以下の記述のうち、将来に関する事項は、当連結会計年度末(2022年3月31日)現在における当社グループ(当社、連結子会社および持分法適用関連会社)の判断に基づくものであります。実際の業績は、今後様々な要因によって大きく異なる結果となる可能性があります。
(1) 経営方針
当社グループは、“社会からの信頼”、“お客様からの信頼”、“人と人の信頼”を確立することを目指す「信頼の経営」を経営理念としております。
この経営理念のもと、当社グループは、特殊鋼製品の製造・販売を通じた「高信頼性鋼の山陽」のブランド力の更なる強化とともに、地球環境対策の確実な実行や企業倫理の徹底など、社会を構成する一員として求められる責任を果たすことにより経済性と社会性の両立を図ります。これらの取組みを通じて企業価値を高め、株主の皆様、需要家、従業員、社会など、全てのステークホルダーからの一層の信頼を得られる企業を目指してまいります。
(2) 経営環境及び対処すべき課題
特殊鋼は、鋼にクロムやニッケルなどの元素を添加することで、硬度、強度、粘り強さ、耐磨耗性、耐熱性、耐食性等、用途に応じた特殊な性能を持たせた鋼であり、自動車、鉄道、建設機械、エレクトロニクス製品や情報通信機器など、様々な工業製品の重要部品・基幹部品として使用されるため、高い品質と信頼性が求められる素材であります。
特殊鋼に求められるニーズは、最終製品の機能向上や環境負荷の低減などを背景に多様化・高度化の一途をたどっております。当社グループは、長年にわたって培ってきた「高清浄度鋼製造技術」をベースに、それらのニーズに的確に応える高品質の特殊鋼製品を提供してきました。
当社グループは、電気炉による製鋼から最終製品までの一貫生産を行う事業拠点を日本、欧州、インドに有しております。当社の直接輸出比率は約2割ですが、当社製品の間接輸出等や海外事業拠点における製造・販売分を含めますと、当社グループ製品の多くは海外で使用されております。
当社グループの主力製品は、ベアリングの素材となる軸受用鋼であります。軸受用鋼は機械の回転運動を支えるため、特に厳しい品質が求められます。ベアリングの寿命を左右するのは鋼の清浄度の高さとされており、ここに当社が強みとする「高清浄度鋼製造技術」が生かされております。
当社グループの主要な最終需要先は、自動車、産業機械、建設機械業界等であり、当社グループの製品には、自動車メーカー等に直接販売されるものとベアリングメーカーや部品メーカー等へ販売され、各サプライチェーンにおいて各種の部品に加工された後、最終的に自動車メーカー等へ納入されるものがあります。
近年、競合他社の生産能力の増強や品質・技術力の向上等により、特殊鋼業界における国際競争は激しさを増しつつ、足元では、新型コロナウイルス感染症やロシアによるウクライナへの軍事侵攻などの影響による、鉄スクラップや合金鉄、エネルギー等の価格の大幅な上昇や円安の進行によって、未曽有のコストアップ影響が生じるとみられます。特殊鋼需要に関しましても、半導体不足等による自動車減産やそれに伴うサプライチェーンにおける在庫調整の影響を引き続き注視していく必要があります。
このように今後の原燃料価格や特殊鋼需要の動向が不透明な状況であるなかで、当社グループといたしましては、原燃料価格上昇に伴うコストアップに対し「マージンの維持・拡大」を基本方針として、販売価格の改善など必要な対策を講じるとともに、引き続き経営理念「信頼の経営」の実践を通じて、大きく変化する経営環境下においても、人・技術・利益の持続的成長を図るとともに、持続可能な社会の実現に貢献してまいります。
なお、当社グループは、2021年度から2025年度を実行期間とする経営計画(25年中期)を策定しております。
その内容は以下のとおりであります。
①中長期の環境想定と策定の骨子
日本国内の特殊鋼需要は、人口減少や高齢化等の社会構造の変化に伴い、今後減少が見込まれる。また、特殊鋼の直接輸出、あるいは特殊鋼を使用した製品等による間接輸出についても、海外需要家の地産地消化ニーズの高まりや、グローバルサプライチェーンの見直しにより、中長期的には減少が見込まれる。
一方、グローバルでは、中国やインドを中心に特殊鋼需要は増加が見込まれるものの、将来的なEV化の進展等、社会・産業構造の変化を踏まえた、国内外の特殊鋼メーカーとの競争激化や、2050年カーボンニュートラルに向けた鉄スクラップを中心とした調達面での競争激化なども想定される。
こうした中長期的な特殊鋼の需要構造の変化や、国際的な競争の激化を見据え、次期経営計画(25年中期)では、事業基盤の強化を通じ、安定的な収益を確保できる盤石な企業体質を確立し、グローバルな特殊鋼マーケットでの企業価値の更なる向上を図ることを基本的な考え方とする。主な取り組みとして、欧州のOvako Group ABおよびその子会社25社(以下、「Ovako」)、インドのMahindra Sanyo Special Steel Private Limited等の海外事業の収益力強化、2050年カーボンニュートラル実現も見据えた新たな顧客要求や環境課題にグローバルで応える技術先進性の更なる拡大、DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進による生産プロセス・業務プロセス等の改革と効率化、東京証券取引所プライム市場への移行(2022年春)に向けたガバナンス体制の強化、ダイバーシティ経営・健康経営等を推進する。以下に、その基本方針を示す。
②経営計画(25年中期)の基本方針
(ⅰ)グローバルな特殊鋼マーケットでの企業価値の更なる向上
固定費・変動費の削減を通じた、グループ全体のコスト競争力の強化を図る。また、適正マージンの確保と販売構成の高度化を図り、グローバル需要を確実に捕捉する。
(ⅱ)海外事業の収益力強化
Ovakoは、コスト競争力の強化を通じ、盤石な収益体質を構築する。Mahindra Sanyo Special Steel Private Limitedは、コスト競争力・営業力の強化を通じ、インド市場でのポジションを更に高める。
(ⅲ)日本製鉄㈱・Ovakoとの3社シナジーのフル発揮
営業・生産・調達等の連携施策の積上げと早期実行に注力し、予定通り2024年度までにシナジー効果をフル発揮する。
(ⅳ)技術先進性の更なる拡大
強みである高清浄度鋼を軸に、社会・産業構造の変化に伴う新たな顧客要求や環境課題等に的確に対応する。特に、グローバルな成長が見込まれる「EV」「風力発電」「鉄道」「水素社会」等の分野での更なる高信頼性ニーズに応える技術の深化に注力する。
(ⅴ)2050年カーボンニュートラルの実現を目指す
「エコプロセス(省エネ・高効率)」「グリーンエネルギー活用」「エコプロダクト(長寿命軸受鋼:自動車・風力発電・鉄道、3D粉末)」「エコソリューション(Ovako・Mahindra Sanyo Special Steel Private Limited:省エネ技術・生産性向上の展開)」の推進を通じ、社会のあらゆる段階でのCO2排出削減に取り組み、2050年カーボンニュートラル実現を目指す。また、社長を委員長とした「カーボンニュートラル(CN)推進委員会」を設置し、実行・推進する。
(ⅵ)DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進
最新のデジタル技術を活用し、最適操業(操業効率化・予防保全:AI、IoT)、品質向上(探傷判別精度:AI)、作業効率化(事務自動化:RPA)、安全教育(VR)等を推進する。
(ⅶ)ガバナンス体制の強化、ダイバーシティ経営・健康経営の推進
プライム市場への移行(2022年春)に向けたコーポレートガバナンス体制の強化を図るとともに、全ての社員が性別・年齢等に関わらず活躍できることを目指して、ダイバーシティ経営(65歳定年延長、女性活躍推進、グローバル人材育成)および健康経営を推進する。
(ⅷ)「素形材事業」と「粉末事業」の収益力強化
素形材事業については、鍛造~旋削の一貫製造プロセスの強みを活かし、鋼材を含めた一貫収益力を強化する。 また、粉末事業については、5G・脱炭素化等に対応した戦略アイテムの開発・拡販を通じ、収益力を強化する。
(ⅸ)グループ会社の選択と集中
グループ会社の統廃合・再編等を通じ、グループ全体の体質強化を図る。
③財務目標
(ⅰ)2025年度損益計画
・連結売上高 :2,800億円程度
・連結経常利益 :140億円程度(163億円程度 *のれん償却費を除く)
・ROS :5%程度(6%程度 *)
・ROE :5%程度(6%程度 *)
(主要前提) 鉄スクラップ(購入) 40千円/t(姫路地区H2市況)、原油(ドバイ) 60$/BL、
為替 100円/$、112円/€
(ⅱ)2025年度財務指標
・自己資本比率 :60%程度 (2019年度実績: 54%)
・D/Eレシオ(ネット) :0.2倍程度(2019年度実績: 0.27倍)
・D/EBITDA(ネット):1倍程度 (2019年度実績: 2.9倍)
(ⅲ)株主還元
のれん償却費を除く当期純利益に対し、配当性向30%程度を目安とする。
(ⅳ)前中期(2017~2019年度)との比較
前中期(2017年度~2019年度)では、Ovako(2019年3月)、Mahindra Sanyo Special Steel Private Limited(2018年6月)の子会社化等の事業再編を通じ、売上規模を大幅に拡大するも、利益面では米中対立等による景気後退などにより、2019年度は赤字となった。これに対し、次期経営計画(25年中期)では、海外子会社の収益力強化により、連結ベースの利益拡大を図り、企業価値の更なる向上を目指す。
④経営資源投入
(ⅰ)設備投資
連結:600億円程度/5年
・減価償却費以下に抑制。
・原価低減、省力、カーボンニュートラル対応(省エネ)、DX推進、老朽更新等。
(ⅱ)研究開発費
連結:125億円程度/5年 ※前中期同水準
・カーボンニュートラル対応を踏まえた「エコプロセス・エコプロダクトの創出」等に注力。
(ⅲ)人員計画
連結:6,726人(2019年度末)→ 6,400人程度(2025年度末)
・単独は2021年度から65歳定年延長を実施済。
・グループ全体で5%程度の削減。
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