当社グループ(当社及び連結子会社)は、21世紀のあるべき姿を定めた「TOPPAN VISION 21」に基づき、各事業領域の基盤強化と市場ニーズを先取りした新商品の開発を積極的に推進しております。
当社グループの研究開発は、総合研究所を中心に、事業(本)部の技術関連部門及び主要連結子会社が一体となり収益力の強化を図っております。各事業分野の新商品開発に注力するとともに、コストダウン、品質ロスミス削減へ向けた開発を各研究開発部門と進めています。また、次世代商品系分野についても総合研究所を中心に産官学との連携を図り、中長期の収益の柱となる新規事業創出に努めております。
当連結会計年度における当社グループ全体の研究開発費は
(1) 情報コミュニケーション事業分野
セキュア関連では、環境配慮型ICカードの新たなラインアップとして、日本で初めてカードの主材料にリサイクルされたPET-G(非晶性ポリエチレンテレフタレート)樹脂を使用し、接触型と非接触型の両方の通信が可能なデュアルインターフェースICカードを開発しました。本製品を通してリサイクルプラスチックの活用を推進し、資源循環型社会に貢献します。
自動認識技術関連では、高級感を表現できる金属調加飾を施しながらもNFCタグに求められる通信性能も維持した、高意匠NFCラベル(※1)を開発しました。金属調加飾による高い意匠性の実現に加え、NFCが金属による通信影響を受けやすいという課題に対応し、印刷加飾技術や箔のデザインパターン、アンテナ設計等の技術を組み合わせることで通信性能の維持を実現しました。パッケージに高いデザイン性が求められる高級酒、高級化粧品などのブランド製品における、NFCラベル採用時の意匠課題を解決するとともに、NFC機能を活用した製品のID管理や顧客サービスの提供が可能となります。
AI技術関連では、AIで一人ひとりの顔を瞬時に分析し、分析結果に合わせてパーソナライズされた複数の化粧品を組み合わせて、その場で自販機のように提供できる什器「AIレコメンドベンダー™」を開発しました。本製品は顔の印象分析をもとに、利用者に最適化された複数の化粧品を組み合わせることができるうえ、名入れ機能も実装されており、パーソナライズされた世界で1つだけのオリジナルパレットを非接触で提供することができます。これにより、新たな顧客体験価値を創出し、AI技術を使った顔印象分析から商品提供までをワンストップで行えるソリューションを実現しました。
DXの取り組みとしては、これまで店頭POPといったリアルでの販促支援を行ってきたノウハウを生かし、店頭プロモーションをしながら購買行動データを取得し、企業の効果的な店頭プロモーションを支援する「リアルDATAサイネージ™」を開発しました。サイネージに搭載したカメラを用い、来店者の性別や店内での行動といった購買行動を可視化し、より効果的な店頭プロモーションを実現します。また、医療機関やコロナ禍における事業活動に大きな影響を受けている事業者の課題解決に向けて、新型コロナウイルスワクチンの接種履歴をはじめ、PCR検査・抗原検査・抗体検査の結果などの情報を一元管理できるアプリ「PASS-CODE®(パスコード)」を開発しました。本製品では、アプリで接種履歴などを一元管理すると同時に、証明用QRコードを発行することができます。来店・来場者管理が必要な事業者は、専用アプリをインストールしたスマートフォンで証明用QRコードを読み取ることにより、来店・来場者の感染症に関する情報を即座に確認することが可能となります。また、昨今のメタバース(※2)への社会的な関心の高まりを受け、株式会社ラディウス・ファイブと協同で、メタバース上でサービスを開発・運用する企業向けに、1枚の写真からフォトリアルな3Dアバター(※3)を自動生成できるサービス「メタクローン™アバター」を開発しました。本サービスでは、「メタクローン™アバター」にアップロードした自分自身の顔写真1枚と、入力した身長と体重の情報を元に再現した、フォトリアルな3Dアバターを自動生成することができます。AI技術の活用により、低解像度の写真データの再現や、架空の人物を自動生成し、肖像権フリーの3Dアバターを利用することなどが可能です。
(2) 生活・産業事業分野
パッケージ関連での軟包材においては、強密着接着剤「TOPMER™(トップマー)」を使用することでデジタルプリントによるレトルト殺菌対応パウチを開発、公益社団法人日本包装技術協会が主催する「第45回木下賞新規創出部門」を受賞しました。本パウチは、レトルト殺菌に耐える性能を有し、ボイル殺菌や電子レンジ加熱にも対応できるようになりました。また、デジタルプリントの特長である小ロット・多品種生産により、商品の活用範囲が広がり、生活者の多様化するニーズに対応した高付加価値商品の提供が可能となります。
紙器では、高い密封性を有する電子レンジ対応可能な紙製一次容器「ピタッと紙トレー®」を開発しました。当社は「価値あるパッケージ」で、よりよい社会と心豊かで快適な生活に貢献する「TOPPAN S-VALUE® Packaging」を掲げ、「ちきゅう」に価値ある「サステナブル バリュー パッケージ®」を提供していますが、本製品はそのラインアップの1つです。高い密封性を有する構造のため、今まで紙トレーでは製品化が難しかった水分を多く含んだ加工食品及び、MAP包装(※4)しているチルド食品の製品化も可能になり、プラスチック使用量の削減だけでなく、食品の賞味期限延長によるフードロス削減にも貢献します。また、世界トップシェアの透明蒸着バリアフィルムブランド「GL BARRIER(※5)」シリーズとして展開してきたフィルム製品に、新たに紙製品のラインアップとして、高い水蒸気バリア性と優れた耐屈曲性を有し、幅広い内容物と包材形状に対応できるバリア紙「GL-X-P」を開発しました。本製品は、高い水蒸気バリア性を有することで、湿度による内容物の変質を防ぐことが可能であり、優れた耐屈曲性を持つため、幅広い包材形状への対応も可能です。紙を使用した従来包材からの置換えにより、鮮度保持に伴う消費期限の延長が実現できることでフードロス削減に貢献します。また、「GL-X-P」自体がヒートシール性を有するため、紙単体での構成を実現しており、従来のプラスチックを使用した積層構成の包材からの切替えにより、プラスチック使用量の削減を実現するとともにCO₂排出量を最大で約35%削減可能です。
建装材関連では、表面に付着した特定のウイルスや菌の増殖を抑制・減少させることが可能な、再剥離性透明粘着シート「トッパン抗ウイルス・抗菌クリアシート」を開発しました。本製品は、第三者認証機関であるSIAA(抗菌製品技術協議会)より、抗ウイルス・抗菌加工の認証を取得しており、既存のテーブルやカウンター、手摺、スイッチ、タッチパネルなど接触が気になる部分に手軽に貼り付けることが可能です。また、当社は建装材に各種センサーなどIoT機器を組み合わせることで、居住者の見守りなどの社会課題解決に貢献するまったく新しい建装材を提供する「トッパンIoT建材®」事業を展開しています。このたび、住まいの生活動線上で自然に健康情報を収集・蓄積し、個人の健康状態の確認や、様々なヘルスケアサービスに連携が可能な「cheercle™(チアクル)」を開発しました。第一弾として、住まいの生活動線で健康情報を可視化、健康意識を高めるサービスを開始し、今後、個人向けのヘルスケアサービスや地域施設との連携など、様々な企業の共創により提供サービスを順次アップデートし、住まいを起点とした健康で安心な社会づくりに貢献します。
(3) エレクトロニクス事業分野
昨今高まりを見せる非接触で操作可能なタッチパネルのニーズに応えるべく、視野角の大幅な拡大と空中映像の明瞭度を改善した空中タッチディスプレイの次世代モデルを開発しました。当社はウィズコロナ時代を見据え、オフィスビルを始めとする様々な施設や装置における非接触オペレーションのキーデバイスとして、空中タッチディスプレイの本格普及を推進します。
当社は次世代LPWA(低消費電力広域ネットワーク)規格ZETA(ゼタ)(※6)を活用した、様々なサービスの開発を推進していますが、最長で約2,000m離れていても通信が可能な資材管理向けアクティブタグ「ZETag®(ゼタグ)」と、100万個以上の「ZETag®」の位置情報を管理するクラウド型システムプラットフォーム「ZETagDRIVE™(ゼタグ・ドライブ)」を開発しました。従来のパッシブ型RFIDタグで必要とされていたリーダーでタグを読み取る作業やアンテナを内蔵したゲートの通過をすることなく、広い倉庫や屋外でパレットやカゴ車などの所在を自動で管理することが可能となります。「ZETagDRIVE™」は、基地局が検知した「ZETag®」からの情報を収集・記録・管理するクラウド型システムプラットフォームで、同時に100万個以上の「ZETag®」を管理することができます。また、ZETAネットワークを活用し、入り組んだ構造の工場内に「死角のない通信ネットワーク」を敷設することで、様々な場所に設置されているセンサーをつなぎ、自動的にデータを収集するシステムを構築しました。第一弾として導入を開始した自社工場においては、1,000以上の点検項目の内、約10%についてセンサーをZETAネットワークに接続し、排水の水位や水素イオン濃度などを始めとする環境データの自動収集を開始しており、2022年度中に同工場の全ての環境データの収集を自動化していきます。
(4) その他
ヘルスケア関連では、医療ビッグデータを活用した健康・医療に関する研究開発の推進や、健康長寿社会実現を目的に国を挙げて医療ビッグデータの利活用が促進されています。このような中で、当社は「健康・ライフサイエンス」領域を今後の成長領域と定め、事業拡大を推進するべく、医療情報の匿名加工を行う次世代医療基盤法の「認定医療情報等取扱受託事業者」であるICI株式会社と資本業務提携を行い、治療結果を含む電子カルテデータの利活用事業に取り組んでいます。今回、医療機関から収集した電子カルテデータを基にした、診断患者数・処方患者数・性別・年代などの情報を、直感的な操作で分析できるツール「DATuM IDEA®(デイタム イデア)」を開発しました。「DATuM IDEA®」を活用することで、疾患における治療実態の把握や、医薬品使用に関する有効性・安全性の分析などの目的のため、製薬会社は定量的かつ実際の医療行為に即したデータを参照・分析することが可能となります。これによって、より効果的・効率的な医薬品開発や治験モデル構築、個別化医療実現に貢献することを目指します。また、地方自治体における、ライフスタイルの変化や平均寿命の延伸による、医療費の適正化や健康増進対策に対し、地域特性に合わせて実施する保健事業の効果最大化・効率化を支援するべく、「自治体向けBIツール」を保健師の意見を取り入れて開発しました。本製品の導入により、自治体の保有する健診結果や医療レセプト情報などと、自治体独自の施策で得たヘルスケアデータなどを1つに集約し分析することが可能となります。蓄積されたデータによる疾病予測や介護状態の予測などAIによる分析機能などのアップデートを進め、2022年度までに30自治体への提供を目指しています。
また、大阪大学等との共同研究にて、培養肉の複雑な組織構造を自在に再現可能な3Dプリントによる「独自組織造形技術」を開発しました。これまで報告されている培養肉のほとんどは筋線維のみで構成されるミンチ構造であり、肉の複雑な組織構造を再現することは困難でしたが、本研究により、肉の複雑な組織構造を個別の特徴に合わせた形で構築できるようになりました。今後、3Dプリント以外の培養プロセスも含めた自動装置を開発できれば、場所を問わず、より持続可能な培養肉の作製が可能となり、SDGsへの大きな貢献が期待されます。本研究成果は、科学誌「Nature Communications(ネイチャー・コミュニケーションズ)」(オンライン)に掲載されました。
(※1)NFC(Near Field Communication):ISOで規定された国際標準の近接型無線通信方式。タイプA、タイプB、Felicaの通信方式に対応し、非接触ICカード機能やリーダ/ライタ機能、機器間通信機能などが利用できる。
(※2)メタバース:メタ(超越した)とユニバース(宇宙)の合成語で、インターネット上に構築される仮想の三次元空間の総称。利用者はアバターと呼ばれる分身で空間内を移動し、他の参加者と交流することができる。
(※3)3Dアバター:ゲームやインターネットの中で登場する自分自身の「分身」を表すキャラクターの名称。3Dモデルで構成され、頭や手足、表情などを動かせるように制作している。
(※4)MAP包装(ガス置換包装):密封したプラスチックなどの包装内の空気を除去し他のガス(窒素、二酸化炭素(炭酸ガス)、酸素あるいはこれらの混合気)を充填する包装技術。食品の酸化防止、微生物の繁殖の抑制、静菌あるいは殺菌などを目的とする。
(※5)GL BARRIER:当社が開発した世界最高水準のバリア性能を持つ透明バリアフィルムの総称。独自のコーティング層と高品質な蒸着層を組み合わせた多層構造でバリア性能を発揮。
(※6)ZETA :超狭帯域(UNB:Ultra Narrow Band)による多チャンネルでの通信、メッシュネットワークによる広域の分散アクセス、双方向での低消費電力通信が可能といった特長を持つ、IoTに適した最新のLPWA(Low Power Wide Area)ネットワーク規格。
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