文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において、当社グループが判断したものであります。
わが国は少子高齢化や人口減少等の課題を抱え、世界的にも低成長が常態化しつつあります。また、環境・社会課題への意識の高まりや、デジタル技術進展に伴う異業種の金融事業への新規参入の継続、足元では新型コロナウイルス感染症の影響や、インフレーション懸念等、当社を取り巻く経営環境は過去に例を見ない速さで大きく変化しています。
当社は、この変化を正しく読み解いたうえでそれを飛躍のチャンスに変え、新しい時代において社会をリードする存在でありたいと考えています。2021年4月に「世界が進むチカラになる。」を当社の存在意義(パーパス)として設定し、2021年度からの3年間を対象として中期経営計画では「企業変革」、「成長戦略」、「構造改革」を主要戦略の3本柱として掲げ、2021年度はこれら戦略を当社グループ一丸で推進し、成果を挙げることができました。
2022年度も、環境変化に応じたビジネスモデルを作り上げ、また、その結果として収益力向上及びROEの改善を実現することを通じて、お客さま・株主・社員をはじめとする全てのステークホルダーの期待に応えてまいります。
中期経営計画では、めざす姿として「金融とデジタルの力で未来を切り拓くNo.1ビジネスパートナー」を掲げています。そこには変化の激しい時代において、「全てのステークホルダーが次へ、前へ進むためのチカラになりたい」という思いを込めております。「デジタル」、「サステナビリティ経営」、「挑戦・スピード」をテーマに変革を進め、お客さまと社会の課題に徹底的に向き合い、課題解決に努めてまいります。
これらの取組みを通じた経営方針のキーワードは三つ、「デジタルトランスフォーメーション」、「強靭性」、「エンゲージメント」です。
一つ目は、「会社のあり方をデジタル化する」。実際にはリアルとのバランスではありますが、社会のデジタルシフトに対応するために、第一に掲げました。
二つ目は、「事業としての強靭性の重視」です。今回の危機で、MUFGはどんな環境においても信頼され続ける存在でなければならないと、改めて考えさせられました。金融機関としての健全性を確保して、経営資源を当社の有する強みのある領域へと重点配置いたします。
最後が、「エンゲージメント重視の経営」です。これは、大きな変化が会社ひいては社員一人ひとりに求められるなか、変革の方向性に対する共感性を大切にし、社員間や組織間、お客さまとの間、また社会とも共感できる、皆が参画意識を感じられる、魅力的な会社にしていきたいと考えるものです。
当連結会計年度の金融経済環境でありますが、世界経済は、数次に及ぶ新型コロナウイルス感染症拡大の波に直面しつつも、ワクチンの普及等を受けた経済活動正常化の動きや各国政府の対策等を背景に、総じて回復を続けました。一方で、コロナ禍の行動制限が残るなかでの需要回復は、各種の供給制約を通じて、世界的なインフレ圧力の高まりをもたらしました。第4四半期に入ると、ロシア・ウクライナ情勢の急転に起因して主要先進国中心に厳しい対露経済制裁措置が導入され、ロシアの生産シェアが高い原油や天然ガス、小麦等の資源・穀物価格急騰や経済の先行き不透明感の高まりにより企業や家計のマインドが世界的に悪化しました。わが国では、新型コロナウイルス感染症拡大時に緊急事態宣言の発出やまん延防止等重点措置の適用といった感染対策が講じられ、経済活動正常化との両立が模索されました。
金融情勢に目を転じますと、株価は、景気の回復基調等を背景に概ね高値圏で推移しましたが、期末にかけてはロシア・ウクライナ情勢を受け大きく値を下げる場面もみられました。金利については、景気回復やインフレ率の高まりを受け、米欧では金融政策正常化に向けた動きが明確化し、市中金利は上昇傾向で推移しました。わが国では日本銀行が大規模な金融緩和政策を維持しており、短期金利は低水準を続けましたが、米欧での金利上昇に連れ長期金利は期末にかけてやや上昇しました。ドル円相場は、日米金利差の拡大を背景に円が売られ易い展開が続き、年度末には一時1ドル125円台となるなど円安・ドル高の動きが大きく加速しました。
主たる戦略の柱として「企業変革」、「成長戦略」、「構造改革」を当社グループの各事業会社、事業本部、コーポレートセンターが一体で推進しています。
「企業変革」では、会社のありようを変える、変革を進めていくという観点から、「デジタルトランスフォーメーション」、「環境・社会課題への貢献」に取り組むとともに、スピードと挑戦をキーワードに「カルチャー改革」を推進します。
「成長戦略」では、収益力を強化すべく、「ウェルスマネジメント」、「経営課題解決型アプローチ」、「アジアビジネス」、「GCIB & Global Markets」、「グローバルAM(アセットマネジメント)/IS(インベスターサービス)」を推進します。
「構造改革」では、強靭性の確保に向け、「経費・RWAコントロール」、「基盤・プラットフォーム改革」及び低採算事業の見直しや新規ビジネスへの挑戦といった「事業ポートフォリオ見直し」を推進します。
なお、一部の施策では、足元の新型コロナウイルス感染症への対応の影響等により進捗に遅れが生じる可能性もございますが、今後影響については慎重に見極めてまいります。
当社グループは、お客さま、社員、株主等、ステークホルダーの安全確保を最優先とし、社会機能の維持に不可欠な金融インフラとして、事業者の資金繰り支援等の施策を通じ、お客さま・社員・株主をはじめとする全てのステークホルダーの皆さまの期待に応えてまいります。
(A) 企業変革(DX)
① デジタルトランスフォーメーション
あらゆるお客さまに対するデジタルサービス接点の強化、商品・サービスのデジタル化を推進します。デジタルを活用した業務量削減に取り組んでまいります。
② 環境・社会課題への貢献
「気候変動」、「少子・高齢化」、「インクルージョン&ダイバーシティ」を優先課題とし、事業戦略、リスク管理、社会貢献施策を展開します。
③ カルチャー改革(スピード・挑戦する文化)
存在意義(パーパス)起点での行動を促し、自由闊達な企業風土を醸成し、戦略のスピードアップや社員の自律的な挑戦を促進します。
(B) 成長戦略
④ ウェルスマネジメント
総合的な資産運用を支援するためのインフラ整備や人材投入、法人オーナーへのソリューション提供を通じてビジネスを強化してまいります。
⑤ 経営課題解決型アプローチ
法人のお客さまの経営課題に向き合い、リスクテイク力を強化し、グループ一体で課題解決に取り組んでまいります。
⑥ アジアビジネス
連結子会社のアユタヤ銀行(タイ)、ダナモン銀行(インドネシア)を中心に、アジアを面で捉え成長を取込みつつ、デジタル化を推進します。
⑦ GCIB & Global Markets
機関投資家との取引拡大を通じ、資産回転・フロービジネス(O&D/OtoD※、クロスセル)を強化してまいります。
※Origination & Distribution/Origination to Distributionの略称
ファイナンスを組成し、投資家に販売する業務施策。「O&D」は当該業務施策全般を指す総称であるのに対し、特に、投資家ニーズを起点に案件を組成する取り組みを「OtoD」という。
⑧ グローバルAM/IS
業界成長が望める海外資産運用・管理領域において、当社の強みを活かした受託ビジネスを推進します。
(C) 構造改革
⑨ 経費・RWAコントロール
成長に必要な投資は行いつつ、ベース経費の削減を徹底します。RWAは、高採算案件への張り返しにより、コントロールします。
⑩ 基盤・プラットフォーム改革
デジタルシフトに必要な投資を効率的・効果的に実施します。改革に必要な手続・ルールの簡素化、意思決定プロセスの見直しに取り組んでまいります。
⑪ 事業ポートフォリオ見直し
低採算事業の見直しによりROE向上に取り組んでまいります。異業種を含めた他社との連携により事業力を強化します。
本中期経営計画では、中期経営計画の最終年度である2023年度の財務目標の水準を以下の通り設定しております(2021年5月公表)。
〔ROE目標・資本運営のターゲット〕
〔ROE目標達成に向けての3つのドライバー〕
*1 バーゼルⅢ規制見直しの最終化によるリスク・アセット増加影響を反映させた試算値。その他有価証券評価
差額金を除く
*2 親会社株主に帰属する当期純利益
*3 中長期の経費率目標(60%程度)は不変
① 基本方針
MUFG Wayのもと、人事マネジメントの基本的な考え方を示した「MUFG人事プリンシパル」に基づき、
「信頼・信用」「プロフェッショナリズムとチームワーク」「成長と挑戦」を共有すべき価値観として、グルー
プ各社が人事運営方針を立案、遂行しています。
② 社員の挑戦を促すカルチャー改革
MUFGでは、今中期経営計画を「変革と挑戦」の3年間と位置づけ、カルチャー改革を進めています。人材
戦略においても、グループ内外で多様な経験に挑戦することができるキャリアチャレンジ制度の提供を通じ
て、社員の「成長と挑戦」を強く後押ししています。
③ 価値創造を担う人材の育成・確保
MUFGの持続的成長に向けて、さまざまな領域で活躍するプロフェッショナル人材を確保すべく、グルー
プ各社で、各種研修・OJT等を実施しています。また、新事業への進出・展開等にあたっては、新たな分野の
専門性を有する、即戦力となる人材が必要になることから、外部人材の積極的な採用も進めています。
④ インクルージョン&ダイバーシティ
MUFGは、サステナビリティ経営の優先10課題の一つに「インクルージョン&ダイバーシティ」を掲げ、
多様な価値観やバックグラウンド、就業意識を持つ社員が互いに尊重・切磋琢磨し、一人ひとりが成長・活躍
できる組織・カルチャーの醸成に取り組んでいます。経営トップのコミットメントのもと、2024年3月末の国内
の女性マネジメント(課長以上のラインマネジメント)比率を20%にするとの目標を設定しています(2022年度
に同目標値を18%から20%に引き上げ)。
⑤ 働き方改革及び健康経営の推進
MUFGは、社員が持てる力を最大限発揮するために、サステナビリティ経営の優先10課題の一つに「働き
方改革の推進」を掲げ、リモートワークやペーパーレス化等のインフラ整備を進めるなど、社員の自由で柔軟
な働き方を後押ししています。また、社員の人権の尊重や、明るく働きやすい職場環境づくりの一環として、
心身の健康促進に取り組んでいます。
MUFGでは、持続可能な社会の実現に貢献するため、優先的に取り組む環境・社会課題の一つに「気候変動
対応・環境保全」を掲げています。
MUFGは、PCAF(Partnership for Carbon Accounting Financials)、NZBA(Net Zero Banking
Alliance)及びGFANZ(Glasglow Financial Alliance for Net Zero)をはじめとする、気候変動に対処す
るためのさまざまなイニシアティブに参画しています。また、金融安定理事会(FSB)によって設立された、
気候関連財務情報開示タスクフォース(Task Force on Climate-related Financial Disclosures : TCFD)
の提言を支持しています。
① ガバナンス
気候変動に関する課題は、取締役会の監督のもと、経営会議がその傘下に様々な委員会を設置して管理し
ています。サステナビリティ委員会は、経営会議傘下の委員会で、Chief Sustainability Officer が委員長
を務めています。同委員会では気候変動リスクや機械を含めた気候変動に関する課題への取り組み方針を定期的に審議するとともに、MUFGグループの取り組みの進捗状況をモニタリングしています。サステナビリティ委員会は、経営会議へ報告を行い、必要に応じて取締役会へも報告を行っています。
MUFGでは、気候変動に関するリスクをトップリスクと位置づけており、経営会議傘下の委員会である 投融資委員会、与信委員会、リスク管理委員会において、それぞれの専門性を踏まえた検討を行っています。これらの各委員会は、経営会議へ報告を行っています。
また、投融資委員会、リスク管理委員会は、取締役会傘下委員会であるリスク委員会に報告を行い、グループ全体のリスク管理に関する事項及びトップリスクに関する事項について審議・報告を行っています。
業務執行の意思決定機関として経営会議を設置し、取締役会の決定した基本方針に基づき、経営に関する全般的重要事項を協議決定しています。
取締役会は、事業戦略、リスク管理、財務監視に沿って、気候変動に関する事項の管理を監督します。監督は、PDCAサイクルに基づいて行われます。取締役会は、気候変動に関連する事項を最優先事項と位置づけ、年次計画に基づき定期的に、又は必要に応じて、議論・審議を行っています。
ガバナンス体制の詳細については、「第4 提出会社の状況 4 コーポレート・ガバナンスの状況等」を参照してください。
② 戦略
MUFGは、地球温暖化問題に取り組むグローバル金融機関としての責任を認識し、お客さまに提供する商品・サービスや、事業活動に伴う環境負荷を低減するための施策を通じて、脱炭素社会への移行に向けた取り組みを支援していきます。
MUFGは、金融機関として、気候変動関連のリスクを二つのカテゴリーに分類し、取り組みを進めています。一つは、異常な暴風雨や洪水などの悪天候事象の深刻化や頻度の増加、気温や海面水位の上昇、降水量や 降水分布の変化などの気候パターンの長期的な変化などによる物理的損害から生じるリスクであり、「物理的リスク」と分類されます。もう一つは、脱炭素社会への移行に関連して生じるリスクであり、規制、市場の選好、技術の変化などから生じるリスクであり、「移行リスク」と分類されます。
MUFGは、お客さまの目標達成を支援し、脱炭素社会への移行に貢献するための、持続可能な金融ソリューションを提供する能力を高めるべく、気候変動に対応した商品・サービスの拡充に努めています。例えば、再生可能エネルギー事業や、プラスの環境影響が見込まれるスタートアップ企業などへの融資に取り組んでいます。
③ リスク管理
現在、気候変動に関するリスク管理は、上述のガバナンス体制のもと、グループ全体の視点から、気候変動
に関するリスクとその潜在的なポートフォリオ、事業、財務への影響をより的確に把握、測定、低減することを目的として、リスク管理枠組みの中に統合されています。MUFGのリスク管理フレームワークは、物理的リスクと移行リスクに対処することを意図しています。
また、ファイナンス※において、環境・社会に係るリスクを管理する枠組みとして、「MUFG環境・社会ポリシーフレームワーク」を制定しています。石炭火力発電や鉱業(石炭)、石油・ガス等、気候変動を含む環境・社会への影響が懸念される特定のセクターについては、ファイナンスにおけるポリシーを定めるとともに、ファイナンスの対象となる事業の環境・社会に対するリスク又は影響を特定し、評価するためのデューデリジェンスのプロセスを導入しています。
※MUFGの主要子会社である銀行、信託及び三菱UFJ証券ホールディングスの法人のお客さま向けの与
信及び債権・株式引受を指します。
気候変動に関するリスクについては、「第2 事業の状況 2 事業等のリスク」を、リスク管理フレームについては、「第4 提出会社の状況 4 コーポレート・ガバナンスの状況等」を参照してください。
④ 指標と目標
2021年5月、MUFGは、2050年末までに投融資ポートフォリオの温室効果ガス排出量をネットゼロに、2030年末までに当社自らの温室効果ガス排出量をネットゼロにするという目標を発表しました。これらの目標は、パリ協定の合意事項を支持するとともに、MUFGグループにとって気候変動に関連するリスクと機会を最優先課題として認識していることを示しています。
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