研究開発活動

5【研究開発活動】

当社グループは、エネルギーシステムソリューション、インフラシステムソリューション、ビルソリューション、リテール&プリンティングソリューション、デバイス&ストレージソリューション、デジタルソリューション領域を中心に、人々の暮らしと社会を支える事業領域に注力し、確かな技術で、豊かな価値を創造し、持続可能な社会に貢献してまいります。

エネルギーシステムソリューションでは、火力や原子力などの基幹電源のさらなる安全・安定供給と効率の良い活用を進めます。また、水素を含むクリーンエネルギーをつくる、おくる、ためる、かしこくつかう機器・システム・サービスを提供することで、カーボンニュートラル社会の実現に貢献していきます。インフラシステムソリューションでは、公共インフラ、鉄道・産業システムなど、社会と産業を支える幅広いお客様に信頼性の高い技術とサービスを提供し、安全・安心で信頼できる社会の実現を目指します。ビルソリューションでは、スマートで品質の高い昇降機、空調機器、照明機器やサービスを提供することにより、快適なビル環境を提供します。リテール&プリンティングソリューションでは、お客様にとっての価値創造を原点に発想し、世界のベストパートナーとともに優れた独自技術により、確かな品質・性能と高い利便性を持つ商品・サービスをタイムリーに提供します。デバイス&ストレージソリューションでは、機器の省エネ化やビッグデータ社会のインフラ作りを目指し、産業、車載、データセンター領域などに向け、高付加価値な半導体製品やストレージ製品の先端開発を進めてまいります。デジタルソリューションでは、産業ノウハウを持つ強みを生かし、IoT/AI(人工知能)を活用したデジタルサービスや量子暗号通信、データサービスをお客様と共創してまいります。

当期における当社グループ全体の研究開発費は1,519億円であり、各事業セグメント別の主な研究成果及び研究開発費は次のとおりです。

 

(1) エネルギーシステムソリューション

東芝エネルギーシステムズ㈱が中心となって、従来エネルギー及び水素を含むクリーンエネルギーをつくる、おくる、ためる、かしこくつかうための機器・システム・サービスを提供することを通じて培った技術により、エネルギーの安定供給やカーボンニュートラルな社会インフラを実現する研究開発を行いました。

当セグメントに係る当期の研究開発費は128億円です。

主な成果としては次のものが挙げられます。

・東芝ネクストクラフトベルケ㈱をコンソーシアムリーダーとして、経済産業省が公募する実証事業「令和3年度再生可能エネルギーアグリゲーション実証事業(※1)」に採択され、2021年12月から2022年1月を中心として実証実験を行いました。本実証事業は、変動性の高い太陽光発電や風力発電等の再エネ発電設備の発電量についての予測技術や、蓄電池などのリソースを制御する技術の実証を行うことで、再エネを活用した安定的かつ効率的な電力システムの構築と、再エネの普及拡大を図ることを目的として、再エネアグリゲーター17社および実証協力者11社でコンソーシアム(※2)を組み、推進してきたものです。今回の実証で、発電リソースを束ねることによる発電インバランスの低減など、様々な成果を得ることができました。今後も本実証事業を通じて明らかになった課題を解決するべく、発電量予測やリソース制御等の技術開発を継続し、再エネアグリゲーション事業を通じて、再エネを活用した安定的かつ効率的な電力システムの実現に貢献していきます。

 

(2) インフラシステムソリューション

東芝インフラシステムズ㈱が中心となって、公共インフラ、鉄道・産業システム領域におけるお客様の本業の価値を高める製品及びシステムを継続的に提供するための研究開発を行いました。

当セグメントに係る当期の研究開発費は206億円です。

主な成果としては次のものが挙げられます。

・計装・制御システム向けクラウドエンジニアリング環境「nV-Toolsクラウド」(※3)のサービス提供を開始しました。当社産業用コントローラの開発ツール(nV-Tool(※4))とシミュレータ(nvシミュレータ(※5))をいつでもどこでも使えるクラウドサービスとして提供するものです。従来のエンジニアリングは、計装・制御システム機器が設置されている工場現場で作業することが前提となっていましたが、今回クラウドを通じたサービスによってリモートでのエンジニアリングを可能にしました。本サービスによって、エンジニアリングのテレワーク化を可能にし、開発・運用効率の向上に貢献するだけでなく、ライトアセットなエンジニアリング環境の提供および運用保守の効率化に貢献します。

 

(3) ビルソリューション

東芝エレベータ㈱、東芝キヤリア㈱、東芝ライテック㈱が中心となって、ビルの価値を高める製品及びサービスを継続的に提供するための研究開発を行いました。

当セグメントに係る当期の研究開発費は212億円です。

・東芝ライテック㈱は、カメラ付きLED照明 ViewLED(ビューレッド)ソリューションとして「人流分析サービス」の提供を2021年11月30日から開始しました。「LED照明と一体化したカメラ」を天井に設置し、俯瞰した撮影画像を取得し、これをAI解析する「ViewLED Solution(ビューレッド ソリューション)」を活用して、人の行動に潜む課題を解決するため「人」の動きを数値化、軌跡描画で可視化でき、また、映像としてクラウド上で遠隔閲覧・録画・管理できます。任意の時間帯の人の軌跡の描画や、CSVデータを出力することで、数値化・可視化し、課題解決に活用できます。これにより様々な施設(倉庫・工場・体育館等)内の人の行動状況の把握や改善対策をサポートします。

 

(4) リテール&プリンティングソリューション

東芝テック㈱が中心となって、リテール&プリンティングソリューション分野における新しい製品やサービスを提供するための研究開発を行いました。

当セグメントに係る当期の研究開発費は219億円です。

主な成果としては次のものが挙げられます。

・戦略パートナーとの共創によるサブスクリプションモデルのグローバルリテールプラットフォーム「ELERA」の開発を強力に推進してきました。「ELERA」上には、多種多様なマイクロサービスを構築するとともに、購買に伴う膨大なデータを集約します。店内だけではなく、店外、バックヤード、そしてサイバーとフィジカルをつなぐさまざまなサービス群をラインナップすることで、店舗ごとの課題に即したあらゆるソリューションを提供し、高付加価値のデータを利活用しながら小売業のデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進を強力にサポートします。「ELERA」の開発を推進することにより大きく変化し続ける世の中への対応を加速し、お客様、パートナーとともに、小売業の未来をつくりだしてまいります。

 

(5) デバイス&ストレージソリューション

東芝デバイス&ストレージ㈱が中心となって、車載、産業向けなどの新しい半導体製品や、データセンター向けなどのストレージ製品を提供するための研究開発を行いました。

当セグメントに係る当期の研究開発費は415億円です。

主な成果としては次のものが挙げられます。

・従来のシリコンよりも高耐圧、低損失化が可能な次世代のパワー半導体材料であるシリコンカーバイド(SiC)を用いた、MOSFET(※6)の高温環境下における信頼性向上と電力損失低減を実現するデバイス構造を開発しました。SiCのさらなる普及に向けては、信頼性向上が大きな課題ですが、今回開発したデバイス構造を採用した耐圧3.3kVの素子は、175℃の高温環境下において、信頼性低下のない状態で導通可能な電流量が当社従来構造に比較して2倍以上に増加しています(※7)。また、当社従来構造に比較して、室温における単位面積あたりのオン抵抗を耐圧3.3kVの素子で約2割、耐圧1.2kVの素子では約4割、それぞれ低減しました(※8)。今回開発したデバイス構造を採用した耐圧3.3kVの製品は、2021年5月からサンプル出荷しています。今後も、SiCなどの化合物半導体をはじめとした次世代のパワー半導体の開発を通して、省エネルギー社会やカーボンニュートラルの実現に貢献していきます。

 

(6) デジタルソリューション

東芝デジタルソリューションズ㈱が中心となって、IoTやAIなど企業のデジタル化を支えるための研究開発を行いました。

当セグメントに係る当期の研究開発費は64億円です。

主な成果としては次のものが挙げられます。

・当社が開発した技術「シミュレーテッド分岐アルゴリズム(以下、SBアルゴリズム)」(※9)を用いた組合せ最適化ソルバー「シミュレーテッド分岐マシン(Simulated Bifurcation Machine 以下、SBM)」を核にソリューションとして体系化した、量子インスパイアード(※10)最適化ソリューション「SQBM+」(エスキュービーエムプラス)の提供を開始しました。用途に応じた最適化ソルバーをラインアップし、アルゴリズムには速度・精度・規模を大幅に向上させる新たなSBアルゴリズム(※11)を採用します。本ソリューションにより、コロナ禍で急がれる治療薬に最適な候補物質の選定や、医療従事者の最適な勤務シフトの作成への適用など、各分野の専門知識を持つパートナーと連携・共創し、金融・創薬・遺伝子工学・物流・AIなどさまざまな領域で複雑化する社会課題の解決に貢献していきます。

 

(7) その他

研究開発センターを中心に、将来に向けた先行・基盤技術の研究開発を行いました。

当セグメントに係る当期の研究開発費は275億円です。

主な成果としては次のものが挙げられます。

・新たな成膜法を開発することにより、世界最高(※12)のエネルギー変換効率(※13)15.1%を実現したフィルム型ペロブスカイト太陽電池(※14)を開発しました。当社は、2018年6月にペロブスカイト太陽電池として世界最大サイズ(703cm2、※15)のモジュールを開発しています(※16)が、今般、このサイズを維持しながら、成膜プロセスの高速化と変換効率の向上に成功しました。
 フィルム型ペロブスカイト太陽電池は軽量薄型で曲げることができるため、従来は設置ができなかった強度の弱い屋根やオフィスビルの窓など多様な場所に設置されることが期待されます。本技術におけるエネルギー効率の向上と生産プロセスの高速化は、フィルム型ペロブスカイト太陽電池の実用化の推進につながると評価され、「CEATEC AWARD 2021」において、経済産業大臣賞およびカーボンニュートラル部門のグランプリを受賞いたしました。

なお、今回開発したペロブスカイト太陽電池の技術およびそれを用いたモジュールはNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の「太陽光発電主力電源化推進技術開発」事業の成果です。

・量子暗号通信システムの主要構成機能である、量子暗号鍵の「送信」、「受信」とそのための「乱数発生」について、従来の光学部品による実装に替えて光集積回路化した「量子送信チップ」、「量子受信チップ」、「量子乱数発生チップ」を開発し、これらを実装した世界初(※17)の「チップベース量子暗号通信システム」の実証に成功しました。

本システムは、光集積回路を用いることで、多くの光学部品を複雑に組み合わせて構成していた従来のシステムと比較し、小型化を実現しました。光集積回路は標準的な半導体製造技術を用いて量産できるため、大規模な量子暗号通信システムだけではなく、より多くのシステムの構築が可能となります。これにより、大規模なシステム構築が必要な金融分野や医療分野に限らず、社会インフラ関連のプラントのIoT機器によるモニタリングや、工場間での設計・製造データの共有における産業情報の秘匿化といった領域まで、量子暗号通信の適用範囲を拡大することが見込めます。本成果の2024年の実用化に向けて研究開発を進め、安心して情報をやり取りできる情報社会の構築に貢献してまいります。

 

 (注)

※1:正式名称は、「令和3年度蓄電池等の分散型エネルギーリソースを活用した次世代技術構築実証事業費補助金(再生可能エネルギー発電等のアグリゲーション技術実証事業のうち再生可能エネルギーアグリゲーション実証事業)」

※2:コンソーシアムリーダー

 東芝ネクストクラフトベルケ㈱

再エネアグリゲーター17社

 アーバンエナジー㈱、㈱ウエストホールディングス、ENEOS㈱、関西電力㈱、九州電力㈱、

コスモエコパワー㈱、ジャパン・リニューアブル・エナジー㈱、中国電力㈱、

東京電力エナジーパートナー㈱、東北電力㈱、日本工営㈱、日本電気㈱、北陸電力㈱、北海道電力㈱、

㈱ユーラスエナジーホールディングス、㈱ユーラスグリーンエナジー、東芝エネルギーシステムズ㈱

※3:nV-Toolsクラウドは東芝インフラシステムズ㈱のサービス名です。

※4:nV-Toolは東芝インフラシステムズ㈱製コントローラのアプリケーションの構築とプログラミングをするためのソフトウェア製品です。

※5:nvシミュレータは東芝インフラシステムズ㈱製コントローラ実機が無くてもアプリケーションの構築とプログラムのデバッグを可能とするソフトウェア製品です。

※6:MOSFET(metal-oxide-semiconductor field-effect transistor):金属酸化膜半導体電界効果トランジスター。トランジスターの構造の一種。

※7:175℃のソース・ドレイン電流測定において, 当社従来型SBD(ショットキーバリアダイオード)内蔵MOSFETでは110A/cm2付近でPNダイオードが動作するのに対し, 今回開発した構造では250A/cm2までPNダイオードが動作しない。

※8:室温における単位面積あたりの特性オン抵抗を当社従来型SBD内蔵MOSFETと比較。耐圧3.3kV素子では20%、耐圧1.2kV素子では39%低減することを確認した。当社グループ調べ。

※9:当社プレスリリース(2019年4月):世界最速・最大規模の組合せ最適化を可能にする画期的なアルゴリズムの開発について

https://www.global.toshiba/jp/technology/corporate/rdc/rd/topics/19/1904-01.html

H. Goto et al., Science Advances 5, eaav2372 (2019). https://doi.org/10.1126/sciadv.aav2372

※10:量子力学の原理に基づく計算手法から導出もしくは直接的な着想を得て開発された新しい古典力学的手法のこと。疑似量子と呼ばれることもある。

※11:当社プレスリリース(2021年2月):世界最速・最大規模の組合せ最適化計算機「シミュレーテッド分岐マシン」の速度・精度・規模を大幅に向上させる新アルゴリズムを開発:http://www.toshiba.co.jp/rdc/detail/2102_02.htm

H. Goto et al., Science Advances 7, eabe7953 (2021). https://doi.org/10.1126/sciadv.abe7953

※12:プラスチック基板で構成される受光部サイズ 100cm2以上のフィルム型ペロブスカイト太陽電池モジュールにおいて、当社調べ(2021年9月10日現在)

※13:太陽光のエネルギーを電気エネルギーに変換する効率

※14:光吸収層がペロブスカイト結晶で構成されている太陽電池

※15:受光部サイズは、24.15cm×29.10cm(702.765cm2)

※16:https://www.global.toshiba/jp/technology/corporate/rdc/rd/topics/18/1806-03.html

※17:量子暗号通信に必要な量子送信チップ、量子受信チップ、量子乱数発生チップの3つの光集積回路を用いて量子暗号鍵配送システムを世界で初めて実装。(2020年12月論文投稿時点)

 

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