当連結会計年度における当社グループの財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(以下、「経営成績等」という。)の状況の概要並びに経営者の視点による当社グループの経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は次のとおりであります。
なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において判断したものであります。
当社グループの連結財務諸表は、IFRSに準拠して作成されております。この連結財務諸表の作成にあたっては、経営者による会計方針選択の判断と適用を前提とし、決算においては資産・負債の残高、報告期間における収益・費用の金額に影響を与える見積りを必要とします。これらの見積りについて、経営者は、過去の実績等を勘案し合理的に判断しておりますが、その性質上、実際の結果と異なる可能性があります。
重要な会計方針及び見積りの詳細については、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 連結財務諸表注記 3.重要な会計方針、4.重要な会計上の見積り及び判断」に記載のとおりです。
当連結会計年度における経営環境を振り返りますと、新型コロナウイルスの感染拡大により2020年に大きく落ち込んだ世界経済は、ワクチン接種の進展、各国の財政・金融政策の効果により回復基調となりました。一方で、半導体不足やサプライチェーンの混乱、資源価格の高騰などが成長の足かせとなり、加えて年度末からのロシアによるウクライナ侵攻の影響により、依然として先行きが不透明な状況が続いています。国内においてもオミクロン株による感染再拡大に直面し、未だ収束の見通しが立たない中、様々な制約の下で企業活動を継続するために、感染拡大防止と社会経済活動の両立が大きな課題となりました。
このような環境の中で当社グループは、中期経営計画「Make Waves 1.0」において、「顧客・社会との繋がりを強化し、価値創造力を高める」ことを基本戦略として掲げ、4つの重点戦略を進めてきました。新型コロナウイルスの感染拡大による社会活動の制約やサプライチェーンの混乱による事業活動への甚大な影響から財務目標は未達となりましたが、「顧客ともっと繋がる」「新たな価値を創造する」「生産性を向上する」「事業を通じて社会に貢献する」といった各重点戦略は着実に進捗し、前中期経営計画で初めて掲げた非財務目標につきましては、コーポレートブランド価値、新興国の器楽教育普及、認証木材使用率のいずれも達成しました。
「顧客ともっと繋がる」につきましては、お客様の購買行動も大きく変化する中、ライフタイムバリュー(LTV)戦略として、顧客接点の強化と商品・ブランドの価値伝達の仕組み作りを進めました。接点の一つである顧客体験の場では、ブランドの世界観を伝え、またヤマハの製品を実際に手に取って良さを感じ取っていただくための体験型ブランドショップとして、銀座店に続き名古屋店をリニューアルオープンしました。同時にeコマースやSNSの拡大にも対応し、リアルとオンラインの両方のアプローチでお客様への直接の価値訴求を加速させました。また、車載オーディオの中国自動車メーカーの採用獲得など、ドメインの拡大も進みました。
「新たな価値を創造する」につきましては、デジタルサックス「YDS-150」とギターアンプ「THR30ⅡA Wireless」のデザインが高い評価を受け、ともに「アジアデザイン賞2021」を受賞しました。また、ビジネスや教育の場で良質な遠隔コミュニケーションを実現するスピーカーフォン「YVCシリーズ」、ライブやコンサート、スポーツ観戦など様々なイベントをリモートで盛り上げる「Remote Cheerer」、安心・安全な形でライブを実施できるよう支援する次世代ライブビューイングの「Distance Viewing」など、社会課題を解決する様々な商品やサービスを提案しました。
「生産性を向上する」につきましては、新型コロナウイルスの感染拡大による稼働停止や混乱に加え、遠隔支援を余儀なくされたことにより計画に対し遅れは生じたものの、生産管理の標準化、スマートファクトリー化が進展、インドでは新たな工場を立ち上げ、生産能力・モデル数を拡大しました。また、コロナ禍をきっかけに、新たな働き方の促進と様々な手続きの電子化による業務効率化を加速させることができました。
「事業を通じて社会に貢献する」につきましては、「新興国の器楽教育普及累計100万人」の目標に対し、累計129万人を達成しました。音楽普及の取り組みの成果として、サウジアラビアに同国初の公認音楽教育施設として「ヤマハ音楽教室リヤド校」を2021年11月に開校しました。また、「認証木材使用率50%」についても目標を上回る52%を達成しました。
中期経営計画「Make Waves 1.0」における2022年3月期の経営目標「事業利益率 13.8%」「ROE 11.5%」「EPS 270円」は、新型コロナウイルス感染拡大の影響もあり、当連結会計年度においてそれぞれ10.5%、9.2%、214円79銭となりました。
(イ)セグメントごとの売上収益の状況
当連結会計年度の売上収益は、半導体調達難および物流の混乱などによる商品供給不足が継続したものの、新型コロナウイルス感染拡大による影響からの回復が進んだことで、前期に対し355億66百万円(9.5%)増加の4,081億97百万円となりました。
楽器事業は、音源LSIなどの半導体調達難および物流の混乱などによる商品供給不足が継続したものの、市況の回復に伴い、前期に対し371億72百万円(15.6%)増加の2,761億53百万円となりました。
商品別では、ピアノは、新型コロナウイルスの感染再拡大による影響があるものの、市況の回復や商品の供給が進んだことにより増収となりました。電子楽器は、半導体調達難により商品供給が不足したものの、活動制限の緩和で音楽イベントが再開され、旺盛な需要が続き増収となりました。管楽器は、各地で吹奏楽活動が再開され市況が回復し増収となりました。ギターは、ステイホーム需要が落ち着きを見せるものの、市況は概ね堅調であり増収となりました。
地域別では、日本は、学校での吹奏楽活動が制限され、需要の回復が遅れている管楽器や、ステイホーム需要が落ち着きを見せるギターは減収となったものの、商品の供給が進んだピアノや、堅調な需要が続く電子楽器により、全体では増収となりました。北米及び欧州は、新型コロナウイルスの感染拡大が落ち着きを見せ、市況が回復したことにより、全ての商品カテゴリーで増収となりました。中国は、半導体調達難による商品供給不足の影響で電子楽器は減収となったものの、他地域に先駆けて従来の成長軌道に回帰し、全体では増収となりました。その他の地域では、新型コロナウイルスの感染再拡大の影響はあるものの、地域全体として市況の回復が続き増収となりました。
音響機器事業は、需要の回復傾向にありながらも、半導体調達難の影響を大きく受けたことにより、前期に対し68億89百万円(6.6%)減少の969億24百万円となりました。
商品別では、オーディオ機器は、需要が堅調に続くものの、半導体調達難による商品供給不足の影響もあり、全体では減収となりました。業務用音響機器は、ライブ市場や設備市場が回復し、増収となりました。ICT機器は、半導体調達難による商品供給不足の影響や、会議システムの高成長に落ち着きが見えたことにより、減収となりました。
その他の事業の売上収益は、市況の回復に伴い、前期に対し52億82百万円(17.7%)増加の351億19百万円となりました。
部品・装置事業では、電子デバイスは、中国自動車メーカー向けの車載向けヤマハブランドオーディオをはじめとする車載製品が順調に販売を伸ばし、増収となりました。自動車用内装部品は、需要が堅調に推移したことにより増収となりました。FA機器は、半導体調達難による投資案件の延期や減少の影響を受け、減収となりました。
(ロ)売上原価と販売費及び一般管理費
売上原価は、前期に対し237億55百万円(10.3%)増加の2,534億76百万円となりました。売上原価率は、前期から0.5ポイント上昇し62.1%となりました。
売上総利益は前期に対し、118億10百万円(8.3%)増加の1,547億20百万円となりました。売上総利益率は、前期から0.5ポイント下落し37.9%となりました。
また、販売費及び一般管理費は、前期に比べ95億9百万円(9.3%)増加し、1,117億8百万円となりました。売上収益販売管理費比率は、前期と同様27.4%となりました。
(ハ)事業利益
事業利益は、前期に対し23億1百万円(5.7%)増加の430億12百万円となりました。
報告セグメントごとの事業利益では、楽器事業は、為替のプラス影響66億円を含め、前期に対し48億99百万円(15.1%)増加の373億17百万円となりました。音響機器事業は、為替のプラス影響9億円を含め、前期に対し55億31百万円(78.3%)減少の15億36百万円となりました。その他の事業は、前期に対し29億32百万円増加の41億58百万円となりました。
要因別には、販売管理費の増加(75億円)や、海上運賃の上昇(65億円)等の減益要因があったものの、増収増産(110億円)や為替影響(76億円)等の増益要因により、前期に比べ増益となりました。
(注)事業利益とは、売上総利益から販売費及び一般管理費を控除して算出した日本基準の営業利益に相当するものです。
(ニ)その他の収益及びその他の費用
その他の収益は、前期に対し56億49百万円(295.9%)増加の75億58百万円となりました。その他の費用は、前期に対し63億30百万円(83.5%)減少の12億50百万円となりました。その他の収益は、売買目的で保有する資産の売却による固定資産売却益47億円を計上したことにより増加しました。
(ホ)金融収益及び金融費用
金融収益は、前期に対し24億26百万円(72.1%)増加の57億92百万円となりました。金融費用は、前期に対し7億98百万円(61.2%)増加の21億2百万円となりました。
(ヘ)税引前当期利益
税引前当期利益は、前期に対し159億8百万円(42.9%)増加し530億10百万円となりました。売上収益税引前当期利益率は、前期から3.0ポイント上昇し13.0%となりました。
(ト)法人所得税費用
法人所得税費用は、前期に対し52億69百万円(50.7%)増加の156億63百万円となりました。主として、税引前当期利益の増加により増加となりました。
(チ)親会社の所有者に帰属する当期利益
親会社の所有者に帰属する当期利益は、前期に対し106億40百万円(40.0%)増加の372億55百万円となりました。基本的1株当たり当期利益は、前期の151円39銭から214円79銭となりました。
(リ)為替変動とリスクヘッジ
海外子会社の売上収益は、期中平均レートで換算しております。当連結会計年度の米ドルの期中平均レートは前期に対し約6円円安の112円となり、前期に対し約58億円の増収影響となりました。また、ユーロの期中平均レートは前期に対し約7円円安の131円となり、前期に対し約41億円の増収影響となりました。また、人民元など、米ドル、ユーロ以外の通貨は、前年同期に対し約106億円の増収影響となり、売上収益全体では、前期に対し約205億円の増収影響となりました。
また、事業利益につきましては、米ドルは充当(マリー)効果により、決済レートの変動による為替影響は概ねヘッジできているものの、海外子会社の事業利益の換算等により、約8億円の増益影響となりました。ユーロの決済レートは、前期に対し約10円円安の131円となり、約36億円の増益影響となりました。また、他の通貨を含めた全体では前期に対し約76億円の増益影響となりました。
当連結会計年度における生産実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。
(注) 金額は平均販売価格によっており、セグメント間の内部振替後の数値によっております。
当社グループは、製品の性質上、原則として見込生産を行っております。
当連結会計年度における販売実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。
(注) 金額は外部顧客に対する売上収益であります。
当連結会計年度末の資産合計は、前連結会計年度末の5,576億16百万円から233億10百万円(4.2%)増加し、5,809億27百万円となりました。
流動資産は、前連結会計年度末から615億73百万円(20.4%)増加し、3,626億76百万円となり、非流動資産は、382億62百万円(14.9%)減少し、2,182億50百万円となりました。流動資産では、現金及び現金同等物が増加し、棚卸資産は、半導体部品不足等に起因する一部製品の生産遅れにより原材料が増加したことに加え、為替変動の影響により増加しました。非流動資産では、投資有価証券の売却により、金融資産が減少しました。
当連結会計年度末の負債合計は、前連結会計年度末の1,606億67百万円から43億32百万円(2.7%)増加し、1,649億99百万円となりました。流動負債は、前連結会計年度末から252億61百万円(25.0%)増加し、1,261億14百万円となり、非流動負債は、前連結会計年度末から209億29百万円(35.0%)減少し、388億84百万円となりました。投資有価証券の売却により、流動負債では未払法人所得税が増加し、非流動負債では繰延税金負債が減少しました。また、退職給付信託への拠出により、退職給付に係る負債が減少しました。
当連結会計年度末の資本合計は、前連結会計年度末の3,969億49百万円から189億78百万円(4.8%)増加し、4,159億27百万円となりました。自己株式の取得及び配当金の支払いにより減少したものの、当期利益の計上により利益剰余金が増加したことに加え、為替変動の影響によりその他の資本の構成要素が増加したことで、全体では増加となりました。また、自己株式の消却を行い、資本剰余金及び利益剰余金が減少しました。
当連結会計年度末における現金及び現金同等物(以下「資金」という。)は、前期に比べ431億50百万円増加(前期は366億73百万円増加)し、期末残高は1,724億95百万円となりました。
(営業活動によるキャッシュ・フロー)
当連結会計年度において営業活動の結果得られた資金は、主として税引前当期利益により、360億16百万円(前期に得られた資金は582億25百万円)となりました。
(投資活動によるキャッシュ・フロー)
当連結会計年度において投資活動の結果得られた資金は、主として投資有価証券の売却及び償還による収入により、437億7百万円(前期に使用した資金は57億85百万円)となりました。
(財務活動によるキャッシュ・フロー)
当連結会計年度において財務活動の結果使用した資金は、主として自己株式の取得による支出と配当金の支払いにより、444億26百万円(前期に使用した資金は206億2百万円)となりました。
(イ)資金需要
当社グループにおける主な資金需要は、製品製造のための材料、部品等の購入、労務費など製造費用と、商品の仕入、販売費及び一般管理費等、営業費用の運転資金及び設備投資資金、並びにM&Aや資本提携を目的とした投資資金であります。
当連結会計年度の設備投資額は、前期の112億60百万円から35億75百万円(31.8%)増加し、148億35百万円となりました。設備の更新改修を中心として減価償却費(121億23百万円)を超える設備投資を行いました。
研究開発費は、前期の241億89百万円から1億57百万円(0.7%)減少し、240億32百万円となりました。売上収益研究開発費比率は前期の6.5%から0.6ポイント減少し、5.9%となりました。
(ロ)資金調達
運転資金及び設備投資資金について、当社及び国内子会社、一部の海外子会社においてグループ内資金を有効活用するためグループファイナンスを運用しています。また、一部の子会社においては、借入金額・期間・金利等の条件を総合的に勘案し、金融機関から借入を行っております。
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