課題

1 【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

文中の将来に関する事項は、当事業年度末(2022年3月31日)現在において、当社が判断したものであります。

 

(1) 会社の経営の基本方針

当社は、「個人投資家にとって価値のある金融商品・サービスの提供を通じて、お客様の豊かな人生をサポートすること」を企業理念として掲げております。企業理念を実現するうえでは、優位性のある顧客体験価値を提供することが何より重要だと考えており、お客様の投資や資産形成をサポートするべく、個人投資家の様々なニーズを満たすための金融商品・サービスを提供することに努めます。

 

(2) 目標とする経営指標

当社は、経営資源を有効活用することで、利益の最大化・株主価値の極大化を図ることを経営目標として掲げており、目標とする経営指標としては、資本の効率性(経営資源の有効活用度)を示すROE(自己資本当期純利益率)が最適と考えております。また、当社は、ROEを持続的な株主価値の創造に関わる重要な指標と位置付けており、中長期的に株主資本コスト(現状8%)を上回るROEを達成することを経営目標としております。

当事業年度のROEは14.5%となり、投資有価証券売却益や固定資産売却益を計上したこと等を背景に、前事業年度の12.9%から上昇しました。これは上記の目標値を達成しており、今後も中長期的な資本効率の向上に努めます。

 

(3) 経営環境

当社は、経営資源をオンラインベースの事業に集中し、事業のDX化を推進することで効率的なオペレーション体制を維持しております。また、①オンライン証券会社のパイオニアとしてのブランド・知名度及びそれに基づく信頼性、②お得感のある分かりやすい手数料体系、③シンプルで使い勝手を追求した取引ツール、④店舗を有しないオペレーションの特殊性を踏まえて構築された充実のサポート体制を背景として、顧客からの安定した支持を受けていると考えております。コロナ禍において、オンライン中心のコミュニケーションが広がっており、オンラインベースの事業については、そのオペレーションの効率性のみならず、事業としての優位性は高まっていると認識しております。この傾向は加速化されるものと考え、オンラインベースのビジネスモデルに集中する方針を堅持し、そのサービスを磨いていく方針です。

株式のオンライン取引サービスは、1998年に当社が国内で初めて開始しました。それ以降、個人の株式等委託売買代金に占めるオンライン証券会社顧客の比率は年々上昇を続け、現在では9割を超えております。一方、個人の株式保有額に占めるオンライン証券会社顧客の割合は、未だ3割程度に留まっておりますが、その比率は年々拡大しております。対面型の証券会社からオンライン証券会社への株式資産の流入は継続しており、今後も、オンライン証券会社を通じた個人株式等委託売買代金の拡大余地があるものと考えます。

オンライン証券業界においては、個人の株式等委託売買代金は当社を含む主要6社(当社、SBI証券、楽天証券、auカブコム証券、マネックス証券、GMOクリック証券)による寡占状態が続いており、個人の株式等委託売買代金における各社のシェアは、取引手数料の水準に応じて固定化されつつあります。業界における取引手数料は、最低水準にまで低下しているため、この数年、顧客の争奪に係る取引手数料の引き下げ競争は落ちついておりました。しかし、米国のオンライン証券業界において、大手各社が株式委託手数料の無料化を相次いで発表したことを受けて、日本のオンライン証券業界においても、株式委託手数料の一部無料化や、既に無料としている取引の対象拡大、若年層向けの手数料の無料化などの動きが広がりました。ただし、米国のオンライン証券会社とは事業環境や収益構造が大きく異なることから、日本では、収益への影響が小さい部分的な手数料の引き下げに留まっており、主要各社の市場シェアへの影響も限定的です。

このような動きを受けて、競合各社においては、収益構造の見直しを掲げており、FX(外国為替証拠金取引)、投資信託、ホールセール事業、資産運用業、暗号資産関連事業等への事業拡大に注力するとともに、預かり資産からの収益拡大に向けたサービスの強化、株式委託手数料の収益に対する依存度を低下させるべく、これまで以上の収益源の多様化が進められるものと考えられます。

業界における新たな潮流としては、近年、異業種やフィンテックベンチャーによる新規参入が相次いでおります。現在のオンライン証券会社のビジネスモデルは、口座数ベースでは幅広い顧客基盤を有しているように見えるものの、取引頻度が高い一部の顧客に収益の大半を依存している状況にあります。新規参入の動きは、顧客一人ひとりの資産規模は小さいながらも、数多くの顧客にアプローチすることで収益をあげるという、ロングテールのビジネスモデルを目指すものです。こうした新たなビジネスモデルへの挑戦は、新規参入業者に限らず、当社のような既存証券会社も含めた業界全体として取り組まれている共通の課題となっています。

 

(4) 中長期的な会社の経営戦略

(a)株式ブローキング事業の強化

当社は、オンラインベースの株式ブローキング事業を主たる事業として注力しております。オンライン証券業界における個人の株式等委託売買代金シェアを維持・拡大するため、今後も顧客満足度の向上に資する付加価値の高い商品・サービスの開発・提供に取り組み、顧客基盤の強化を図ります。

当事業年度においては、スマートフォン向け新サイトの提供を開始したほか、「松井証券 株アプリ」の改善に継続的に取り組み、取引の利便性向上に努めました。また、個人投資家に人気の米国株サービスの取り扱いを開始しました。商品を拡充し、新たな顧客層の獲得に取り組むとともに、新たな収益の柱として継続的に事業の強化に取り組みます。その他、個人投資家に人気のあるIPO銘柄においては、ベンチャーキャピタルとの連携を強化して引受件数の向上に努めた結果、前事業年度の2.5倍の銘柄を取り扱い、引受参入率も40%を超えました。

 

(b)その他事業の拡充

当社の主たる収益源である株式ブローキング事業は、取引頻度が高い一部の顧客に依存しており、その結果、株式市況と業績との連動性が高い状況にあります。長期的な事業環境の変化に対応するためには、業容の広がりが不可欠となっており、事業構造の見直しを積極的に進める方針です。具体的には、FX事業、投資信託事業を強化し、収益の多様化を図ってまいります。また、当社にはない技術やノウハウを必要とする事業については、外部企業との提携を積極的に進める方針です。

FX事業では、「初めての方でも少額から簡単に始められる“あんしんFX”」をコンセプトとしたブランド「松井証券MATSUI FX」のプロモーション強化に取り組みました。全取引通貨ペアで業界最狭水準のスプレッドや最低取引単位を1通貨単位とするなど、競争力のあるサービスを提供した結果、前事業年度比で2倍の取引規模に拡大しました。今後も、継続的に事業の強化を図ります。

投資信託事業では、継続的にサービスの拡充及び預かり資産残高の拡大に取り組んでおります。当事業年度においては、プロモーションを継続的に展開するほか、取扱銘柄の拡充や、信託報酬の一部をお客様に還元するサービスをリニューアルし「投信毎月ポイント・現金還元サービス」を開始しました。投資信託事業への取り組みは、将来的なアセットサービス拡大に向けた布石と考えており、上記の取り組みの結果、預かり資産残高が前事業年度比2倍の規模に拡大しました。

 

(5) 優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題

(1)及び(4)に記載の、経営方針及び中長期経営戦略を実行していくうえで、当社が優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題は以下のとおりであります。

 

(a)認知度の向上

当社のコアとなる顧客層は50歳以上の個人投資家であり、口座数全体の半数、顧客の預かり資産残高全体の8割近くを占めております。このような状況は、オンライン証券業界のみならず、個人向けの金融サービスを提供する業界全体に共通する傾向と考えております。一方、当社における新規口座開設者の内訳をみると、30代以下の顧客が全体の4割超を占めております。長期的な顧客層の維持・拡大のためには、現在の若年層における認知度の向上は重要な課題であり、継続的に当社のブランド・知名度の向上に取り組んでまいります。

当事業年度においては、テレビCMの配信や東京ドームのベンチ内に社名広告を掲出するなど、認知度向上に向けた取り組みを強化しました。また、引き続き、就職、転職、結婚、出産、育児、定年といったライフイベントを迎える顧客層に向け、プロモーションを強化しました。『不安はぜんぶ、松井にぶつけろ』をコンセプトとした「ライフと松井」特設サイトのコンテンツを拡充したほか、広告動画の配信、SNSを活用したキャンペーン等を実施しました。新たな取り組みとして、当社と関係の強いお笑い芸人のラジオ番組とタイアップした広告企画や、2021年2月にリニューアルしたFX事業において“あんしんFX”をコンセプトとしたテレビCMを配信し、プロモーション強化に取り組みました。

 

(b)商品・サービスのラインアップ拡充

対面型の証券会社に預けられている個人投資家の金融資産は継続的にオンライン証券業界に流入し、個人株式保有額に占めるオンライン証券会社顧客の割合は年々拡大しております。証券ビジネスにおけるオンラインの優位性はますます高まっておりますが、異業種などによる新規参入もあり、競争環境が厳しくなっています。そのような中で顧客に選ばれるために、個人投資家の様々なニーズを満たす商品・サービスの拡充に取り組んでまいります。

当事業年度においては、「松井証券 米国株サービス」を開始いたしました。業界最安水準の手数料を実現し、シンプルで分かりやすいと好評の日本株の取引サイトに仕様を合わせることで、米国株を初めて取引する方でも分かりやすく、安心して取引できるサービスを実現しました。

 

(c)サービスクオリティの向上

オンライン証券各社が提供する金融商品には大きな差がないため、より利便性が高い取引ツールやサービスにより、お客様にとって価値の高い証券会社と感じられる取り組みが重要だと考えております。

当事業年度においては、スマートフォン向け新サイトの提供を開始するとともに、口座開設における「eKYC」を導入しました。これまでパソコン向けサイトで提供していた取引や各種手続きを、スマートフォン向けサイトから利用可能とすることで、口座開設から取引までをスマートフォンで完結できるようになりました。

また、2021年3月にリニューアルした「松井証券 株アプリ」の継続的な機能拡充や株式取引における注文機能の強化など利便性向上に努めました。

 

(d)顧客とのコミュニケーションの充実

お客様が、金融商品へ投資する手助けとなる様々な情報を提供し、顧客とのコミュニケーションを充実することが、顧客体験価値の向上につながると考えています。

当事業年度においては、投資情報メディア「マネーサテライト」において、これから投資を始める初心者から上級者まで、資産運用をサポートする投資情報の提供を強化しました。また、お客様一人ひとりのご希望や投資スタンスに寄り添い、銘柄探しや取引タイミング等の意思決定をサポートする「株の取引相談窓口」のキャパシティを2倍に強化し、より多くの相談に対応できる体制を構築しました。

 

(e)取引システムの安定性の確保及びセキュリティの強化

取引システムの安定性の確保は、オンライン証券会社の生命線です。顧客が安心して取引することができるよう、システム障害やサイバー攻撃、自然災害といった想定されるリスクへの対策を講じるとともに、取引量の増加に備えたキャパシティを確保し、取引システムの安定的な稼働に努めます。

当事業年度においては、セキュリティ強化を目的として、取引口座にログインしたことをメールで通知する機能や出金手続き時におけるSMS認証を導入しました。

 

(f)金融機関としての信頼性向上に資する社内体制の充実

当社は、金融機関としての信頼性の維持・向上に資するコンプライアンス体制について、より一層の強化に努めます。また、商品・サービスの拡充に伴う業容拡大に対応するため、店舗を有しないオペレーションの特殊性を踏まえ、コールセンターを通じた顧客サポート体制についても更なる充実を図ります。

当事業年度においては、新たに参入した米国株において24時まで利用可能な無料の電話相談窓口「米国株サポート」を開設し、安心して取引いただける顧客サポート体制を整備しました。なお、当社のコールセンターは、第三者評価機関であるHDI-Japan(ヘルプデスク協会)が主催する「2021年度問合せ窓口格付け(証券業界)」において、最高評価の「三つ星」を11年連続で獲得しております。

 

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