文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において、当社グループが判断したものであります。
当社は、㈱テレビ東京による地上波放送事業を中核として、BS放送(㈱BSテレビ東京)、CS放送(AT-X)、そしてインターネットによる配信事業を総合的に運用してコンテンツの制作とメディアビジネス展開の戦略機能を担う認定放送持株会社です。
番組やコンテンツの視聴方法は、テレビだけではなくパソコン、スマートフォンなど多くのデバイス(端末)へと急速に広がっています。こうした中、テレビ東京グループでは、放送・配信・アニメの3つの事業・コンテンツを柱にして、相乗効果を発揮させてコンテンツの価値を最大化する「トライブリッド」と名付けた戦略を中心に据えました。「トライ」には放送・配信・アニメの3つを意味する「TRI」に加え、挑戦する「TRY」の意味も込めました。激変期に勝ち残るためにも、「テレビ東京グループにしか作れない」ものを追求し、テレビ東京グループの存在感を一段と高めていきます。
2021年の日本の広告費は、電通によりますと10.4%増の6兆7,998億円と前年を上回りました。テレビ広告(地上波・衛星メディア関連の合計)は、新型コロナウイルス感染症の感染拡大が抑えられたことにより景況感や消費者心理が改善したほか、巣ごもり需要などもあり2021年は1兆8,393億円と前年より11.1%増加しました。一方、ネット広告は2019年にテレビ広告を抜き、さらに2021年も前年比21.4%増の2兆7,052億円となりました。
当社グループの2022年3月期の連結での売上高営業利益率は5.8%となり、前回の中期経営計画で目標としていた5%を達成しました。新たな中期経営計画では営業利益を2022年度は83億円、2023年度は95億円と過去最高に引き上げ、2024年度は105億円へと伸ばしていく方針です。
地上波放送事業を中核として、BS放送、CS放送、配信事業を一体的に運用し、さらに、放送・配信・アニメを三本柱として、相乗効果を発揮させて、コンテンツの価値を最大化する「トライブリッド」戦略を実施していきます。様々なデバイスでコンテンツを提供し、下記の経営戦略を着実に実施することで、放送と配信との相乗効果によりコンテンツの価値を高めていきます。
① 配信事業の拡大
当社は「全コンテンツ・全配信」方針のもと、配信分野での収益を最大化するために、SVOD(定額制動画配信)とAVOD(広告付動画配信)の事業について、一体的に戦略を立案しています。配信のために必要な権利処理や収益管理などの実務を一括して効率化しているほか、放送からのデータ、AVOD、SVODなど配信からのデータをできる限り活用して、番組・コンテンツ制作に生かし、放送と配信双方の営業強化につなげています。「配信オリジナル制作費」を2022年度は11億円強に積み増し、質の高いコンテンツを制作して収益増を目指します。
配信ビジネスは2022年度、㈱TBSホールディングスや㈱日本経済新聞社、㈱WOWOWなどと手掛ける動画配信サービス「Paravi(パラビ)」向けに放送ドラマのオリジナルストーリーなどを提供するほか、外資プラットフォームにも視聴ニーズの高いコンテンツを販売し、売上・利益の最大化を目指します。リアルタイム配信を始めたTVerなどのAVOD事業も拡大します。
② アニメビジネス販路拡大と多角化
アニメ事業はテレビ東京グループの強みであり、「配信」と並ぶ「成長エンジン」と位置づけています。グローバルなコンテンツとして主に海外で大きな収益をあげ、過去10年間にわたって粗利益を増やし続けています。今後は欧米市場を重点的に開拓し、2024年度には「中国向け」を超える収益の柱となることを目指します。欧米市場へのアニメ作品の販売強化のほか、高級ブランドとの提携によるアニメの商品化ビジネスも伸ばします。有力ゲーム会社向けのゲーム供給にも力を入れていきます。
一方、中国以外のアジア、中東地域でもアニメ作品の吹き替え版を製作してセールスを強化します。さらに、「縦読みマンガ」に進出するほか、ゲーム製作にも参画して事業領域を広げていきます。
③ イベント事業の強化
イベント事業で重視する「オフライン・オンラインの融合イベント」は、eスポーツ事業、放送番組との連携事業、テレビ東京グループの独自イベント、パートナー企業との新規イベント開発といった4分野について重点的に実施します。事業開始2年目となる仮想空間「池袋ミラーワールド」事業は、メタバースなど市場が拡大することが予想されており、参加企業や行政との連携強化により、教育や健康、ゲーム、eコマース事業などを通じて収益化を急ぎます。
④ 放送事業の収益力強化について
放送広告収入はテレビ東京グループの最大の収益の柱です。放送を取り巻く環境は厳しくなると予想されますが、2021年秋に営業部門が策定した「営業力強化3か年計画」や、「トライブリッド」戦略による配信やアニメとの相乗効果により収益の確保を目指します。さらに、収益バランス重視の編成方針と新番組の開発、グループ会社も含めた組織再編による新規スポンサーの獲得、営業力強化により、地上波、BSともに放送収入を伸ばしていきます。放送事業の粗利益は2024年度には2020年度比で30%拡大させる計画です。
⑤ 成長のための投資戦略
テレビ東京グループが新たな分野の収益を強固なものとしていくためにはデジタル投資が不可欠と考えており、基幹システムの刷新などDXを積極的に進めます。
2022年度はテレビ東京グループの基幹システムの全面刷新に本格的に着手します。約30年ぶりの基幹システムの変更であり、新システムへの移行に伴う人員再配置と業務改革により、投資効果は2028年度には60億円を超えると見込んでいます。新システムへの移行により、編成、営業、コンテンツ制作を支援する新たなソフトの導入や開発も柔軟で迅速な対応が可能になり、配信の収支、配信を含むコンテンツ別の総合収支など経営指標を機動的に算出できることになります。
さらに、技術局に「テックラボ」を新設し、新時代のコンテンツ制作を技術面からけん引する体制を整えます。AI、メタバースなどのXR(クロスリアリティ=新技術を活用した映像やイベント)、コンピュータグラフィックスを生かしてコンテンツDXを推進していきます。
アニメや通信販売、コンテンツ制作をはじめ、グループの成長力強化に資するような企業との資本提携やM&Aも検討していきます。
(5) 会社が対処すべき課題
① コーポレート・ガバナンス強化
コーポレートガバナンス(企業統治)の強化は社会の要請であり、テレビ東京グループにとっても重要な課題だと考えています。2021年度、独立社外取締役を2名増員し、取締役の3分の1を独立社外取締役にしております。
2022年4月には、新たに創設された東証プライム市場への上場にあわせて、取締役会の諮問機関として「人事諮問委員会」「報酬諮問委員会」を新たに設置し、実行しております。ともに構成メンバーは社外取締役と代表取締役社長とし、独立社外取締役が委員の過半数を占め、独立社外取締役から委員長を選任しました。両委員会はテレビ東京ホールディングスの取締役の人事案や報酬の方針などについて議論し、取締役会に答申します。
また、代表取締役社長の助言機関として、社外取締役と代表取締役会長、代表取締役社長が出席する「経営懇談会」を2022年4月に新設しました。「人事諮問委員会」「報酬諮問委員会」「経営懇談会」があわせて機能することでコーポレート・ガバナンスを強化し、経営の透明度を高めてまいります。
② 気候変動リスクへの対応
気候変動の影響は年々深刻さを増しており、経済・社会・環境に大きな影響を及ぼしています。国際社会は低炭素・脱炭素社会の構築に向けた動きを加速しており、企業が果たすべき役割の重要度が増しています。
当社グループは、2024年度末までに、消費電力の削減と再生可能エネルギー等の導入を組み合わせてグループ全体のCO 2 排出量の実質ゼロ達成を目指しています。
「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD:Task Force on Climate-related Financial Disclosures)」へ賛同し、TCFDが提言するフレームワークを活用した情報開示をします。複数の将来シナリオを用いて気候変動が事業に与えるリスクと機会を評価し、気温上昇に伴う事業活動への恒常的な悪化と、緊急的かつ頻発の恐れのある自然災害の影響を分析してBCP(事業継続計画)体制をグループ全体で構築しています。
世界的な課題となっている気候変動リスクへの対応はメディアグループとしても、企業としても重要な課題の1つと認識しています。当社グループではSDGs (持続可能な開発目標)に本格的に取り組むため、2021年3月に国連が報道機関に協力を呼び掛ける「SDGメディア・コンパクト」に署名・加盟し、2022年6月に社長を委員長とする「サステナビリティ委員会」を発足させます。報道機関だからこそ出来る取組みとして、放送や配信、イベントなどを通じてSDGsを伝えてサステナビリティの浸透に取り組んでいるほか、自社の事業領域においても気候変動リスクだけでなくサステナビリティ全般の取り組みを強化しています。
③ 新型コロナウイルス感染拡大への対応
新型コロナウイルス感染拡大への対応策として、引き続き制作や営業、管理部門など各部署の実情を踏まえてBCP体制を運用しています。感染拡大を防ぐために、人との接触を最大限抑制してコンテンツを制作する方針を徹底し、例えば報道番組はスタジオに無人カメラを導入したほか、出演者のマスク装着、飛沫防止のアクリル板の設置など適宜工夫して番組を放送しています。
いつでも出社率を20%~30%台に抑えられるよう社内の業務を見直し続けるとともに、今後も必要に応じてBCP体制をさらに徹底させるため、DX化やAIも積極的に活用し、社員の働き方を変革していきます。
④ 人材の多様化への対応
㈱テレビ東京の女性社員比率は2022年3月末時点で27.3%ですが、直近3年間の新卒採用における女性比率は平均46%と高い水準を維持しています。今後も女性社員の採用に積極的に取り組んでまいります。女性管理職の比率も2020年度末の19.8%から2023年度には20%台半ばにすることを目指します。
外国籍をもつ社員は2022年4月現在で9名ですが、今後も事業展開に合わせて採用増に取り組みます。さらにコンテンツ制作力を一層強化するため、デジタル人材など即戦力となる社員を中途採用して外部の知見と経験を取り込み、組織の活性化を促すとともに高齢化を含めた年齢構成のゆがみも是正していきます。
⑤ 激動する国際情勢への対応
ロシアによるウクライナへの侵攻により、国際情勢は不透明感を増しています。平和の実現に向けて、メディアとしての社会的役割を果たすことが期待されています。基本的人権を尊重しつつ、公平・公正な報道姿勢を貫くことにより、自由で豊かな社会の実現を目指します。
⑥ 景気の下振れリスク
新型コロナウイルスの蔓延やロシアによるウクライナへの侵攻などにより、世界では景気の減速やインフレ長期化、サプライチェーン(供給網)混乱への懸念が強まっています。国内では急速な円安の進行や、物価高による消費マインドの低迷、資源高による企業業績への圧迫などにより、景気の下振れリスクが指摘されています。経済の不透明感が増すなかでも、テレビ東京グループは着実な利益の計上に努めます。
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