文中における将来に関する事項は、当期末現在において、当社グループが判断したものであります。
(1)会社の経営の基本方針
タツタ電線グループは、グループの経営理念・企業行動規範に基づき、社会の持続的な発展がグループの持続的成長の大前提であるとの認識のもと、社会に役立つ製品・サービスを提供するとともに事業活動のあらゆる段階で環境負荷の低減を図ることにより、環境・社会・経済面の企業価値を高めてまいります。
この経営理念を実現すべく、当社グループは2017年から2025年までの9年間における当社の事業運営のあり方について、グループの有するコアコンピタンスや今後の社会の課題やニーズ、トレンドを踏まえ、コアビジネスである電線・ケーブル事業および電子材料事業の今後の目指すべき方向・ありたい姿(ビジネスモデル)を定めた長期事業戦略である「2025長期ビジョン」を策定いたしました。
また、当社は社会に役立つ製品・サービスを提供し事業拡大を目指すとともに、当社グループが事業活動を行う中で社会や環境に与える負荷を低減することを重要課題と認識しております。特に、地球環境の保護は世界的な課題であり当社グループも社会の一員として積極的な役割を果たしてまいりたいと考えております。このために、カーボンニュートラルの達成、省資源・省エネルギー、リサイクルなどにも精力的に取り組んでまいります。
当社グループは、これらの活動を通じてより良い社会の実現とその持続的な発展に貢献してまいります。
(2)中長期的な会社の経営戦略
長期ビジョンでは、既に当社が相当以上の競争力を有する事業の更なる強化に加え、社会的ニーズが今後高まると予想されたIoTやロボット、車載機器、医療機器向けなどのフロンティアに対して当社グループが集中して取り組み、事業の拡大と事業ポートフォリオを変革していくことを目指しており、これはSDGsにおいて取り組むべき課題や新型コロナウイルス感染症問題で顕在化した社会の課題への対応にも貢献できるものと考えております。
この実行にあたっては、当社の有する各事業の成長段階・競争力等に応じ「利益追求事業」「成長追求事業」「中長期育成事業」の3つのグループに分類したうえで、第1期(2017~2019年度)、第2期(2020~2022年度)、第3期(2023~2025年度)に区切り、事業展開を進めております。
(3) 対処すべき課題
① 2025長期ビジョン第2期(2020-22年度)
2021年度は第2期中期経営計画(2020-22年度)の中間年度であるとともに長期ビジョンの中間年度でもありましたが、「3 経営者による財務状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析 (1)経営成績の状況」に記載のとおり、主力の機能性フィルム事業においては顧客の在庫調整、半導体不足を主因として大幅な減収減益となりました。電線・ケーブル事業においても機器用電線の回復はありましたもののインフラ電線においては主原料である銅価格高騰による顧客の買い控え等もあり新型コロナウイルス感染症問題による需要減少からの回復傾向が鈍化し減販となるとともに資材価格の高騰等も重なり減収減益となりました。
2022年度はエネルギー・原材料価格の上昇はありますものの、半導体不足の段階的解消、新型コロナウイルス感染症問題からの経済活動回復等を主因として増収増益を予想しております。一方で、第2期中期経営計画での計画値との比較では、エネルギー・原材料価格の高騰および成長追求事業の収益貢献の遅れ等を主因に大幅な計画未達となる見込みであり、本年度に策定する第3期中期計画においては、足元の状況を踏まえつつ2025長期ビジョンの目標・達成時期等の再検証を行ってまいります。
不透明且つ厳しい事業環境にはありますが、当社といたしましては、当社の提供する製品・サービスは、IoT、AI、5G通信の進展、医療の高度化等に伴い必要とされるものであり需要は拡大するとの中長期的な見方に変更はなく、各種課題に対処するとともに新型コロナウイルス感染症問題によって停滞した経済活動の回復に合わせ拡販・製品開発活動を精力的に取り組んでまいります。
ⅰ)電線・ケーブル事業セグメント
カーボンニュートラル、5G、FA化・ロボット化等、社会の変化に伴う「送配電ネットワーク整備」「機能性ケーブル」へのニーズの高まりにより電線・ケーブル事業の事業機会が拡大しており、この機会獲得が重要な課題となっています。この状況を踏まえ、当社は、電線・ケーブルセグメント総体の市場対応力を強化して「新市場・海外市場への展開」「高機能・差別化新製品の開発」および「事業提携を含めた製品ラインアップ拡充と生産販売体制強化策の企画・実行」を進めるべく、2021年7月に通信電線事業本部と機器用電線事業本部を「ワイヤー&ケーブル事業本部」として統合するとともに「市場開発部」を新設いたしました。また、中長期育成事業である海外機器用電線事業の拠点である常州拓自達恰依納電線有限公司では、営業拠点の拡充を実行いたしました。今後は増産・増販に向けて営業・生産のネットワーク作りを進めてまいります。これらに加え、2022年7月には、管理体制を簡素化し業務の効率化ならびに意思決定の迅速化を図るとともに情報の更なる共有による市場開拓および差別化新製品の開発を加速すべく次の体制変更を行うこととしております。
・ワイヤー&ケーブル事業本部内の通信電線事業部と機器用電線事業部とを統合
・「タツタ立井電線株式会社」および「中国電線工業株式会社」の営業機能を当社に移管したうえで営業体制を「インフラ電線営業部」および「産業機器電線営業部」に再編
・「タツタ立井電線株式会社」および「中国電線工業株式会社」は受託生産会社として安定生産・効率生産の追求に特化
・国内4か所の支店・営業所を廃止し業務・機能を各営業部に統合
また、主要原料である銅地金価格の高騰により顧客の買い控えの傾向が顕著になりつつあるとともに、その他の生産資材価格・エネルギー価格も上昇しており収益に影響を及ぼしています。これに対しては、徹底したコストダウンに努めるとともに、サプライヤー企業・顧客企業との連携を強め収益維持に努めてまいります。
ⅱ)電子材料事業セグメント
主力製品である機能性フィルムにつきましては、スマートフォン・タブレット等の携帯通信機器を主用途としております。携帯通信機器は今後さらなる通信高速化に向けてミリ波対応基地局・機種の普及が予想されておりますが、当社はミリ波対応の電磁波シールドフィルムを既に開発しており、本格的な普及に合わせて事業機会拡大につ なげてまいります。一方で、機能性フィルムの用途拡大も課題となっております。当社は、今後ますます成長が予想される車載向けセンサーやカメラ、インバーター、パワーウインドウ、ヘッドライト、計器類等の電子部品の電磁波遮断を目的にした高耐熱シールドフィルムを開発いたしました。当社としては、車載向けシールドフィルムをスマートフォン向けに次ぐ事業の柱とすべく精力的に取り組んでまいります。
成長追求事業である機能性ペースト事業につきましては、2025長期ビジョンにおいて機能性フィルム事業に次ぐ柱の事業として事業開発に取り組んでおります。新型コロナウイルス感染症問題による顧客企業の認定活動の停滞等もあり収益貢献が大幅に遅れておりますが、顧客企業での材料認証も進んでおり、引き続き顧客企業からの要請に的確に応え量産化段階に進めるべく精力的に取り組んでまいります。また、社外とのコラボレーションも重要と考えており、既に投資しているスタートアップ企業との連携も進め、収益貢献を早期化してまいります。
ⅲ)その他事業セグメント
成長追求事業である医療機器部材事業については、当社の有する樹脂形成技術と精密電線加工技術、さらにはセンサー事業により培ったセンシング技術の活用が可能であり、主要顧客のニーズに沿った開発テーマに対応することでニッチトップの製品群の開発・事業展開を進めるとの方針のもと、主要医療機器メーカーからのOEM製品群の生産を通じた基盤構築を進めつつ、当社の独自性を加えたニッチトップ製品群の開発をすすめております。特に、低侵襲医療分野は身体に与える負荷が小さく術後のQOL向上にも貢献するものであり、新たな機能の付加に対するニーズが高く新規治療法の開発も含め市場成長が期されるとともに、当社光ファイバや合金、微細電線、チューブなどのコア技術を用いることで新たな医療技術開発にも貢献できると考えております。2021年度には当社の有する光ファイバ技術を活用した低侵襲がん治療向けPDTプローブの生産・販売を開始するとともに、大手医療機器メーカーからのOEM製品の量産化も開始いたしました。また、2021年度には先進的な医療技術製品の開発に取り組むスタートアップ企業への出資・業務連携も開始し、両社製品の量産段階での製造受託さらには当社技術との融合による新製品開発などに取り組んでまいります。長期ビジョンに対しては遅れを生じておりますものの、今後も関係分野企業との協業等により独自性のあるグループを形成し医療機器部材事業の成長を推進してまいります 。
株式会社タツタ環境分析センターが行っている環境分析事業は、ダイオキシン類分析、作業環境測定、土壌・地下水調査、水質・大気などの環境分析をはじめ、製品・材料や産業廃棄物分析等の幅広い分析に対応して環境ニーズの高まりに貢献しつつ一定の収益をあげております。今後さらなる成長を目指し、ダイオキシン分析の短納期化や土壌分析等地盤環境事業のワンストップ化等、事業の一層の高付加価値化を推進するとともにDX化による効率化・サービスの品質向上を進めてまいります。
ⅳ)企業・大学等とのコラボレーションによる事業強化・新規事業育成
当社の成長には既存事業の強化と新たな事業の育成が重要な課題であり、新規事業創出のカギとなる要素技術の早期拡充に向けて自社内のリソースの活用はもとより、他社・大学等とのコラボレーションによるオープンイノベーションに取り組んでいます。当社グループの強みを活かすという視点から、カーボンニュートラル・再生エネルギー関連分野、5G・IoT・AI・DX等の電子材料関連分野、メディカル関連分野、環境・センシング関連分野を中心に、当社の事業方向性に合致し、社会課題の解決に資する差別化技術を開発・保有しているスタートアップ企業への投資と協業を推進しています。2020年度から7社のスタートアップ企業への投融資(計約5億円)を行い、各社の成長をサポートするとともに当社との連携による新規事業の創出を目指しております。研究開発分野では大学との協働も進めており、現在、複数の大学との共同研究を行っております。当社といたしましては、これらのコラボレーションを推し進め、収益力の強化と新規技術・事業の開拓を目指してまいります 。
② サステナビリティ推進
「1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等 (1)会社の経営の基本方針」に記載しましたとおり、社会の持続的な発展が当社グループの持続的成長の大前提であるとの認識のもと、社会的課題やステークホルダーの要請・期待などを勘案し、次のとおりマテリアリティ、具体的取組事項、KPIを設定しております。当社グループは、これらの活動を通じてより良い社会の実現とその持続的な発展に貢献してまいります。特に、カーボンニュートラルにつきましては、社会的要請・顧客企業の要望等を踏まえ計画を大幅に前倒し、機能性フィルム事業においては2022年度、国内各事業所・関係会社においては2025年度にカーボンニュートラルを達成するとともに、国内3工場に太陽光発電設備を増設・新設し創エネルギーにも取り組んでまいります。
また、当社グループは、2022年3月にTCFD(気候関連財務情報タスクフォース)へ賛同を表明しており、TCFDの考え方に基づきシナリオ分析を行い事業活動に与えるリスクと機会を抽出し、経営戦略へ盛り込む活動を実施しています。
③ DX推進
当社グループは、新型コロナウイルス感染症の拡大により社会の変化と事業活動への様々な影響とが生じるなか、デジタル・トランスフォーメーションを推進することで事業機会の拡大を図ることを方針として、(ⅰ)BCP体制の強化、(ⅱ)営業スタイルの革新 、(ⅲ)業務スタイルの革新 、(ⅳ)製造効率・品質の革新、(ⅴ)組織・人材の革新、の5つを重要テーマとして、失敗を恐れず変化を奨励し、迅速かつ積極的に対応を進めています。特に製造効率・品質の革新においてはスタートアップとの協業も行うなど、新規技術の導入も視野に入れて活動しております。また、DX人材育成のためのプログラムを開始するとともに働き方の変化を踏まえた人事諸制度の見直しも進めております。デジタル化の流れは今後も変わらずむしろ加速していくと考えており、築いてきたDXの基盤のもとこれからも環境整備と課題対応を進め、ビジネススタイル・ビジネスモデルの変革、そして新たな付加価値の創造へとつなげてまいります。
お知らせ