文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末(2022年3月31日)現在において当社グループが判断したものであります。
(1)新グループビジョンの策定
ブラザーグループは、1908年にミシンの修理業からはじまり、110年以上にわたって、時代や環境の変化に合わせ自らを変革し、お客様のニーズにあった価値を提供し続けてきました。昨今、デジタル化や自動化などの加速によるお客様の購買行動の変化、新型コロナウイルスの拡大による社会変容、地政学リスクの顕在化など、ブラザーグループを取り巻く事業環境も大きく、かつ急速に変化しています。
こうした変化の激しい環境に対応しながら、持続可能な成長を実現していくために、あらたに2030年に向けたブラザーグループビジョン「At your side 2030」を策定しました。
「At your side 2030」は、2030年に向けてお客様にどのような価値を提供していくのか考え、ブラザーの存在意義を再定義した「あり続けたい姿」を起点に、どのような方法で価値を提供するのか(「価値の提供方法」)、何を実現するのか(「注力領域」)を示しました。
1)あり続けたい姿
ブラザーが何のために存在し、どのようにあり続けたいかについては、「世界中の“あなた”の生産性と創造性をすぐそばで支え、社会の発展と地球の未来に貢献する」と定義しました。ブラザーは、世界中に存在する、お客様をはじめとした、価値創出を行い進歩し続けたいと願うすべての人々を“あなた”と位置付け、その人々の願いを叶えるための存在であり続けたいと考えます。そして、社会の持続的な発展の実現に貢献しながら、地球環境への責任を果たしていきます。
2)価値の提供方法
価値の提供方法については、「多様な独自技術とグローバルネットワークを強みに、お客様の成功へのボトルネックを見つけ解消する」と定義しました。ブラザーグループは創業以来、さまざまな事業を生み出し、グローバルに展開してきました。40以上の国と地域に広がる生産・販売・サービス・開発拠点のネットワークをベースとするグローバル複合事業企業ならではの強みを生かし、お客様や取引先など外部からの学びを得ながら、国や地域、事業を越えて優れた価値を迅速に提供します。また、お客様のバリューチェーンに向き合い、ボトルネックとなるものを見つけ、解消します。さらにモノづくりにとどまらないデジタル技術の活用などの“コト”も含めて、お客様への価値提供の幅を広げます。
3)注力領域
上記の価値を発揮することにより、産業用領域とプリンティング領域を2030年までの注力領域と位置づけ、特に強化していきます。産業用領域での飛躍と、プリンティング領域の変容により事業ポートフォリオを変革し、複合事業体として成長し続けます。産業用領域は、ブラザーの強みが活きるビジネス領域において、生産性の向上に加え、働く人々や地球環境の課題を解決することで、ベストパートナーとしての信頼を確かなものにします。プリンティング領域は、オフィスワークやプリンティングを取り巻く環境が大きく変わる中にあっても、働く人々の期待に応え続けるとともに、これまでの事業の枠を超えて新たな柱を築きます。
(2)中長期的な経営戦略
◆中期戦略 「CS B2024」
中期戦略「CS B2024」は、グループビジョン「At your side 2030」の実現を見据え、バックキャストで最初の3年間に取り組むテーマを定め、策定しました。同時に、ブラザーグループが社会の発展と地球の未来に貢献するため、解決すべき重要な社会課題として5つのマテリアリティを特定し、マテリアリティに関連したサステナビリティ目標を設定しました。
「CS B2024」では、「あたらしい未来へのテイクオフ」をテーマに、産業用領域の飛躍や、プリンティング領域の変容などの事業ポートフォリオの変革と、持続可能な未来に向けた経営基盤の変革を目指します。
①産業用領域の飛躍に向けて
・産業機器事業の大幅成長
高い生産性と環境性能に磨きをかけ、お客様のモノづくりの競争力強化とCO₂排出削減などの持続可能性に貢献し、産業機器事業の大幅な成長を目指します。
・ドミノ事業の成長加速
デジタル印刷分野での製品力強化、コーディング&マーキング分野での顧客関係強化により成長を加速するとともに、長期的な競争力獲得に向けた産業用インクジェット技術基盤の強化を図ります。
②プリンティング領域の変容に向けて
・P&S事業のビジネスモデル変革の加速
厳しい市場環境のなかでも既存ビジネスの一層の収益力強化に努めるとともに、契約型をはじめとしたお客様とつながるビジネスモデルへの転換加速、業務用ラベリング事業拡大など“次”に向けた変革を推進します。
③未来の事業ポートフォリオに向けて
・マテリアリティ解決につながる新規事業の創出
ブラザーの強みをさらに進化させることで、「働く人々の生産性と創造性を支える」ことや、「地球の未来に貢献する」ための事業機会を広く探索します。
・インクジェットを核としたプリンティング技術の進化、応用範囲の拡大
産業用領域、民生用領域の双方にわたって、インクジェットを核としたプリンティング技術の進化や応用範囲の拡大を進めていきます。
④持続可能な未来に向けた経営基盤の変革
・カーボンニュートラルに向けた環境への取り組み
「ブラザーグループ 環境ビジョン2050」で掲げるCO₂排出削減、資源循環、生物多様性保全目標の達成に向けて取り組みを推進していきます。特に2050年までにブラザーグループの事業活動におけるカーボンニュートラルを実現するため、さまざまな活動を通じてCO₂排出削減に取り組みます。
・お客様とのつながりの強化・拡大
各事業において、より多くのお客様とつながり、今まで以上に継続的な価値提供を果たしていきます。さらに、お客様とのつながりから得られたデータをさらなる顧客価値提供につなげ、ビジネスモデルの変革を目指します。また、サプライチェーンの強靭化により安定した製品供給を実現します。
・すべての変革の礎 – ブラザー独自のマネジメントシステム「ブラザー・バリュー・チェーン・マネジメント(BVCM)*1」の進化、従業員のチャレンジ行動促進、従業員エンゲージメントの向上
変革の礎として、ブラザーグループ自らの「生産性と創造性」を高め続けるため、「BVCMの進化」「従業員のチャレンジ行動の促進」「従業員エンゲージメントの向上」に継続的に取り組みます。
◆マテリアリティとサステナビリティ目標
「At your side 2030」であり続けたい姿として掲げた「社会の発展と地球の未来に貢献」するため、5つのマテリアリティを特定しました。マテリアリティ解決に向けたサステナビリティ目標を設定し、経営課題として全社横断で活動を推進していきます。
マテリアリティ |
2024年度目標 |
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社会の発展 |
・人々の価値創出の支援 |
・産業機器事業におけるお客様の生産性向上、 ・P&S事業におけるお客様のLTV*2向上に向けたお客様と直接「つながる」ための基盤の構築 |
・多様な人々が活躍できる |
・グローバルベースでの従業員エンゲージメントの可視化と調査スコアの向上 ・海外拠点責任者の現地登用を促進するための人財育成およびガバナンスの強化 ・管理職の健全なジェンダーバランスに向けたパイプラインの強化および多様な働き方を実現する環境整備*3 |
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・責任あるバリューチェーンの追求 |
・サプライヤーに対する人権リスク評価の拡大 ・RBA*4 Gold認証を取得したグループ製造拠点数 3拠点 |
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地球の未来 |
・CO₂排出削減 |
・[スコープ1,2*5] 2015年度比47%削減 参考)2030年度目標:2015年度比65%削減 ・[スコープ3*5] 自助努力での15万t削減対策の実施 参考)2030年度目標:2015年度比30%削減 |
・資源循環 |
・製品に投入する新規資源率 81%以下 参考)2030年度目標:65%以下 |
◆財務方針
事業の成長とサステナビリティ目標の達成を両立することにより、継続的な株主価値の向上を果たしていきます。安定かつ継続的な配当方針のもと、株主還元を強化しつつ、事業から創出される営業キャッシュ・フローに加え、有利子負債も活用しながら、未来に向けた投資を積極的に実施していきます。
・未来に向けた先行投資
事業ポートフォリオの変革と、持続可能な未来に向けた経営基盤の変革実現に向けた先行投資枠として総額1,500億円を設定しました。この投資枠を活用して、「事業ポートフォリオの変革」に向けては、産業用領域やインクジェット技術に関わる各種の機能、拠点の強化、M&A等の戦略投資を行っていきます。また、「持続可能な未来に向けた経営基盤の変革」に向けては、環境への取り組みやサプライチェーンの強靭化などを進めていきます。
テーマ |
内容 |
金額 |
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事業ポートフォリオの変革 |
・産業用領域の飛躍に向けて ・プリンティング領域の変容に向けて |
・産業用領域の販売・サービス拠点増強 ・マシナリー・FA領域の生産能力強化 ・インクジェット開発・生産拠点拡張 |
500億円 |
・未来の事業ポートフォリオに向けて |
・M&A等の戦略投資枠 |
300億円 |
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持続可能な未来に向けた経営基盤の変革 |
・環境への取り組み ・お客様とのつながりの強化・拡大 |
・製品の地産地消およびサーキュラーエコノミーの実現に向けた工場投資 ・グループ拠点での創エネ設備導入 ・環境配慮型の新社屋の建設 ・サプライチェーン強靭化 ・DX投資 |
700億円 |
合計 |
1,500億円 |
・株主還元
安定的かつ継続的な株主還元のもと、2024年度を最終年度とする中期戦略「CS B2024」においては、未来に向けた先行投資を行う一方で、1株当たり68円の配当を下限水準とし、業績状況等に応じて配当水準の引き上げを含めた追加的な株主還元を検討します。加えて、自己株式の取得については機動的に実施していきます。
◆業績目標
「At your side 2030」の最終年度である2030年度に向けて、2024年度は、売上収益8,000億円、営業利益率10%以上の達成を目指します。また、厳しい事業環境や将来への投資を踏まえつつ、ROEは資本コストを上回る10%以上を目標とします。
為替前提:1USD=108円、1EUR=125円
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2024年度目標 |
売上収益 |
8,000億円 |
営業利益率 (親会社の所有者に帰属する当期利益率) |
10%以上 (7%以上) |
ROE |
10%以上 |
ブラザーグループは、「At your side 2030」の実現に向けて、「CS B2024」で掲げた目標達成を目指し、より一層スピードを上げてあらゆる変革に取り組んでいきます。
*1:BVCM(ブラザー・バリュー・チェーン・マネジメント)の略称
お客様を中心にお客様への価値提供の流れを定義したブラザー独自のマネジメントシステム
*2:LTV(Life Time Value/ライフタイムバリュー)
顧客生涯価値。製品・サービス利用期間全体におけるお客様にとっての価値及び企業にもたらされる収益
*3:ブラザー工業株式会社において実施
*4:RBA(Responsible Business Alliance)
製造業のサプライチェーンにおいて、労働環境が安全であること、そして労働者が敬意と尊厳を持って扱われること、さらに
製造プロセスや調達が与える環境負荷に対して、企業が責任を持っていることを確実にするための基準を規定したもの
*5:スコープ1、2、3
温室効果ガスの排出源の区分け。スコープ1は事業者自らによる温室効果ガスの直接排出、スコープ2は他者から供給された電気、
熱・蒸気の使用に伴う間接排出、スコープ3はスコープ1、スコープ2以外の間接排出(事業者の活動に関連する他者の排出)
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