文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において、当社グループが判断したものであります。
(1) 会社の経営の基本方針
当社グループは「“水”を究め、自然と人間が調和した豊かな環境を創造する」を企業理念とし、企業ビジョン「持続可能な社会の実現に貢献する“水と環境の独創的価値の創造者”」の実現を目指し事業活動を展開しております。また、CSR(Corporate Social Responsibility)に関する方針として「水と環境の問題にソリューションを提供し、未来への責任を果たす」を定め、CSRを経営の中核に位置付け、企業価値の向上と競争優位の創出に邁進しております。そして当社グループは、株主・投資家をはじめとするすべてのステークホルダーの皆様に対する適正かつ迅速な情報開示を通じ、より透明性の高い経営の実現を目指しております。
(2) 中長期的な会社の経営戦略及び目標とする経営指標
①中期経営計画
当社グループは、2018年4月より5カ年の中期経営計画「MVP-22」(Maximize Value Proposition 2022)をスタートさせ、成長投資と収益性の改善に注力しております。MVP-22計画最終年度(2022年度)の業績目標は次のとおり設定しております。
売上高年平均成長率 3%以上(M&A等による上積みを除いた自律的成長分)
売上高事業利益率 15%※
親会社所有者帰属持分当期利益率(ROE) 10%以上
※事業利益は、売上高から売上原価並びに販売費及び一般管理費を控除した恒常的な事業の業績を測る当社グループ独自の指標であります。なお、直近の事業年度を取り巻く環境および事業の展開状況を鑑み、2022年度の連結業績予想では、売上高事業利益率を11.7%としております。
MVP-22計画の策定に先立ち、当社グループの競争力の源泉(バリュープロポジション)を「顧客親密性」と特定しました。顧客親密性とは、単なる顧客との物理的、時間的な密着度ではなく、顧客にとっての必要不可欠なパートナーとしての存在価値の大きさを意味しております。誰よりも顧客を知り、顧客と共に課題解決に取り組むことで、長期的に強固な関係構築を目指していきます。MVP-22計画では「既成概念を壊し、仕事の品質とスピードを飛躍的に高め、顧客親密性を最大化する」を基本方針として、「社会との共通価値の創造」、「ソリューション提供の高速化」、「収益性のさらなる向上」、「コーポレートガバナンスの強化」、「働き方・意識改革とICT活用」を目指し、次の重点施策にスピードを上げて取組んでおります。
水処理薬品事業では、ビジネスモデルの変革と海外事業基盤の強化を進め、収益性の向上を目指しております。水処理装置事業では、超純水供給事業で培った知見や技術力を、大型のEPC(プラント建設などにおける設計(Engineering)、資材調達(Procurement)、建設工事(Construction)の一連の工程を請け負う案件)を起点とするメンテナンスと運転管理の包括契約提案につなげ、収益性の向上を目指しております。
(重点施策)
・CSV(Creating Shared Value)ビジネスの展開
自然環境、産業、人々の生活に貢献する独創性の高い技術・商品・サービスで収益を拡大する。
・総合ソリューションの拡充
水処理薬品、水処理装置、メンテナンスの技術・商品・サービスを駆使した総合ソリューションを顧客に迅速に展開する。
・水処理装置事業の生産体制の再構築
生産体制・プロセスを抜本的に見直し、生産活動の品質とスピードを飛躍的に高める。
・新事業の創出とイノベーション推進
既存の事業領域を拡大・拡充するとともに、新たな収益の柱となる事業領域を創出する。
・研究開発の基盤強化と推進
技術立社としての強固な基盤を構築し、先進的な研究開発を推進する。
・グループガバナンスの体制整備
グループ各社における内部統制の実効性を向上させる。
②価値創造ストーリー
当社グループは、社会と共に持続的、長期的に成長していくための道筋をクリタグループの価値創造ストーリーとして言語化しました。併せて、MVP-22計画における戦略ストーリーを作成しました。当社グループの一人ひとりが価値創造ストーリーの担い手となることで、企業理念の実現を目指してまいります。
(クリタグループの価値創造ストーリー)
私たちクリタグループは、世界の様々な現場で日々変化する水の課題に対しソリューションを提供しております。
現場から得られる水に関する課題や情報は、私たちの知として集約、蓄積されます。私たちはこの知の活用により、お客様の真の課題を理解し、お客様と共有できる形での価値の予測とともに最適なソリューションを提供します。
私たちは、予測した価値の実現により、お客様と社会との共通価値を創造(Creating Shared Value:CSV)し、社会と産業を変えていきます。そして、創造した価値にふさわしい収益を得るとともに、お客様と社会からの信頼を基に更なる現場と新たな知を獲得していきます。
③気候変動問題への対応
当社グループは、気候変動問題を世界共通で取り組むべき喫緊の課題と捉えており、TCFD※提言に基づき、事業活動に伴って発生する温室効果ガス(GHG)の継続的な削減と、事業を通したお客様におけるGHG排出削減に取り組んでおります。
※気候変動関連の情報開示と金融機関の対応について検討するため金融安定理事会(FSB)が設置した「気候関連財務情報開示タスクフォース(Task Force on Climate-related Financial Disclosures)」
(ガバナンス)
当社グループは、当社の取締役を委員長とするE&S(Environmental & Social)委員会を設置し、当社グループにおける気候変動問題への取り組みを統括しております。E&S委員会と各本部・関係会社・その他の委員会は取締役会の指示の下、連携して活動を推進しております。なお、気候変動問題への取り組み全般の監督を担う取締役会は、E&S委員会から原則として年2回の報告を受け、必要な施策を決定しております。
(戦略)
当社グループは、2種類のシナリオ(1.5℃および4℃)※に基づき、「発生可能性」と「影響度」の2軸でリスクと機会および事業への影響を評価し、当社グループの施策を策定しております。
※気候変動に関する政府間パネル(Intergovernmental Panel on Climate Change)が予測する、工業化以前の水準からの気温上昇が1.5℃となるシナリオおよび最も気温上昇が高いシナリオになります。
分類 |
リスク・機会の内容 |
時間軸 |
当社グループの施策 |
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短期 |
中期 |
長期 |
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政策と法 |
・炭素税の導入や増加(リスク) ・GHG(温室効果ガス)排出量の多い製品やサービスへの規制(リスク) ・GHG排出量の少ないエネルギーへの転換を支援する政策インセンティブの普及(機会) |
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・デジタル技術の活用や設計等の見直しによる製品やサービスの低炭素化 ・代替燃料や再生可能エネルギーへの転換によるScope1および2の削減 ・バイオマス発電など、再生可能エネルギー関連事業の展開・拡大 |
テクノロ ジー |
・GHG排出量の少ない製品やサービスへの転換が進む(リスク・機会) |
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市場 |
・化石燃料関連セクターからの需要減少(リスク) ・デジタルトランスフォーメーションの加速による電子産業の需要増加(機会) ・原料、エネルギーコストの高騰(リスク) |
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物理的な 影響 |
・サイクロンや洪水などによる工場停止や工期遅延の増加(リスク) ・冷却設備の稼働率増加(機会) |
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・水害対策など、自然災害に備えた事業継続体制の継続的強化 |
資源効率 |
・効率的な生産や流通プロセスの普及(機会) ・水使用量の削減(機会) |
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・デジタル技術の活用や低動力技術の展開 ・バイオマス発電など、再生可能エネルギー関連事業の展開・拡大 |
エネルギー源 |
・GHG排出量の少ないエネルギーの普及(機会) ・分散型エネルギー源への転換(機会) |
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製品と サービス |
・GHG排出量の少ない製品およびサービスの需要増加(機会) ・GHG排出削減に向けた多様な技術ニーズの増加(機会) |
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レジリエンス |
・燃料、水資源等の代替や多様化(リスク・機会) |
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※短期(1~3年)、中期(3~5年)、長期(5~20年)と設定しました。
(リスク管理)
当社グループに関わるリスクの監視およびマネジメントは、社長室長を担当役員として推進しております。社長室長は、「全社リスクマップ」に基づき、当社グループのリスクの分析・評価を定期的に行うとともに、継続的にリスクの監視を行うことで、その発生防止に努めております※。気候変動に関連するリスクは全社リスクマップに統合され、E&S委員会委員長を責任者として全社のリスク管理体制に基づきリスクの低減を推進しております。
※当社グループのリスクマネジメント体制については以下のリンク先をご参照ください。
https://www.kurita.co.jp/csr/csr_activity_risk/index.html
(指標と目標)
当社グループは、CSRに関する取り組みを推進するため、重点的に取り組む7つのテーマをグループ共通の「CSRに関する方針」に定めております。気候変動問題への取り組みとなるテーマ5においては、パリ協定に沿った取り組みとするため、従来の目標に加え、SBTi※1が示す手法に沿い、2019年度を基準年として2030年度にScope1、2およびScope3※2排出を27.5%削減し、2050年度にはScope1、2を100%削減する「Well-below 2℃水準(2℃を十分に下回る水準)」にて長期目標を新たに設定し、Scope1、2およびScope3の削減に取り組んでおります。
※1企業に対し、気候変動による世界の平均気温の上昇を、工業化以前と比べ2℃を十分に下回るレベルに抑えるという目標に向けて、科学的知見と整合した削減目標を設定することを推進するイニシアチブです。
※2Scope1: 事業活動に伴う直接排出量。
Scope2: 事業活動で使用した熱・エネルギーの製造段階における間接排出量。
Scope3: 事業活動に関連する他社からの間接排出量。
CSRに関する方針の重点的に取り組むテーマ |
指標 |
長期目標 |
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2030年度 |
2050年度 |
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5.持続可能なエネルギー利用を実現する |
Scope1および2排出削減 (2019年度からの削減割合) |
27.5% |
100% |
Scope3排出削減 (2019年度からの削減割合) |
27.5% |
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(3) 会社の対処すべき課題
当社は、企業ビジョン「持続可能な社会の実現に貢献する『水と環境の独創的価値の創造者』」の実現を目指し、2018年度よりMVP-22計画に取り組んでおります。MVP-22計画では、CSRを経営の中核に据え、社会との共通価値の創造に努めております。また、当社の競争力の源泉が「顧客親密性」であることを明確化し、仕事の品質とスピードを飛躍的に高めたビジネスプロセスを実行することで、顧客に新たな価値を提供し、高い収益性と持続的な成長を実現することを目指しております。
MVP-22計画の4年目である当期は、新型コロナウイルスの感染拡大防止と経済との両立の模索が各国で続き、さらにロシアがウクライナに侵攻するなど、不安定な情勢が続きました。原材料・物流・エネルギーコストの高騰、サプライチェーンの混乱、円安の進行など、外部環境の変化が激しい中で当社グループは、ウィズコロナ、アフターコロナを見据えた今後の事業の在り方を考え、ビジネスプロセスの変革とビジネスモデルの変容、総合ソリューションの展開、経営資源の最適活用と体質強化に注力しました。また、価値創造ストーリーの実現に向け、当社の取締役会として保有すべきスキルの再定義やグループの人材戦略の策定、事業ポートフォリオの管理方針の策定などに取り組みました。
これらを踏まえ、当社グループの対処すべき課題は、持続可能な社会の実現に向け、DX推進によるビジネスプロセスの変革とビジネスモデルの変容、および気候変動問題への対応を含む社会価値に寄与するソリューションモデルの創出と展開の加速、そしてグループの中長期成長に資する収益基盤の構築と捉えております。MVP-22計画の最終年度となる2022年度は、次の4つの重点施策に取り組んでまいります。
①社会との共通価値創造に寄与するソリューションの展開と有望市場への取り組み強化
社会との共通価値を創造するソリューションの展開を組織横断で強力に推進します。また、カーボンニュートラルの実現に寄与する脱炭素やサーキュラーエコノミー等の実現に向けた新たな技術およびソリューションの創出に取り組むとともに、CSVビジネスの展開を加速します。さらに今後も活況が見込まれる電子市場の顧客に対し、グループ全体でサービス事業を集中展開していきます。
②顧客提供価値の向上とビジネスプロセスの見直しによるコスト構造の変革
急激に変化する外部環境を踏まえ、顧客の安定操業および事業継続への寄与に重点を置き、商品・サービス・ソリューションを見直すなど顧客に提供する価値を向上していきます。また、生産能力向上およびコスト競争力強化を可能とするスタートアップ企業等との協業や、国・地域を横断して組成したチームによるグローバルでの調達先見直しなどのコストダウンに関する取り組みを強力に加速し、コスト構造を変革させます。さらにアフターコロナの働き方も視野に、拠点の在り方や仕事のやり方を抜本的に見直していきます。
③デジタルトランスフォーメーションの加速によるビジネスプロセスの変革とビジネスモデルの変容
デジタル技術やツールの活用を加速することによって、内務、開発、生産、営業の各機能が相互に連携し、顧客への価値提供を最大化するビジネスプロセスを確立するとともに、多様な現場接点で収集したデータを「水に関する知」として活用し、デジタルによる顧客接点の構築も含め、新たな顧客提供価値を生み出す体制を構築します。また、メタ・アクアプロジェクトによる設計の自動化や最適化、水処理装置の運転効率化と最適化、データインフラの構築を推進していきます。
④グループの中長期成長に資する基盤の構築
持続的な企業価値向上と高収益性体質への変容に向け、低収益性事業の再生や継続可否の精査を加速し、事業ポートフォリオの最適化を図ります。また、2022年4月に新たな研究開発拠点としてKurita Innovation Hub(クリタイノベーションハブ)を開所しました。「社内外の多様な人々が集い、つながる、技術革新・社会変革の中心地(ハブ)」として、様々なステークホルダーとの交流・協働を通じてイノベーション創出の加速を目指します。また、ダイバーシティへの取り組みを強化し、人材の多様性とエンゲージメントの高い組織づくりに注力していきます。
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