文中において将来について記載した事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断、予測したものであります。
1 経営方針
当社グループは、「日本とアジアをつなぐ投資会社として少子高齢化が進む社会に安心・安全で質と生産性の高い未来を創ります」を経営理念として掲げ、全てのステークホルダーへの利益還元を果たして参ります。
2 経営環境と対処すべき課題
(1)外部環境の認識
当社はこれまで、経営理念のもと、少子高齢化問題及び地球温暖化問題、特に原発問題を抱えた日本固有のエネルギー問題を重要なテーマとして位置付けて事業を行ってまいりました。これらの問題は、社会の在り方、個人生活、企業行動に変化を与え、技術革新をもたらしています。加えて、今般の新型コロナウィルス感染症の災禍により、これらの変化が加速しました。
そこで当社は、従前の課題に加えて新型コロナウィルス感染症が今後引き起こすであろう変化も踏まえ、投資分野別の外部環境を次のように認識し、これに対応した事業活動を行う計画です。
①再生可能エネルギー
脱炭素社会に向けて再生可能エネルギーによる発電が加速し、全世界で域内のCO2排出実質ゼロに向けた取り組みが進むと認識しています。
②スマートアグリ(植物工場)
温暖化による天候不順、自然災害の影響や農業人口の高齢化の影響から、露地野菜の供給の量・質・価格が不安定となり、工場野菜の市場規模は拡大していくと認識しています。
③ディストリビューションセンター(物流施設)
東京圏は、物流拠点の集約とEC市場の拡大により空室率が過去最低水準であり、賃料相場は2009年以来の高水準となっています。コロナ禍による巣ごもり需要も加わり、物流施設に対する需要は非常に高いと認識しています。
④ヘルスケア(障がい者グループホーム)
2013年に障碍者総合支援法が施行され、グループホームの利用者が増加しています。多様性を尊重し包摂的な社会を築く上で、今後さらに需要が高まると認識しています。
⑤ヘルスケア(高齢者施設)
国内総人口が減少する一方で高齢者人口は増加し、65歳以上の比率は2025年には30%に達する見込みであり、今後も高い需要が続くと認識しています。
⑥M&A仲介
後継者問題や企業の海外進出の活発化によりM&Aの件数は増加傾向にあり、特に中小の件数は大幅に増加しています。今後も高い需要が続くと認識しています。
(2)当社の投資事業の特徴
当社のプライベートエクイティ投資の特徴は、長年の投資活動を通じて蓄積されたノウハウに基づく上場支援に加え、広いネットワークを活用した海外展開支援や営業支援を行う点です。そのために、中国の政府系機関やアジア諸国のパートナー企業と業務提携などを行い、アジアのネットワークを構築しています。加えて、プロジェクト投資のパートナーであるベンチャー企業への投資である「戦略投資」を行うことも特徴です。当社では「戦略投資」を行った企業には、株主としての支援だけではなく、パートナーとして共にプロジェクトを運営し、その成長を支援します。
プロジェクト投資の特徴は、プロジェクト総額の多くを金融機関からの負債性資金で調達することでレバレッジを効かせ、少額の投資資金で高い採算性を追求している点です。加えて、多様な分野のプロジェクトに機動的に投資を行うことができるように、プロジェクトの企画や開発に精通したベンチャー企業とパートナーシップを組んでいる点も特徴です。
プロジェクトの開発や運営には、業界知識、ノウハウ、技術力、交渉力など高度なスキルが求められます。当社単独ではカバーできないこれらの経営資源をパートナーのベンチャー企業が提供し、当社は、主に投資資金の提供や金融機関からの資金調達を含めたファイナンススキームの構築を担います。
当社は、社内の経営資源のみならず外部の優れた経営資源も積極的に活用して、成長性が高く将来有望な投資分野を創出し投資を行うことで、社会に貢献して参ります。そのために、今後も継続的に外部とのネットワークを強化し、パートナー企業の発掘を行います。これにより、新たな投資分野の創出に常時取り組み、次の注力投資テーマとしていく方針です。
(3)当社の競争優位性
当社は、当社の競争優位性を、アジアでの歴史、最先端の業界情報収集力、ベンチャー企業とのネットワーク、ファイナンススキーム構築力の4つだと認識しています。より具体的には、投資分野別に次のように考えています。
①再生可能エネルギー
当社には「パートナー戦略による豊富なネットワークから得られる多様な案件へのアプローチ力」があります。その結果、メガソーラー、ソーラーシェアリング、風力、バイオマス、バイオガスへと投資対象を多様化しながら、電力の固定価格買取制度(FIT)の変容の中でも一定の収益性を確保できます。
②スマートアグリ(植物工場)
当社のパートナーである株式会社森久エンジニアリングには「品質に厳しい大手企業に評価される高品質野菜の生産を可能とする技術力」があります。具体的には、生菌数が極めて低く高品質かつ無農薬の野菜の量産を実現し、大手コンビニエンスストアのコンペティションで勝ち抜き、他社工場からの乗り換えにより取引を開始した実績があります。
③ディストリビューションセンター(物流施設)
当社のパートナーであるKICホールディングス株式会社には「大手デベロッパーが敬遠する土地を安く買い、安く作って、安く貸す開発力」があります。道路付けの悪い土地、市街化調整区域など、そのままでは開発が困難な土地を安く仕入れ、手間を掛けて事業化することで大手との競争を回避しています。
④ヘルスケア(障がい者グループホーム)
当社のパートナーであるソーシャルインクルー株式会社は「大手が未だ参入していないマーケットで先行する地位」にあります。市場が拡大している中でも競争環境は未だ平穏であり、既に国内最大級の運営棟数を有し、業界をリードする立ち位置を確立しています。
⑤ヘルスケア(高齢者施設)
当社のパートナーであるAIPヘルスケアジャパン合同会社は、「日本初のヘルスケア特化型上場REITの運営に関与し、介護業界に広いネットワーク」を有しています。日本ヘルスケア投資法人の設立や運営アドバイザーを手掛け、業界の先駆者としての知名度があります。
⑥M&A仲介業務
当社は「国内外での投資活動、ファンド運営を通じてニーズを発掘する機会」を有しています。取引候補先となる300社以上のIPO実績を有し、また、長くアジアで投資活動を行ってきた知名度があります。
(4)中期経営計画(2022年3月期から2024年3月期)の進捗状況
①計画の概要
当社は、経営理念に基づき収益力の向上に繋がるSDGs投資に注力しています。
既存のプライベートエクイティ投資資産のうち、過去に投資を行った「フィナンシャル投資(注1)」の資産を流動化し、その資金で好採算かつ収益の安定性が高いプロジェクトに投資を行い、棄損したバランスシートの早期修復と資産の入れ替えを行います。メガソーラー発電に続くプロジェクトとして、ディストリビューションセンタープロジェクトなど、施設の完成後に短期間で売却する前提のプロジェクト投資に、特に注力します。また、その他にも投資対象となるプロジェクトを多様化し、投資機会を追求すると同時に投資資産のリスク分散を図ります。
プロジェクト投資を行う際は、当社単独で投資をするのではなく、その分野で競争優位性の高いベンチャー企業をパートナーとする点が強みです。また、パートナーとなるベンチャー企業には、「戦略投資(注2)」を行います。戦略投資を行う際は、フィナンシャル投資に比べて、当社の持株比率を高め、さらに、プロジェクト投資での協業を通じて当社の様々なリソースを投入したハンズオンの支援を行います。
このように、安定性が高く持続的な利益をもたらすプロジェクトへの投資と、そのプロジェクトのパートナーとなる企業へのハンズオン型ベンチャー投資を両輪として、投資資産の残高を増加させます。
アジアでは、当社のベンチャー投資のスキル、アジアでのネットワーク、及び国内の地域金融機関との連携を活用して、投資とコンサルティングなどの投資関連ビジネスを展開することで新たな収益機会の開拓を目指します。
収益面では、プロジェクト投資は、株式売却益に比べて安定したプロジェクトの売却益と、プロジェクトの運営による収益の獲得を目指します。また、プライベートエクイティ投資では、戦略投資を行うことで、フィナンシャル投資に比べて株式売却のより高い確度と収益性を目指します。また、投資事業に付随する事業の開拓を進めて、フィー収益の増加も目指します。その結果、より成長性が高くサステナブルな収益構造を構築して参ります。
注1:フィナンシャル投資とは、戦略投資以外のプライベートエクイティ投資です。
注2:戦略投資とは、プロジェクト投資のパートナーであるベンチャー企業へのプライベートエクイティ投資です。
②主要な業績評価指標(KPI)
主要な業績評価指標(KPI)は、従来連結基準(注)による親会社株主に帰属する当期純利益であり、2022年3月期は340百万円、2023年3月期は550百万円、2024年3月期は850百万円とする計画です。
計画期間中は未だフィナンシャル投資の売却益が中心となるものの、計画期間最終年度となる2024年3月期には、フィー収益とプロジェクトの収益の営業総利益で管理コストを賄い、変動の大きなプライベートエクイティ投資の収益は、超過利益とするとともに戦略投資の売却益を増加させることを目指します。
③計画1年目の達成状況
株式売却益の下振れにより、従来連結基準(注)による親会社株主に帰属する当期純利益の実績は49百万円となり、1年目の数値計画の達成率は、14.5%と低水準に留まりました。
未上場株式では、一部の売却交渉が想定よりも長期化し、期末までに合意に至りませんでした。加えて、見込外で他社の運営するファンドの投資有価証券評価損が発生しました。他方で、期初に見込んでいなかった国内投資先の新規上場(IPO)が実現し、戦略投資先企業を含めて4社が期中にIPOを果たしました。しかしながら、一部の株式は、IPO後の株価がロックアップ解除の条件を下回ったため売却できませんでした。
プロジェクト投資では、メガソーラープロジェクトの売却では計画を上回る利益を計上しましたが、ディストリビューションセンタープロジェクトの売却は、一部売却に留まりました。その結果、株式売却益の下振れの全てを補うことはできませんでした。
他方で、行動計画は着実に進捗しました。戦略投資では、リニューアブル・ジャパン㈱が戦略投資先からの第1号となるIPOを果たしました。ディストリビューションセンタープロジェクトでは、重点分野として積極的に投資を行い投資残高を増やす計画に対し、期中に4件のプロジェクトに投資を実行し、うち1件が2022年4月に竣工しました。さらに、埼玉県越谷市の施設は2021年10月に竣工した後2022年3月に譲渡され、2023年3月期の当社利益に寄与する見込みです。スマートアグリプロジェクトでは、大手コンビニエンスストアを軸に販売先を開拓し3年間で4号工場まで事業規模を拡大する計画に対し、2021年9月に1号工場の増設部分が竣工しました。増設部分が全面稼働する2022年6月以降は、生産量が2.3倍の年間470トンまで増加する見込みです。ヘルスケアプロジェクトのうち障がい者グループホームでは、銀行やリース会社とのファンド組成を含め3年間で50棟に投資をする計画に対し、地域金融機関との連携により開発が進捗し期中に5棟が完成したほか、2021年8月には障がい者グループホームを投資対象とするファンドに出資をしました。また、将来の収益の柱となる新規事業を開発する計画に対しては、2022年4月にぴあ㈱を通じて “NAKED FLOWERS FOR YOU”というアート展に投資を行いました。
④2023年3月期の事業方針
2023年3月期は、引き続き中期経営計画を遂行していきます。フィナンシャル投資については、満期の到来したファンドを早期に清算することで流動化を図ります。フィナンシャル投資の新規投資実行は、原則として、パートナーと連携してファンドを組成しファンドから投資を行う方針です。戦略投資では、ハンズオン支援により既存投資先企業のIPOを早期に実現します。また、新たなプロジェクト投資分野を開拓し、その分野のパートナー企業に戦略投資を行います。
プロジェクト投資では、物流施設、障がい者グループホームへの投資を加速するとともに、既存物流施設の売却を実現します。また、植物工場は、早期の黒字化を目指します。
数値計画については、国内の株式売却益の回復により、従来連結基準(注)による親会社株主に帰属する当期純利益を中期経営計画の通り550百万円とすることを目指します。株式売却益の大半はIPO予定を含む上場株式から計上される見込みです。2022年3月期と異なるのは、株式売却益は、期中にIPO予定の銘柄に加えて、既にIPOを果たした銘柄をロックアップ期間後に売却する計画としている点です。2022年3月期は、上場株式の売却益は期中のIPO予定銘柄のみを見込んでいましたが、2023年3月期は既に上場済みの株式から一定の売却益を見込んでいます。プロジェクト投資では、ディストリビューションセンター、ヘルスケア、その他プロジェクトの合計で4件の売却益を見込んでいます。
(注)従来連結基準
当社グループでは、2007年3月期より、「投資事業組合に対する支配力基準及び影響力基準の適用に関する実務上の取扱い」(企業会計基準委員会 2006年9月8日 実務対応報告第20号)を適用し、当社グループで運営している投資事業組合等の一部を連結の範囲に加えて連結財務諸表等を作成しております。しかしながら、投資家及び株主の皆さまに、当社グループの経営成績及び財務状況を正しくご認識いただくためには、従来からの会計基準による財務諸表等の開示も必要と考えております。
以上のことから、従来の会計基準に従って、投資事業組合については、資産、負債及び収益、費用を外部出資者の持分を含まない当社及び関係会社の出資持分に応じて計上し、また、会社型ファンドについては連結の範囲から除いた連結財務諸表等を「従来連結基準」として、決算短信等において継続的に開示しております。
(5)東京証券取引所スタンダード市場への移行について
東京証券取引所の市場区分見直しに関して、当社は、2021年7月9日付で株式会社東京証券取引所より「新市場区分における上場維持基準への適合状況に関する一次判定結果について」を受領し、スタンダード市場の上場維持基準に適合していること、及び、プライム市場の上場維持基準のうち「流通株式時価総額」が適合していないことを確認しました。
当社がプライム市場を選択する場合には、同市場の上場維持基準へ適合するための計画書を策定し、経過措置期間中に基準を満たす必要があります。また、プライム市場の上場企業に対しては、グローバルな投資家向けに、TCFDに準拠した開示など多くの対応が求められます。
上記のような対応を行うためには当社の経営リソースの多くを割く必要が生じます。そのため、当社は、プライム市場を選択することの有用性を認識しつつも、総合的判断に基づきスタンダード市場への移行を選択致しました。その結果、2022年4月4日付で東京証券取引所の市場第一部から同市場へ移行しております。
当社は、今後、投資活動全般に経営資源を集中させ、更なる企業価値の向上を目指して参ります。
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