載しておりません。
c.販売実績
当社は医薬品等の研究開発事業の単一セグメントであるため、セグメントごとの情報は記載しておりません。当事業年度の販売実績は以下のとおりであります。
セグメントの名称 |
当事業年度 (自 2021年1月1日 至 2021年12月31日) |
|
金額(千円) |
前年同期比(%) |
|
医薬品等の研究開発事業 |
126,869 |
4,171.7 |
(注)1.当事業年度において、販売実績に著しい変動がありました。これは、当事業年度において、提携製薬会社からの開発マイルストーン125,000千円を計上したことによるものであります。
2.最近2事業年度の主な相手先別の販売実績及び当該販売実績の総販売実績に対する割合は次のとおりであります。
相手先 |
前事業年度 (自 2020年1月1日 至 2020年12月31日) |
当事業年度 (自 2021年1月1日 至 2021年12月31日) |
||
金額(千円) |
割合(%) |
金額(千円) |
割合(%) |
|
塩野義製薬㈱ |
― |
― |
125,000 |
98.5 |
㈱SMV JAPAN |
2,025 |
68.2 |
1,400 |
1.1 |
アリスタヘルスアンドニュートリションサイエンス㈱ |
945 |
31.8 |
262 |
0.2 |
3.上記の金額には、消費税等は含まれておりません。
(2)経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容
経営者の視点による当社の経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は次のとおりであります。
なお、文中の将来に関する事項は、本書提出日現在において判断したものであります。
① 財政状態及び経営成績の状況に関する認識及び分析・検討内容
当社の当事業年度の財政状態及び経営成績は、「第2 事業の状況 3 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー状況の分析 (1)経営成績等の状況の概要 ① 財政状態の状況」及び「② 経営成績の状況」に記載しております。
また、当社の経営成績に重要な影響を与える要因につきましては、「第2 事業の状況 2.事業等のリスク」に記載のとおりであります。
② キャッシュ・フローの状況の分析・検討内容並びに資本の財源及び資金の流動性に係る情報
当社の主な資金需要は、医薬品等の創出のための研究開発費やその他の販売費及び一般管理費等の事業費用であり、これら事業上必要な資金は、事業収益から得られる資金だけでなく、株式市場等からの増資資金の獲得や補助金等の活用により調達しております。また、手元資金については、資金需要に迅速かつ確実に対応するため、銀行預金により流動性を確保しております。
③ 重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定
当社の財務諸表は、わが国において一般に公正妥当と認められる会計基準に基づき作成されております。
詳細については、「第5 経理の状況 1 財務諸表等 (1)財務諸表 注記事項(重要な会計方針)」及び「注記事項(追加情報)」に記載しております。
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