経営者の視点による当社の経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は次のとおりであります。また、当社はオンライン証券取引サービスの単一セグメントであるため、セグメントごとの記載を省略しております。
なお、文中の将来に関する事項は、当事業年度末(2022年3月31日)現在において、当社が判断したものであります。
当事業年度の国内株式市場は、期首に29,400円台で取引を開始した日経平均株価が、4月に30,000円台を回復した後、5月に入ると、米長期金利の上昇に伴う世界的なハイテク株安や、量的金融緩和の縮小(テーパリング)議論の早期化が懸念されたことを受けて大きく値を下げました。その後も、世界的な新型コロナウイルスの感染拡大や国内の緊急事態宣言の発令で経済正常化の遅れが嫌気されるなど軟調な相場となり、8月には一時27,000円を割り込みました。9月は菅首相退陣の意向が報道され、新総裁候補が打ち出す経済政策に対する期待感から株価は大きく上昇し、再び30,000円台を回復しましたが、中国の不動産大手企業による債務不履行懸念や、米国の債務上限問題、原油高に伴うインフレ懸念等を背景に、10月に株価は27,500円台まで下落しました。年末にかけては米株価指数の上昇や日本政府による経済政策への期待感等を受けて持ち直す一方、新型コロナの変異型オミクロン株の感染拡大懸念や、岸田首相による金融所得課税への言及などから上値が重い展開となりました。1月以降は、米国のインフレ懸念の高まりやウクライナ情勢を巡る先行き不透明感を背景に株価は下落し、3月上旬には1年4カ月ぶりに25,000円を割り込みました。その後は円安ドル高の進行に伴う輸出企業の業績改善期待などから持ち直し、3月末の日経平均株価は27,800円台で取引を終えました。
このような市場環境の中で、二市場(東京、名古屋の各証券取引所)合計の株式等売買代金は、前事業年度と比較して6%増加しました。当社の主たる顧客層である個人投資家についても、大きく株価が動いた局面で取引が拡大し、二市場全体における個人の株式等委託売買代金は同5%増加しました。二市場における個人の株式等委託売買代金の割合は22%と、前事業年度と同様の水準となりました。また、当社の株式等委託売買代金についても、同3%の増加となりました。
当事業年度における当社の取り組みとしては、長期的な顧客層の維持・拡大のため、テレビCMの配信やインターネット広告の強化、FXにおける新ブランド「松井証券MATSUI FX」のプロモーションを積極的に展開するなど、認知度向上に努めました。商品・サービスについては、個人投資家に人気の米国株サービスの取り扱いを開始しました。また、スマートフォン向けに、新サイトの提供開始や口座開設における「eKYC」の導入を実施したほか、「松井証券 株アプリ」の機能を継続的に拡充し株式取引における注文機能の強化を図るなど、利便性向上に努めました。その他、投資情報メディア「マネーサテライト」において、若年層や投資初心者の方も楽しく資産運用を学べる動画や、投資判断に役立つマーケット関連の動画をタイムリーに配信するなど、顧客とのコミュニケーションの充実を図りました。
以上を背景に、当事業年度においては、株式等委託売買代金が増加したものの、委託手数料率の低下等により受入手数料が17,454百万円(対前事業年度比5.9%減)となりました。また、信用取引平均買残高の増加等により金融収支は同19.6%増の11,108百万円となりました。
この結果、営業収益は30,616百万円(同1.8%増)、純営業収益は29,439百万円(同2.7%増)となりました。また、営業利益は12,772百万円(同0.4%減)、経常利益は12,791百万円(同1.0%減)となりましたが、投資有価証券売却益2,590百万円及び固定資産売却益1,279百万円を計上したこと等により、当期純利益は11,439百万円(同11.2%増)となりました。
収益・費用の主な項目については以下の通りです。
受入手数料は17,454百万円(同5.9%減)となりました。そのうち、委託手数料については、株式等委託売買代金が同3%増加したものの、委託手数料率の低下等により、16,639百万円(同6.6%減)となりました。
(トレーディング損益)
トレーディング損益は、主としてFX取引のトレーディング益により、876百万円の利益となりました。
(金融収支)
金融収益から金融費用を差し引いた金融収支は11,108百万円(同19.6%増)となりました。これは主として、信用取引平均買残高が増加したことによるものです。
販売費・一般管理費は、同5.2%増の16,667百万円となりました。これは主として、広告宣伝費の増加等による取引関係費の増加(同4.8%増)や減価償却費の増加(同12.0%増)、人件費の増加(同7.8%増)によるものです。
(特別損益)
特別損益は合計で3,680百万円の利益となりました。これは主として、投資有価証券売却益2,590百万円や、固定資産売却益1,279百万円を計上したことによるものです。
以上を背景に当事業年度のROE(自己資本当期純利益率)は、14.5%となりました。当社は、株主資本コスト(8%)を上回るROEを中長期的に達成することを経営目標としております。当事業年度のROEは、投資有価証券売却益や固定資産売却益を計上したこと等を背景に、前事業年度の12.9%から上昇しました。これは目標値を達成しており、今後も中長期的な資本効率の向上に努めてまいります。
当社の主たる事業は、個人投資家向けの株式等委託売買業務であり、収入項目としては受入手数料、とりわけ株式等売買に関する委託手数料が当社の業績に重要な影響を及ぼします。また、主として信用取引に起因する金融収益についても当社の業績に重要な影響を及ぼす要因となります。しかしながら、その水準はともに株式市場の相場環境に大きく左右されます。
当社の主な資産は、顧客からの預り金や受入保証金等を信託銀行に預託した顧客分別金信託(預託金に含まれます)と、信用取引貸付金を中心とする信用取引資産です。一方、信用取引貸付金に充当することを目的として、短期借入金等による調達を行っております。当社の主な負債は、預り金、受入保証金及び短期借入金です。
当事業年度末の資産合計は、対前事業年度末比8.6%減の879,394百万円となりました。これは主として、信用取引貸付金が同16.5%減の231,435百万円となったことや、預り金等の減少に伴い預託金が同5.9%減の530,512百万円となったことによるものです。
負債合計は、同9.3%減の800,675百万円となりました。これは主として、信用取引貸付金の減少等に伴い短期借入金が同19.3%減の167,850百万円となったことや、預り金が同7.9%減の309,469百万円となったことによるものです。
純資産合計は、同0.6%減の78,719百万円となりました。当事業年度においては、2021年3月期期末配当金及び2022年3月期中間配当金計10,280百万円を計上する一方、当期純利益11,439百万円を計上しております。
当事業年度における各キャッシュ・フローの状況とそれらの要因は次のとおりであります。
営業活動によるキャッシュ・フローは、50,821百万円のプラス(前事業年度は111,926百万円のマイナス)となりました。これは、信用取引資産及び信用取引負債の増減や預託金の減少が主な要因です。
投資活動によるキャッシュ・フローは、67百万円のプラス(前事業年度は1,607百万円のマイナス)となりました。当事業年度においては、無形固定資産の取得による支出2,999百万円や投資有価証券の取得による支出1,090百万円を計上する一方、投資有価証券の売却による収入2,597百万円や、有形固定資産の売却による収入1,774百万円を計上しております。
財務活動によるキャッシュ・フローは、50,374百万円のマイナス(前事業年度は117,986百万円のプラス)となりました。これは、短期借入金の純減少が主な要因です。
以上の結果、当事業年度末における現金及び現金同等物の残高は、60,312百万円(前事業年度末は59,798百万円)となりました。
当社は、株式ブローキング事業の強化とその他事業の拡充を経営戦略として位置付けております。各事業年度において、オンライン証券取引サービスを継続的に提供するとともに、各種新サービスの追加や取引システムの能力強化あるいは改良等に必要なシステム投資を中心とする設備投資を継続的に行っております。一方で、日々の業務運営に手元資金を必要とする他、主たる業務である信用取引貸付金の原資を必要としております。手元資金は、株式等委託売買や株券貸借取引等に伴う決済の他、顧客への出金等に対応するために十分な水準を確保しておりますが、日々の決済等の状況により、必ずしもその水準は一定しません。
当社が行う資金調達は、主として信用取引貸付金の原資に対応するものです。経常的な信用取引貸付金の増減については、銀行等金融機関からの短期借入金の増減を中心に対応しております。信用取引貸付金の水準が大きく増加する場合に備えて、社債による資金調達を機動的に行えるよう発行登録も行っておりますが、当事業年度末現在においては、信用取引貸付金と内部留保の水準を踏まえ、資金調達の大部分はコール・マネーを含む短期借入金によっております。
なお、複数の金融機関と当座貸越契約やコミットメントライン契約を締結することで、資金調達の安全性を確保しております。
当社は、中長期的に株主資本コストを上回るROEを達成することを経営目標としており、株主還元は、株主資本コスト相当額以上を配当として実施する方針です。当事業年度末現在の株主資本コストは、資本資産評価モデルを参考に8%と想定していることから、経営目標として中長期的に8%を上回るROEを達成するとともに、配当政策として各期8%以上の純資産配当率(DOE)を実現することとしております。併せて、各期の配当性向については60%以上とすることとしております。株主還元の結果内部留保が増加する場合においては、信用取引貸付金の原資や設備投資資金等として有効に活用いたします。
当社の財務諸表は、わが国において一般に公正妥当と認められている会計基準に基づき作成しております。この財務諸表を作成するにあたって、資産、負債、収益及び費用の報告額に影響を及ぼす見積り及び仮定を用いておりますが、これらの見積り及び仮定に基づく数値は実際の結果と異なる可能性があります。
財務諸表の作成にあたって用いた会計上の見積り及び仮定のうち、重要なものは「第5 経理の状況 1 財務諸表等 (1)財務諸表 注記事項 (重要な会計上の見積り)」に記載しております。
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