課題

1【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。

 

(1)経営方針、経営戦略及び対処すべき課題

当社グループは、2019年3月期からスタートした『Wacom Chapter2』において、お客様が生涯を通じてデジタルインクの創造する価値を体験できる「Life-long Ink」のビジョンを掲げ、最高のデジタルインク体験をお届けすべく、各種施策に取り組んでまいりました。その取り組みをさらに発展、進化させるべく『Wacom Chapter3』(対象期間:2022年3月期~2025年3月期)を策定しました。

 

①『Wacom Chapter2』の振り返り

私たちが掲げた3つのテーマ「テクノロジー・リーダーシップの推進」「アイランド(ブランド事業)&オーシャン(テクノロジー事業)による緊密な連携」「大胆な選択と集中」は、相互に連関し合う全社戦略として機能し、主に以下の成果を得ることができました。

a. 製品ポートフォリオの変革

当社ブランド製品のエントリーユーザー層の裾野拡大につながる製品ポートフォリオの変革を行い、アプリケーション・パートナーとの協業を深化させたクリエイティブ領域のみならず、教育領域においても多くのお客様にインク体験をご提供することができました。これにより、開発進行中のデジタルインクに関するコア技術の将来的な高度利用につながる事業基盤の拡大に寄与しました。

 

b. ペンと紙のデジタル体験の機会拡大

タブレットやノートPCといった広く普及しているデバイスのみならず、電子ペーパーや教育事業者向けの専用デバイスなどを取り扱う多様なビジネスパートナーのお客様にも、当社グループの技術ソリューションを通じて進化したペンと紙のデジタル体験を広くご提供することができたことで、働き方や学び方などユースケースの多様化への備えが前進しました。

 

c. 筋肉質な組織体制の構築と効率重視の組織運営の実行

研究開発や技術の展開、製品企画、資材調達、品質管理、在庫管理の各領域で事業部門の壁を越えた取り組みが活性化し、課題に焦点を当てつつ利益を重視する姿勢が組織全般に浸透した結果、全社的な収益性の改善を通じて将来に向けた積極的、持続的な技術投資を支える基盤が構築できました。

 

d. 社会を構成する多様なコミュニティを意識した個人の力量発揮を促す企業文化

エンジニア組織を中心に志の高い個人が核となるプロジェクトチームを複数立ち上げ、様々なコミュニティのパートナーが有する強みとの融合を通じた価値創造によって、全ての関係者が成長を分かち合う意識の醸成が進みました。

 

これらの取り組みの結果、『Wacom Chapter2』で掲げた2022年3月期における経営指標の目標(連結営業利益率10%、連結売上高1,000億円、ROE(連結株主資本利益率)15~20%)を、1年先行する2021年3月期に達成することができました。

私たちは、脈々と続く「Life-long Ink」という長い旅路の通過点にあって、これまでの3年間で得た学びを活かし、さらに発展、進化の歩みを止めることなく、2022年3月期を起点として次のステージに進むことを決意しました。

 

②『Wacom Chapter3』の骨子

a. ビジョンと5つの戦略軸

人間と社会にとって意味のある体験を、ワコムの技術を通して、長い期間ご提供し続け、この世界を少しでも人間的なものにすることに寄与すべく「Life-long Ink」のビジョンを継承し、5つの戦略軸を設定しました。

 

Technology Leadership

ワコムの提供価値の源泉である技術革新に注力する。

 

Community Engagement

コミュニティと深く連携し、価値ある体験を形成する。

 

New Core Tech, New Core Value Proposition

新しいコア技術をもとに新しい価値を創造する。

 

Technology Innovation for Sustainable Society

技術で持続可能な社会の発展に貢献する。

 

Meaningful Growth

財務的な成長に加えて、多面的な意味を持つ成長を目指す。

 

ワコムが存在しているこの社会において、将来に向けて向き合わなければならないことは何なのかを深く考えた結果、この5つの戦略軸に集約することとしました。技術をもとに価値ある体験を創り、お客様に届けることがワコムの存在意義であり、それを一社だけではなく社会を構成する仲間たちとともに学び合いながら実現させていくこと。フォーカスすべき技術領域を明示し、その技術革新を持続可能な社会の実現につなげること。これらすべてが、製品、サービスをご購入、ご利用いただくお客様、資本をご提供いただいているステークホルダーの皆様、ワコムとビジョンを共感していただくコミュニティ、ワコムのチームメンバー、そしてこの多様で多面的な社会全体の成長をもたらすと信じて、施策の立案、実行を推進してまいります。

 

b. 戦略軸を支える技術ロードマップ

私たちは、このビジョンと戦略軸を支える技術のロードマップを、様々な状況変化に対応してダイナミックに展開していくことがとても大切だと考えております。ペンやペーパー、インクに関する現行のコア技術に加えて、インク技術をAIやXR(多様な新しい現実体験)、セキュリティの各技術と融合させた新たなコア技術の社会実装を目指してまいります。

 

c. 具体的な体験の提供

『Wacom Chapter3』の最終年度までに、現行のコア技術を進化させた新たな商品ポートフォリオの展開と新しい顧客群の開拓に加えて、AIやXR、セキュリティに関する新たなコア技術を応用して、教育や創造支援、空間描画、著作権保護の領域で新しい製品、サービスが提供できるよう取り組んでまいります。

 

d. コミュニティや社会との関わり

私たちは、「アート、テクノロジー、学び」を中長期及び社会的な視点から持続的に支えていくために、新たな視点や発想を取り入れ、社会を構成する個々のコミュニティや一人一人の「多面的な成長」の実現に貢献していきたいと考えております。その一環として、2021年2月16日に設立された一般社団法人コネクテッド・インク・ビレッジの活動を尊重し、支援する取り組みを実施しております。

 

e. ワコムが考える成長のイメージ

私たちは、財務的な成長をしっかりと追求するとともに、「Life-long Ink」の理念のもと、お客様や様々なコミュニティのパートナーの皆様とともに、「意味深い成長」(Meaningful Growth)を目指します。「意味深い成長」とは、ワコムの財務的な成長だけではなく、私たちのお客様が製品・サービスのユーザー体験を通じて感じる成長であり、私たちが日々の暮らしを営む社会やコミュニティ全体が新たな学びを積み重ねていくことであり、一人一人の自己実現を通じた成長で構成されると考えております。

財務的な成長については、現行のコア技術やビジネスモデルを進化させる形で安定的に事業を成長させていくことに加えて、新たなコア技術やビジネスモデルの開発への投資を通じて、『Wacom Chapter3』の後半2年間において新規ビジネスの萌芽をつくりだし、2026年3月期以降の次のステージにおいて成長を加速させてまいります。

投資効率を意識した成長を促進させるための新たな経営指標としてROIC(投下資本利益率)を導入するとともに、多様で専門的な視点を有する取締役会メンバーによる本質的な議論をさらに活発化させ、経営の質を高めることで企業価値の向上を目指します。

 

(2)経営環境

需給不均衡とコロナ禍における政策支援が原因となって、多くの国でインフレが進行し金融政策の引き締めが促されていく中、ロシア・ウクライナ情勢は、世界経済の見通しの不確実性を異例の高さに押し上げており、その経済的損失は、世界経済の成長が大幅に減速する一因となるほか、物価上昇が加速していくことが見込まれております。これらの情勢を背景に、企業業績に与える影響の大きい今後の為替相場の動向についても、対ドル、対ユーロともに不透明感があります。IT市場を中心とする事業環境については、IoTによるデータソースの多様化、モバイル、クラウド、ビッグデータ、ソーシャルネットワークなどの技術革新に伴う情報処理の低価格化、利用の容易化がさらに進んでいくことが見込まれております。

 

(3)目標とする経営指標

このような状況下、前述の5つの戦略軸を柱に、以下の経営指標を達成することを目標としております。

①事業活動の効率性

新たな指標としてROIC(投下資本利益率)25~30%程度を目安として事業を運営してまいります。

 

②資本の効率性

ROE(自己資本利益率)20%程度を想定しております。

 

③株主還元

配当方針については、適正な財務の健全性を確保することを念頭に、連結ベースの配当性向の目安を30%程度としたうえで、1株当たり配当の中長期的な増加を通じた利益還元に努めてまいります。自己株式取得については、投資機会や財務状況などを考慮のうえ、経営環境の変化に対応した機動的な資本政策として遂行してまいります。

tremolo data Excel アドインサービス Excel から直接リアルタイムに企業の決算情報データを取得

お知らせ

tremolo data Excel アドインサービス Excel から直接リアルタイムに企業の決算情報データを取得