課題

1 【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

 

中期経営計画「Make Waves 2.0」の概要

 

当社グループは、2022年4月からの3年間を対象とした中期経営計画「Make Waves 2.0」を策定しました。

なお、文中における将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。

 

(1) 経営環境認識 

COVID-19により、デジタル化、多様化、サステナビリティへの意識の高まりなど、前中期経営計画で前提としていた環境変化が一気に加速しました。人の移動や対面の活動が制約される一方で、オンラインを介したモノや情報のやりとりが拡大し、新しい生活様式に対応する製品、サービスが生まれてきています。サステナビリティ意識の一層の高まりは、人々の関心が経済的繫栄を超えた本質的な心の豊かさに向かっていることの証左であると考えられます。これらの環境変化によってもたらされる「新たな社会」は音・音楽を原点に“技術×感性”で新たな感動と豊かな文化を追求してきた当社グループにとって、さらなる大きな機会となると認識しています。


(2) 経営ビジョンと中期経営計画の基本方針

 

[経営ビジョン(中長期的に目指す姿)]

「なくてはならない、個性輝く企業」になる

~ ブランド力を一段高め、高収益な企業へ ~

 

 

[基本方針]

新たな社会で持続的な成長力を高める

 

 

当社グループは事業活動を通じて、「世界中の人々のこころ豊かなくらし」を実現することを目指しています。そのために、「感動を・ともに・創る:私たちは、音・音楽を原点に培った技術と感性で、新たな感動と豊かな文化を世界の人々とともに創りつづけます」を企業理念に掲げ、我々の行動の原点としています。

中長期的に目指す姿「なくてはならない、個性輝く企業になる」を経営ビジョンとして、中期経営計画の各ステージで企業価値を高めてきました。

新たなステージである中期経営計画「Make Waves 2.0」では、ポストコロナで大きく様相が変化した新たな社会で持続的な成長力を高めることを基本方針とし、さらに企業価値を向上させていきます。


 

(3) マテリアリティ策定と3つの方針

「事業基盤」、「環境・社会」、「人材」の3領域10項目をマテリアリティとして策定しました。中期経営計画ではこれらのマテリアリティに基づき3つの方針を設定しました。


 

(4) 3つの方針の詳細

3つの方針の具体的な取り組みとして、各方針に3つの重点テーマを設定しました。これらの重点テーマに沿った施策を着実に遂行することで、当社は新たな社会で持続的な成長力を高めます。


1.事業基盤をより強くする

デジタルマーケティングとリアル拠点の活動を統合したブランド体験の提供に加え、メーカー直販の仕組みの拡大により、顧客との繋がりを強化し、一層のブランド価値向上を進めます。また、製品・サービスにおいてはヤマハの強みであるアコースティック技術とデジタル技術に加え、AIとネットワークをヤマハならではの感性により結びつけ、新たな体験を創造します。外的環境の変化に柔軟に対応できる事業組織としていくために調達・生産のレジリエンスを強化しつつ、DXにより新たな価値を創出します。

 

① 顧客ともっと繋がる     :直接顧客と繋がる販売の進化、デジタル×リアルを統合した価値訴求、

                             顧客情報基盤を拡充

② 新たな価値を創出する    :アコースティック技術とデジタル技術の融合、サービス・情報提供基盤

                             の構築、新たな感動体験を創造

③ 柔軟さと強靭さを備え持つ:レジリエンス強化、開発基盤の強化、DXによる新たな価値の創出

 

2.サステナビリティを価値の源泉に

2050年カーボンニュートラルを目指した事業活動におけるCO2排出量削減や持続的な木材の利用を通じ、地球環境の保全に努めます。製品・サービスを通じて新たな社会の様々な課題を解決し、快適で安全な暮らしに貢献することで社会価値を創造します。また多種・多彩な楽器の供給を通じた世界の音楽シーンへの貢献、新興国における器楽教育普及など、音楽文化全体の普及・発展に力を尽くします。

 

① 地球と社会の未来を支えるバリューチェーンを築く  :カーボンニュートラル、持続可能な木材、

                                                      省資源・廃棄物削減

② 快適なくらしへの貢献でブランド・競争力を向上する:遠隔・非接触サービス、耳の保護、

                                                     音楽によるQoL向上

③ 音楽文化の普及・発展により市場を拡大する        :新興国の器楽普及、ローカルコンテンツ、

                                                     技術者育成

 

3.ともに働く仲間の活力最大化

ともに働く仲間の活力は、事業活動を行う上で最も重要な要素であり、社会価値、企業価値を創造するための原動力です。従業員一人ひとりが最高のパフォーマンスを発揮できるよう、一人ひとりの個性を活かす経営を行います。組織内、組織間の多面的な対話機会の創出により、心理的安全性が確保された働きやすい職場づくりを進め、多様な人材の知恵や発想から多くの挑戦や共創が生まれる組織風土を醸成します。

 

① 働きがいを高める                          :グローバルリーダーの育成、自律的なキャリア

                                                 開発支援、柔軟な働き方支援

② 人権尊重とDE&Iを推進する          :人権デューディリジェンス、多様な人材構成、

                                                 女性活躍推進

③ 風通しがよく、皆が挑戦する組織風土を醸成する:対話機会の創出、組織風土・文化のさらなる変革

 

(5) 経営目標

 

① 非財務目標

1.事業基盤をより強くする

・Yamaha Music ID登録数

: 500万ID

・新コンセプト商品投入数

: 20モデル

・生産インフラへの投資金額

: 350億円

 

 

2.サステナビリティを価値の源泉に

・新興国の器楽教育普及

: 230 万人(累計)

・持続可能性に配慮した木材使用率

: 75%

・事業所での省エネによるCO2排出量削減

: 5%

 

 

3.ともに働く仲間の活力最大化

・従業員働きがい調査肯定的回答率

: 継続的向上

・管理職女性比率

: 19%

・従業員働きやすさ調査肯定的回答率

: 継続的向上

 

 

② 財務目標

・売上成長

: 20%

・事業利益率

: 14%

・RОE

: 10% 以上

・RОIC

: 10% 以上

 

(想定為替レート:USD 115円/ EUR 130円)

 

③ 投資と株主還元

 創出したキャッシュを成長投資と株主還元にバランス良く配分します。

 

[投資]

・通常投資 : 400億円

・戦略投資 : 650億円(生産施設・設備、サステナビリティ、新規事業、M&A等)

 

[株主還元]

 継続的かつ安定的な配当を基本としますが、将来の成長投資のための適正な内部留保とのバランスを考慮しながら、資本効率の向上を目的とした機動的な株主還元も適宜、実施します。3年累計で総還元性向50%を目標とします。

 

(6) ガバナンス

指名委員会等設置会社の特長を活かし、定期的な評価を行いながら、より実効性の高いコーポレートガバナンスを目指して継続的な向上を図ります。またグループガバナンスのしくみの整備を進め、リスク対応力の向上と健全で強固な経営基盤を実現します。

 

(7) 事業ポートフォリオと方向性

中長期的に企業価値を向上させるため、成長・中核・育成・再構築の4象限に各事業を位置づけ、経営資源を適切に配分するポートフォリオマネジメントを進めます。


① 楽器事業

新たな社会に合致した販売とマーケティングの強化により、高付加価値商品の拡売を進めます。電子楽器は成長事業として、需要創造により市場成長を牽引し事業規模を拡大します。ギターは育成事業として、中高級価格帯を中心にブランド力向上へ向けた施策を展開し、収益性を向上させながら規模を拡大します。ピアノ・管弦打楽器は中核事業として、プレミアムブランドの地位を確立し、一層の収益強化を進めます。

 

② 音響機器事業

再構築事業として位置づけ、コロナ禍により大きく変化した音響機器の新たな市場へ事業ドメインを拡大します。法人向け市場では、企業・公共施設・学校などに、専門知識がなくても快適な音環境が得られる音響システムを提供します。個人向け市場では、オンラインゲームや制作・配信のシーンに、高品質な音を簡便な設定で実現できるソリューションを提供します。これらの需要に対応するため、保有する多彩な技術資産やリソースを柔軟に組み換え、各市場に最適な製品やソリューションを効率的に提供できる開発プラットフォーム・体制を整備します。

 

③ その他の事業(部品・装置、その他)

育成事業として位置づけ、前中期経営計画より取り組んできた電子デバイス事業の車載オーディオを核に、CASE時代に対応した車内音空間へのソリューション提供を新たな事業の柱として確立します。FA事業においては、超音波技術やセンシング技術による超音波検査機器やEV電池用リークテスターなどの検査機で、新たな市場の開拓を目指します。

 

 

気候変動への対応とTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)に基づく情報開示

 

(1) TCFDへの対応

当社グループは「気候変動への対応」をマテリアリティとして特定し、経営重点テーマとして位置づけています。TCFDの提言に基づき、気候変動が事業にもたらすリスクや機会を分析し、経営戦略に反映させるとともに、その財務的な影響についての情報開示に努めていきます。

 

(2) ガバナンス

気候変動を含むサステナビリティに関する重要事項は、代表執行役社長の諮問機関であるサステナビリティ委員会(2022年3月期は10回開催)にて議論した上で、取締役会にて議論・検討することにより、取締役会の監督が適切に行われる体制を整備しています。

 

(3) 戦略

当社は、当社グループ全体に及ぶ影響を確認するため、全事業を対象に国際エネルギー機関(IEA)による移行面で影響が顕在化する「1.5~ ℃シナリオ(注1)」と、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)による物理面で影響が顕在化する「4℃シナリオ(注2)」を用いてシナリオ分析を行い、短期・中期・長期(注3)のリスクと機会を抽出しました。

(注1)1.5℃シナリオ:NZE(IEA World Energy Outlook 2021)、2℃未満シナリオ:SDS(IEA World Energy Outlook 2021)

(注2)4℃シナリオ:RPA8.5(IPCC第5次評価報告書)

(注3)短期:現在-数年後/中期:2030年/長期:2050年に影響が強く表れる

 

(4) 主な気候変動リスク及び機会と対応

 

カテゴリー

影響

段階

リスク・機会

根拠及び当社グループへの影響と対応

事業への影響(潜在的)

 移行リスク

 ・機会

(1.5℃上昇

  を想定)

調達

短期

リスク

脱炭素化により木材伐採事業の撤退が進み、木材が調達しにくくなるリスク

 

・ネットゼロを目指す企業の増加により、森林由来の炭素クレジットの需要増が見込まれ、森林保有者の木材事業からの撤退事例が生じています。既に一部産地における木材事業撤退の影響を受けておりますが、異なる産地の木材に代替することでリスクを回避しています。

・当社グループの木材調達先で伐採事業からの撤退が拡大した場合、製品製造に必要な木材が調達しにくくなるリスクがありますが、社内に木材技術及び調達の専門部門があり、代替材の開発や調達先の変更など速やかな対応を行っています。

・木質原材料の調達にあたっては、森林が持続するよう管理された“認証材”に切り替える施策を実行しています。

― ―

直接

操業

中期

リスク

カーボンプライシングの導入や増額等により、追加コストが発生するリスク

 

・2030年の炭素価格はIEAのNZE(2050年ネットゼロシナリオ)では、日本130米ドル/t-CO2(約15,000円/t-CO2)、中国90米ドル/t-CO2(約10,000円/t-CO2)、インドネシア15米ドル/t-CO2(約1,700円/t-CO2)と予測されており、2030年にはこれらのカーボンプライシング影響により成り行き値で16億円程度のコスト増となりますが、1.5℃シナリオに対応した排出削減目標を達成することで、6億円程度に抑制できると見込んでいます。(1米ドル115円で計算

・目標達成のためICP(インターナルカーボンプライシング)を14,000円/CO2tに設定し、低炭素設備投資の促進や生産部門のエネルギー効率向上、再生可能エネルギー導入を進めています。

 

― ―

中期

リスク

再生可能エネルギー調達量の増加により、追加コストが発生するリスク

 

・大幅な排出削減を実現するためには再生可能エネルギー調達が重要であると認識しています。

・当社グループのScope1・2における排出量の多くは電力に由来しており、排出削減を進めるにあたり、さらなる再生可能エネルギー調達が必要であると見込んでいます。(2022年3月期の購入電力料金は約30億円)

・省エネルギー、再生可能エネルギー自家発電、再生可能エネルギー調達にて、炭素排出量を削減していきます。

 

 

カテゴリー

影響

段階

リスク・機会

根拠及び当社グループへの影響と対応

事業への影響(潜在的)

移行リスク

 ・機会

(1.5℃上昇

  を想定)

製品

需要

中期

機会

気候変動対策を理由とする移動控えにより、製品需要が増加する機会

 

・気候変動対策を理由に移動(飛行機の利用など)を控える動きが見え始めており、今後このような傾向が継続・拡大していく可能性があります。

・このようなアウトドアからインドアへの生活様式の変化は、当社グループのコミュニケーション機器(スピーカーフォン、ルーターなど)製品の需要増につながると考えられ、機会となり得ると認識しています。

・脱炭素化により自動車の電動化が進むことが想定され、IEAのNZE(2050年ネットゼロシナリオ)では、EV比率(販売ベース)を2030年64%、2050年100%と見込んでいます。電気自動車の普及が加速されることにより、より軽量で、かつ高音質なオーディオ性能を実現する技術を保有する当社は顧客からの強い支持を得ることができます。さらにオーディオにとどまらず車内音響空間をトータルにプロデュースする新たな事業ドメインを獲得できる可能性があります。

・気候変動対策として廃棄物削減・資源有効活用への動きが加速する中、原材料のリデュース、再生材・再生可能素材の利用、アップグレードや高耐久化による長期使用の促進、梱包材の脱プラ化などを実現する技術開発や、製品のサービス化などビジネスモデルの変革により、業界の方向性に関して主導的な役割を果たすブランドとなり得ます。

 

+ +

 物理的リスク

 ・機会

(4℃上昇

 を想定)

調達

長期

リスク

調達木材の生育適域変化により、調達木材の入手が困難となるリスク

 

・温暖化の進行とともに、調達している木材の生育適域が変化していく可能性があります。

・当社グループの調達木材から希少性や代替の難しさなどを鑑み主な樹種を選定の上、学術論文をもとに調査を行い、数樹種については適域が減少する可能性があることを把握しています。これらの樹種で調達が困難となり原料価格が高騰するリスクがあります。

・楽器適材を生み出すサステナブルな森を地域社会と一体となり実現する活動「おとの森」活動の展開等を通じて、良質な木質原材料の長期にわたる安定的な調達を目指しています。

 

― ―

直接

操業

長期

リスク

大雨・洪水により自社拠点(工場など)が影響を受け、操業停止・逸失利益が発生するリスク

 

・温暖化の進行とともに、大雨・洪水などの被害が増加することが想定されます。自社拠点(工場など)が洪水被害を受け、操業停止となった場合には逸失利益が発生する可能性があります。

・ただし、2050年4℃シナリオを想定した場合、床上浸水1mを超える洪水被害により事業影響を受けると見込まれる拠点はヤマハグループ主要拠点、物流拠点、主要サプライヤー(合計で約100カ所)には存在しないことを確認しました。

 

製品

需要

長期

機会

気温上昇を理由とする夏季の外出控えにより、製品需要が増加する機会

 

・夏場の気温上昇(熱中症など)を理由に外出を控える傾向が見え始めており、今後このような傾向が継続・拡大していく可能性があります。

・このようなアウトドアからインドアへの生活様式の変化は、当社グループのコミュニケーション機器(2022年3月期のICT機器売上収益145億円)やギターをはじめとする楽器全般(2022年3月期の楽器事業売上収益2,762億円)の需要増につながると考えられ、機会となり得ます。

・楽器に適した木材の生育適域減少に備えて、既存材を超える特性を持つ代替材を開発することで新たな価値を提供し、音楽文化の発展と事業機会の拡大を実現することができます。

 

+ +

 

 

 

 

(5) リスク管理

代表執行役社長の諮問機関としてリスクマネジメント委員会を設置し、リスクマネジメントにかかわるテーマについて全社的な立場から審議し、代表執行役社長に答申しています。

リスクマネジメント委員会では、気候変動を含む事業に関連する様々なリスクについて、想定される損害規模と発生頻度に応じて評価・識別しています。また、各リスクに対するコントロールレベルを評価し、優先的に対処すべき重要リスクを特定するとともに担当部門を定め、リスク管理レベルの引き上げを図っています。

特に自然災害に起因する物理的リスクへの対応に関しては、同委員会の下部組織としてBCP・災害対策部会を設置し、BCP策定をはじめとする事業継続マネジメントを実行しています。

取締役会は執行役からの報告等によりリスクマネジメントの仕組みの有効性や推進状況を確認・監督しています。

 

(6) 指標と目標

サプライチェーンを含めたグループ全体のCO2削減を横断的に管理するため温室効果ガスの総排出量(Scope1、Scope2、Scope3)(注)をGHG(温室効果ガス)プロトコルのスタンダードに基づき算出して指標とし、第三者検証を実施しています。

2031年3月期までに2018年3月期比でScope1+2を55%削減(SBTイニシアティブ1.5℃水準)、Scope3を30%削減する中期目標を策定し、Scope1+2 については2050年までにカーボンニュートラルを達成するという長期目標を設定しています

また、森林資源および生物多様性の保全のため、2022年3月期までに認証木材使用率50%を目標に取り組みを進め、2022年3月時点で52%と目標を達成しました。今後は使用する木材の持続可能性をより広範に管理するための自社基準を策定し、2025年3月期に、同基準に適合した「持続可能性に配慮した木材」の使用率を75%にすることを目標に活動を継続します。

(注)Scope1:敷地内での燃料使用など、事業者自らによる温室効果ガスの直接的な排出

Scope2:他から供給された電気、熱・蒸気の使用に伴う温室効果ガスの間接的な排出

Scope3:Scope1、Scope2以外の、サプライチェーンなどの間接的な活動に伴う排出

 

 当社グループにおける気候変動への対応とTCFDに基づく情報開示の詳細につきましては、当社のサステナビリティサイト(https://www.yamaha.com/ja/csr/)をご参照ください。

tremolo data Excel アドインサービス Excel から直接リアルタイムに企業の決算情報データを取得

お知らせ

tremolo data Excel アドインサービス Excel から直接リアルタイムに企業の決算情報データを取得