文中における将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において、当社グループが判断したものです。
(1) 経営方針、経営戦略等
① 会社の経営の基本方針
当社グループは、「『出逢いをつくり、期待をはこぶ』事業を通して、“あんしん”と“かいてき”と“ときめき”を提供しつづけ、地域とともに歩み、ともに発展します。」という「にしてつグループの企業理念」に基づき、鉄道・バスの運輸業を軸に、地域に密着した多様な事業を展開しています。
② 中長期的な会社の経営戦略
当社グループでは、2015年度に、さらなる成長に向け今後10年の方向性を示した長期ビジョン「にしてつグループまち夢ビジョン2025」を策定しています。中核エリアである福岡において「交通」や「まちづくり」など地域マーケットビジネスを深化させ、まちの発展をけん引するとともに、重点開拓エリアであるアジアにおいて地域マーケットビジネスのさらなる開拓を進め、国際物流ビジネスとあわせてグローバルビジネスの拡大を目指しています。
(2) 経営環境及び優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題
① 今後の経営環境の変化
わが国においては、より一層の生産年齢人口の減少、ICTの進展、消費行動の多様化や、アジアを中心とした新興国の経済成長と市場拡大等、経営環境が絶えず変化していくことが想定されます。
また、当社グループにおいても、「福ビル街区建替プロジェクト」など大型開発プロジェクトの集中的な実施や、恒常的な人手不足など、様々な課題に直面しています。
加えて、新型コロナウイルス感染症の影響、ウクライナ情勢などの地政学的リスクの高まりによる原材料価格の上昇や金融資本市場の変動など、先行き不透明な状況が続くものと予想されます。
② 優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題
当社グループでは、「“修正”第15次中期経営計画(2019年度~2022年度)」の最終年度目標の達成に向け、聖域なき構造改革とニューノーマル下での成長戦略を着実に推進してまいります。ウィズコロナ・ポストコロナ社会においても、社会とともに成長する企業グループであり続けるため、以下の7つの重点戦略に基づく各施策を着実に実施してまいります。
1.聖域なき構造改革・事業モデル変革とポートフォリオの見直し
鉄道事業やバス事業において、運賃改定に向けた検討を進めるとともに、鉄道事業においては天神大牟田線の駅集中管理方式の拡大を進めるほか、バス事業においては郊外路線のAI活用型オンデマンドバス「のるーと」への転換や他交通事業者との連携強化による路線再編を図るなど、従来の需要が戻らない前提での事業モデル変革に引き続き取り組んでまいります。このほか、各事業において運営の効率化や構造改革を推進してまいります。
2.グループ経営体制・組織体制の見直し、組織風土改革
ニューノーマル下での成長に適したグループ経営体制を構築するほか、新たな事業やサービスの創出に向け、沿線自治体や他事業者との連携・協業を推進してまいります。また、社内起業家人材の育成プログラムにおいて、新規事業創出に向けた検討を進めるなど、未来を見据えた戦略的な人材育成に取り組んでまいります。
3.持続可能で活力あるまちづくりの推進
「福ビル街区建替プロジェクト」において新築工事やテナント誘致等を推進するほか、当社が参画する「旧大名小学校跡地活用事業」において2022年度内の竣工・開業に向けた準備を進めてまいります。また、雑餉隈~下大利駅間連続立体交差事業における高架切替、下大利駅の開業に合わせ沿線自治体や地域と連携し駅商業施設や高架下の活用を図るなど、沿線主要拠点の開発プロジェクトを推進してまいります。
さらに、多様な移動手段を組み合わせた経路検索や乗車券の予約・購入等ができる次世代移動サービス「MaaS(マース)」の取り組みとして、他事業者と共働し、スマートフォン向けサービス「my route(マイルート)」の利用可能エリア拡大を図るほか、自動運転バス実証実験にも継続して取り組むなど、持続可能な交通ネットワーク実現に取り組んでまいります。このほか、ホテル事業や旅行事業において国や自治体の観光促進事業の積極活用に取り組むなど、ポストコロナにおける観光復活に向けた取り組みを推進するほか、観光列車「THE RAIL KITCHEN CHIKUGO」や古民家宿泊施設「HOTEL CULTIA太宰府(ホテルカルティア太宰府)」において地域資源と連携した事業機会の創出を図ってまいります。
4.住宅・流通・国際物流・海外事業の収益拡大
住宅事業では、首都圏等域外でのマンション供給を強化するほか、福岡エリアにおいては、社有地を活用したマンション供給を推進してまいります。
ストア事業では、下大利駅に新店を出店するほか、デジタル技術の活用や他社との連携による販売促進活動を強化してまいります。
国際物流事業では、海外現地法人のM&Aや支店開設によるネットワークの拡充を引き続き進めるほか、取扱重点品目の営業強化を図ってまいります。また、運賃仕入の最適化などフォワーディング事業の拡大を進めるほか、「福岡ロジスティクスセンター」を開設するなどロジスティクス事業の拡大を図ってまいります。
そのほか、東南アジア・アメリカでの開発事業を拡大し、住宅や物流施設等の開発に取り組むほか、現地デベロッパーとの協業体制強化による事業拡大を図ってまいります。
5.デジタル化・新技術の活用による生産性・顧客体験の向上
「LINE」を活用した予約・購入サービスの提供等、各事業においてDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進するほか、ホテル事業における予約からチェックアウトまでの手続を総合的にサポートするアプリの導入等、顧客体験の向上を図ってまいります。
また、鉄道事業におけるドローンや画像診断システム等を利用した鉄道施設点検・検査の効率化や、国際物流事業における各種書類の電子化による通関業務の効率化等、各事業において生産性の向上を図ってまいります。
さらに、鉄道・バス利用者の行動変容を促す「ナッジ応用技術」や、「メタバース」と呼ばれるオンライン仮想空間等、最先端のデジタル技術を活用した新たなサービスやビジネスの検討に取り組んでまいります。
6.ESG・SDGs視点での取り組み強化
当社グループは、持続可能な社会を実現するため、ESG(環境・社会・ガバナンス)やSDGs(持続可能な開発目標)への取り組みを重視したサステナブル経営を進めております。
環境への取り組みとして、国が掲げる「2050年カーボンニュートラル」達成に向け、鉄道事業において省エネ車両への順次代替を推進するほか、バス事業において中古バス車両を電動化した「レトロフィットバス」の実証運行の結果を踏まえた導入拡大検討に取り組んでまいります。国際物流事業では、環境負荷の少ない輸送手段の活用を進めるとともに、国際輸送区間におけるCO2排出量の見える化の検討を進めてまいります。その他各事業において、資源の有効活用や循環活用に取り組んでまいります。
社会への取り組みとしては、2022年2月、「西鉄グループ人権方針」および「西鉄グループ調達基本方針」を策定しており、当社グループだけではなくサプライチェーン全体で人権の尊重等社会課題の解決に取り組んでまいります。
(注) 気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)のフレームワークに基づく開示情報は、「(4)気候変動への
対応:TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)に基づく情報開示」に記載しております。
7.安全・リスクマネジメントの強靭化
鉄道事業において2DセンサーやAIカメラを用いた駅ホームの安全性向上に向けた実証実験に取り組むほか、バス事業において新型ドライブレコーダーの導入車両を拡大するなど、安全性の維持・高度化を図ってまいります。また、多様な自然災害を想定した全社的な危機対応体制の見直し・強化に取り組んでまいります。
(3) 経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等
当社グループは、持続的な成長と企業価値向上のため、収益力を高めると共に、経営の効率化を図ってまいります。達成状況を判断するための客観的な指標として、収益力の成長性を示す営業収益、事業利益(注1)、EBITDA(注2)、資本効率を示すROE、資産効率を示すROA、財務健全性を示す「NET有利子負債/EBITDA倍率」を採用しております。
“修正”第15次中期経営計画(2019年度~2022年度)における経営数値目標及び、当連結会計年度(2022年3月期)の実績は次のとおりです。
(注)1 事業利益=営業利益+事業投資に伴う受取配当金・持分法投資損益
2 EBITDA=事業利益+減価償却費+のれん償却費(営業費)
3 総資産は鉄道の受託工事前受金相当額を除いて算出しています。
(4)気候変動への対応:TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)に基づく情報開示
(TCFD提言への賛同)
当社グループでは、持続可能な社会の実現に貢献し、社会から信頼され長期にわたり発展し続ける企業であるために、地球環境の保全を重要課題と認識しています。
そのため、環境との調和ある事業活動を通じて、環境負荷を低減するとともに、循環型社会の実現と地球温暖化の抑制に寄与することを目的とした「にしてつグループ環境方針」を制定し、従前より環境負荷低減活動を実践してまいりました。
当社グループは、バス事業・鉄道事業等の運輸業を始め、賃貸事業・住宅事業等の不動産業や流通業等の様々な事業を展開しており、各事業に応じた対応が必要となります。
当社は、TCFD提言へ賛同するとともに、にしてつグループ全体のCO2排出量の約50%を占めるバス事業について、TCFD提言に基づく情報開示を進めるなど、気候変動に適切に対応し地球環境保全に取り組んでまいります。
(ガバナンス)
当社グループでは、サステナブル経営の基本となる方針として「にしてつグループコンプライアンス方針」を定め、「法令や社会規範等の遵守」「安全・安心な商品やサービスの提供」「人権の尊重」「環境問題への取り組み」等グループにおける行動指針を定めており、特に重要なテーマについては、「にしてつグループ環境方針」「西鉄グループ安全に関する基本方針」等の方針をそれぞれ定め、事業活動の中で実践しています。
また、ESG重要課題(マテリアリティ)の一つである気候変動問題を含む「環境対応」等のサステナブル経営における重要な方針・方向性を協議し、社長執行役員の意思決定を補佐するESG推進会議および常務会、その他各委員会を設置するなどサステナブル経営の推進体制を構築しています。
ESG推進会議は、社長執行役員が議長となり、委員会や各部・グループ各社からサステナブル経営に関する活動報告を受け実施状況を確認しています。
環境対応については、気候変動問題解決に向けた自主的目標の設定や環境負荷低減活動の進捗状況を確認するとともに、各部門・グループ各社に対応策の検討等を指示しています。ESG推進会議で協議した重要な事項は、必要に応じ取締役会が報告を受けるなど、適切な監督を行っています。
(サステナブル経営推進体制図)
(戦略)
・リスクと機会
気候変動がもたらすリスクは、脱炭素社会への移行に伴うリスク(移行リスク)と物理的な影響に伴うリスク(物理リスク)に分けられます。バス事業を対象としてそれぞれのリスクと機会について検討した結果は次のとおりです。
当社グループのバス事業における気候関連のリスクと機会
・シナリオ分析
IPCC(気候変動に関する政府間パネル)やIEA(国際エネルギー機関)等の専門機関が描く、産業革命前と比較した世界の平均気温の上昇幅を、パリ協定を踏まえたシステム移行により1.5℃未満に抑えられる1.5℃シナリオと、新たな政策・制度が導入されずに4.0℃前後上昇する4.0℃シナリオに基づき、当社グループのバス事業における気候変動の影響について分析を行いました。
1.5℃シナリオでは炭素税の導入による大幅なコストの増加が見込まれる一方で、EVバス等の導入を促進することで炭素税の導入による影響を大きくリカバリー出来ることが分かりました。また、MaaSの普及等カーボンニュートラルへ向けた交通形態の変化に適応することができれば、自家用車からバスへの転換が期待でき、売上を増加させる機会を獲得出来ることが分かりました。
また、4.0℃シナリオでは、軽油価格の上昇による大幅なコスト増加に対応できず、事業存続が危ぶまれる事態に陥る可能性があることが分かりました。
当社グループは、社会から信頼され長期にわたり発展し続ける企業であるために、誰一人取り残されない持続可能な社会が実現出来るよう、1.5℃の世界の実現に向けた取り組みを進めてまいります。
◇事業インパクト評価
(注)1 「+」は事業及び財務への正の影響、「-」は負の影響を示し、符号の数は影響度の大きさを表現して
います。
(リスク管理)
当社グループでは、社長執行役員を議長とするESG推進会議において、各部門・グループ各社において作成した CO2排出量(注2)の削減を含む「環境負荷低減計画」をベースに策定したグループ全体計画の進捗状況を毎年確認し、各部門・グループ各社に修正等を指示しています。ESG推進会議で協議した重要な事項は、必要に応じ、取締役会が報告を受けるなど、適切な監督を行っています。
(注)2 当社グループで把握する CO2 排出量は Scope1、Scope2 を対象としております。
Scope1:事業者自らによる燃料を使用して直接排出する量
Scope2:他社から供給された電気、熱・蒸気を使用して間接的に排出する量
(指標と目標)
当社グループは、2005年に「にしてつグループ環境方針」を制定し、環境負荷を低減するための管理体制の整備を行い、2009年度からCO2排出量を含むグループ全体の環境負荷を把握しています。3年ごとに作成する中期経営計画に合わせて各部門・グループ各社で「環境負荷低減計画」を定め、上記のとおり全体の進捗状況の確認や修正等を行っています。CO2排出量については、2009年度を基準年度と定め、毎年1%の削減を目指し、“修正”第15次中期経営計画(2019年度~2022年度)期間で「2009年度比12%削減」(注3)を目標としておりますが、2020年度の実績で28%の削減を達成しています。
なお、国の目標である「CO2排出量2030年度2013年度比46%削減」に照らし合わせ、2013年度を基準年と考えると、当社グループにおける2020年度のCO2排出量は、2013年度比で38%の削減となっています。
今後は、「2050年度カーボンニュートラル」の達成に向け、中間目標である「2030年度目標」を設定するために必要な検証を実施し、ロードマップを策定してまいります。
(注)3 削減効果を把握するため、電力のCO2排出係数は基準年度(2009年度)に固定しております。
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