研究開発活動

5【研究開発活動】

当社グループの研究開発活動は、「光の本質に関する研究及びその応用」をメインテーマとし、主に当社の中央研究所及び各事業部において行っております。

光の世界は未だその本質すら解明されていないという、多くの可能性を秘めた分野であり、光の利用という観点からみても、光の広い波長領域のうち、ごく限られた一部しか利用することができていないのが現状であります。こうした中、当社の中央研究所においては、光についての基礎研究と光の利用に関する応用研究を進めており、また、各事業部においては、製品とその応用製品及びそれらを支える要素技術、製造技術、加工技術に関する開発を行っております。

当連結会計年度の研究開発費の総額は、11,269百万円であり、これを事業のセグメントでみますと、電子管事業3,613百万円、光半導体事業1,461百万円、画像計測機器事業702百万円、その他事業514百万円及び各事業区分に配賦できない基礎的研究4,977百万円であります。

当連結会計年度における主要な研究開発の概要は次のとおりであります。

 

<電子管事業>

世界初、リアルタイム撮像可能なテラヘルツイメージインテンシファイアを開発

 テラヘルツ波を用いた非破壊検査は、X線を用いた検査では困難であった爪やフィルム等の素材の検出にも有用とされておりますが、現在主流である、テラヘルツ波を熱に変換するイメージング手法では動作速度に限界があるため、リアルタイムでのイメージングは困難でした。

 このような中、当社はテラヘルツ波を電子に変換し、その電子を光に変換する手法を用いたリアルタイムでのイメージングが可能なイメージインテンシファイア(注1)(I.I.)を開発いたしました。これは、従来デンマーク工科大学との共同研究にて開発を進めていた光電変換技術や長年培ったイメージング技術、設計の工夫により、テラヘルツ波を効率よく電子に変換し増倍させることで実現した、世界初の高速応答・高分解能のI.I.です。

 本製品とテラヘルツ波光源の組合せにより、X線非破壊検査では検出困難であった材質の混入物をインラインで迅速に検査できると見込まれます。また、テラヘルツ波は人体に無害であるため、イベント会場などでのウォークスルー方式のセキュリティ検査への応用も期待されます。

 

<光半導体事業>

低コスト化、高速応答を実現した産業用LiDAR向けアバランシェ・フォトダイオードアレイを開発

 アバランシェ・フォトダイオード(APD)は、光の信号を増倍する機能をもつ光半導体センサで、微弱な光を高感度に検出し遠くの物体までの距離を測定できることからLiDAR(注2)用途で広く用いられております。当社はこれまで産業用LiDAR向けにAPDを複数配列したAPDアレイを開発してまいりましたが、使用に際しては周囲の温度変化に応じて信号の増倍率を調整するための制御回路や温度センサが別途必要でした。

 このような中、当社は、独自の半導体製造技術を応用し、信号の増倍率を固定するセルフバイアスジェネレータを内蔵したAPDアレイを開発いたしました。これにより、信号の増倍率を調整するための制御回路や温度センサが不要になります。また、内蔵する信号処理回路の設計を最適化し、信号への応答速度を従来製品の約3倍に高めたことで、検出精度と距離を向上いたしました。本製品を用いることで自動搬送車等に搭載されるLiDARの低コスト化、高性能化が期待できます。

 

 

 

<各事業区分に配賦できない基礎的研究>

レーザによる抗がん剤のナノ粒子化技術を確立

乳がん等の治療に用いられる抗がん剤のパクリタキセル(PTX)は、水に極めて溶けにくい性質があるため、一般にエタノール等を含んだ溶媒で溶かして治療に使用されております。しかしながら、体内に投与した際に、これらの溶媒がアレルギーなどの副反応を引き起こす場合があり、溶媒を用いずにPTXの溶解性を高める手法が求められておりました。

このような中、当社は、溶媒の代わりに水溶液を用い、溶液内のPTXに特定の波長のレーザを照射することで、PTXをナノ粒子レベルまで細分化する手法を確立いたしました。

このナノ粒子化PTXを用いて生体環境を再現した溶解実験を行った結果、従来のPTXと比較して大幅に溶解性が向上いたしました。また、マウスを用いた生体実験では、副反応を引き起こすことなく、従来のPTXと同等の治療効果が得られることを確認いたしました。本手法は、患者の負担を軽減する新たな抗がん剤作製手法の確立に貢献するとともに、様々な難水溶性の治療薬への応用が期待できます。

 

世界初、周波数可変のテラヘルツ帯量子カスケードレーザモジュールを実現

テラヘルツ波は電磁波の一種で、試料に照射しその吸収率を調べることで、試料の分析や非破壊検査への応用が期待されております。当社は独自技術を用いて、室温で動作するテラヘルツ帯量子カスケードレーザ(注3)(QCL)光源を開発し、波長領域を拡大してまいりました。しかし、より高精度な分析には、試料内の成分に合わせてテラヘルツ波の周波数を切り替えて照射する必要があり、1つの光源モジュールで周波数可変な機能が求められておりました。

このような中、当社はテラヘルツ波の解析研究と長年培った技術をもとにQCLの構成を最適化させるとともに、光を波長ごとに分別・反射する回析格子等を組み合わせました。そして、回析格子の傾きを制御し光の反射角度を調整することにより、任意に周波数を切り替えることができるQCLモジュールを世界で初めて実現いたしました(注4)。

本成果により、薬剤や食品、半導体材料の品質評価や非破壊検査等の正確性や効率を向上させることができます。また、テラヘルツ波を利用する超高速無線通信への応用も期待されます。

 

 

(注)1 イメージインテンシファイアとは、ごく微弱な可視光や不可視光を検知・増倍して撮像することができるデバイスです。

   2 LiDARとは、対象物にレーザ光を照射し、その反射光を光センサでとらえて距離を測定するリモートセンシング技術です。

   3 量子カスケードレーザとは、発光層に特殊な構造を用いることで、従来のレーザと異なり、中赤外から遠赤外の波長領域において高い出力を得ることができる半導体光源です。

   4 本研究の一部は、総務省の「戦略的情報通信研究開発推進事業(SCOPE)」の委託(受付番号JP195006001)を受けたものです。

 

 

 

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