以下に記載する経営方針、経営環境、対処すべき課題等には、将来に関する記述が含まれています。こうした記述は、当連結会計年度末時点で当社が入手している情報を踏まえた仮定、予期及び見解に基づくものであり、既知及び未知のリスクや不確実性及びその他の要素を内包するものです。「2 事業等のリスク」などに記載された事項及びその他の要素によって、当社の実際の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況が、こうした将来に関する記述とは大きく異なる可能性があります。
(1)経営方針
①企業理念について
当社は2005年の創立100周年を機に、これまで当社が事業を営んできた基盤となる考えを整理し、グループ企業理念として定めました。その後、理念の浸透に向け、行動指針の制定などを進めてまいりましたが、2017年10月に発覚した当社グループにおける品質不適切行為を契機として、あらためて当社グループの存在意義とは何かを各職場で議論し、その結果を集約して、2020年5月に「KOBELCOが実現したい未来」「KOBELCOの使命・存在意義」を新たに定めるとともに、既に制定していた「KOBELCOの3つの約束」「KOBELCOの6つの誓い」と併せて体系化し、新グループ企業理念として制定いたしました。
この新グループ企業理念は、当社グループのあらゆる事業活動の基盤となるものであり、当社グループは、この新グループ企業理念のもと、お客様、お取引先様、株主様・投資家様、地域社会の皆様、グループ社員などあらゆるステークホルダーの皆様から信頼いただきながら、社会や環境への貢献を通じた持続的な企業価値向上を目指してまいります。
<グループ企業理念>
②KOBELCOグループのマテリアリティ(中長期的な重要課題)
当社グループは、当社グループが持つ「個性と技術を活かし合い、社会課題の解決に挑みつづける」ことで持続的に成長し続け、「安全・安心で豊かな暮らしの中で、今と未来の人々が夢や希望を叶えられる世界」を実現することをグループ企業理念に掲げ、サステナビリティ経営の推進に取り組んでおりますが、より効果的に推進するため、「KOBELCOグループ中期経営計画(2021~2023年度)」の策定にあたって、様々な社会課題の中から、経営資源を重点的に投入する中長期的な重要課題(マテリアリティ)を特定いたしました。
当社グループの事業活動のなかでカーボンニュートラルに挑戦し、達成を目指すとともに、当社グループの技術・製品・サービスを通じてCO₂排出削減に貢献し、グリーン社会の実現に貢献することは、経営上の重要課題であると同時に素材・機械・エンジニアリングといった多様な知的資産と多様な人材をもつ当社グループにとっての大きなビジネスチャンスでもあると考えています。
また、当社グループが創業以来提供し続けてきた技術・製品・サービスは、安全・安心なまちづくり・ものづくりの環境をご提供し、当社グループのお客様を通じて様々な分野で社会課題の解決に貢献しており、これからも当社グループが取り組むべき重要課題です。
そして、多様な人材が活躍できる環境を整備し、コンプライアンス、人権、品質など持続的成長を支えるガバナンスを追求することも、当社グループにとっては重要課題です。
当社グループは、当社グループが取り組むべき重要課題に果敢に挑戦し続けることで、当社グループを取り巻くステークホルダーの皆様にとってかけがえのない存在でありつづけるとともに、企業価値の向上を目指してまいります。
*3E+S:Energy Security, Economic Efficiency, Environment + Safety
*DX:デジタルトランスフォーメーション
③当社グループの企業構造と事業領域
当社グループは、1905年(明治38年)に鋳鍛鋼メーカーとしてスタートし、機械事業、鉄鋼の圧延、銅、エンジニアリング、建設機械、アルミ、溶接とその事業を徐々に広げてまいりました。110年を超える歴史の中で、社会のニーズに応え、選択と拡大を進めてきた結果、現在、鉄鋼やアルミなどの素材、鋳鍛鋼やアルミ鋳鍛などの素形材、溶接材料などからなる「素材系事業」、産業用機械、エンジニアリング、建設機械からなる「機械系事業」、そして「電力事業」の3つの事業領域で事業を展開しています。
当社グループが提供する製品・サービスは、輸送機、電機、建設・土木、産業機械、社会インフラなどあらゆる産業の基礎資材となっています。当社グループは、独自の技術をもとにした代替困難な素材や部材、省エネルギーや環境に配慮した様々な機械製品やエンジニアリング技術等、当社グループ独自の多彩な製品群を幅広いお客様に供給することで、競争優位性を生みだしています。また、電力事業では、極めて重要な社会的インフラである電力の供給という公共性の高いサービスを提供しており、当社グループは社会的にも大きな責任を担っているものと考えています。
素材系事業、機械系事業のいずれにおいても、競合メーカーが国内外に多数存在します。
素材系事業においては、国内外の高炉メーカー、電炉メーカー、アルミメーカーなどが競合先として存在しますが、当社グループは、鉄鋼、アルミといった様々な素材と、その圧延・鋳造・鍛造技術を活用した鋳鍛鋼、アルミ鋳鍛といった多様な素形材、加えて溶接材料・溶接技術を有する当社グループの特長を活かしたソリューション提案をお客様に行うことにより、輸送機関連の分野などで競争優位性の維持・強化を目指しています。
また、機械系事業においても、産業用機械、エンジニアリング、建設機械のそれぞれの製品・サービス毎に国内外に競合先が存在しますが、機械においては、例えば、当社は、スクリュ・ターボ・レシプロの全ての圧縮機タイプを持つ数少ないメーカーの一つであり、お客様の用途に合わせて最適な圧縮機を提供することで競争力の維持・強化に繋げています。エンジニアリングにおいては、例えば、当社グループの持つ天然ガスを還元剤とした直接還元製鉄法(MIDREX®プロセス)が直接還元鉄の生産において世界シェア60%以上を占めています。またMIDREX®プロセスと鉄鋼の高炉操業技術を融合し、高炉工程でのCO₂排出量を大幅に削減できる技術の実証に成功するなど、継続的な技術改良への取組みを進め、加えて、天然ガスの代わりに水素を還元剤とした低炭素製鉄の実証を進めるなど、技術革新にも挑戦する中で、競争優位性の維持を図っています。建設機械においては、油圧ショベルとクレーン事業に特化する中で、静音性・省エネ技術で高い評価をいただいており、これらの技術をさらに発展させるとともにDXの活用などで競争力強化に取り組んでいます。
電力事業においては、神戸市に石炭火力発電所を、栃木県真岡市にはガス火力発電所を有しており、また新たに神戸市に石炭火力発電所を建設しておりますが、いずれも現在、実用化されている発電技術の中で最高効率の発電設備を導入し、省エネルギー法で定められた発電効率基準を満たすことにより、国内の火力発電所の高効率化・環境負荷低減に寄与します。
<当社の組織図>
<お客様分野別にみる当社グループの特長ある技術・製品・サービス 例>
お客様
|
当社グループ 技術・製品・サービス |
主な用途、使用分野 |
事業セグメント |
||||||
鉄鋼アルミ |
素形材 |
溶接 |
機械 |
エンジニアリング |
建設機械 |
電力 |
|||
自動車 |
自動車用弁ばね用線材 |
自動車エンジン部品 |
○ |
|
|
|
|
|
|
高張力鋼板(ハイテン) |
ボディ・シート骨格部品など |
○ |
|
|
|
|
|
|
|
自動車用アルミパネル材 |
ボディ外板材など |
○ |
|
|
|
|
|
|
|
鉄粉 |
各種駆動部品など |
|
○ |
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|
|
|
|
|
自動車サスペンション用アルミ鍛造品 |
足回り部品 |
|
○ |
|
|
|
|
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|
自動車用アルミ押出・加工品 |
バンパー、骨格材など |
|
○ |
|
|
|
|
|
|
自動車端子・コネクタ用銅合金 |
電装部品 |
|
○ |
|
|
|
|
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銅めっきなしソリッドワイヤ(SEワイヤ) |
部材接合 |
|
|
○ |
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|
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スラグ低減溶接プロセス |
足回り部品接合 |
|
|
○ |
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樹脂用混練製造粒装置 |
バンパー等向け樹脂ペレット製造 |
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|
|
○ |
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シートメタル成形プレス |
ボディ骨格等の複雑形状プレス加工 |
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○ |
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真空成膜装置 |
エンジン部品コーティング |
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|
○ |
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ゴム混練機 |
タイヤ・ゴム製品製造 |
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|
○ |
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マルチ・自動車解体機 |
自動車リサイクル |
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|
○ |
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航空機 |
航空機エンジン部品向けチタン |
航空機エンジンケース部品など |
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○ |
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航空機用ギアボックス |
航空機部品 |
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○ |
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|
|
|
等方圧加圧装置 |
航空機部品 |
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|
|
○ |
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|
|
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造船 |
クランクシャフト |
船舶用エンジン部品 |
|
○ |
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|
|
|
|
フラックス入りワイヤ |
船舶組立・部材接合 |
|
|
○ |
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|
|
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|
造船大組立ロボットシステム |
船舶組立・部材接合 |
|
|
○ |
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|
|
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|
LNG燃料船向け圧縮機 |
LNG燃料船燃料供給装置 |
|
|
|
○ |
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鉄道 |
鉄道車両用アルミ型材 |
鉄道車両ボディ・床材など |
|
○ |
|
|
|
|
|
食品容器 |
アルミ缶・ボトル缶材 |
飲料用容器 |
○ |
|
|
|
|
|
|
電機・エレクトロニクス |
アルミディスク材 |
記憶装置 |
○ |
|
|
|
|
|
|
精密加工用アルミ合金厚板 |
半導体製造装置 |
○ |
|
|
|
|
|
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半導体用リードフレーム |
半導体 |
|
○ |
|
|
|
|
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建築土木 |
ロングライフ塗装用鋼板「エコビュー®」 |
橋梁等構造物 |
○ |
|
|
|
|
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|
高耐食めっき鋼板 KOBEMAG® |
建築資材 |
○ |
|
|
|
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|
フラックス入りワイヤ |
建設資材接合 |
|
|
○ |
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|
REGARC™搭載鉄骨溶接ロボット |
建設資材接合 |
|
|
○ |
|
|
|
|
|
油圧ショベル |
土木工事 |
|
|
|
|
|
〇 |
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|
メインブーム兼用型建物解体専用機「NEXT」 |
建造物解体 |
|
|
|
|
|
〇 |
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|
テレスコピッククローラクレーンTK-Gシリーズ |
建築・土木工事 |
|
|
|
|
|
〇 |
|
|
「ホルナビ」(ICT建機) |
建築・土木工事 |
|
|
|
|
|
〇 |
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お客様
|
当社グループ 技術・製品・サービス |
主な用途、使用分野 |
事業セグメント |
||||||
鉄鋼アルミ |
素形材 |
溶接 |
機械 |
エンジニアリング |
建設機械 |
電力 |
|||
社会・産業インフラ、環境・エネルギー |
都市交通システム |
新交通 |
|
|
|
|
○ |
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|
神戸発電所、真岡発電所 |
電力供給 |
|
|
|
|
|
|
○ |
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木質バイオマス発電 |
電力供給 |
|
|
|
|
○ |
|
|
|
下水道バイオガス都市ガス導管注入設備 |
ガス供給 |
|
|
|
|
○ |
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|
|
水処理設備 |
上下水道処理、用水・排水処理、汚泥処理・純水・超純水製造設備など |
|
|
|
|
○ |
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|
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水素ステーション向けコンプレッサーユニット「HyAC」 |
水素ステーション |
|
|
|
○ |
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|
ストーカ式焼却炉、流動床式ガス化溶融炉 |
廃棄物処理 |
|
|
|
|
○ |
|
|
|
汎用圧縮機「エメロード」 |
産業用圧縮空気/ガスの供給 |
|
|
|
○ |
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|
|
|
スクリュ式非汎用圧縮機 |
産業用圧縮空気/ガスの供給 |
|
|
|
○ |
|
|
|
|
MIDREX®プロセス |
直接還元鉄製造 |
|
|
|
|
○ |
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|
低合金用溶接材料 |
石油精製リアクター・発電用ボイラー材 |
|
|
○ |
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|
|
|
|
マイクロチャネル熱交換器(DCHE) |
天然ガス関連設備、水素ステーション部品 |
|
|
|
○ |
|
|
|
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LNG関連機器 |
ガス供給関連設備 |
|
|
|
○ |
|
|
|
|
ヒートポンプ |
産業用エネルギー供給 |
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|
|
○ |
|
|
|
<当社グループの事業のサプライチェーン概要>
④グループ中期経営計画について
<当社グループを取り巻く事業環境>
当社グループを取り巻く事業環境は、足下の地政学リスクに関する変化はあるものの、中長期の事業環境を見据えると、コロナ禍を契機とした産業構造の変化に加え、カーボンニュートラルの実現に向けた社会変革、さらに、DXの進展等が予想されることに変わりはなく、いずれも、事業構造変革と新たな収益獲得の機会として、積極的に取り組んでいく必要があります。
<KOBELCOグループ中期経営計画(2021~2023年度)>
2021年5月公表の新たな中期経営計画では、当社グループの重要な課題、当社グループを取り巻く事業環境を踏まえ、「安定収益基盤の確立」、「カーボンニュートラルへの挑戦」の2つを最重要課題といたしました。
まず、この中期経営計画の期間を「素材系を中心とする収益力強化」などの取組みを更に深化させ、当社グループとして「安定収益基盤を確立」する期間と位置付け、新規電力プロジェクトの立上げが完遂し、収益貢献がフルに寄与する2023年度にROIC(投下資本収益率)5%以上の収益レベルを確保し、さらに、将来の姿として、ROIC8%以上を安定的に確保し、持続的に成長する企業グループを目指します。
また、鉄鋼と電力事業における「カーボンニュートラルへの挑戦」は、多様な技術と人材を競争力の源泉として幅広い事業を営む当社グループの強みを活かし社会に貢献できる新たなビジネスチャンスと捉え、グループ一丸となって取り組んでまいります。
加えて、これらを実現するための、経営体制の見直しや、多様な人材の活躍推進など、経営基盤を強化する施策にも引き続き取り組んでまいります。
なお、2つの最重要課題と経営基盤強化の進捗については、「(2)経営環境及び対処すべき課題等」に記載しております。
(2)経営環境及び対処すべき課題等
①経営環境
素材系事業は、自動車、造船、電気機械、建築・土木、IT、飲料容器などを主な需要分野としており、販売数量・価格は、これら需要分野の動向、経済情勢等の影響を受けます。機械系事業は、建築・土木、産業機械、石油化学、廃棄物処理関連などを主な需要分野としており、受注件数や販売台数及び受注高は、国内外の公共投資・民間設備投資の動向、経済情勢等の影響を受けます。電力需要については、気象状況や景気動向に左右されるほか、当社の売電量は定期点検の実施回数等によっても変動します。
また、原材料価格の変動や資機材等の取引関係の重大な変更、為替レートの変動があった場合にも、各事業の業績に影響を及ぼす可能性があります。
国内経済は、経済活動が徐々に正常化しつつありますが、サプライチェーンの停滞や長期化する世界的な半導体不足に加えて、原料・資材、エネルギー価格の高騰などの影響から、先行きは不透明な状況が続いております。また、海外経済についても、各国において景気の持ち直しが見られるものの、本格的な回復には時間を要する状況にあります。加えて、ウクライナ情勢をめぐる世界経済の混乱や急激な為替変動も生じており、需要動向やコスト面における不確実性は高まっている状況です。
当社グループの主要な事業領域の需要動向については、コロナ禍からの回復スピードに応じて需要予測に影響が生じる一方で、中長期的にはカーボンニュートラルの実現に向けて、低CO₂高炉鋼材など、新たな需要が喚起されることが期待されます。主要な需要分野については、次のとおりとみております。
自動車分野については、半導体不足による自動車各社の減産調整はあったものの、中長期的には世界の自動車需要は伸長が見込まれます。また近年、自動車メーカーは、カーボンニュートラル対応として、電動化比率の目標引き上げによる走行時のCO₂削減に加え、製造時・廃棄時を含むライフサイクルアセスメントの観点でのCO₂削減(素材使用量の低減、低CO₂素材の採用、リサイクル性重視など)といった、新たなニーズも急速に高まりつつあります。車体軽量化による走行時の排出CO₂削減や製造時の素材使用量低減に貢献できる、超ハイテン、アルミ板、アルミサスペンションなどの素材・部材に加え、電動化に重要となる磁性材料や銅板、チタン箔なども中長期的な成長が期待できます。
造船分野については、カーボンニュートラルの潮流加速に伴い、航行時のCO₂排出量削減にむけて、重油からLNG、更に中長期的には水素やアンモニアへの燃料転換に関する技術開発が進むものと想定され、環境対応船へのシフトに伴い、当社の厚板、溶接、鋳鍛鋼事業での需要が期待されます。
航空機分野は、各国の出入国規制に伴う渡航制限などの影響により、航空会社の財務状態が大きく悪化しているため、当面の航空機の新規需要は低迷するものと想定され、当社のチタン事業が影響を受けます。ただし、中長期的には燃費向上の観点からの技術開発は引き続き進むと考えており、軽量化のためのチタン、アルミなどの素材、部材への需要が期待されます。
建築・土木分野は、コロナ禍からの回復に伴い、需要は回復基調にあると想定され、当社の建設用資材向けの鋼材での需要が期待されます。
建設機械分野については、中国では不動産規制の強化を受けて投資が減速しているものの、北米や欧州などその他の地域では需要は堅調に推移するものと見ております。加えて、DX技術を使った省力化や建設現場のテレワークシステムであるK-DIVE CONCEPTなどの開発が加速しており、同技術の開発が今後の優位性向上に大きく寄与するものと考えております。
石油精製、石油化学分野については、カーボンニュートラルに向けた事業環境の変化に加えて、ウクライナ情勢の影響により原油価格が不安定になったこともあり、石油メジャーの開発・設備投資案件への影響などが想定され、不透明な状況が続くものと見ております。一方で、中長期的には水素やアンモニアへのエネルギー転換が進むものと想定され、機械系事業での需要が期待されます。
産業機械分野については、半導体関連やEV関連向けの設備投資が堅調に推移しております。加えて、省エネルギー・省人化の観点から、当社の溶接ロボットや圧縮機の分野での需要は中長期的にも期待できます。
還元鉄分野については、中国を中心とした鉄鋼設備の過剰感は解消されていないものの、中東・北アフリカ等の一部地域では還元鉄プラントの潜在的な需要があります。加えて、カーボンニュートラルに向けて高炉製鉄法に比べCO₂排出量が少ない直接還元製鉄法への関心が増大傾向にあります。
水処理及び廃棄物処理の環境関連分野については、水処理では自然災害に対する国土強靭化政策、廃棄物処理では基幹改良ニーズが引き続き堅調であるなど、国内公共投資は概ね現状の水準で推移するものと認識しております。
IT分野では、当社グループは半導体製造装置向け材料などを扱っておりますが、半導体関連は自動車生産の回復に加えて、データセンターや第5世代移動通信システム(5G)対応のスマートフォン向けの半導体の需要が増加しており、周期的な需要の変動はあるものの、中長期的には成長する分野と見ております。
飲料用容器では、気象状況の影響を受けますが、マイクロプラスチックの問題の台頭による金属容器への回帰の動きなどから底堅い需要が続くものと見ており、当社のアルミ板への需要が期待できます。
電力需要については、国内経済がコロナ禍から回復した後は、中長期的には安定推移していくものとみております。
②対処すべき課題
当社グループを取り巻く事業環境は「①経営環境」に記載のとおり、当面は先行きが不透明な状況が続くものと想定されます。こうした状況のもと、当社の対処すべき課題は次のとおりと考えております。
<安定収益基盤の確立>
2023年度にROIC5%以上の収益レベルを確保し、将来的にROIC8%以上を目指すための「安定収益基盤を確立」するために、中期経営計画で掲げた5つの重点施策、具体的には「鋼材事業の収益基盤強化」、「新規電力プロジェクトの円滑な立上げと安定稼働」、「素材系事業の戦略投資の収益貢献」、「不採算事業の再構築」、「機械系事業の収益安定化と成長市場への対応」に着実に取り組んでおります。加えて、原料・資材、エネルギー価格などの高騰を受けて、「調達コストアップ分の販売価格への転嫁」を早期かつ着実に実行してまいります。
鋼材事業の収益基盤強化については、長期的に鋼材内需が縮小していくとの想定のもと、加古川製鉄所の粗鋼生産量6.3百万トン前提での安定収益確保、さらに6.0百万トンでも黒字が確保できる体制の構築を目指しております。具体的には、固定費及び変動費の更なる削減、特殊鋼線材・ハイテン等高付加価値品へのシフト(品種構成改善)、海外事業の収益貢献に取り組んでおります。なお、カーボンニュートラルの実現を踏まえた将来の鋼材生産の上工程設備の在り方については、並行して検討を進めてまいります。
新規電力プロジェクトについては、予定通り2022年2月から神戸発電所3号機が営業運転を開始しました。2023年度からは、全ての発電所が稼働することにより400億円/年程度の収益貢献が期待できることから、引き続き円滑な立上げと安定稼働に取り組んでまいります。
自動車軽量化戦略推進の中で行ってきた素材系事業の戦略投資案件については、需要拡大時期の後ろ倒し、ものづくり力の課題等により収益化に時間を要しておりますが、引き続き材料承認取得、量産体制の確立を着実に進め、早期に収益に貢献するよう取り組んでまいります。
不採算事業の再構築については、需要環境や産業構造が変化する中で2019年度に固定資産減損を行った鋳鍛鋼事業、チタン事業及び国内外ともに競合が激化しているクレーン事業について、不採算品種からの撤退や要員削減などの合理化を予定通り進めており、早期黒字化を目指します。
機械系事業については、社会インフラ、水素・再生エネルギー関連、MIDREX®等のCO₂削減をはじめとした環境貢献メニューの引き合いは増加傾向にあります。2021年11月に実施した(株)神鋼環境ソリューションの完全子会社化や、2022年1月に開始した三浦工業(株)によるコベルコ・コンプレッサ(株)の株式取得を伴う汎用圧縮機事業に関する資本業務提携などの効果を早期に発揮し、グループ内連携を促進しながら積極的に受注に取り組んでまいります。加えて、水素・再生エネルギー関連や廃棄物処理などの環境貢献メニューに関する当社独自技術の開発も推進してまいります。建設機械事業については、中国市場への依存度の高い従来の収益構造から早期に脱却を図り、他のエリアでの収益化に取り組んでまいります。また、建設業界の働き方変革等へのソリューションを提供する「コト」ビジネスの収益化、現場設置ノウハウの提供等の建設機械周辺ビジネスの事業化を進めてまいります。
調達コストアップ分の販売価格への転嫁については、原料・資材、エネルギー価格の高騰により、素材系事業、建設機械事業を中心に大幅な調達コストアップが生じております。引き続きコスト削減をはじめとする収益改善や安定生産に取り組むとともに、調達コストアップ分の販売価格への転嫁を早期かつ着実に実行することで、「安定収益基盤の確立」を進めてまいります。
<カーボンニュートラルへの挑戦>
カーボンニュートラルへの移行や社会変革はグローバルで明確な潮流となっておりますが、当社グループとしては、内部・外部環境において、リスクと機会、双方の要因を抱えている中、2050年のカーボンニュートラルへ挑戦し、その移行の中で企業価値の向上を図ることが目指すべき将来像と考えております。
リスクの最小化に対しては、2050年のカーボンニュートラル達成に向け、当社独自技術の開発推進、外部の革新技術の活用等により、CO₂削減に果敢に取り組んでまいります。機会の最大化には、MIDREX®、自動車軽量化・電動化への素材供給等、CO₂排出削減に貢献する多様なメニューと多様な技術の融合を可能にする強みを活かし、これらメニューの需要拡大をビジネスチャンスとしてしっかり捕捉してまいります。
当社グループとしては、まず、生産プロセスにおいて、2030年で2013年度比30~40%のCO₂を削減し、2050年でのカーボンニュートラル実現に挑戦し、達成を目指してまいります。
特に、製鉄プロセスについては、既存技術(省エネ技術、スクラップ、AI操炉®等)の追求と革新技術に加え、2021年2月に公表した当社独自技術である高炉でのMIDREX®技術の活用により、業界をリードし、他社との差別化も図ってまいります。
また、当社グループの保有するMIDREX®技術をはじめ、自動車軽量化・電動化に寄与する素材・部品供給など、多様な技術を通じて世界のカーボンニュートラルの実現に貢献し、そのCO₂排出削減貢献量として、2030年で6,100万トン、2050年で1億トン以上を目指してまいります。
電力事業においては、神戸発電所の蒸気をもとにした周辺地域への熱・水素供給による地域全体でのエネルギー利用の高効率化、電力事業とエンジニアリング事業の連携によるバイオマス燃料(下水汚泥、食品残渣)の混焼、アンモニア混焼等の取組みを強化し、世界最先端の都市型石炭火力発電所として事業継続を目指してまいります。さらに、2050年に向けて、神戸の石炭火力発電所で、アンモニア混焼率拡大、アンモニア専焼に挑戦するとともに、真岡発電所では、カーボンニュートラル都市ガスの最大活用に取り組み、カーボンニュートラルの達成を目指してまいります。
<経営基盤領域の強化>
「安定収益基盤の確立」と「カーボンニュートラルへの挑戦」を実現するために、経営体制の見直しに加えて、DX戦略の推進や、多様な人材の活躍推進、「KOBELCO TQM」などの横串を通した活動を通じて、経営基盤強化にも継続的に取り組んでおります。
経営体制については、取締役会の構成・諮問機関の見直しによる取締役会のモニタリング機能の強化、委員会体系・執行役員制度の見直しや本社部門の組織改正による執行側の体制強化等の経営体制の見直しを2021年4月から実施しており、この体制のもと、着実に実効性の向上に取り組んでおります。
DX戦略の推進については、ICT・AI分野の技術開発・事業適用を強化・加速するため、2021年4月に「デジタルイノベーション技術センター」を新設するとともに、当社グループのDXに対する戦略を統括的に立案・実行する「DX戦略委員会」を設置しました。さらに、2021年12月にKOBELCOグループの「デジタルトランスフォーメーション戦略」を公表し、2022年1月には経済産業省が定めるDX認定制度に基づき、「DX認定事業者」としての認定を取得いたしました。今後もDXの取組みをより体系的、かつ戦略的に強化・加速してまいります。
また、多様な技術と同様に、当社グループの強みである素材系、機械系、電力事業の幅広い事業領域で有する多様な人材が、その能力を十分に発揮し、活躍できるよう、人事制度の変革、人材育成の強化、ダイバーシティ&インクルージョンの取組み(人材の多様性を認め、受け入れて活かすこと)、働き方変革を推進してまいります。
さらに、2018年度に活動を開始した「信頼回復プロジェクト」を2021年4月に「信頼向上プロジェクト」に再構築し、引き続き品質ガバナンスの向上と信頼向上に取り組んでおりますが、このプロジェクトにおける「KOBELCO TQM」活動を通じて、製品・サービスの品質だけでなく、業務・組織・安全管理を含むマネジメントといった企業活動における品質全般の向上に、引き続き取り組んでまいります。
<事業管理指標について>
当社グループは、収益評価に偏った経営を改め、持続可能な企業価値向上を実現することを目的に、「安全」、「品質」、「環境・防災」、「コンプライアンス(法令・契約遵守)」、「社員意識(人材確保・育成)」、「お客様満足度」、「経済性(ROIC)」の7つの事業管理指標を設定し、2019年4月より運用を開始しております。7つの指標のうち6つが非財務指標ですが、そのどれもが企業存続の前提条件に繋がるものであり、今中期においても、財務指標だけでなく非財務指標もモニタリングしながら、組織の隅々まで健全な内部統制が機能し、リスクの早期把握と適切な対応を可能とする体制構築を図ってまいります。
(ご参考)経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標の設定背景・方針
2023年度達成目標 |
目標指標設定背景・方針 |
ROIC(税引後事業利益/投下資本) 5%以上 |
当社は、2019年度より個別事業の評価方法の指標として投下資本利益率(ROIC)を導入し、事業へ投下した資金に対するリターンと資本コストを意識した経営管理を進めており、ROICは当社グループの中期経営計画目標としても相応しい指標であると判断し、設定しました。 |
D/Eレシオ (有利子負債/自己資本) 0.7倍以下 |
安定した成長を実現する為には、財務が健全であることが必須であることから、成長投資と財務規律との最適なバランスを考慮したD/Eレシオを重要な指標として位置付けています。 |
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